刑事弁護 [公開日]2018年1月9日[更新日]2021年2月24日

「厳重処分(処分意見)を付けて書類送検」とは?

有名人が「書類送検」されたというニュースは珍しくありません。中には「厳重処分の意見を付けて書類送検された」というケースもあります。

では、この「書類送検」とは、具体的にどのような手続で、さらに、「厳重処分を付けて」とはどういうことなのでしょう?

実は、「厳重処分を付けて書類送検」とは、事件を捜査した警察が、起訴してほしいという意見を添えて、検察官に事件を引き継ぎ、捜査資料や証拠書類、証拠物を渡したということです。

以下では、「厳重処分を付けて書類送検」について詳しく解説していきます。

1.書類送検について

(1) 書類送検とは?

刑事事件が発覚し警察が捜査をしたときには、関係書類・証拠物と一緒に事件を検察官に「送致」しなければなりません(刑事訴訟法246条本文)。

関係書類とは、例えば傷害事件であれば被害者の診断書、オレオレ詐欺事件であればATMの振込明細書などの証拠書類、さらに警察官が捜査の状況などを報告するために作成した捜査報告書など、その事件にかかわる一切の資料が含まれます。
証拠物とは、薬物事件における薬物のように、書類以外の証拠です。

「事件」を「送致」するとは、要するに事件を検察官に「引き継ぐ」という意味です(※「新基本法コンメンタール刑事訴訟法(第3版)」日本評論社305頁)。

これを「検察官送致」といい、マスコミ用語など報道等では「送検」と呼ぶことが一般的です。

刑事訴訟法に定められている通り、警察が捜査をしたときには、法定の例外と検察官の指定する事件を除き、すべて検察官送致することが原則です。これを「全件送致の原則」と呼びます。

刑事訴訟法246条本文
「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。 」

上の246条本文に定められたとおり、検察官送致とは、書類と証拠物と一緒に事件を検察官に引き継ぐことです。これが一般原則です。

検察官送致については、マスコミ用語等では、次のような区分けがされています。

  1. 「検察官送致」を「送検」と呼ぶ。
  2. 「送検」のうち、被疑者が逮捕されていない場合の「書類」「証拠物」と共にする事件の引き継ぎを「書類送検」と呼ぶ。
  3. 「送検」のうち、被疑者が逮捕されている場合の「書類」「証拠物」「被疑者の身体(身柄)」と共にする事件の引き継ぎを「身柄送検」と呼ぶ(身柄送検」とは、TVニュースや新聞報道でもなじみがない言葉であり、ネットでの造語です)。

書類送検がいつになるかは、警察による捜査の進展状況次第であって、事件内容や警察の繁閑に左右され、捜査開始の数ヶ月後から、遅い場合は数年後となる場合も珍しくはありません(もっとも、検察官による起訴・不起訴の判断が予定されていますから、公訴時効の完成予定時点までは相当な余裕をもった時点であることが求められています)。

ただし、これには例外があり、告訴・告発・自首があった事件については、 起訴・不起訴の判断ができる程度の捜査を尽くしたときではなく、「差しあたり収集するべき証拠を収集し、一応事案の概要を把握できる程度に捜査」(※前出「検察講義案(平成21年版)」29頁)をしたうえで、速やかに書類と証拠物を検察官に「送付」しなくてはならないとされています(刑訴法242条、245条)

告訴・告発・自首があった事件では、最初期の捜査段階から検察官が関与して警察官に適切な措置を採らせることが必要だからです。

「書類送検」「身柄送検」に関して詳しく知りたい方は、下記記事をご覧ください。

[参考記事]

「送検」とはどういう意味?|身柄送検、書類送検

(2) 警察が送検しない事件

前述のとおり、法律に特別の定めがある場合と検察官が指定した事件を除いては、「全件送致」が原則であり、警察にはその事件を検察官送致するか否かの判断権、裁量権はありません。

仮に警察官が、犯罪の嫌疑がないとか、正当防衛が成立して無罪だと判断した場合でも、検察官送致をしなくてはなりません。

このように明らかに無罪でも書類送検されるのですから、捜査があった以上、その結果を問わず送検されるのは当たり前であって、このことを理解すれば、「○○が書類送検!」というマスコミのニュースが正確でないことを理解できると思います。

他方、全件送致原則の例外となるのは、次の4つです。①②が検察官が指定した事件であり、③④は法律の特別の定めがある場合です。

①微罪事件(246条但書)
②交通反則事件で反則金納付のあったもの(246条但書)
③少年事件で、法定刑に死刑、懲役刑、禁錮刑が含まれていない事件であることが送致前に判明したもの(少年法41条、犯罪捜査規範210条1項)。
④出入国管理及び難民認定法違反で、他の犯罪の嫌疑がないとき(出入国管理及び難民認定法65条、70条)

