刑事事件弁護 [公開日]

刑の一部の執行猶予制度とは?被告人にとって有利な判決なのか

刑の一部の執行猶予制度とは?被告人にとって有利な判決なのか

【この記事を読んでわかる事】

  • 犯罪をした者の再犯防止、改善更生のための一部執行猶予制度とは?
  • 刑事事件で一部執行猶予が適用されるための要件
  • 一部執行猶予制度の注意点と課題

 

刑の一部の執行猶予制度は、どのような目的・理由で導入されたのでしょうか。刑の一部の執行猶予(以下「一部執行猶予」といいます。)は、どのような要件の下で言い渡されるのでしょうか。

また、一部執行猶予では、保護観察の在り方も問題となっていますが、それはどういうことなのでしょうか。弁護士は、一部執行猶予の可能性がある場合、被告人やその家族にどのようなアドバイスをするのでしょうか。

以下については、これらのことを中心に、一部執行猶予について解説することとします。

1.一部執行猶予制度導入の目的・理由

近年、日本においては、犯罪をした者のうち、再犯者が占める割合が少なくない状況にありました。

そのため、再犯防止のための取り組みが政府全体の課題となっており、効果的かつ具体的な施策を講ずることが求められていました。

このように、犯罪をした者の再犯防止・改善更生が重要な課題となっていたのです。

平成25年の改正(平成28年6月1日施行)前の刑法では、刑の言渡しの選択肢として、全部実刑か全部執行猶予のいずれかしか存在しませんが、犯罪をした者の再犯防止・改善更生を図るためには、施設内処遇後に十分な期間にわたり社会内処遇を実施することが有用な場合があると考えられたのです。

そこで、裁判所において、宣告した刑期の一部を実刑とするとともに、その残りの刑期の執行を猶予することにより、施設内処遇に引き続き、必要かつ相当な期間を執行猶予として、刑の執行猶予取消しによる心理的強制の下で、社会内における再犯防止・改善更生を促すことを可能とする刑の言渡しの選択肢を増やすべく「一部執行猶予制度」が導入されたのです。

そして、近年、薬物使用等の罪を犯した者の再犯防止が重要な課題となっていたことから、施設内処遇に引き続き、社会内において保護観察処遇を実施することにより、薬物使用等の罪を犯した者の再犯防止を図るため、新たに「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」(以下「薬物法」といいます。)を制定して刑法の特則を定め、累犯者であっても、一部執行猶予を言い渡すことを可能としました。

2.一部執行猶予制度の概要・趣旨

(1) 制度の概要

これまでは、全部実刑か全部執行猶予でしたが、一部執行猶予制度の新設により、それに加えて、裁判所が宣告した刑期の一部だけの執行猶予が可能となりました。

例えば、主文が「被告人を懲役2年に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する。」、「被告人を懲役2年に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に処する。」などの場合、まず猶予されなかった1年6か月の懲役刑の執行を実際に受けて服役します。

その服役が終わった後に、猶予された6か月の執行猶予期間である2年間が開始されます。

執行猶予が取り消されることなく、2年間の猶予期間(その間、保護観察の場合もあります。)が経過しますと、6か月分の執行はされないことになります。一部執行猶予制度は、上記のような仕組みだということです。

(2) 制度の趣旨

一部執行猶予制度は、全部実刑か全部執行猶予かの中間的な選択肢ではないと解されています。

どういうことかと言いますと、裁判所が、全部実刑か全部執行猶予か迷ったときに、迷ったから半分だけ執行猶予にするという、中間的な選択肢の制度ではないということです。

これまでどおり、まず全部実刑か全部執行猶予かということを、きちんと判断することを前提とした制度なのです。

すなわち、これまでの判断の枠組みでは、全部実刑が相当だと評価されてきた事案において、本制度施行後は、一部執行猶予を言い渡すことを新しく選択できるようになったということです。

このように、あくまでも、実刑相当の事案で選択できる新たな制度であるということです。

つまり、これまで全部執行猶予だった人は、これまでと同様、引き続き全部執行猶予であり、これまで全部実刑相当だった人の中で、一部執行猶予にした方が、更生に資する人を一部執行猶予にするという趣旨ということです。

では、どのような場合に、一部執行猶予が選択されるのでしょう。

それは、一部執行猶予制度の施設内処遇(刑務所の中での処遇)と社会内での処遇を連携することによって、実刑相当事案における被告人の再犯防止と改善更生を図ることが必要かつ相当な場合に選択されるということです。

