示談で刑罰を軽くしたい~ひき逃げの被害者が重傷の場合~

交通事故

ひき逃げ1

ひき逃げ運転して逃走し、数か月後に令状逮捕された被疑者の刑事弁護を家族から頼まれたことがあります。本稿ではそれを例にして、ひき逃げの罪と刑罰、ひき逃げと保険の関係、また示談交渉による不起訴・執行猶予を獲得する方法について解説します。

1.ひき逃げ人身事故で逮捕されたら懲役刑?

ひき逃げ運転は飲酒運転と同様に悪質なものとされており、被害者が重傷を負った場合にはきちんとした刑事弁護を受けなければ懲役刑に処せられるのが通常です。刑事弁護の依頼を受けると、ひき逃げ運転をした時の状況や被害者のケガの程度がわからなかったので、逮捕されて留置されている警察署へ早急に接見に行き、これらの状況を直接被疑者から事情聴取をしました。

2.ケガの程度、重症だと実刑の可能性が高まる

被害者のケガの状況も捜査上の秘密になりますので、弁護士であっても担当刑事から教えてもらえないのが通常です。

ですので、被疑者が知っている詳しい事情を被疑者に聞くのは当然ですが、被疑者が知らない(例えば被害者のケガの程度などの)事情は、担当刑事が被疑者の取り調べにおいて被疑者に伝えます。

今回の被疑者から聞いたところでは入院を数か月したとのことでしたが、幸い後遺障害はないとのことでした。しかし、入院数か月はかなりの重症ですから、示談を取り付けないと実刑の可能性が極めて高いと判断しました。

3.警察が持っている証拠

このことは他の事件でも同じでして、刑事弁護を担当する弁護士は、警察がどのような証拠を持っているかわかりません。被疑者が知っていることは接見で直接聞けるのですが、それ以外の証拠について弁護士は見ることができません。そのため、弁護士は担当刑事が被疑者に質問した内容を被疑者との接見で聞き取り、警察がどのような証拠を持っているかを推測することになります。

もちろん、警察が被疑者に証拠物そのもの(防犯カメラの写真など)を見せることもありますが、それ以外の証拠は(手の内を知られたくないと警察が考えれば)見せることはありません。被害者の調書や被害者の特定に結び付く証拠も、被疑者に見せることは(被疑者が知っていれば別ですが、そうでない場合には)見せることはしません。

被疑者から警察の質問内容を聞き取りそれから推測して警察がどんな証拠を持っているかを見抜くことになりますが、それにはかなりの刑事弁護経験をしないとできないのではと思っています。

4.示談交渉の進め方

(1)被害者の連絡先を知る

今回はひき逃げで、被害者は入院数か月の重傷とのことでした。接見翌日の検事調べで10日間の勾留請求、さらにその翌日にある裁判官の勾留質問で10日間の勾留決定が確実で、勾留決定取消しのための準抗告は通らないと判断しました。

そこで、重い刑罰を避けるためにも、接見翌日の検事調べを担当する検察官が担当検察官になります(土日祝日は当番の検察官となり担当検察官ではありません)ので、担当検察官に示談交渉をしたいので被害者に連絡先を教えてもらうようお願いしました。担当検察官から被害者の連絡先を聞き、示談交渉の約束を取り付けました。

(2)示談金額

私としてはできるだけ早く示談をまとめることで、事案内容から起訴は免れないものの被疑者の裁判(公判)で重い刑罰を回避し、執行猶予を確実に取り付けたいと思いました。事案が重大ですので、勾留期限で起訴となることから最短の3日間(東京地裁の場合です)で保釈を確実に取り付けたいとの思いから、被疑者の家族と話した上で、示談金について誠意ある(一般的には十分な)示談金額を提示することにして示談交渉に臨みました。

提示タイミング

もちろん、いきなり示談金の話はすることはありません。被害者の事情やひき逃げで被った損害など、被疑者側が知りえない事情を聞き取る必要があります。被疑者の謝罪の手紙を渡したことはもとよりのことです。被害者側の事情を考慮しても十分な金額だと考えて、その場で示談金額を提示させていただきました。

被害者は示談金額に納得していただいたので、あらかじめ用意した示談書を提示して示談書の内容などをその場で検討していただきました。示談書の内容について一部質問があり、それに回答するなどしました。

