傷害・傷害致死
傷害とは
傷害罪とは、人の身体を傷害した場合に成立するものです(刑法204条)
典型例としては、暴力をふるった結果、相手にケガを負わせた場合です。しかし、暴力の行使だけでなく、たとえば深夜に嫌がらせ電話をかけ続けて相手をうつ病にさせた場合や、性交によって性病をうつしたという場合においても、傷害罪が成立します。
なお、傷害罪は、加害者に暴行する意図があれば成立するとされており、相手にケガを負わせる意図までは成立要件とされていません。
その他、傷害罪に関連した犯罪は、次のとおりです。
- ◇暴行罪:暴行を行ったものの、相手がケガを負わなかった場合に成立します。
- ◇傷害致死罪:ケガをした相手が、最終的に死亡してしまった場合に成立します。司法試験にある例として、相手を押して相手が倒れて頭を打って死亡したというものがありますが、これも傷害致死罪になります。
- ◇殺人罪:相手が死亡した場合に成立します。ただし、殺意があった場合のみ成立するものであり、殺すつもりはなかったが結果的に死亡した場合には、傷害致死罪が成立します。殺意ですが、もしかしたら相手が死ぬかもしれないという認識も殺意になります。
- ◇殺人未遂罪:殺意をもって相手にケガを負わせたが、死亡には至らなかった場合に成立します。傷害罪とかなり類似しますが、“殺意”という故意があったかどうかが異なる点です。殺意の認定ですが、検察官や裁判官は人の心、心理まで読み取ることはできませんから、客観的な事情から殺意があったかどうか判断します。たとえば刃物で刺して殺した場合には、刃物の大きさ、殺傷能力、刺した部位、動機(双方にあったトラブルが殺害をするようなものかどうか)などを総合考慮して殺意を判定します。
- ◇傷害現場助勢罪:自らは暴行しなかったとしても、現場に居合わせ、「もっと殴れ!」といったヤジを飛ばして暴行の行為者をあおりたてた場合に成立します。
- ◇過失傷害罪:故意ではなく、あくまでも過失によって相手にケガを負わせてしまった場合に成立します。
これらの行為が“傷害”にあたります
- ◇相手を殴って、全治1ヶ月のケガを負わせた
- ◇相手を木刀で殴りつけ、骨折させた
- ◇自身が性病患者であることを認識したうえで性交におよび、相手に性病をうつしてしまった
- ◇嫌がらせ目的で、いたずら電話や怪文書を送り付け、相手がうつ病になった など
傷害罪の刑罰
15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法204条)
一般的に、傷害罪の量刑を行う場合、次の項目を基準として総合的に判断します。
- 傷害結果の程度(重大か軽微か、治療に必要な期間の長さ、後遺症の有無)
- 示談の有無
- 示談金額
- 被害弁償の有無
- 被害弁償額
- 傷害行為の態様(悪質性、計画性、凶器使用の有無など)
- 傷害行為の動機
- 被害者側の事情(けんかなど被害者側にも責任があるか)
傷害罪に関する量刑相場について、これまでの泉総合法律事務所での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。
まず、弁護士に刑事弁護を依頼しなかった場合ですが、相手のケガの程度が軽度で、かつ初犯であれば、略式手続により罰金刑で終わるケースが多いです。
暴行や傷害といった同種の前科がある場合には、何度も繰り返しており罰金にしても刑罰としての効果がないと判断され、公判請求されて刑事裁判になることもあります。この場合、公判請求されるのが初めてであれば、多くは執行猶予付き判決が下されます。ただし、重症の場合などや同種の前科が多数ある場合には、実刑となる可能性もありえます。
なお、傷害行為が前刑の執行猶予中に行われた場合には、特別の事情は通常ないでしょうから、実刑判決となり、前刑の執行猶予も取り消しとなります。また、実刑で服役後5年以内に傷害行為など犯罪を行えば、起訴されれば執行猶予はつかず実刑判決になります。
弁護活動として重要なのは、してしまったのが事実であれば、示談交渉です。一般的なケンカ程度で生じるけがにとどまっている場合には、弁護士が被害者から示談を取り付けていれば不起訴になるといっていいでしょう。また、同種前科が多い、傷害結果が重大など、示談ができていなければ公判請求されるような場合でも、弁護士が被害者と示談を成立させることで不起訴か、略式起訴の罰金刑にとどまることが多いといえます。
その他、傷害罪に関連した犯罪の刑罰は、次のとおりです。
- ◇暴行罪:2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
- ◇傷害致死罪: 3年以上の有期懲役
- ◇殺人罪:死刑または無期もしくは5年以上の懲役
- ◇殺人未遂罪:上記、殺人罪と同じ
- ◇傷害現場助勢罪:1年以下の懲役、または10万円以下の罰金若しくは科料
- ◇過失傷害罪:30万円以下の罰金または科料
暴行罪と傷害罪、その2つの違いはどこか?
