情況証拠は本当に弱い証拠なのか?情況証拠と直接証拠の違い

刑事裁判

情況証拠は本当に弱い証拠なのか?情況証拠と直接証拠の違い

情況証拠のみで判決が出るなんて、という意見はインターネット等でよく耳にしますが、果たして情況証拠は本当に弱い証拠なのでしょうか。

確かに、情況証拠という言葉は、何かあやふやな、不安定な、不確実な証拠をイメージされる向きもないわけではありません。また、情況そのものの意味が、何となく被告人を取り巻く諸々のことを表しているため、漠然としたものという印象を与えるのも事実でしょう。

しかし、情況証拠のみで事実認定をすることは本当に間違っているといえるのでしょうか。

以下においては、まず、刑事事件における証拠を通覧し、その中で、特に直接証拠と情況証拠に的を絞って具体例を検討するとともに、情況証拠のみで事実認定をするのは間違っているのかについて、判例を紹介しながら解説することとします。

1.刑事事件における証拠の種類

証拠とは、裁判上、事実認定の基礎とすることのできる資料のことをいいます。そして、証拠は、様々な観点から分類することができます。

以下に整理してみましょう。

(1) 直接証拠・間接証拠

証明の対象となる事実(「要証事実」といいます。)との関係での分類です。

情況証拠の定義には様々な考え方がありますが、一般的には、直接証拠と間接証拠を区別し、要証事実を直接に証明するのに用いられる証拠を直接証拠といい、要証事実を直接証明することはできないが、これを推認させる事実(間接事実)を証明するのに用いられる証拠を間接証拠といいます。

この間接証拠が情況証拠と呼ばれています。

(2) 本証・反証

挙証責任の関係での分類です。要証事実について挙証責任を負っている者がその事実を証明するために提出する証拠を本証といい、挙証責任を負担しない者、すなわち相手方がその事実を否定し、あるいは疑いを生じさせるために提出する証拠を反証といいます。

通常、検察官が提出する証拠が本証であり、被告人側が提出する証拠が反証となります。

(3) 実質証拠・補助証拠

要証事実を証明する証拠の証拠能力・証明力の関係での分類です。要証事実の存否を証明するのに用いられる証拠を実質証拠といい、証拠の証拠能力や証明力に関する事実(補助事実)を証明するのに用いられる証拠を補助証拠といいます。

補助証拠のうち、他の証拠の証明力を弱める証拠を弾劾証拠といい、証明力を強める証拠を増強証拠といい、一度弱められた証明力を回復する証拠を回復証拠といいます。

(4) 人的証拠・物的証拠

証拠方法の形体に関しての分類です。証拠は人と人以外に分かれます。

生存している人による証拠方法を人的証拠といい、人以外による証拠方法を物的証拠といいます。

(5) 供述証拠・非供述証拠

人の言葉によるか否かに関しての分類です。

人の言葉によって表された事柄を証拠として用いる場合の証拠を供述証拠といい、それ以外のすべての証拠を非供述証拠といいます。

(6) 人証・物証・書証

証拠調べの方式に関しての分類です。

口頭で証拠を提供する証拠方法を人証といい、物の存在及び状態が証拠となる物体を物証といい、記載内容が証拠となる書面を書証といいます。

2.直接証拠の具体例

(1)「甲が乙を包丁で突き刺して殺害した」(要証事実)という事例

甲がジャンパーの内ポケットから包丁を取り出し、包丁の柄を両手で握り、刃先を前に向け、乙の腹部目がけて包丁で刺したのを見たというAの供述とか、自分が乙を殺すため、包丁で乙の腹部を突き刺したと認める被告人甲の自白が、直接証拠となります。

これらの証拠がありますと、もしそれらの供述が信用できることを前提とするならば、「推論」の助けを借りないで、要証事実を認定することができます(以下、同じです。)。

(2)「甲の運転する車が対向車線にはみ出して、対面進行してきた乙車に衝突し、乙を死亡させた」(要証事実)という事例

甲車が対向車線にはみ出して、乙車に衝突したのを見たというAの供述とか、自分が車を運転中、ハンドル操作を誤って対向車線にはみ出し、対面進行してきた乙車に衝突したと認める被告人甲の自白が、直接証拠となります。

(3)「甲が乙宅から指輪を盗み取った」(要証事実)という事例

甲が鏡台から指輪を盗むのを、隣室で見ていたという乙の供述とか、自分が乙宅で鏡台にあった指輪を盗んだと認める被告人甲の自白が、直接証拠となります。

3.情況証拠の具体例

情況証拠の具体例

(1) 上記2(1)の事例の場合。

Bが「乙の死の直後、甲が包丁を持っているのを見た」と供述したとします。Bの供述は、もし信用できることを前提とするならば(以下、同じです。)、甲による包丁の所持については直接証拠となります。

しかし、「甲が乙を包丁で突き刺して殺害した」という要証事実を直接証明するものではありません。乙の死の直後の甲による包丁の所持という事実(X)からは、甲の包丁による乙の刺殺という事実(要証事実)が推認される関係にあります。前者(X)を間接事実といいます。