【「微罪処分」とは?】
「微罪処分」は、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものです(246条但書、犯罪捜査規範198条)。 検察官送致は不要で、警察で厳重に訓戒(お説教)し、被害者への謝罪や弁償をするよう諭すなどしただけで、おとがめ無しとすることが認められています(犯罪捜査規範200条)。この微罪処分とされた事件(微罪事件)は、毎月一括して検察官に報告されます(犯罪捜査規範199条)。
参考:微罪処分になる要件とは?呼び出しはあるのか、前歴はつくか

2.処分に関する意見とは

(1) 送検には警察の意見が付される

書類送検も身柄送検も、検察官による起訴・不起訴の判断を受けるために検察官に送致する手続きに過ぎず、送検されたからといって必ず起訴されるわけではありません

また、判断するのはあくまでも検察官ですが、捜査を行った警察官の意見も参考にしています。それが「処分に関する意見」です。

警察が検察官送致をする場合には、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書(告訴、告発、自首の事件については送付書)を作成して、書類・証拠物(逮捕されていれば被疑者の身柄も)と一緒に、検察官に送らなくてはなりません(犯罪捜査規範195条)。

犯罪捜査規範195条
「事件を送致又は送付するに当たつては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする。」

この書類を「送致書」(または「送付書」)と呼びます。

送致書の中に、「犯罪の事実及び情状等に関する意見」の記載欄があり、警察官が、それまでの捜査の過程で明らかにされた具体的な事情を踏まえて、処分に関する総括的な意見を記載することとされています。

その意見の結論部分として、警察側が検察官に求める処分の内容を記載することが慣例となっています。

(2) 厳重処分とは

この意見の結論部分の文章には、次の4種類があります。

①厳重処分:警察としては起訴してほしい
②相当処分:警察としては起訴・不起訴どちらでも良い
③寛大処分:警察としては起訴猶予にしてやってほしい
④しかるべき処分:警察としては起訴できないと考える

ただし、この4つは慣行であって、犯罪捜査規範に定められているものではありません。犯罪捜査規範が定めているのは、あくまでも「犯罪の事実及び情状等に関する意見」を記載した書類を送れということだけです。

また、検察官の処分が、警察側の意見に拘束される理由はありませんから、この意見は、あくまでも参考です。

実務では、この「犯罪の事実及び情状等に関する意見」の記載欄に、「犯情悪質につき厳重なる処分を願いたい」とか「事案軽微につき寛大処分願いたい」などと紋切り型で画一的な記載がされる例もあります。

しかし、意見は、あくまでも検察官が処分の判断をする際の参考としてもらい、警察側の見方を反映してもらうために記載するのですから、当該事件の個別的な事情を具体的に指摘して意見を記載するべきだとされています(※前出「実例中心・捜査法解説(第3版補訂版)」367頁)。

いずれにしても、検察官送致における警察側の意見内容が検察官の判断を左右するものではありません。

書類送検の事案でも、検察官は送致された記録を読み、自ら被疑者や参考人を取り調べたうえで起訴・不起訴を判断しますから、「警察が起訴を希望しているから起訴する」「警察が起訴猶予が妥当と言っているから不起訴にする」ということは一切ないのです。

もっとも、警察側の意見といえども、何の根拠もなく記載しているわけではありませんし、ことに在宅事件の場合は、警察が時間をかけて捜査を行ったうえでの意見ですから、多くの場合、警察側と検察官の意見は一致すると思われます。

また、送致された記録を検察官が読む場合、まずは送致書を一瞥しますから、例えば、被害が軽微な事案であるにもかかわらず、厳重処分の意見がついていれば、当然に、理由は何だろうと、その点に関心を払って読み込むことになります。

ですから、警察の意見が検察官の注意を喚起する役割を担っていることも事実です。

3.刑事事件でお悩みなら弁護士へ相談を

起訴されれば99%有罪となる刑事事件で重要なのは、不起訴を勝ちとることです。

書類送検段階で、「厳重処分」の意見が付されても、起訴が決まったと諦める必要はありません。逆に、「寛大処分」の意見が付されても、もう大丈夫と安心することはできません。(もっとも、関係者以外が意見内容を知ることはできません。)

不起訴を得るためには、捜査開始の早い段階から、刑事事件に精通した弁護士による弁護を受けることが大切ですが、送検後であっても、被害者との示談交渉や検察官への働きかけなど、起訴を阻止するために弁護士にしかできない活動があります。

お早めに刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

刑事事件コラム一覧に戻る