刑事弁護 [公開日]2017年7月21日[更新日]2021年3月24日

緊急逮捕の要件とは?通常逮捕・現行犯逮捕との違い

「○○容疑者を緊急逮捕しました。」という言葉をニュース速報で聞いたことがある方も多いと思います。
それと共に「緊急逮捕って何?」「普通の逮捕や現行犯逮捕とは何が違うの?」と感じた方もいるのではないでしょうか。

ここでは、緊急逮捕について、どのような時に行われるのか、要件、通常逮捕・現行犯逮捕との違いを解説します。

1. 緊急逮捕とは?

(1) 緊急逮捕の要件

緊急逮捕は、一定以上の法定刑の罪について、罪を犯したことを疑う充分な理由がある場合で急速を要するときに、逮捕状がない状態で逮捕することをいいます(刑事訴訟法210条)。

これは、「裁判官に令状を請求していたら犯人に逃げられてしまった」といったことを防ぐために認められたものです。

日本国憲法は人の自由を保障しており、現行犯を除いては「令状によらなければ、逮捕されない」(憲法33条)とも定められていますが、その大きな例外として、以下の要件が満たされた時には緊急逮捕が可能です。

①死刑・無期懲役・長期3年以上の懲役・禁固にあたる罪を犯したことを疑うに足りる「充分な理由」(通常逮捕の要件である「相当な理由」よりも、高度の嫌疑)があること
②逮捕するのに、急速を要し、裁判官に逮捕状を求めることができないこと
③逮捕の必要性(罪証隠滅・逃亡のおそれ)があること

このように、緊急逮捕ができるのは一定以上の法定刑の犯罪に限られていますから、例えば暴行罪(法定刑のうち懲役刑は2年以下)では緊急逮捕はできないということになります。

警察官は緊急逮捕する際、その「理由」を被疑者に告げなければなりません。理由とは、「犯罪の嫌疑」と「急速を要し、令状発布を待てない理由」の両方を指します。

そして、緊急逮捕後、ただちに裁判所に逮捕状を請求しなければなりません。
(これは、緊急逮捕時に逮捕の要件が揃っているかを事後的に裁判所がチェックする手続きです。逮捕時に逮捕の要件が揃っていない場合は、たとえ逮捕後の捜査で証拠が見つかり、裁判所の審査時までに要件が揃ったとしても、違法な逮捕ですから、令状は発布できません)

そして、裁判所が逮捕令状を発付してくれなければ、直ちに被疑者を釈放することになります。

なお、後に説明する現行犯逮捕と異なり、私人による緊急逮捕は認められていません。

【緊急逮捕の合憲性と対象犯罪の問題点について】
緊急逮捕を認める刑訴法210条は、令状逮捕の例外を現行犯に限定している憲法33条に違反し違憲ではないかが問題となった事案で、最高裁は理由を示すことなく、これを合憲と判断しています(最高裁昭和30年12月14日判決・最高裁判所刑事判例集9巻13号2760頁)。
今日では、(イ)全体的に観察すれば令状による逮捕であって憲法33条の例外ではないとする説、(ロ)現行犯逮捕に準ずるとする説、(ハ)憲法33条は合理的な例外を許容しているという説など、理由付けは様々ですが、実際上の必要性を重視して、合憲とする考え方が多数です。
しかし、憲法33条が現行犯以外に令状を要求したのは、事前に中立公正な裁判所に身柄拘束の理由と必要性を審査させ、戦前のように恣意的な身体拘束で人権侵害が生じることを防止する趣旨(これを「令状主義」と呼びます)ですから、現行犯でもないのに、事前審査なく身体拘束を認める緊急逮捕は違憲であるとする説も根強くあります。
また合憲とする立場からも、特に「長期3年以上の懲役・禁錮刑」を含めている点で、名誉毀損罪、器物損壊罪、信用毀損罪、業務上過失傷害罪、不退去罪など、およそ「重大犯罪とは言えない犯罪」まで緊急逮捕の対象に含まれている点が問題視されています。他方、放火予備罪、殺人予備罪、身代金目的略取等予備罪、強盗予備罪といった重大犯罪を準備している犯人は緊急逮捕できないというアンバランスも指摘されています。

(2) 緊急逮捕される場合

では、実際に緊急逮捕されるのはどのようなケースなのでしょうか。

ケース1

例えば、ある被疑事実について任意で取り調べをしているときに、他の被疑事実について自白があるなどして、他の被疑事実の強い嫌疑が認められるに至った場合が考えられます。

任意の取り調べでは、被疑者は警察からいつでも帰宅することができます。そのため、帰ろうとする被疑者を、その被疑事実で緊急逮捕することが考えられます。

ケース2

既に逮捕状が発布されている通常逮捕の際には、被疑者に逮捕状を示さなくてはなりません(刑訴法201条1項)。

もっとも、実際に逮捕しようとする警察官が逮捕状を所持していない場合もあり、そのようなときは、被疑者に対し被疑事実の要旨と逮捕状が発せられている旨を告げれば逮捕が許されます。ただし、逮捕後に「できる限り速やかに」逮捕状を示さなければなりません(同201条2項、73条3項)。これを「緊急執行」と言います。

