交通事件

交通事件は車を運転する人ならば誰でも加害者となる可能性のある犯罪類型です。交通戦争と言われた時代ほど事件数はありませんが、その分、個々の事件に注目が集まるようになっており、報道に伴う社会的制裁も無視できないものがあります。

態様が悪質で結果が重大な事件は裁判員裁判の対象にもなっています。法改正の頻度が多く、新たな裁判例も次々に現れているため、運転者の皆さんには注意をお願いします。

平成28年9月28日札幌地方裁判所判決

飲酒運転の状態で死亡事故を起こした上に現場から逃走して知人宅でしばらく過ごしたことが「アルコール等影響発覚免脱罪」及び救護義務違反、通報義務違反にあたるとされた事案。

アルコール等影響発覚免脱罪は、事故発生後に水を飲んだり、逆に酒を飲んで事故発生時点での飲酒運転の事実を隠蔽しようとする者の逃げ得を防止するために新設された類型で、飲酒運転を隠すのとは全く別の理由があってそうしたのでないかぎり、酔いを醒ますために単にどこかで時間を過ごすことを含め、飲酒運転の存在を検知しにくくする行為の全てが処罰対象になる。

平成28年6年9日横浜地方裁判所判決

信号無視・速度超過で死亡事故を起こした被告人は、タクシーで追いかけてくる暴漢から逃げるために懸命で信号機を見ていなかった、事故後にその暴漢に殴られて重傷を負ったので通報もできなかったと主張した。

慎重な審理の末、信号無視をした交差点では時速80kmで走行していたと判明し、仮に赤信号を見ていたとしても止まるつもりがなかったとみなされたため、被告人は危険運転致死罪を免れなかった。一方で暴漢の存在については目撃者があったために認められ、通報する余裕がなく救護義務違反、通報義務違反にはならないと判断された。

平成26年2月28日札幌地方裁判所判決

糖尿病による低血糖のため運転中に意識を失い事故を起こした被告人に、そもそも運転中に意識障害に陥るような者は運転を控えるべき義務があるにもかかわらず、意識を失わないと軽信して運転したとして、禁固2年の実刑判決が下された事案。

同じ病気を持つ運転者について、病気の影響下では救護義務違反・通報義務違反には問えないとした2年前の先例があり、本事案との論調の違いには近年の持病のある運転手に対する考え方の変化が見て取れる。

平成25年6月7日東京高等裁判所判決

道路に横たわっていた人をひいてけがをさせた事案について、運転者に全く過失がない場合でも、自車の交通に起因して人身事故を起こした以上、救護義務はあると確認した事案。

こうした事例は昔から繰り替えされており、運転中でなく坂道で自然に走り下って起きた事故、荷台の荷崩れで起きた事故、停車直後に開かれたドアによる事故、といった一般的な交通事故ではないものについても、救護義務は発生されているとされている。