刑事事件弁護 [公開日] [更新日]

弁解録取書と身上経歴供述調書について

弁解録取書と身上経歴供述調書について

警察官や検察官が被疑者を逮捕すると、弁解録取書と身上経歴に関する供述調書(以下、併せて「弁解録取書等」といいます。)を作成します。

それぞれどのような内容で、作成に当たり被疑者はどのように答えればよいのでしょうか。

以下においては、逮捕から弁解録取書等作成までの流れ、弁解録取書、身上経歴供述調書、被疑者が取調べを受ける際の留意点などについて解説することとします。

なお、事件の重大性に関わりなく、被疑者国選弁護制度を全勾留事件にまで拡大されることに伴い、被疑者国選弁護人の選任請求事項教示に関する規定が整備され、これら対象事件の拡大に関する規定は、2016年(平成28年)の法改正公布日(同年6月3日)から2年以内の政令で定める日から施行されます。

以下では、上記の法改正が本年6月3日までに施行されますので、「法」は法改正に伴う施行後の刑事訴訟法を、条文番号は改正法が施行された後の条項を指しています。

1.逮捕から弁解録取書等作成までの流れ

(1) 逮捕後

司法警察員や検察官が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、犯罪事実の要旨、弁護人を選任することができる旨を告げた上で、弁解の機会を与えなければなりません(法203条1項2項、204条1項5項。その際、請求による国選弁護人選任についての手続を教示することになっています[法203条4項、204条3項。憲法34条参照]。)。

逮捕したのが司法巡査又は検察事務官であるときは、直ちに、それぞれ司法警察員又は検察官に引致した上で、同様の手続がとられます(法202条)。

実務では、この過程で、逮捕手続書及び弁解録取書が作成されます。

(2) 送致後

司法警察員から身柄送致された被疑者を受け取った検察官は、弁解の機会を与えなければなりません(法205条1項)。検察官により、弁解録取書が作成されます。

(3) 勾留後

弁解の聴取やそれと並行して行われる捜査の結果、留置(身柄拘束の継続)の必要がないと判断するときは、直ちに被疑者を釈放しなければなりません(法203条1項、204条1項、205条1項)。

一方、留置の必要があると判断するときは、司法警察員は、被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に、書類及び証拠物とともに、被疑者を検察官に送致する手続をしなければならず(法203条1項5項。法246条にいう「特別の定」の一つ)、検察官の場合は、同じく48時間以内に、裁判官に被疑者の勾留を請求するか、公訴の提起をしなければなりません(法204条1項4項)。

検察官が司法警察員から被疑者を受け取った場合の制限時間は24時間ですが(法205条1項4項)、この時間制限には、被疑者が身体を拘束された時から合計して72時間を超えることはできないとの制限が付されています(法205条2項)。

実務では、この過程で、司法警察職員は、被疑者を検察官に送致するまでに、被疑者の取調べを行い、まずに、身上経歴に関する供述調書を作成します。

この調書は、身上調査書あるいは身上経歴調書と呼ばれたりしますが、被疑者の供述を録取した書面に当たりますので、「供述調書」という表題が付されます(以下、身上経歴に関する供述調書を「身上経歴供述調書」といいます。)。

また、検察官が逮捕したような事件では、検察官が身上経歴供述調書を作成することになります。

(4) 現行犯逮捕・緊急逮捕の場合

被疑者を現行犯逮捕あるいは緊急逮捕した場合の手続については、上記のような通常逮捕の場合の規定が準用されます(法216条、211条)。

2.弁解録取書

(1) 弁解録取の手続

司法警察員や検察官は、上記1の⑴⑵のとおり、弁解の機会を与えなければなりません(法203条1項、204条1項、205条1項)。

実務上、この手続を「弁解録取」と呼んでおり、弁解録取手続における被疑者の弁解内容等は、弁解録取書という書面に記載されます。

また、弁解録取の手続は、取調べとは異なりますので、条文上、黙秘権の告知(法198条2項参照。供述拒否権の告知とも呼ばれます。)は必要とされていません(法203条1項、204条1項、205条1項。法198条2項と比較)。

しかし、実務上は、被疑者の権利保障の観点から、通常、黙秘権を告知する運用がなされています。

なお、検察官が弁解録取の手続で作成する「弁解録取書」には、警察の場合と異なり、「供述調書」という表題が付されているものが少なくないようです。

ところで、司法警察員の作成する弁解録取書では、黙秘権の告知がなされていても、書面上は、その告知がなされた旨の記載がなく、単に「弁解の機会を与えたところ、任意次のとおり供述した。」旨記載されることが多く、他方、検察官作成の弁解録取書(表題は「供述調書」)では、冒頭に「あらかじめ被疑者に対し自己の意思に反して供述を必要がない旨を告げ」と記載され、さらに、「弁解の機会を与えて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。」旨記載されることが多いようです。