3.刑法上における一部執行猶予の要件

刑法上における一部執行猶予の要件

(1) 対象者

  • 前に禁錮以上の刑に処せられたことのない者
  • 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
  • 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者であること(刑法27条の2第1項)

したがって、前に禁錮以上の刑に処せられて、その執行を終わった日から5年が経過していない、いわゆる累犯者は、対象になりません。

なお、対象犯罪による限定はありません。

(2) 宣告刑

3年以下の懲役又は禁錮の言渡しであること(同第1項)。

(3) 再犯防止の必要性・相当性

犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められること(同第1項)。

(4) 猶予期間

1年以上5年以下の期間であること(同第1項)。

(5) 保護観察

任意的であること(同法27条の3第1項)。

4.薬物使用等の罪における一部執行猶予の要件

(1) 対象者

刑法、大麻取締法、毒物及び劇物取締法、覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法及びあへん法に定める薬物使用等の罪を犯した者であること(薬物法3条)。

「薬物使用等の罪」とは、規制薬物(覚せい剤、大麻、麻薬等)・毒劇物(トルエン等)の自己使用・単純所持の罪等をいいます(同法2条)。薬物使用等の罪には、上記3⑴のような対象者の限定はありません。

したがって、薬物使用等の罪に関しては、累犯者であっても、一部執行猶予の適用が可能です。

なお、薬物法の目的が規制薬物等に対する依存(薬物使用等の罪を犯す傾向)の改善にあることから、輸入・輸出、製造、営利目的所持は対象となりません。

(2) 宣告刑

3年以下の懲役又は禁錮の言渡しであること(同法3条)。

(3) 再犯防止の必要性・相当性

犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設に引き続き社会内において規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められること(同法3条)。

(4) 猶予期間

1年以上5年以下の期間であること(同法3条)。

(5) 保護観察

必要的であること(同法4条1項)。

5.保護観察の概要と専門的処遇プログラム及び社会貢献活動

(1) 保護観察の概要

保護観察は、保護観察官と保護司が協働して担当することになります。

保護観察が付されますと、保護観察官や保護司の指導・監督に服する必要があります。

そして、遵守事項に違反した場合には、執行猶予が取り消されることもあります。

保護観察期間の遵守事項中には、専門的処遇プログラムを受けることが盛り込まれることがあります。

(2) 専門的処遇プログラム

保護観察所の専門的処遇プログラムには、

  • 性犯罪者処遇プログラム(対象:仮釈放者、保護観察付執行猶予者のうち、強制性交等、強制わいせつなどの罪を犯した者又は犯罪の原因・動機が性的欲求に基づく者。主な内容:ワークブックを使用した教育課程)
  • 薬物再乱用防止プログラム(対象:仮釈放者、保護観察付執行猶予者のうち、指定薬物又は規制薬物等の所持・使用等の罪を犯し、かつ、これら薬物の使用経験がある者。主な内容:ワークブックを使用した教育課程、簡易薬物検出検査)
  • 暴力防止プログラム(対象:仮釈放者、保護観察付執行猶予者のうち、傷害、暴行等の罪を犯し、かつ、同種の罪の前歴を有する者。主な内容:ワークブックを使用した教育課程)
  • 飲酒運転防止プログラム(対象:仮釈放者、保護観察付執行猶予者のうち、飲酒運転を行った者。主な内容:ワークブックを使用した教育課程)

以上の4つがあり、2週間に1回程度通所して、上記のプログラムを受けることになります。

(3) 社会貢献活動

特別遵守事項の類型に、「善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと。」(改正更生保護法51条2項6号)が加わりました。

保護観察対象者に、その特別遵守事項として社会貢献活動(例えば、公共の場所での清掃活動や、福祉施設における介護補助活動に従事すること等)に従事させることが可能になったのです。

6.一部執行猶予と刑事弁護

(1) メリットとデメリット

  • 一部執行猶予は、全部実刑に比べて、刑務所に服役する期間が短くなる点が、メリットといえます。
  • 一部執行猶予の場合でも、仮釈放は可能と解されていますので、服役期間がより短縮される可能性がある点が、メリットといえます。
  • 一部執行猶予に保護観察が付された場合、一般事件においても、保護観察所の指導監督の下で、再犯防止・改善更生が期待できる点が、メリットといえます。
  • 薬物使用等の罪については、一部執行猶予の場合、刑務所内で更生プログラムを受けるだけでなく、薬物の誘惑の強い実社会の中で、引き続き、保護観察所の監督の下で、専門的処遇プログラムにより再犯防止・改善更生が図られる点が、メリットといえます。
  • 一部執行猶予は、刑期の一部につき猶予期間があるため、満期出所の場合よりも、出所後の一定期間、社会生活を送る上で制約がある点が、デメリットといえます。
  • 一部執行猶予に保護観察が付された場合、全部実刑に比べ、服役期間と出所後の猶予期間の全体を見れば、公的機関の干渉を受ける期間が長くなる点が、デメリットといえます。
  • 一部執行猶予に保護観察が付された場合、保護観察の遵守事項に違反したときには、執行猶予が取り消される可能性がある点が、デメリットといえます。