示談交渉の回数

示談は被害者が1回で納得される場合もあれば、数回示談交渉で納得いただくこと、最終的に示談に応じていただけないこともあります。

1回でご納得していただく場合にはその場で示談金をお渡して示談を取り付けることにしています(そのため事前に示談書を作成し示談金を預かっていきます)。被害者はそれで区切りをつけることができますし、被疑者も今後の見通しがつくことで安心します。

(3)示談成立と釈放/不起訴

特に逮捕勾留されている身柄事件では、起訴前では悪質な事件でなければ示談の成立で重い刑罰もなく釈放され不起訴となります。

今回のような悪質な場合には勾留期限まで勾留され、その後起訴され正式裁判(公判)となりますが、示談できればひき逃げ運転で被害者が重傷を負った場合でも、多くの場合は執行猶予付き有罪判決となります。よって被疑者としても、実刑を避けるためにも被害者に示談をお願いしたい気持ちで一杯なのが通常です。

5.交通事故の損害賠償

ひき逃げ2

本件では被疑者は任意保険に加入しているので、任意保険から被害者が被った損害は保険金の支払いの形で賠償されます。

刑事事件での保険金は任意保険の保険金とは別枠として刑事事件の一環で被疑者が被害者に支払うもので、示談書にも別枠と表記します。別枠と表記しないと任意保険で支払われる保険金がその分減額される恐れもあり、被害者に迷惑をかけることもあるからです。

6.任意保険未加入の無保険事故の場合

Q.自賠責保険や任意保険が未加入の場合はどうなりますか。

このような場合はひき逃げでは(被害者のケガの程度にも左右されますが)、通常逮捕されて実刑判決の可能性が極めて高くなります。ケガが重傷ですとその損害賠償が支払えるのかという問題がありますし、まして、刑事での示談金の支払いができるとも予想しがたいので、重い刑罰が通常ではないかと思います。

加えて、自賠責保険に加入していないこと自体、後で述べますが法令違反となります。

7.自賠責保険の未加入は罪となるか?

Q.自賠責保険に未加入で、不注意で人身事故を起こした場合はどうでしょうか。

自賠責保険に加入していないこと自体が自動車損害賠償補償法違反になり、自賠責に加入しないで運行すれば、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。

それだけ自賠責保険に加入することが重視されていますので、被害者に十分な損害賠償と刑事での示談金の支払いがなければ実刑判決の可能性が高いとお考えください。

8.保険会社任せがNGな理由

(1)罰金刑の場合、前科がつく

Q.自賠責保険や任意保険に加入しているのですが人身事故を起こしてしまいました。どうなりますか。

多くの方は任意保険に加入しているので、保険会社に任せれば足りると考え、刑事事件のことは念頭に置かないのが一般でしょう。ケガの程度が軽微であった場合や不注意の程度が低い場合には、逮捕されても罰金刑で終わることも少なくありませんが、ケガの程度が重い場合は任意保険に加入していても起訴され正式裁判になります。

もっとも、任意保険に加入していることで、ケガが重傷でも多くの場合実刑判決ではなく執行猶予がつくといえます。しかし、罰金でも立派な前科ですし、執行猶予がついても懲役刑に処せられれば公務員は法令により懲戒免職となります。その意味では保険会社任せにすることは危険です。

(2)保険会社任せはデメリットが多い

任意保険会社による示談は、刑事事件のことは一切お構いなく勧めますし、示談成立までかなりの時間がかかるものです。保険会社の示談は刑事弁護の示談とは異なり民事としての示談ですから、被害者は加害者の刑事処罰を望まないなどといったいわゆる宥恕(ゆうじょ)文言はありませんので、刑事事件の判決には影響ありません。

9.前科をつけない!弁護士なら起訴を不起訴にできる可能性あり

弁護士に刑事弁護を依頼し、任意保険金とは別に示談金を被害者に受け取ってもらって示談を成立させることで、起訴と予想された重度のケガの事案でも不起訴になることがあります。

人身事故を起こしたら刑事事件を犯してしまったと考えて、早めに弁護士に依頼されることをお勧めします。警察が物損から人身に切り替えるということが交通事故ではありますが、それは交通事故を刑事事件として扱うという意味合いを持っています。

当所泉総合は民事での交通事故の被害者側の損害賠償に取り組んでおり、交通事故での刑事弁護に精通しておりますので、安心してご相談・ご依頼してください。

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