そして、間接事実を証明する証拠を情況証拠(間接証拠と同義)といいます。Bの供述は、情況証拠ということになります。

(2) 上記2(2)の事例の場合。

対向車線に残っていた甲の車のタイヤ痕は情況証拠(「甲の車のタイヤ痕が対向車線にあった」という間接事実を証明する証拠)ですが、要証事実を証明する力は大きいといわなければなりません。

(3) 上記2(3)の事例の場合。

犯行当時、金に困っていた被告人甲から金を無心されたが断ったというAの供述、犯行直後に乙宅前で被告人甲の姿を見かけたというBの供述、被告人甲がその後間もなく指輪を入質したというC(質屋)の供述等の情況証拠があれば、これらを総合して、被告人甲を窃盗の犯人と認めることも可能です。

(4) その他の事例

さらに、甲が犯行現場にいなかったという事実は、要証事実不存在を推認させる間接事実(反対間接事実)です。これを証明するアリバイの証拠は情況証拠です。

これはもしその信用性が認められますと、要証事実不存在を強力に証明することになります。

(5) まとめ

以上の事例から見ましても、直接証拠と情況証拠との間には、価値の点で差がないことが分かります。では、判例はどういう立場なのかについて見てみましょう。

4.情況証拠のみで事実認定をする事の是非

情況証拠のみで事実認定をすることは間違っているのか否かについて、判例を元に検討します。

最決平19.10.16(刑集61巻7号677頁)は、

「有罪認定に必要とされる立証の程度としての『合理的な疑いを差し挟む余地がない』の意義は、直接証拠によって事実認定をすべき場合と情況証拠によって事実認定をすべき場合とで異ならない。」

旨判示しています。

さらに、最判平22.4.27(刑集64巻3号233頁)は、

「刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ、情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても、直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(最決平19.10.16刑集61巻7号677頁参照)、直接証拠がないのであるから、情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要するものというべきである。」

旨判示しています。

この太字部分の説示が事実認定の基準を示したものかについては、見解の対立がありますが、事実認定判断の際の注意則をいうにとどまる(上記太字部分の説示が指摘する内容を満たさなくとも有罪認定できる余地がある)とする立場が多数説とされています。

そして、この説示の趣旨は、「情況証拠による事実認定に際して、被告人が犯人であるとすればそのすべてが矛盾なく(合理的に)説明できる場合に、直ちに被告人が犯人であると速断することを戒め、逆に被告人が犯人でないとしても合理的に説明し得る余地はないか(他の者が犯人である合理的可能性はないか)を裏側から検証して有罪立証の確実性を確認するように注意を喚起したものと理解される。」とされています。

また、情況証拠によって有罪認定をする場合に、上記太字部分にいう事実関係は、多数の間接事実を総合評価した認定の結果として必要とされるのであって、総合評価に加わる個々の間接事実の単体としての推認力は低くてもよい、とするのが多数説とされています。

もう少し敷衍しますと、例えば、ある間接事実(群)から犯人となり得る者が甲、乙、丙のいずれかと認められ、それと別個独立の他の間接事実(群)から犯人となり得る者が甲、丁、戊のいずれかと認められれば、犯人が甲であることは高度の蓋然性をもって推認できます。

このような2つの間接事実(群)が認められるという事実関係も、上記太字部分のいう被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない事実関係になると思われ、そうすると、特定の具体的な間接事実(群)中に、上記太字部分にいう事実関係が含まれていることを要求するとまで厳格に考える必要はなく、複数の間接事実を総合した事実関係がこれに当たる場合にも、有罪認定は妨げられない趣旨と考えられるのです。

これが一般的な見解とされています。

なお、上記最判平22.4.27後の刑事裁判の実状を見ますと、間接事実からの総合判断に際して、被告人が犯人であれば合理的に説明できる事実関係があるというだけでは立証として不十分であることが改めて意識され、認定した事実を総合した場合に被告人が犯人でない可能性はどの程度あるのか(言い換えれば、被告人が犯人でないとしたならば合理的な説明が極めて困難である事実関係があるのか)についても検討されているのが一般であり、判決文中にも上記太字部分の説示と同様の表現が多くみられるようになっています。

したがって、上記太字部分の説示が示した判断手法は、誤った有罪認定を避けるための注意則として有用性が高いということになります。

以上から、情況証拠のみで事実認定をするのは間違っているといえないことになります。

5.おわりに

刑事事件でどのような証拠が決定的となるのかは、その事件の内容によって様々です。刑事事件で裁判となってしまう場合には、様々な刑事事件を経験し、判例の理解を含む証拠法に精通している弁護士に依頼しましょう。

泉総合法律事務所は、様々な刑事事件を解決してきた実績が豊富な弁護士が多数在籍しています。刑事事件で裁判となりそうな場合だけでなく、逮捕されてしまったらお早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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