盗撮

盗撮とは

盗撮とは、「正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」です。

盗撮の典型的な例としては、駅構内のエスカレーターや階段において、前に立っている女性のスカート内部をスマートフォンや特殊な小型カメラで撮影する行為や、女性トイレ内に侵入して個室内にいる女性を無断で撮影する場合などです。

これらの行為が“盗撮”にあたります

  • 電車内で、前に立っている相手のスカートの中にスマートフォンを入れて動画を撮影した
  • 女子更衣室に小型カメラを設置して撮影した
  • 女子トイレ内にこっそり侵入して、個室内にいる相手の様子を撮影した
  • 浴室の窓から、入浴中の相手を撮影した

各都道府県のいわゆる迷惑行為防止条例では、従来から、“公共の場所や公共の乗物”における盗撮を処罰の対象としています。

しかし、近年、スマートフォンの普及や技術の進歩により、高性能で小型のカメラやカメラ機能を搭載した機器が普及し、“公共の場所や公共の乗物”以外の場所における盗撮行為が多発するようになりました。

泉総合法律事務所の対応エリアの場合ですと、東京都神奈川県が“公共の場所や公共の乗物”以外の場所における盗撮を規制対象としています。

盗撮の刑罰

盗撮の刑罰は、撮影する場所によって、都と各県が制定する“迷惑行為防止条例違反”に該当する場合と、“軽犯罪法違反”に該当する場合の2つに分かれます。

駅構内やバス・電車の中など“公共の場所や公共の乗物”における盗撮の場合、都と各県の“迷惑行為防止条例違反”として処罰されます。

一方、“公共の場所や公共の乗物”といえない場所における盗撮の場合は、迷惑行為防止条例違反(東京都と神奈川県の場合)の罪で処罰されますが、「正当な理由なくして人の住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見」した場合は、軽犯罪法違反の「のぞき見(窃視)」の罪でも処罰されます。

具体的な刑罰内容は、次のとおりです。

“公共の場所や公共の乗物”における盗撮
都道府県名 条例名(該当規定) 刑罰(罰則規定)
通常 常習
東京都 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(5条1項2号ロ) 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条2項1号) 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条7項)
千葉県 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(3条2項) 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(13条1項) 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(13条2項)
埼玉県 埼玉県迷惑行為防止条例(2条4項) 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(12条1項) 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(12条2項)
神奈川県 神奈川県迷惑行為防止条例(3条1項2号) 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(15条1項) 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(16条1項)
上記以外の場所における盗撮
罪名(該当規定) 刑罰(罰則規定)
東京都と神奈川県の上記条例違反
(東京都:5条1項2号イロ⇒撮影したとき)
(神奈川県:3条2項)
通常 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(東京都:8条2項1号、神奈川県:15条1項)
常習 2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(東京都:8条7項、神奈川県:16条1項)
東京都の上記条例違反
(5条1項2号⇒撮影機器を差し向け又は設置したとき)
通常 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(8条1項2号)
常習 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条8項)
軽犯罪法違反(1条23号) 拘留(1日~30日未満)又は科料(1000円~1万円未満)(1条)

“公共の場所や公共の乗物”以外の場所における盗撮の場合、従来、神奈川県が他よりも厳しく規制していましたが、東京都が、上記条例の改正(平成30年7月1日施行)により、改正前の規制場所である「公共の場所・公共の乗物、公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室、公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」に加え、これらの場所以外の「住居、便所、浴場、更衣室」、「不特定又は多数の人が、入れ替わり立ち替わり利用する場所・乗物」などが新たな規制対象場所となり、盗撮行為の「規制場所」を拡大しました。

また、盗撮行為をするために住居やビル内に立ち入った場合には、別途、住居侵入罪や建造物侵入罪が成立する可能性があります。

盗撮の量刑

一般的に、盗撮行為の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。

  • 盗撮結果の程度(重大か軽微か)
  • 示談の有無
  • 示談金額
  • 被害弁償の有無
  • 被害弁償額
  • 盗撮行為の態様(悪質性、計画性など)
  • 盗撮行為の動機

盗撮行為に関する量刑相場について、これまでの泉総合法律事務所での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。

まず、初犯の場合、示談が成立すれば、不起訴処分となり通常前科は付きません。また、示談が成立しない場合でも、前科がなければ通常罰金刑となります。

ただし、同種の前科が他にも多数あったり、悪質な内容だったりした場合は、公判請求(刑事裁判)される可能性もあります。

なお、捜査機関に押収されたスマートフォンなどに別の盗撮画像(=余罪)が残っているというケースが多々あります。余罪があっても、被害届が出ていなければ被害者がどこの誰かが分からないのが通常ですので、立件されないのが通常です。