【参考】黙秘権を行使すると不利?警察の逮捕・取調べと被疑者の人権

(2) 弁解録取書の内容

犯罪捜査規範130条1項は、司法警察員の処置として、「弁解の機会を与え、その結果を弁解録取書に記載すること」(同項3号)と規定しています。

そして、同規範134条は、弁解録取上の注意として、「被疑者の弁解を録取するに当って、その供述が犯罪事実の核心に触れる等弁解の範囲外にわたると認められるときは、弁解録取書に記載することなく、被疑者供述調書を作成しなければならない。」と規定しています。

この趣旨は、検察官作成の弁解録取書でも同様と解されています。

上記からも明らかなように、弁解録取手続は、被疑者から、被疑事実についての弁解を聴くだけですから、弁解録取書の内容は、必然、被疑事実についての被疑者の意見、弁解ということになります。

(3) 被疑者の弁解録取手続における注意点

被疑者は、逮捕直後のため、気持ちの整理がついていないことが多いと考えられますので、不用意な発言には気をつけなければなりません。

被疑者が自信をもって、読み聞かされた被疑事実について、意見や弁解を述べられる場合はともかく、意見や弁解を述べることに躊躇を覚える場合には、黙秘権が保障されていますので、「弁護士と相談してから述べます。」ということでも、許される対応になります。

また、万が一、弁解録取書が作成された場合でも、内容が意に沿わなければ、署名押印を拒絶ことも、権利として認められていますので、慎重に対応すべきです。

(4) 弁解録取書の証拠としての扱い

ここで、判例を確認しておきましょう。

最判昭27.3.27(刑集6巻3号520頁)は、

「法203条に基づく司法警察員の被疑者に対する弁解録取書、又は法204条若しくは法205条に基づく検察官の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であって、法198条所定の被疑者の取調調書ではないから、訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であって、法198条所定のように被疑者に対し、あらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていない。したがって、所論弁解録取書に検察官が被疑者に対してあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げた旨の記載が存しなくとも訴訟法違反があるともいえない。そして、弁解録取書であっても、被告人の供述を録取した書面と認められかつ法322条の要件を具備するか又は法326条の同意がありさえすれば証拠とすることができること論を俟たない」

と判示しています。

要するに、弁解録取書は、有罪認定の証拠となり得るのです。

3.身上経歴供述調書

身上経歴供述調書

(1) 身上経歴に関する供述録取の手続

この手続は、被疑者の取調べ(法198条参照)に当たります。そして、条文上、黙秘権の告知(法198条2項参照)が前提となっています。

(2) 身上経歴供述調書の内容

犯罪捜査規範178条1項には、「被疑者供述調書には、おおむね次の事項を明らかにしておかなければならない。」と規定されています(なお、以下においては、被疑者が法人等の場合を除外し、また、各事項の内容については項目のみの記載としています。)。

①本籍、住居、職業、氏名、生年月日、年齢及び出生地
②旧氏名、変名、偽名、通称及びあだ名
③位記、勲章、褒賞、記章、恩給及び年金の有無
④前科の有無
⑤刑の執行停止、仮出獄、仮出所、恩赦による刑の減免又は刑の消滅の有無
⑥起訴猶予又は微罪処分の有無
⑦保護処分を受けたことの有無
⑧現に他の警察署その他の捜査機関において捜査中の事件の有無
⑨現に裁判所に係属中の事件の有無
⑩学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係
⑪被害者との親族又は同居関係の有無
⑫犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯行後の行動
⑬盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無
⑭犯行後、国外にいた場合には、その始期及び終期
⑮未成年者、成年被後見人又は被保佐人であるときは、その法定代理人又は保佐人の有無

上記のうち、①ないし⑩、⑭、⑮が、身上経歴に関する事項に当たりますので、司法警察職員作成の「身上経歴供述調書」には、おおむね、上記の①ないし⑩、⑭、⑮の内容が、被疑者から聴取した上、記載されることになります。

また、検察官作成の「身上経歴供述調書」も、被疑者から聴取した上、おおむね、同様の内容の記載がなされているようです。

なお、上記のうち、⑪ないし⑬が、犯罪構成要件及び情状に関する事項ということになります。

(3) 被疑者の身上経歴に関する供述録取における注意点

捜査官は、一般的に、本籍地の市区町村長に対して身上照会をして、被疑者の氏名、年齢、本籍等を確認します。また、前科・前歴関係についても、必ず、前科調書及び指紋照会回答書などにより確認します。

