人身・死亡事故

交通事故で、ケガをさせたり、死亡させてしまったら

交通事故はある日突然、起こりうるものです。もし、人をケガさせたり、人を死亡させてしまった場合、どのような責任が生じるのでしょうか。
交通事故の加害者には、“民事、行政、刑事”3つの責任が生じます。

まず、民事責任ですが、事故当事者間における民事上の損害賠償責任がそれにあたります。具体的には治費や通院交通費、さらには被害者が事故に遭わなければ得られたであろう収入(逸失利益)や精神的苦痛に対する慰謝料を金銭賠償で補てんすることを意味します。

次に、行政責任とは公安委員会から免許の停止や取消などの処分を受けることをさします。
そして、刑事責任ですが、交通事故を犯した加害者が刑罰を受けるという責任を負うことを意味します。

では自動車運転中に、相手にケガを負わせたり、相手を死亡させてしまった場合、どのような刑事罰を負うことになるのでしょうか。具体的には以下のとおりです。

交通事故のケース 罪名
不注意 死亡事故 過失運転致死罪
自動車運転死傷行為処罰法5条
負傷事故 過失運転致傷罪
自動車運転死傷行為処罰法5条
危険運転
(※1)
死亡事故 危険運転致死罪
自動車運転死傷行為処罰法2条
負傷事故 危険運転致傷罪
自動車運転死傷行為処罰法2条
準危険運転
(※2)
死亡事故 危険運転致死罪
自動車運転死傷行為処罰法3条
負傷事故 危険運転致傷罪
自動車運転死傷行為処罰法3条

(※1)「危険運転」は以下の場合をさします。

  • アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態での運転
  • 進行を制御することが困難なほどの猛スピードでの運転
  • 進行を制御する技能を有していない者による運転
  • 人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転した場合
  • 赤信号をことさらに無視したり、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転した場合

(※2)「準危険運転」は以下の場合をさします。

  • アルコールまたは薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあるにもかかわらず、自動車を運転した結果、そのアルコールや薬物のせいで正常な運転が困難な状態に陥った場合
  • “てんかん”など運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定められているものの影響で、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがあるにもかかわらず、自動車を運転した結果、その病気のせいで正常な運転が困難な状態に陥った場合

厳罰化の傾向にある交通事故

かつて、交通事故を起こした場合、刑法の業務上過失致死傷罪(刑法211条の2)で処罰されていました。

しかし、「それでは飲酒運転など極めて悪質な交通事故加害者に対して相応の処罰ができない」との社会的気運が高まり、平成19年、業務上過失致傷罪よりも刑罰を重くした”危険運転致死傷罪”が刑法に規定されました。
しかし、せっかく規定した危険運転致死傷罪であっても処罰できない、以下の交通事故が発生したのです。

◇無免許で事故を起こしても危険運転致死傷罪が適用できなかった事例(亀岡市登校中児童ら交通事故死事件)
◇運転に支障が生じる危険性のある持病(てんかん)を抱えていた”てんかん患者”が、クレーン車を運転中にてんかんの発作が原因で事故を起こしたが、危険運転致死傷罪が適用できなかった事例(鹿沼市クレーン車暴走事件)

そのため、「悪質な交通事故に刑法の規定が対応できていない」との多くの声が上がり、新たに、刑法の規定から独立させた“自動車運転死傷行為処罰法”が制定されました。その結果、平成26年5月20日以降の悪質な交通事故に関しては、この法律によって厳しく処罰されることになりました。

交通事故の刑罰

ケース 刑罰
過失運転致傷罪
(不注意による)
死亡事故 7年以下の懲役もしくは禁錮
または100万円以下の罰金
負傷事故
危険運転致傷罪
(危険運転による)
死亡事故 1年以上20年以下の懲役
負傷事故 15年以下の懲役
危険運転致傷罪
(準危険運転による)
死亡事故 15年以下の懲役
負傷事故 12年以下の懲役

一般的に、交通事故の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。

  • 交通事故による被害結果(ケガの程度)の大小
  • 過失の悪質さの程度
  • 飲酒運転、ひき逃げおよび赤信号無視などの有無
  • 交通法規順守の態度の程度
  • 示談ないし被害弁償の有無やその金額
  • 反省状況
  • 前科の有無

など

交通事故に関する量刑相場について、これまでの泉総合での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。

