横領、背任
横領罪・背任罪とは
横領罪とは?
横領罪とは、自己の占有する他人の物、または公務所から保管を命ぜられた自己の物を不法に領得したときに成立する罪のことです。(刑法252条1項)
簡単に言えば、他人から委託を受けて預かっているものを、自分の利益のために処分してしまったときに成立します。
典型的な例として、人から預かったブランド物のバッグを勝手に売却した場合などです。
横領罪は、次の3種類に分けられます。
(1)単純横領罪 :自分が預かっていた他人の物を処分(横領)した場合に成立
(例):預かっていた品物を売却してしまった
(2)業務上横領罪:業務上、自分が預かっていた他人の物を処分(横領)した場合に成立
(例):会社から管理保管を任されていた金銭を使い込んでしまった
(3)遺失物横領罪:占有を離れた他人の物を処分(横領)した場合に成立
(例):路上に落ちていた財布を持ち逃げした
背任罪とは?
背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人の財産を侵害する罪のことです。(刑法247条)
簡単に言えば、他人から事務を任されている者が、自分や第三者の利益を図るために、任されていた任務に背いて、事務を任してくれた人に対して損害を与えた場合に成立します。
典型的な例としては、会社員が会社の機密情報をライバル会社に漏らした場合などです。
横領罪と背任罪の違いは?
両方とも、他人から委託信任を受けた者が、その委託に反し、委託信任してくれた相手に対して損害を与えるという点で共通しています。
しかし、横領罪は、他人の財物を勝手に処分する行為であり、一方、背任罪は、任された職務・任務に背いて他人に損害を与える行為であり、微妙な違いではありますが、相手に損害を与える“方法”が異なります。
なお判例は、横領罪が成立するかどうかをまず検討し、横領罪が成立するならば背任罪は成立しないと判示しています。
これらの行為が“横領罪・背任罪”にあたります
「横領」
- 友人から借りていた車を、勝手に売却した
- 人から預かった預金通帳とカードを使って、無断で金銭を引き出して使い込んだ
- 預かっている金銭を着服した
「背任」
- 会社が決めた値段よりも、かなり安い金額で友人に商品を売った
- 会社の極秘情報をライバル会社に意図的に漏洩させた
横領罪・背任罪の刑罰
横領罪の場合
単純横領罪(刑法252条) | 5年以下の懲役 |
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業務上横領罪(刑法253条) | 10年以下の懲役 |
遺失物等横領罪(刑法254条) | 1年以下の懲役 または10万円以下の罰金もしくは科料 |
単純横領罪と業務上横領罪に関しては、法定刑に罰金刑がないため、もし起訴されれば、公判請求され刑事裁判になります。
一方、遺失物横領罪は、法定刑に罰金刑も想定されているため、もし起訴されたとしても略式手続による罰金で終わる可能性もあります。実際のところ、遺失物横領罪の場合、罰金刑で処罰されることが多いです。
背任罪の場合
5年以下の懲役または50万円以下の罰金
一般的に、横領罪・背任罪の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。
- 横領/背任行為による被害金額の大小
- 被疑者が就いていた立場、地位
- 横領/背任行為の内容(入念な計画に基づくものかなど)
- 頻度
- 横領/背任行為を遂行するための手段の悪質性
- 余罪の有無
- 示談ないし被害弁償の有無やその金額
- 反省状況
- 横領/背任行為の目的・動機
- 前科の有無
など
横領罪・背任罪に関する量刑相場について、これまでの泉総合での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。
横領罪の量刑相場
まず、横領罪の法定刑には罰金刑がありません。そのため、たとえ初犯であっても、起訴されるときは略式手続ではなく、公判請求されて刑事裁判になります。
初犯の場合であれば、執行猶予付き判決が下されるケースが多いです。ただ、横領被害が巨額であれば、執行猶予はつかず実刑が言い渡される可能性も十分あります。