さらに、出国や帰国についても、有効な旅券に基づく限り、入国審査官から出国や帰国の確認を受けたことが裏付けられます。そうしますと、被疑者の身分関係(上記⑵の①ないし③、⑭、⑮)、前科・前歴関係(上記⑵の④ないし⑨)については、被疑者として争う余地はないといえます。

したがって、これらの事項については、被疑者が答えるか否かの判断をしても、特に不利益は生じないものと考えられます。

しかし、その余の事項(上記⑵の⑩ないし⑬)については、被疑者に不利益が生ずる可能性があるため、事案ごとに、検討されなければなりません。

まず、上記⑵の⑩の「学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係」については、被疑者の性行にも関連しますので、被疑者が秘匿したい事項が含まれていることも考えられます。

それらが、身上経歴に関する事項であっても、弁護士の助言が必要な内容を含むといえましょう。

したがって、この点については、上記2の⑶の弁解録取書の関係で述べたことが、そのまま当てはまるといえます。

次いで、上記⑵の⑪ないし⑬については、犯罪構成要件及び情状に関する事項ですので、基本的には、「身上経歴供述調書」の範囲外となりますが、実務上、被疑事実を概括的に認める内容が記載されていることもあります。この点の留意点については、下記⑷のとおりです。

(4) 身上経歴供述調書の証拠としての扱い

被疑者の身上経歴供述調書は、公判段階では、被告人の供述を録取した書面として扱われます。

したがって、法322条の要件を具備するか又は法326条の同意があれば証拠となることになります。

ただ、実務上、被告人の身上経歴供述調書の立証趣旨が、「身上経歴等」とある場合は留意しなければなりません。その記載内容の中に犯行状況が含まれていれば、「等」とある以上犯行状況の証拠としても用いることができるわけですから、検察官が明示した立証趣旨が、当該証拠から立証しようとする事実のうち主要なものを例示したにすぎず、合理的な意思解釈としても、要証事実として犯罪事実を含むと考えられるときは、弁護人としても、求釈明によって、検察官の立証の真意を確認するのが望ましいと考えられています。

4.被疑者が取調べを受ける際の留意点

弁護士の援助を受ける権利は、身体を拘束された被疑者の基本権です(憲法34条)。今回の法改正により、被疑者国選弁護が勾留された全ての被疑者にまで拡大されました。

この結果、捜査機関から追及を受け調書が作成される段階において、弁護士の援助を受ける機会が法的にも整備されたわけです。

身体を拘束された被疑者は、弁護士と接見し、基本的な権利について法的な助言を得ることができます(法39条)。

また、弁護士は、被疑者から話を聴き、有利な事情を汲んで被疑者に代わり捜査段階から様々な活動をすることができます(例えば、被害者との示談交渉、勾留要件存否の点検、事件処理を行う検察官に対し被疑者に有利な証拠・情状の伝達等)。

このように、弁護士が、捜査の初期段階から事件に関与することは、被疑者が真犯人であれ無実であれ、被疑者の基本的人権を擁護し、被疑者の早期釈放や、犯罪の成否、量刑に関し、適正な結論を導くために、必要不可欠であることを示しているといえます。

以上のことは、特に、被疑者の取調べにおいて、機能されなければなりません。被疑者は、取調べにおいて、どのように供述すべきか、何を話し、何を話さないか、また、黙秘権を行使すべきか、黙秘権を行使するにしても、それは事項によるのか、虚偽供述をすればどうなるのかなど、弁護士の助言なしには解決し難い内容が含まれます。

被疑者は、取調べを含む全ての面において、弁護士を頼るべきなのです。弁護士の援助が得られてはじめて、捜査機関と対等な立場に立てるのです。

ここで、上記⑵の⑪ないし⑬の犯罪構成要件及び情状に関する事項について、触れておきます。

同⑪の「被害者との親族又は同居関係の有無」及び同⑬の「盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無」については、犯罪の成否、親族相盗例の適用、情状等に関係しますので、被疑者としても、慎重に供述しなければなりません。

そして、同⑫の「犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯行後の行動」については、犯罪構成要件に該当する事実及び情状に関する事実ですので、捜査機関が追求したい内容になります。

したがって、これら⑪ないし⑬については、捜査機関の取調べに際し、被疑者があらかじめ弁護士の助言を得て臨むことは、自己の権利利益を擁護する上で、必要不可欠なことであり、肝に銘じなければなりません。

5.まとめ

逮捕され、一人で捜査機関と向き合って取調べを受けるとなったら、しっかりと否定すべきところもあやふやになってしまうこともあるかもしれません。

そのようなときは弁護士の力を借りることができます。弁護士に依頼すれば、捜査機関の取調べのアドバイスもしてもらえます。

刑事事件で逮捕されてしまった際には、お早めに刑事弁護の実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご依頼ください。

刑事事件コラム一覧に戻る