通常の過失による人身事故のケースでは、被害者のケガが重傷でなく、示談が成立していれば、略式手続による罰金刑、もしくは不起訴処分で終わるケースが多いです。

しかし、通常の過失による事故でも被害者のケガの程度が重大である場合や、被害者が死亡しているような場合、そして、重大な結果を伴う飲酒運転やひき逃げ、赤信号無視などのなど悪質な(危険運転致死傷にあたる)交通事故については、近年、厳罰化の傾向にあります。

そのため、たとえ初犯であっても公判請求されて刑事裁判となり、実刑判決が下される可能性が高いです。

交通事故における、人身事故・死亡事故の弁護方針

◇罪を認めている場合

(1)示談成立を目指す

被害者や遺族と示談交渉を行い、示談金など誠意を見せることで、とにかく早期の示談成立を目指します。と言うのも、被疑者を起訴するかどうか判断するにあたり、検察官は示談の成否をとても重要視するからです。
不起訴処分を勝ち取るには、示談成立をアピールすることが最も効果的です。

なお、交通事故における示談には民事上と、刑事上の2種類があります。

まず民事上の示談の多くは、加入している自動車保険会社が代行して行います。その場合の示談金とは治療費、通院交通費、休業損害などに対するものです。

ただ、民間の保険には加入しておらず、自賠責保険のみの加入だった場合、支払われる保険金の額に限度があります。つまり、損害の全額が必ずしも弁償されるとは限らないのです。したがって、もし、自賠責保険で補てんされない部分が生じた場合には、その部分の補てんを被疑者ご自身が慰謝料や示談金として支払う必要があります。

一方、刑事上の示談においては、保険会社とは別に、被疑者ご自身が被害者や遺族に対する謝罪金・見舞金などの意味合いで金銭を支払い、被害者や遺族から許してもらう意味合いがあります。

よく、「交通事故の示談交渉は加入している保険会社の担当者に任せているから問題ない」と思われがちですが、これは大きな誤りです。
と言うのも、保険会社は、刑事上の示談をほとんど考慮せず、民事上の示談対応しか行ってくれないからです。

したがって、「刑事裁判になる可能性が高いが、なんとか罰金刑だけで済ませたい」「不起訴処分にして欲しい」といったご要望があれば、保険会社に任せるのではなく弁護士に任せるべきです。

なお、万が一、起訴後であっても、裁判官が示談成立を考慮して、執行猶予付き判決を下す可能性もあるため、やはり示談成立の可否は重要です。

(2)反省文・謝罪文を書く

交通事故によって、相手をケガさせてしまった、もしくは死亡させてしまったという事の重大さを被疑者の方に理解してもらい、深く反省してもらいます。そして、被害者が許してくれるかどうか、という点はとても重要ですので、被害者に対して十分に謝罪します。

また、被疑者の方に謝罪文や反省文を作成してもらい、被害者、そして検察官や裁判官にその書面を提出して、きちんと反省している姿勢をアピールしていきます。

(3)過失がないことを証明する

交通事故は加害者に過失(不注意)がないと処罰されません。たとえば、相手が急に道路に飛び出してきたため急ブレーキをかけたとしても、接触事故を回避できなかった場合などは、運転者の過失(不注意)が認められず、処罰されません。

したがって、交通事故当時、被疑者の方には過失(不注意)がなかったという点、および回避しようとしても回避できない事故だったという点を具体的に証明していくことで、不起訴処分を目指します。起訴されなければ、前科もつきません。

具体的な活動内容としては、事故が発生した時間帯と同じ時間帯に事故現場に向かい、事故が起こった当時の状況(道路の見通しなど事故の予見具合、交通量、証明具合)を調査します。そうすることで、事故状況を事細かく把握して、被疑者の方に過失がなかったことを主張していきます。

(4)早期釈放を目指します

在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。

・勾留請求をしないでもらえるよう、検察官に対して要求する。

(それでも勾留請求されてしまった場合には)
・勾留決定しないよう、裁判官に要求する。

(それでも勾留決定が下されてしまった場合には)
・勾留決定を取り消してもらうよう、裁判官に対して要求する。
いわゆる、“準抗告”を行う。

泉総合ではこれまでに、交通事故(人身・死亡事故)における多くの勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、どうぞご安心ください。