背任罪の量刑相場
背任罪の場合、法定刑に罰金刑があるため、いきなり公判請求されて刑事裁判になることはありません。実際に、初犯で被害額も少額であれば、略式手続による罰金で終わる可能性が高いです。
しかし、“同種の前科がある・被害が巨額である”という場合は、刑事裁判となり執行猶予なしの実刑判決が下される可能性も十分あります。
横領罪・背任罪の時効
横領罪・背任罪、いずれにおいても、犯罪行為が終わった時点から数えて、5年経過すると時効が成立します。
ただし、起算点、つまりどの時点から時効が進行するのかという点は、色々と複雑なケースもあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
横領罪・背任罪の弁護方針
◇罪を認めている場合
(1)警察沙汰になる前に、話し合いをする
警察が介入する前に、弁護士が弁護人として被害者側と話し合います。もし、この話し合いで解決できれば、前科がつくことはもちろん、逮捕される心配もありません。まずは、これが一番効果的な対応策です。
横領・背任事件は、会社などの組織内で発生することが多く、会社としては「警察沙汰にして、事を大きくしたくない」と考える場合も多いため、まずは話し合いでの解決を目指します。
実際、「会社から『このままでは警察に通報するしかない』と言われ困っている」といった、まだ警察が介入する前の段階で、泉総合へご相談いただくことも多いです。
ですので、まだこの段階にとどまっている状態なら、とにかく十分な被害弁償を行うことで示談を成立させて、警察沙汰にならないよう対処することが重要です。
(2)示談成立を目指す
もし、被害届提出や告訴がなされ、警察が介入してきた段階であれば、不起訴処分を勝ち取るための示談成立を目指して、被害者との交渉に全力を尽くします。
と言うのも、被疑者を起訴するかどうか判断するにあたり、検察官は示談の成否をとても重要視するからです。不起訴処分を勝ち取るなら、示談成立をアピールすることが最も効果的です。なお、横領・背任事件において示談を成立させるためには、被害弁償額、つまり示談金額がとても重要になります。
ただ、示談交渉の際、お互い冷静な話し合いができず、さらなるトラブルに発展してしまう可能性もあります。また、被害弁償額があまりにも高額であれば、分割払いの交渉も必要になるので、スムーズに交渉を進めるためにも、示談交渉の経験豊富な弁護士に任せるべきでしょう。
(3)反省文・謝罪文を書く
横領・背任行為に及んでしまったという事の重大さを被疑者の方に理解してもらい、深く反省してもらいます。そして、被害者が許してくれるかどうか、という点はとても重要ですので、被害者に対して十分に謝罪します。
また、被疑者の方に謝罪文や反省文を作成してもらい、被害者、そして検察官や裁判官にその書面を提出することで、きちんと反省している姿勢をアピールしていきます。
(4)早期釈放を目指します
在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。
・勾留請求をしないでもらえるよう、検察官に対して要求する。
↓
(それでも勾留請求されてしまった場合には)
・勾留決定しないよう、裁判官に要求する。
↓
(それでも勾留決定が下されてしまった場合には)
・勾留決定を取り消してもらうよう、裁判官に対して要求する。
いわゆる、“準抗告”を行う。
泉総合ではこれまでに、横領・背任事件における多くの勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、どうぞご安心ください。
◇否認している場合(無罪主張)
(1)成立要件を検証する
横領罪・背任罪に限った話ではありませんが、罪を成立させるには、いくつかの要件が必要となります。したがって、それらの成立要件がきちんと揃っているかをじっくり検証します。
もし、成立要件を満たさないとの判断に至れば、その点を検察官や裁判官に強く主張して、不起訴や無罪を勝ち取ります。
(2)被害者側の主張を検証する
被害者側の主張に不可解な点がないか、きちんと検証します。もし、不可解な点があれば、その点を検察官や裁判官へ強く主張することで、無罪を証明していきます。