器物損壊
器物損壊罪とは
器物損壊罪は、他人の物を損壊させたとき、または傷害させたときに成立する犯罪です。(刑法261条)
◇「損壊させた」の意味合い
単純に何かを壊すという物理的な行為だけでなく、書籍に尿をかけたり、衣服に精液をかけたり、といったその物の価値を著しく損なわせる行為についても該当するとされます。過去、食器に放尿した行為について、食器の効用を喪失させるものだとみなし、器物損壊罪の成立を認めた判例があります。
◇「傷害させた」の意味合い
相手のペットに対する殺傷行為など典型例です。しかし、この場合、殺傷行為だけにとどまらず、池から魚を逃がす、飼っていた鳥を隠す、といった“動物を逃がす・隠匿する”といった行為も器物損壊罪に当たる可能性があります。
なお、器物損壊罪は告訴がないと検察官が起訴できないとされる親告罪に分類されます。
これらの行為が“器物損壊”にあたります
◇相手が大切にしていた壺を故意に割った
◇相手の車の窓ガラスを金属バットで割った
◇相手が飼っていた犬を殺した
◇相手の食器にわざと放尿した
未遂に終わった場合でも、器物損壊罪は成立するのか?
このような場合、器物損壊罪は成立しません。なぜなら、器物損壊罪には未遂犯を処罰する規定がないからです。したがって、実際に物が壊れたなどの結果が発生していないかぎり、器物損壊罪は成立しません。
故意ではなく過失で損壊した場合、器物損壊罪は成立するのか?
このような場合、器物損壊罪は成立しません。なぜなら、器物損壊罪には過失犯を処罰する規定がないからです。つまり、わざと他人の物を壊そうとする“故意”が必要なのです。
したがって、“ついうっかり壊してしまった”という場合、器物損壊罪が成立することはありません。
器物損壊罪の刑罰
3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料(刑法261条)
一般的に、器物損害罪の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。
- 損壊結果の程度(重大か軽微か)
- 示談の有無
- 示談金額
- 被害弁償の有無
- 被害弁償額
- 損壊行為の態様(悪質性、計画性など)
- 損壊行為の動機
- 被害者側の事情(被害者側が原因で損壊結果が生じたかどうか)
器物損害罪に関する量刑相場について、これまでの泉総合での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。
まず、被害の程度が軽ければ、微罪処分で不起訴で済む可能性があります。
微罪処分で済まなかったとしても、初犯であれば、公判請求(刑事裁判)になることなく、略式手続での罰金になるケースが多いです。同種の前科が多数あるような場合には、公判請求されて検察官から懲役を求刑されますが、その場合であっても、よほど行為内容が悪質でなければ、まず執行猶予となるでしょう。
ただし、同じ被害者に対して執拗に繰り返していた場合には、その点を重視され厳しく判断されます。また、この類型の事件には、隣近所とのトラブルが事件の発端となっているケースもあります。そのような場合、仮に示談をせずに不起訴で済んだ場合でも、問題の根本は解決してはいないことになり、再度同じようなトラブルに見舞われる危険がなくなりません。安易に考えず、弁護士を介して示談交渉して、問題の根を断つべきです。
器物損壊罪の時効
犯罪行為が終わった時点から数えて、3年経過すると時効が成立します。
ただし、起算点、つまりどの時点から時効が進行するのかという点は、色々と複雑なケースもあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
器物損壊罪の弁護方針
(1)被害者との示談成立を目指す
器物損壊罪は、告訴がないと起訴できない “親告罪”にあたります。そのため、まずは被害者との示談交渉を行い、告訴を取り消してもらえるよう粘り強く説得します。その結果、告訴を取り消してもらうことができれば、起訴されません。
なお、器物損壊の示談交渉においては、壊してしまった物の被害弁償を行うことがとても大切になります。
ただ、当事者同士ですとお互いに感情的になってしまい、冷静な話し合いが行えない可能性もあるため、示談交渉は経験豊富な弁護士に任せた方が良いでしょう。
(2)反省文・謝罪文を書く
損壊行為に及んでしまったという事の重大さを被疑者の方に理解してもらい、深く反省してもらいます。そして、被害者が許してくれるかどうか、という点はとても重要ですので、被害者に対して十分に謝罪します。
また、被疑者の方に謝罪文や反省文を作成してもらい、被害者、そして検察官や裁判官にその書面を提出して、反省している姿勢をアピールしていきます。
(3)早期釈放を目指します
器物損壊罪の場合、身体拘束を受けることは多くはないでしょう。もし仮に在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束された場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。
・勾留請求をしないよう検察官に対して要求する。逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れがないことを家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書を提出して検察官に働きかけることで釈放されることが少なからずあります。
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(それでも勾留請求されてしまった場合には)
・勾留決定しないよう、裁判官に要求する。検察官が裁判官に勾留請求した場合には、勾留の必要性がないことだけでなく勾留のもたらす被疑者や家族の不利益の重大性を伝えるために、家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書を裁判官に提出して働きかけます。検察官よりも裁判官の方が釈放に前向きなことが多く、否認事件や重大事件以外であれば、釈放が実現することが多いといえます。
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(それでも勾留決定が下されてしまった場合には)
・勾留決定を取り消してもらうよう、裁判官に対して要求する。いわゆる、“準抗告”を行う。別の裁判官が勾留決定した場合に、重大事件や否認事件でなければ3名の裁判官からなる裁判所に勾留決定の取り消しを求める裁判を提起します。ハードルはかなり高いのですが、かなり前の最高裁判決により以前よりは準抗告が認められるようになりました。当所泉総合法律事務所では4週間連続して4件準抗告が認められて釈放を実現していますので、最後まであきらめないことが肝心だと思います。
泉総合法律事務所ではこれまでに、器物損壊事件における勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、どうぞ、ご安心ください。