検挙された盗撮事件の被害者と示談が成立すれば、通常不起訴となります。

盗撮の弁護方針

(1) まずは被害者との示談成立を目指す

盗撮事件の場合、被害者との示談が成立すれば、初犯の場合ですと、不起訴処分となり前科が付きません。

これは、検察官が起訴するかどうかを検討する際、示談の成否を重要な判断材料の一つとみなしているからです。

そういった意味で、示談成立の成否はとても重要です。

しかし、被疑者(加害者)に対して強い嫌悪感を抱いている被害者にとって、被疑者と直接顔を合わせる示談交渉に応じてくれることはまずあり得ません。

また、そもそも、盗撮の被疑者(加害者)が被害者の連絡先を知っていることは通常あり得ませんから、被疑者が被害者と示談交渉すること自体不可能といえます。

そこで、弁護士が検察官を通じて、被疑者(加害者)の反省態度や謝罪の意向を被害者に伝えることで、被害者が「弁護士にだけなら」という条件付きで連絡先を開示してくれることが通常です(もっとも、稀に連絡先を教えていただけないこともあります)。

泉総合法律事務所の弁護士は、連絡先を検察官から開示してもらい、被害者に対して誠意をもって接し、粘り強く示談交渉をしていきます。

盗撮の被害者と示談が成立すれば、初犯であれば不起訴となります。過去に盗撮で罰金刑を1回受けている被疑者でも、示談が成立すれば通常不起訴となると思われますが、それ以上に盗撮の前科があると、示談が成立しても罰金刑の可能性が高いと思われます。

(2) 反省文・謝罪文を提出する

示談交渉に当たっては、弁護士が盗撮の被疑者の代わりに謝罪するだけでなく、被疑者に書いてもらった謝罪文を被害者に渡して、被疑者の反省の心情などを理解してもらうように努めます。

仮に示談していただけない場合には、検察官に対して、その謝罪文を弁護士の不起訴を求める意見書とともに提出します。

(3) 専門家の診断、カウンセリングを受ける

泉総合法律事務所は盗撮の刑事弁護に多数取り組んでおりますが、初めて盗撮して検挙される方はまずいません。盗撮の被疑者は例外なくそれまで何度も盗撮を繰り返して検挙されています。

盗撮で過去検挙されて罰金刑を受けた方も、やめられず盗撮を繰り返して検挙される方も、かなりいらっしゃいます。盗撮もその意味で性依存症と言っていいでしょう。

性依存症の場合には、性依存症専門のクリニックや心療内科で性依存症に取り組んでいる医院で、定期的に治療を受けることを強くお勧めします。

(4) 早期釈放を目指す

盗撮は、通常被害者か近くにいた目撃者に駅員室や交番などに連行され、それからパトカーなどで警察署に行き、取調べを受けて、当日解放されるのが通常です。

しかし、盗撮用の特殊カメラを使用した盗撮の場合、特定女性をストーカー的に盗撮している場合、特定の駅で繰り返し盗撮をしていて鉄道警察隊警察官にマークされている場合などは、そのまま逮捕されることが多いといえます(通常の盗撮の場合でも、犯行態様によっては稀にですが逮捕されることがあります)。

このように被疑者が逮捕されて身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。

  • 勾留請求をしないで釈放してもらえるよう、家族の身元引受書や意見書を提出して、検察官に働きかけます。
    盗撮の場合には、性犯罪としては軽微な部類のため、検察官が勾留請求せずに釈放となることが多くあります。
  • それでも勾留請求されてしまった場合には、勾留決定をしないよう、家族の身元引受書・上申書・弁護士の意見書を提出して、裁判官に働きかけます。
    (悪質な盗撮については、検察官も勾留請求することがあります。)
  • それでも勾留決定が下されてしまった場合には、勾留決定を取り消してもらう手続である準抗告を申し立てます。
    (準抗告審は3名の裁判官で構成され、別の裁判官が下した勾留決定について勾留の要件があるかどうかを審査します。要件がないと判断されれば、勾留決定が取り消され釈放されます。)

泉総合法律事務所は、これまで盗撮事件における多くの勾留阻止、身柄解放の実績があります。
盗撮事件で検挙されてしまった方、ご家族が逮捕されてしまったという方は、お早めにご相談・ご依頼ください