迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪~痴漢をした場合に問われる罪

法律

痴漢をした場合の問われる罪~迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪

痴漢をした犯人が、ホームから飛び降りて逃走したとか、満員電車内で痴漢をして逮捕されたなどという報道に接したりします。

では、痴漢とはどのような犯罪なのでしょうか。

1.痴漢で問われる二種類の罪

痴漢という場合、よく耳にするのは、都道府県で制定している、いわゆる迷惑防止条例に違反した行為と思われますが、果たして、そうなのでしょうか。

痴漢裁判に対する最高裁の初めての無罪判決(最判平21.4.14刑集63巻4号331頁、判時2052号151頁、判タ1303号95頁)として、大々的に報道された痴漢冤罪事件は、「満員の電車内において、約7分間にわたり、17歳の女性に対し、パンティの中に左手を差し入れその陰部を手指でもてあそぶなどし、もって強いてわいせつな行為をした」(公訴事実の要旨)というもので、これは迷惑防止条例違反ではなく、強制わいせつ罪に問われているのです。

同じく痴漢といわれているのに、迷惑防止条例違反の罪に問われたり、強制わいせつ罪に問われたりするのはどうしてなのでしょうか。

それぞれの罪には犯行態様にどのような違いがあり、また、それぞれの罪の刑罰はどのように規定されているのか、迷惑防止条例違反で逮捕された後はどうなるのか、釈放されることはあるのか、最終的な処分はどうなるのかなどについて、順次、説明していくこととします。

2.迷惑防止条例について

いわゆる迷惑防止条例は、都道府県が制定しているわけですが、条例の名称、痴漢に該当する行為内容やその罰則にも、都道府県によって違いがあります。

東京都やその近隣の県の場合、条例の名称については、東京都、千葉県が「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」とし、埼玉県が「埼玉県迷惑行為防止条例」、神奈川県が「神川県迷惑行為防止条例」としています。

そして、痴漢に該当する行為内容については

東京都
「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。」(5条1項)
「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触ること。」(同条項1号)

神奈川県
「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」(3条)

埼玉県
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゅう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」(2条4項)

と規定しています。

また、その罰則については、いずれも、

罰則
「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(東京都は8条1項2号、千葉県は13条1項、神奈川県は11条1項1号、埼玉県は12条1項1号)

常習の場合
「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(東京都は8条8項、千葉県は13条2項、神奈川県は11条3項、埼玉県は12条2項)

と規定されています。

以下では、迷惑防止条例については、便宜上、東京都の上記条例(以下、単に「都条例」といいます。)を前提とすることとします。

3.痴漢の罪状

痴漢とは、都条例5条1項1号に該当する行為(以下「都条例違反行為」といいます。)と、刑法176条の「13歳以上の男女に対しては暴行又は脅迫を用いてするわいせつな行為、13未満の男女に対しては単なるわいせつな行為」(以下「強制わいせつ行為」といいます。)の両方を意味します。

都条例違反行為の法定刑は、上記のとおりですが、強制わいせつ行為の法定刑は、「6月以上10年以下の懲役」となっています。

都条例違反行為と強制わいせつ行為の違いは、一般的に、犯行の態様から見て、着衣の上からなでまわすなどの行為が都条例違反行為であり、被害者の意に反して、着衣の中に手を差し入れて人の体に触る行為が強制わいせつ行為であると考えられています。

(1) 裁判例

これまでの裁判例では、陰部に手を触れたり、着衣の上からであっても、乳房をもてあそぶ行為は強制わいせつ行為に当たるとされ、また、相手の意思に反して行う接吻も強制わいせつ行為に該当するとされています。

そうしますと、基本的には、13歳以上の男女に対するわいせつ行為の手段としての暴行・脅迫が、被害者の反抗を著しく困難にする程度であれば、強制わいせつ行為に当たり、それに至らない程度であれば、都条例違反行為に当たることになると考えられます。

もっとも、13歳未満の男女については、暴行・脅迫によらない単純なわいせつ行為も、強制わいせつ行為に該当することになります。

なお、都条例違反行為の罪も、強制わいせつ行為の罪も、親告罪ではありませんので、告訴がなくても起訴されることになります。

4.逮捕後の流れ

都条例違反行為と強制わいせつ行為では、法定刑に違いがありますので、以下では、都条例違反行為を前提に説明することにします。

(1) 逮捕、勾留

痴漢で逮捕された場合、自由が制限されるのは最大72時間となっています。その後、引き続き身体を拘束するのが勾留です。

痴漢で逮捕された被疑者の場合、裁判官は、検察官から勾留の請求がありますと、勾留質問を行って、その当否を審査しますが、罪を犯した疑いがあり、住居不定、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれのいずれかに当たり、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときに、被疑者の勾留を認めます。

痴漢で逮捕されたとしても、痴漢を認めている場合には、特定の人や物に対する不正な働きかけによって、判断を誤らせたり、捜査や公判を紛糾させたりするおそれ、すなわち罪証隠滅のおそれがあるとは考えにくいところです。