通常は、この緊急執行で対処できるわけですが、例えば逮捕現場とは遠く離れた遠隔地の警察署が指名手配をした犯人の場合、身柄を確保した後に逮捕状を示すことができるまでに長時間を要してしまい、逮捕の適法性が疑われてしまう危険があります。そのような場合は、緊急逮捕で対処することが許されます。

もちろん、重大事件で指名手配されているが、逮捕状未発布の犯人を見つけた場合も緊急逮捕が行われることがあります。

2.通常逮捕・現行犯逮捕との違い

次に、通常逮捕・現行犯逮捕を、緊急逮捕との違いに着目しながら説明します。

(1) 通常逮捕とは

通常逮捕とは、検察官、検察事務官、司法警察職員(警察官、麻薬取締官、海上保安官など)が裁判所から得た逮捕令状で逮捕することをいいます(刑事訴訟法199条1項)。

先程も簡単に説明しましたが、令状が必要とされるのは、以下の憲法上の要請があるためです。

憲法第33条
何人も現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ逮捕されない。

なお通常逮捕の逮捕状を請求する権限を有する者は、検察官や警部以上の警察官などに限定されています(刑事訴訟法199条2項)。

令状の請求を受けた裁判官は「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(特定の犯罪行為を行ったという客観的かつ合理的な嫌疑があるということ)があり、逮捕することが必要だと認めた場合(逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがある場合)に逮捕令状を発行します(刑事訴訟法199条2項)。

ただし、軽微な犯罪については①被疑者が定まつた住居を有しない場合又は②正当な理由がなく任意取調べのための出頭の求めに応じない場合でなければ逮捕状を発布することはできません(刑事訴訟法199条1項但書)。

軽微な犯罪とは、刑法犯の場合、30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪であり、例えば、過失傷害罪や侮辱罪などがこれにあたります。

逮捕状の有効期間は、原則として7日です(刑事訴訟規則300条)。有効期間を超えた逮捕状では逮捕することができません。また、前述のとおり、通常逮捕する際には、逮捕状を被疑者に提示しなければなりません(刑事訴訟法201条)

誰かを捕まえる場合は、この通常逮捕が原則となります。

緊急逮捕との大きな違いは、被疑者を逮捕する前に裁判官の審査を受けているか否かです。

通常逮捕は事前に裁判所の審査を受けますが、緊急逮捕では身体拘束をしてしまった後に、裁判所に令状を請求して、事後審査を受けることになります。

(2) 現行犯逮捕とは

現行犯逮捕とは、現に犯行を行っているか、犯行を行い終わった者を令状無くしてする逮捕をいいます。(刑事訴訟法212条1項)

憲法第33条が「現行犯として逮捕される場合を除いては」と令状主義の例外を明文で許容したのは、現行犯は犯罪の嫌疑が明白で、権限濫用による人権侵害の危険が少ないからです。

そこで、本来の現行犯人の他にも、令状主義に反しないと認められる一定の要件を満たせば「現行犯人」とみなして無令状で逮捕が許されます。これを「準現行犯」と呼びます。
両者の要件は以下のものとなっています。

現行犯 現に犯行を行っているか、犯行を行い終わったこと
準現行犯 罪を行い終わってから間がないと明らかに認められ、かつ、以下のいずれかの要件に当てはまっていること
・犯人として、追われているか呼びかけられているとき(これを「追呼」と言います)
・犯罪によって得た財物や明らかに犯罪に使用したと思われる凶器などを所持していること
・身体または被服に犯罪の顕著な痕跡があるとき
・誰何(「すいか」:声をかけて名前を問いただすこと、及びこれに類する行為も含みます)されて逃走したこと

ただし、現行犯ならどんな犯罪でも常に現行犯逮捕できるわけではありません。軽微な犯罪については、①犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合、又は、②犯人が逃亡するおそれがある場合でなければ現行犯逮捕は認められません(刑事訴訟法217条)。

軽微な犯罪とは、通常逮捕の令状発布が制限される場合(前出199条1項但書)と同じく、刑法犯の場合、30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪であり、例えば、過失傷害罪や侮辱罪などがこれにあたります。

現行犯逮捕は「捜査機関に限らず一般の人でも行うことができる」「逮捕した後も裁判所に令状請求する必要がない」といった点で、緊急逮捕と異なります。

3.通常逮捕と緊急逮捕の統計

裁判所の統計(※)によれば、2019(令和元)年において裁判所が発布した逮捕状総数8万5658人のうち、通常逮捕状が7万8957人(約92%)、緊急逮捕が6701人(約8%)であり、緊急逮捕が決して例外的な手続ではないことがわかります。

※司法統計・令和元年(刑事)「第15表:令状事件の結果区分及び令状の種類別既済人員ー全裁判所及び全高等・地方・簡易裁判所」より

4.まとめ

緊急逮捕を中心に、各逮捕手続の違いについて説明しました。身体拘束という重大な人権侵害を伴う手続ですから、各要件は厳格に定められており、違反している場合は、直ちに身柄を解放するだけでなく、違法な身柄拘束中の取調べで得られた証拠は、後の公判で証拠として用いることが禁止される可能性が高くなります。

ご自分やご家族が、逮捕されている、逮捕されるかもしれないという場合、逮捕手続が適正に行われているのか否か、注意を払う必要があります。そのためには、刑事弁護のプロである弁護士に相談することがベストです。

刑事事件の弁護経験豊富な泉総合法律事務所にご相談ください。

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