公然わいせつ

公然わいせつ罪とは

公然わいせつとは、公園や路上などの不特定又は多数の人がいる、又はいる可能性のある公然の場所で、自己の性器を露出したり、見せたりするなどのわいせつな行為をすることです(刑法174条)。

「公然」とは、不特定又は多数人が認識しうる状態をいいます(最決昭32.5.22刑集11・5・1526)。現に不特定又は多数人に認識されたことは必要ではなく、その可能性があれば足ります。

例えば、不特定又は多数の人が通行する可能性のある場所で、わいせつな行為に及んだ場合、たとえ現実にはその際通行人が全くなかったとしても、目撃される可能性があれば、「公然」といえます。

ここにいう「わいせつな行為」とは、行為者自身又は他の者の性欲を刺激・興奮させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものと解されています。

例えば、性器の露出、全裸のストリップショー、密室内において観客の面前で行う性交又はその類似行為の実演などがこれに該当します。

また、このような行為のために場所を提供する行為は、公然わいせつ罪の従犯となります。

なお、わいせつな画像などを頒布する、又は公然と陳列した場合には、わいせつ物頒布等罪が成立します(刑法175条)。例えば、インターネット上で裸や性器を露出させた画像・動画を配信する行為などがこれに該当します。

これらの行為が“公然わいせつ”にあたる可能性があります

  • 公園などの公然の場で全裸になった
  • カップル喫茶やハプニングバーなど、人前で性交を行った
  • インターネット上で、自身の性器を露出した動画を閲覧できる状態にした
  • 酔った勢いで居酒屋の店内で性器を露出させた

公然わいせつ罪の刑罰と量刑

公然わいせつ罪 6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金、又は拘留(1日~30日未満)若しくは科料(1000円~1万円未満)
わいせつ物頒布等罪 2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料、又は懲役及び罰金の併科

一般的に、公然わいせつ罪の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。

  • わいせつ行為の態様(悪質性、計画性など)
  • わいせつ行為の動機
  • 常習性の有無

公然わいせつ罪に関する量刑相場について、これまでの泉総合法律事務所での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。

まず、初犯であれば不起訴となる可能性は十分あります。ただし、繰り返し行うなど、犯行内容が悪質な場合は、罰金や拘留、科料に処せられることもあります。

なお、平成29年版犯罪白書によれば、平成28年の公然わいせつ罪の不起訴率は42.7%、起訴率は57.3%、起訴猶予率は36.3%となっています。また、検察統計によれば、起訴の場合、80%近くが略式命令請求(罰金又は科料)となっています。

このような不起訴率、そして略式命令請求が多い実情からしますと、公然わいせつ罪の弁護においては、実質的な被害者(性器の露出行為を見せられた者、公然わいせつ行為が行われたマンション等の管理者等)と示談を成立させることがポイントになってきます。

尚、不起訴率等の計算方法については、「刑事事件の不起訴率は高い?早めの弁護士相談で前科を防ぐ」をご参照ください。

公然わいせつの弁護方針

公然わいせつ罪で逮捕される場合の多くは、その場での現行犯逮捕です。

しかし、露出狂のような、同じ場で何度も公然わいせつ罪を繰り返しているケースでは、目撃情報が相次いで捜査機関に寄せられた結果、後日逮捕となることもあります。

公然わいせつ罪で検挙されてしまった方、起訴されてしまった方に対し、当事務所の弁護士は以下のような刑事弁護活動を行うことができます。

◇罪を認めている場合

①反省文・謝罪文を提出する

被疑者の方には、公然わいせつ罪を犯してしまったという事の重大さを理解してもらい、深く反省してもらいます。それから、「十分反省しています」という姿勢を強くアピールするためにも、被疑者の方に反省文を作成してもらい、検察官や裁判官にその書面を提出します。

また、事案によっては、被害者に対する謝罪文も被疑者の方に作成してもらい、猛省している姿勢を理解していただき、示談交渉を受け入れてもらえるよう活動しております。

②専門家の診断を受ける

露出癖がある、いわゆる“露出狂”と呼ばれる被疑者の方には、性犯罪再犯防止クリニックや心療内科への通院治療をおすすめします。そこで入手した診断書やカルテを検察官や裁判官に提出することで、不起訴処分や執行猶予付き判決を目指します。

もっとも、これだけで不起訴や執行猶予となることはありません。事案によっては、上記のように、実質的な被害者と示談を成立させることが重要となってきます。

③家族による今後の監督をアピール

「今後、二度と同様の行為を起こさないよう、被疑者をきちんと監督していきます」といった誓約書を被疑者の家族が作成して、検察官や裁判官に提出します。

④示談成立を目指す

公然わいせつ罪は、社会の健全な性的風俗を保護法益としており、ある特定の個人が被害者となるケースはそれほど多くありません。

しかし、人通りのない路上で特定の女性だけに性器を露出させる等、実質的に特定の被害者が想定できるような場合や、公然わいせつ行為が行われたマンション等の管理者等については、刑事弁護の依頼を受けた弁護士がその実質的な被害者との示談を成立させることで、不起訴処分あるいは略式命令請求(事案によっては執行猶予付き判決)となる可能性が高まります。

⑤早期釈放を目指します

在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。

  • 勾留請求をしないで釈放してもらえるよう、家族の身元引受書や意見書を提出して、検察官に働きかける。
  • 勾留決定をしないよう(釈放してもらうよう)、意見書などを提出して、裁判官に働きかける。
  • それでも勾留決定が下されてしまった場合、勾留決定を取り消してもらう手続である準抗告を申し立てる(準抗告審は3名の裁判官で構成され、別の裁判官が下した勾留決定について勾留の要件があるかどうかを審査します。勾留の要件がないと判断すれば、勾留決定を取り消して釈放します)