なお、痴漢で逮捕されるのは強制わいせつ罪の痴漢で、都条例違反の痴漢で逮捕されることはあまりありません。都条例違反で逮捕されるのは、同種前科がある場合、犯行態様が悪質な場合、痴漢の被疑事実を否認している場合と考えてよろしいかと思います。

(2) 勾留の延長

なお、勾留期間は原則10日間ですが、やむを得ない場合には、更に10日以内の延長が認められることもあります。さらに、起訴された場合には、釈放され、又は保釈が認められない限り、身体の拘束が続くことになります。

都条例違反の痴漢の場合には逮捕されても勾留までされることは少ないかと思います。逆に、強制わいせつ罪の痴漢の場合には、逮捕され、引き続き勾留されるのが通常といえます。

(3) 釈放

痴漢で逮捕され、痴漢を認めている場合は、住居不定又は逃亡のおそれに当たればともかく、捜査機関側が任意に被疑者を釈放することも考えられます。都条例違反の痴漢の場合には同種前科がなく、犯行態様が悪質ではなく、犯行を認めている場合には、被疑者を釈放するのが通常といえます。

ただ、逮捕中の場合、いつの段階で釈放の措置を取るのかは、最終的には、検察官の判断になります。また、検察官から勾留の請求があった場合には、裁判官がその当否を審査し、痴漢を認めている限り、住居不定又は逃亡のおそれがなければ、勾留請求を却下することも考えられます。

都条例違反の痴漢の場合で逮捕されて検察官が勾留請求した場合で、裁判官が勾留請求を却下することは少なからずあります。これに対して強制わいせつ罪の痴漢の場合には、裁判官は勾留決定をするのが通常かといえます。

(4) 保釈

痴漢での逮捕とはいえ、痴漢を認めている上、家族がいて住居不定とはいえないのに、何らかの事情で逃亡のおそれがあるとして、身柄拘束(勾留)のまま起訴された場合、保釈は認められるのでしょうか。
都条例違反の痴漢の場合には、否認でないかぎり起訴とはならず略式罰金となりますが、過去に同種の罰金刑が複数ある場合や犯行態様が悪質な場合には、正式起訴となります。強制わいせつ罪の痴漢の場合には罰金刑はないため、不起訴処分にならなければ初回でも正式起訴となります。

保釈は、被告人やその家族にとっては、一番の関心事になるはずです。しかし、逃亡のおそれは、保釈保証金の納付によって防止することができますので、一般的には、保釈が認められると考えられます。

(5) 最終的な処分

痴漢で逮捕された被疑者が痴漢を認めている場合、その処分としては、都条例違反行為の法定刑からしますと、検察官による不起訴処分(起訴猶予)、罰金、執行猶予付、保護観察付執行猶予、実刑(前科のある場合)が考えられます。

そして、その処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談です。したがって、痴漢で逮捕された人に有利となる結果を導くには、いかに早期に示談を成立させることができるかにかかっているわけです。

(6) 示談

都条例違反行為の場合、前科があればともかく、示談が成立したのに公判請求に至ることは通常はないものと考えられます。示談が成立すれば、不起訴処分(起訴猶予)が十分期待できます。

しかし、示談となりますと、被害者の心情に配慮しなければなりませんので、かなり高度な交渉ごとになります。家族が被害者側との示談に当たることも可能ですが、痴漢で逮捕された人に肩入れする傾向は否めません。そうした場合、かえって被害者の心情を害してしまい、逆効果を招きかねません。

被害者側との折衝、そして示談交渉などは、法律のプロである弁護士に委ねるのが望ましいといえます。被害者の心情にも配慮しながら、適切な金額で示談成立に尽力していただけるはずですし、場合によっては、嘆願書まで作成してもらえるかもしれません。

示談が早ければ早いほど、痴漢で逮捕された人に有利な処分結果が出ることが期待できますので、被疑者が逮捕された直後の早い段階で、弁護士に依頼することが望ましいことになります。また、弁護士に依頼することで、逮捕に続く勾留を阻止する活動をしてもらえば、早期釈放が可能となります。

【参考】弁護士が語る!痴漢の様々なケースと逮捕・示談の流れ

5.泉総合は痴漢弁護経験が豊富です

痴漢など絶対にしないと思っていても、ふと魔が差して痴漢をしてしまった、ということは誰にでもあり得ることです。迷惑防止条例違反の行為といえども、逮捕・起訴されたりしますし、処分が罰金であっても前科となります。

不起訴などで最終処分を有利に導くためには、刑事弁護の経験豊富な弁護士に弁護依頼をしてください。

泉総合法律事務所は、刑事事件、中でも痴漢の弁護経験につきましては大変豊富であり、勾留阻止・釈放の実績も豊富にあります。痴漢をしてしまった、逮捕されてしまったという方は、お早めに泉総合法律事務所の無料相談をご利用ください。

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