殺人未遂の1/3以上が執行猶予付き!?量刑判断の要素と刑期を解説

執行猶予

殺人未遂

殺人未遂と聞くと、通り魔、ストーカー、テロ、そういった凶悪犯を想像し、執行猶予が付くわけがない、何年もの懲役に課せられる重い犯罪だと想像するのではないでしょうか。被害者は幸運にも一命をとりとめましたが、身の毛もよだつような恐怖に怯えながらこれからも生きていかないといけないのですから、重大な犯罪であることは誰の目からも明らかだと思います。しかし、一口に殺人未遂といっても、実は様々なものがあります。

そこで今回は、殺人未遂の類型と量刑、その刑期(刑の長さ)について解説したいと思います。

1.殺人未遂の成立要件は?

おおまかに言うと「殺意をもって人を殺そうとしたが死ななかった場合」に、殺人未遂が成立します。

ここから、一つの解釈が浮かび上がります。殺すつもりがなければ、法律的には、殺人未遂は成立しないということです。

理論的には、どれだけ重傷を負っても、殺意がなければ、殺人罪が成立することはありません(一方で、殺す意思があっても、およそ死ぬことがない態様であれば、殺人未遂は成立しませんが、ここでは省略します。)。一方で、殺意があれば、たまたま被害者が無傷であっても、殺人未遂が成立することになります(被害者に狙いを定めて発砲したが、たまたま当たらなかった場合等)。

ただ、殺すつもりがなかったと言えば、罪を免れられるわけでなく、常識的に考えて人が死ぬ可能性が高い行動をしており,その行動を取っていること自体を認識していたのであれば、いわゆる殺意は認定されます。

たとえば、発作的に人を刺してしまったとしても、それが急所であり(一般的に腕以外の上半身は突き刺せば死に至る危険性が極めて高い行為です)、刺した部位を本人が認識していれば、殺意ありとされるのが通常です。他にも、暴行の態様(何度も暴行を加えれば、殺意を肯定する要素になります)、言動(「死ね」とか「殺す」などの言動)、行為後の行動(瀕死状態の被害者を置き去りにすれば、殺意を肯定する要素になります)など、諸要素を考慮して判断されることになります。

なお、殺すつもりというのは、何が何でも殺すという意思までは必要なく、死んでもかまわないという程度の意思でも、殺意ありとされます。

2.殺人未遂の類型(威嚇、DV、介護・育児疲れ、通り魔、ストーカー等)

上記の通り殺人未遂は、皆さんが思っている以上に広範囲にわたって成立する可能性のある犯罪です。

威嚇のつもりで包丁を振り回したところ被害者にあたってしまったため、刃物という殺傷能力の高い武器で人を刺したという事実から、殺意があったと疑われ殺人未遂罪に問われるケースもありえます。一方で、強固な殺意をもって何度も刃物を突き刺したが、一命をとりとめたケースもありえます。

また、DVに耐えかねて反射的に刃物を刺してしまったような、被害者側にも問題があるケースもあれば、通り魔やストーカーなど、被害者に何ら落ち度のないケースもあります。

最近特に多くなっているケースは、介護や育児の疲れから、自分の子や親を殺めようとしてしまうケースです。昔のような地域社会ではなく、個々が孤立し、自ら悩みを抱え続けなければならない現代社会特有の問題と言えます。

3.殺人未遂の刑期・刑罰を決める(量刑)要素

一つの犯罪類型であっても、それぞれの背景事情が異なる以上、殺人未遂と言っても、刑期には幅があります。

平成27年度の地方裁判所で言い渡された殺人未遂の判決は122件ありましたが、そのうちの43件は執行猶予が付されています。3分の1以上の割合で執行猶予が付いていることになります。

殺人未遂罪は、刑法上は、殺人既遂罪と同じ刑期が定められており、死刑又は無期懲役、そして5年以上の有期懲役とされています。そして、執行猶予は、懲役刑の場合、3年以下の懲役刑を宣告する場合でなければ付すことができないため、殺人未遂罪には執行猶予が付けられなさそうに見えます。

しかし、未遂の場合は、減刑することが法律上可能であり、その他にも、死刑又は無期懲役、5年以上という刑があまりにも重すぎると裁判所が判断すれば、酌量減刑(情状酌量)もなされます。

殺人未遂罪の刑期を決する要素としては、①犯行の動機、②犯行の計画性、③犯行の態様、④被害の程度、⑤被害感情、⑥被害弁償や示談の有無、⑦前科前歴の有無、などがあります。

(1) 動機について

例えば、DVや性的虐待を受け、被害者からの精神的苦痛が甚大である場合、他にも、いわゆる介護疲れや育児疲れといった場合にも、刑期が短くなったり、執行猶予が付いたりする可能性が高くなります。一方で、通り魔などの快楽犯や社会への不満から行われるテロのようなものについては、被害者側の落ち度がまったくなく身勝手な犯行であることから、刑期が長くなる傾向になります。

(2) 犯行の計画性について

これは、殺意の程度によって刑期が変わることから考慮される事情です。犯行が計画的・用意周到であればあるほど、強固な殺意があったということになり、非難の程度が重くなります。

一方で、例えば、相手に挑発されて橋から突き落としてしまったというような場合には(確かに行為の選択としては非難されるべきですが)元から殺そうと思っていたわけではなく、激情から行為選択を誤ってしまった部分もあることから、計画的犯行に比べて、非難の程度が下がると考えられています。