泉総合法律事務所では、これまでに、公然わいせつ事件における多くの勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、安心してご依頼ください。

◇無罪を主張する場合

冤罪を主張する場合の弁護士による弁護方針で最も重要なことは、自白調書を取らせないことです。弁護士は、被疑者が取調べを受けるに当たって、適切なアドバイスをします。

また、被害者や目撃者の供述調書の内容について、客観的な事実との矛盾点がないかを細かく検討します。

例えば、電車内での露出行為であれば、視認が可能か否か(明るさ、視力等)、観察の正確性(注意を払っていたか否か等)、相互の関係性(知り合いか否か等)、被害者や目撃者が供述(証言)するに至った経緯・理由(信頼性のある第三者か否か等)、供述内容の具体性・合理性の有無(一貫性があるか、変遷・矛盾がないか、他の証拠による裏付けがあるか等)、被害者・目撃者の年齢・職業(誘導等による影響を受けやすい性格か否か、知的能力等)などについて、慎重に検討します。

そして、最も重要なことは、被疑者の言い分に耳を傾けることです。例えば、“公然わいせつの故意”を否定している場合には、公然とわいせつな行為をしているという認識があったか否かについて、行為者の言い分に基づき、無実を裏付ける証拠を提出するように努めます。

まとめ

刑事事件は、誰でも起こし得るものです。

泉総合法律事務所は、公然わいせつ罪を始めとした刑事弁護の弁護経験につきまして大変豊富です。勾留阻止・釈放・不起訴獲得の実績も豊富にあります。

公然わいせつ罪で逮捕されたという方、公然わいせつ罪で検挙され在宅事件となったという方、親族等が公然わいせつ罪で逮捕されてしまったという方は、お早めに泉総合法律事務所の無料相談をご利用ください。

近年話題となった裁判例

⑴最高裁平成30年5月10日判決

【公訴事実の要旨】
被告人は、正当な理由がないのに、平成27年2月22日午後9時41分頃、堺市内の他人が看守するマンションに、1階オートロック式の出入口から住人に追従して侵入し、その頃、1階通路において、不特定多数の者が容易に認識し得る状態で、自己の性器を露出して手淫し、引き続き、2階通路において、同様の状態で、公然わいせつな行為をした。

【1審判決】
被告人は、犯人との同一性を争いましたが、1審判決は、本件の現場で採取された精液様の遺留物(以下「本件資料」)について実施された大学教授の医師によるDNA型鑑定(以下「本件鑑定」)を踏まえ、「本件資料は、犯人が犯行の際に遺留した精液であり、そのDNA型は被告人に由来するものであって、被告人の精液であることが認められる。また、被告人が犯人として射精する以外に被告人の精液が現場に遺留されるような理由は見当たらない」として、被告人を犯人と認め、公訴事実どおりの犯罪事実を認定し、被告人を懲役1年に処しました。

【原判決】
1審判決に対し、被告人は事実誤認を理由に控訴しました。原判決は、「本件資料が混合資料である疑いを払拭することができず、本件鑑定の信用性には疑問があり、被告人と犯人との同一性については合理的疑いが残る」として、事実誤認を理由に1審判決を破棄し、被告人に対し無罪を言い渡しました。

【最高裁判決】
原判決に対し、検察官は判例違反を理由に上告しました。最高裁は、検察官の上告趣意は刑訴法405条の上告理由に当たらないとした上、職権により、「犯行現場で採取された精液様の遺留物について実施されたいわゆるSTR型によるDNA型鑑定について、15座位のSTR型の検出状況を分析した結果等に基づいて、遺留物が1人分のDNAに由来し、被告人のDNA型と一致するとした鑑定の信用性を否定し、被告人を無罪とした原判決は、同鑑定が遺留物を1人分のDNAに由来するとした理由の重要な点を見落とした上、科学的根拠を欠いた推測によって、鑑定の信用性の判断を誤り、重大な事実の誤認をした」として、原判決を破棄し、1審判決の事実誤認を主張する被告人の控訴は理由がないことに帰するから、控訴を棄却するとしました。

⑵東京高裁平成30年7月26日判決(確定)

【事案の概要】
休み中だった千葉県警巡査は、電車内で性器を露出したとして、乗客の男性に取り押さえられましたが、逮捕はされずに、不拘束で取調べを受け、公然わいせつ罪で在宅起訴されました。なお、同巡査は、県警の取調べで「認めないと逮捕する」などと、罪を認める上申書を書かされたと主張していました。

【1審判決】
被告人は、「トイレでチャックを閉め忘れただけ」と訴えましたが、1審判決は、巡査を取り押さえた乗客の「向かいの席に座っていた巡査のチャックが開いていた。近づいて見下ろしたら陰部が見えた」旨の証言などから、公然わいせつの故意が認められるとして、「被告人は、平成28年10月31日昼、JR千葉駅に停車中の電車内で、席に座った状態でジーンズのチャックを開けて陰部を露出し、もって公然わいせつな行為をした」旨認定し、罰金30万円を言い渡しました。

【控訴審判決】
控訴審は、巡査の「トイレでチャックを閉め忘れただけだ」という供述に加え、巡査の下着は開口部が開きやすいタイプであり、「陰部はジーンズ内にあり、角度によって1部が見える程度にすぎなかった」と認定し、隣の女性の注意を引く行動はなく、女性は気付いてもいなかったことなどから、「故意を認める証拠はない」と結論付け、1審判決を破棄し、被告人に対し無罪を言い渡しました。