(2) 一部執行猶予の判決に関し注意すべき点

  • 一部執行猶予は、刑期の一部が執行猶予になるとはいえ、一度は刑務所に入らなければならないわけであり、一部執行猶予は実質的にも実刑の一種ですから、弁護士の立場からすれば、全部執行猶予が法律的に可能な事案については全部執行猶予を主張し、全部執行猶予が法律上不可能か、あるいは法律上は可能であるけれども困難と考えられる場合には、一部執行猶予を主張すべきかどうかを検討するのが、弁護方針として望ましいといえます。
  • 一部執行猶予は、刑期の一部を服役し、残りの刑期が執行猶予となるため、全部執行猶予では求刑通りの判決が多い現状から、一部執行猶予の判決が求刑通りにならないとも限りませんので、全部実刑の判決では一般的に求刑を下回っており、一部執行猶予は実刑の一種であることを前提に、被告人に不利益となる求刑通りの判決がなされないように、意を用いることが求められます。
  • 一部執行猶予の判決の刑が、全部実刑の判決の刑より、重いのか軽いのか、あるいは同じなのかの議論があり、現時点の公刊物ではその判断を示した裁判例が見当たらないものの、いずれ、どのような変更が控訴審における不利益変更に当たるのかが問題とされると考えられますから、一部執行猶予に関する裁判例の調査も必要なことになります。

(3) 一部執行猶予を主張する場合に留意すべき点

  • 一部執行猶予に保護観察が付された場合、執行猶予期間中に保護観察を受け続けることを負担に感じる被告人もいるでしょうから、一部執行猶予を主張する場合には、被告人に制度の趣旨やメリット・デメリットだけでなく、保護観察が付される見通しも含めて十分説明し、被告人の意思を確認して方針を立てる必要があるといえます。
  • 薬物使用等の罪では、累犯者の場合、一部執行猶予を主張することが可能であり、再犯防止・改善更生の観点から、積極的に捉える見解もあり得ますが、保護観察期間中、福祉や医療を強制することになるため、一部執行猶予を主張する場合には、被告人やその家族とよく話し合い、慎重に検討すべきものといえます。
  • 刑法犯でも、一部執行猶予では、基本的に保護観察が付されると考えられていますので、弁論においては保護観察について言及する必要がありますが、裁判官を説得するに足りる主張をするためには、弁護士自身が保護観察所の専門的処遇プログラムを理解しておく必要があるといえます。
  • 一部執行猶予は、全部実刑よりも、服役期間が短くなるとはいえ、残りの刑の執行猶予期間中は、保護観察が付されない場合でも、完全な自由の身ではありませんので、一部執行猶予を主張する場合には、被告人の意思と希望を尊重すべきものといえます。
  • 保護観察所の専門的処遇プログラムが存在しない犯罪、例えば窃盗罪については、民間の医療機関でクレプトマニア(窃盗癖・窃盗症)の治療を行っているところがありますので、全部執行猶予、あるいは一部執行猶予を主張する場合には、弁護士が裁判官に、その治療プログラムの内容等を説明することが必要となります。
  • 再発防止のためのプログラムが用意されていても、被告人にそのプログラムを受ける意欲がなければ、社会内での更生も難しくなりますので、一部執行猶予を主張する場合、弁護士としては、裁判官に対して、被告人にプログラムを受ける意欲があることや、家族のサポート体制も整っていることを主張することも必要なことになります。

7.まとめ

一般事件でも薬物使用等の事件でも、罪を犯したことは間違いがなくても、刑務所には入りたくないでしょう。

仮に、刑務所に入るにしても、短期の方がいいはずです。刑期の一部を服役した後に、残りの刑期が執行猶予となれば、それはそれなりに、被告人やその家族にとって、嬉しいことかもしれません。

一部執行猶予は、一般論としては、被告人の再犯防止と改善更生を促すものといえましょう。

しかし、一部執行猶予が、果たして、当該被告人にとって、有利な判決といえるかどうかについては、被告人の前科や被告人を取り巻く諸々の事情を総合勘案しなければ予測できないともいえます。

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