(3) 行為の態様や被害の程度、被害感情、示談について

たとえば、執拗に刃物で刺したり、逃げ回る被害者を追いかけたりすれば、非難の程度は重くなるのは明らかでしょう。また、被害者が抵抗できない者であれば、加害者に命が委ねられているという意味では、非難の程度は重くなると言えるでしょう。凶器を使ったかどうか、被害者が抵抗したから可哀そうになって(又は怖くなって)やめたのか、殺そうと思ったがたまたま死ななかっただけなのか、そういった事情も考慮されます。

また、同じ態様であっても、被害者の怪我が重ければ、その分だけ刑は重くなります。拳銃を人に向けて発砲しても、被害者に命中するか否かで、刑の長さは変わるということです。

また、被害の大きさは、被害感情にも関わってきます。当然ですが、車いす生活を余儀なくされた場合と、無傷の場合では、被害者の加害者に対する非難の感情は異なるでしょう。ただ、理論的には、同じ怪我の程度であっても、被害感情が異なれば、刑期が異なることになるので、その意味では一つの独立した要素とは言えます。

示談の有無についても同様です。人の命はお金に代えられるものではありませんが、慰謝の措置を講じたかどうかは、刑の重さに強く影響します。

(4) 初犯かどうか

当然ですが、前科前歴のある人とない人では、刑の重さは異なります。同じような犯罪を以前にも行なっていた場合には、さらに重くなります。

以上のように、殺人未遂と言っても、最初に述べたように、育児疲れで幼児を風呂場に沈めようとしたが怖くなってすぐに戻したといったものから、社会への不満から何十箇所も刃物で刺したが一命をとりとめたものまで(ただ重い後遺症が残るケースもたくさんあるでしょう)、様々なものがあります。

その中で執行猶予が見込まれるケースとはどのようなものか、一般化することはできませんが、①動機に同情の余地があるもの、②被害者に強い落ち度があるもの、③被害の程度が軽いもの、に分類することができます。

4.刑期を短くしたい、執行猶予をつけたい場合は何を主張する?

殺人未遂において減刑されるためには、上記のポイントについて十分な弁護活動を行うことの他に、いくつかのポイントがあります。

(1) 正当防衛、過剰防衛の主張

例えば、被害者から先に暴力を振るわれ、無抵抗のまま暴力を振るわれれば、自分の身に危険が生じたり、逃げ場がなかったりすることがあります。その場合には、正当防衛の主張をすることが考えられます。正当防衛が認められれば,そもそも罪には問われません。無罪になります。

しかし、殺人行為を行なわなければならないほどの窮地は想定しがたく、認められたとしても過剰防衛になるケースは多いと思われます。ただ、過剰防衛であっても減刑される可能性が高く、免除の可能性もあります。

DVや虐待のケース、多数の人間に囲まれたり、体格差のある人間に執拗な暴力を振るわれたりするケースが想定できるでしょう。

(2) 殺意自体を否定する

上述したように、殺人未遂罪を判断する上では殺意が最も重要な争点になります。殺意が否定されれば、殺人未遂罪ではなく傷害罪(場合によっては暴行罪のみ)が成立し、両者の間の刑の重さは明らかに異なります。

当時の感情、被害者との関係、怪我の程度、暴行の態様から、殺意が否定される場合も多くあります。また、殺意が認定されたとしても、殺意の程度によって刑期は異なりますので、当時の意思状況を明らかにすることは、重要な弁護活動です。

もっとも、客観的な事情から、主観的な意思を推認することになるので、まずもって、当時の状況を明らかにしていく必要があります。

(3) 早期の弁護士への依頼(刑事弁護、示談交渉)

殺人未遂は重罪の部類に入りますので、必ず弁護士を付けるべき案件です。殺人未遂で逮捕勾留されても,弁護活動次第で傷害罪で起訴されるケースも多く、両者の刑の重さが違う以上、出来る限りのことは尽くすべきです。

特に、凶器を持っていたり、死の危険性の高い態様であれば、捜査機関は殺意があったものと疑いますので、警察より不適当や取り調べを受けたり、殺人と決めつけて捜査される危険性も高くなります。

また、示談や被害弁償については、原則として、弁護士でなければできません。そして、殺人未遂である以上、被害感情が大きいことが一般的であり、時間が空けば空くほど、被害者の印象は悪くなります。

5.刑事事件の相談、示談交渉は泉総合法律事務所へ

殺人未遂について解説しましたが、3分の1以上の割合で執行猶予が付くことに驚かれた方もいらっしゃるのではないかと思います。しかし一方で、残りの3分の2程度は、実刑判決が下されており、重い犯罪であることには変わりありません。

「こんなことで殺人未遂になるのか」と思われるようなケースもあり、そのまま起訴されれば、裁判員裁判となるだけでなく、実刑判決の可能性も秘めている犯罪類型です。

執行猶予が付くか否かは、今後の人生を大きく左右するものとも言えますし、弁護士としてできることはたくさんありますので、もし殺人未遂を疑われた場合には、とにかく早めに弁護士を探し、示談交渉を含めた刑事弁護を依頼しましょう。

当所でも無料相談を受け付けていますので、どうぞお早めにご連絡ください。

刑事事件コラム一覧に戻る