痴漢事件

痴漢事件では多くの事案で目撃証言の信用性が問題になります。痴漢犯人であることを争う場合は、被害者や目撃者の述べる犯行状況の不自然さ、事実との食い違いを暴く必要があります。

平成28年11月2日大阪高等裁判所判決

被害者と被害者の娘による証言を中心的証拠として一審で有罪判決が出た事案。下りエスカレーター上の事件で、被告人の方が被害者より上にいた位置関係上、痴漢行為に及ぶにはかがみこむなどの不自然な姿勢をとる必要があったのに目撃証言はこれに触れていないこと、被害者自身の証言も被告人が抱えていた鞄がたまたま被害者に触れたと仮定しても説明できることから、両証言の信用性が否定され逆転無罪となった。

平成27年11月26日東京高等裁判所判決

電車内の痴漢行為の被害者が犯人の腕を捕まえたとして、掴まれた男性が被告人とされた事案。やはり一審では有罪とされたが、二審では逆転無罪となった。

被害者の証言は、いったん掴んだ犯人の手を振り向いて確認するまでの間に一度離したかという重大な点について変遷があり、しかも、以前に痴漢被害に遭った経験から痴漢犯人は自分の後ろにいるはずとか、犯人の顔を振り向きざまの一瞬で確認することができたとかいった、時に経験則に反する思い込みに毒されているところがあり、信用性を否定された。

平成24年10月19日横浜地方裁判所判決

電車内の痴漢警戒中の警察官二人に痴漢行為を目撃されたとして起訴された男性について、警察官の証言以外に痴漢行為を裏付ける証拠が何もなく、警察官の証言もそれが述べる被告人の姿勢が異様で、朝の通勤時間帯の電車内でそのような体制を取ることはあまりに不自然であること、警察官の側にもわざわざ特定の人物をマークして張り込んでいたために一見して不審な行動があったと思えば直ちに犯行があったと思い込んでしまった可能性のあること、警察官同士証言のすり合わせが容易でありその過程で実際に目撃した状況が誇張されていった可能性もあることなどを指摘し、犯罪の証明がないとして無罪にした。