これら2つの違いは、“相手にケガを負わせたか否か”という点です。
まず暴行罪とは、暴行したものの、相手をケガさせるに至らなかった場合に成立します。
一方、傷害罪とは、暴行したかどうかは問わず、相手にケガを負わせた場合に成立します。
したがって、暴行を加えた結果、相手がケガを負わなかった場合には暴行罪にとどまり、ケガを負ってしまった場合には、暴行罪に止まらず傷害罪になる、とご理解いただくと良いでしょう。
ちなみに2つの刑罰の内容ですが、暴行罪は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と定められているのに対し、傷害罪は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と暴行罪よりも重く定められているため、どちらの罪に問われるかは非常に大きな違いになります。
傷害罪の時効
犯罪行為が終わった時点から数えて、10年経過すると時効が成立します。
ただし、起算点、つまりどの時点から時効が進行するのかという点は、色々と複雑なケースもあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
傷害罪の弁護方針
◇罪を認めている場合
(1)示談成立を目指す
傷害罪は、被害者からの告訴がなくても起訴することができる非親告罪です。したがって、示談成立後、告訴を取り消してもらえたとしても、理論上は絶対に不起訴になるというわけではありません。実際は傷害結果が重大でなく、前科がなければ弁護士が被害者から示談を取り付ければ、起訴前なら不起訴になり、起訴後であれば執行猶予付判決になるといっていいでしょう。
その意味で、不起訴処分や執行猶予付き判決を下してもらうべく、検察官や裁判官への心証を良くするためには、弁護士に被害者との間で示談を成立させてもらうことが傷害罪の量刑において最も有効な手段です。
したがって、泉総合法律事務所の弁護活動としては、まずは早急に被害者にお会いして被害者対して誠意をもって謝罪を伝えるとともに、適切な示談金を提示して、早期の示談成立を目指します。被害者は被疑者(加害者)に対して、警戒心や憎悪感を抱いていることが多く、なかなか被害者が被疑者(加害者)に連絡先を教えてくれませんので、示談経験豊富な弁護士に依頼されることをおすすめします。
多くの場合、弁護士(弁護人)から、示談のための連絡先照会が検察官にあった場合のみ、検察官は被害者に連絡を取り弁護士(弁護人)に連絡先を教えて良いか打診します。そして、了承を得られた場合のみ、検察官から弁護士(弁護人)に被害者の連絡先が伝えられる仕組みとなっているからです。
また、ケンカなどが傷害の原因だった場合、当事者同士ではお互いに感情的になり、冷静な話し合いが行えない可能性もあります。この点からも弁護士を依頼することをお勧めします。
(2)反省文・謝罪文を書く
傷害行為に及んでしまったという事の重大さを被疑者の方に理解してもらい、深く反省してもらいます。そして、被害者が許してくれるかどうか、という点はとても重要ですので、被害者に対して十分に謝罪します。当所泉総合法律事務所では、被疑者の作成した反省文、謝罪文について被害者の方からどう受け止められるかの見地から助言をすることにしています。
また、被疑者の方に謝罪文や反省文を作成してもらい、被害者、そして検察官や裁判官にその書面を提出して、猛省している姿勢をアピールしていきます。
(3)早期釈放を目指します
在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、次の弁護活動を全力で行います。
・勾留請求をしないよう、家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書を検察官に提出して釈放を働きかける。
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(それでも勾留請求されてしまった場合には)
・勾留決定しないよう、検察官の判断結果を踏まえて弁護士意見書などを裁判官に提出して釈放を働きかける。当所の経験上、検察官が勾留請求した場合でも裁判官が勾留請求を却下し釈放することが結構ありますので、あきらめずに取り組むことが必要です。
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(それでも勾留決定が下されてしまった場合には)
・勾留決定を取り消してもらうよう、裁判官に対して要求する。いわゆる、“準抗告”を行う。準抗告は、3名の裁判官からなる合議体(裁判所)に別の裁判官の決定した勾留決定の取り消しを求める裁判を言います。以前ですと、準抗告はほとんど認容されることがなかったのですが、準抗告に関する最高裁判所判決が出されて以来、少ないですが、認められるようになりました。当所では、勾留決定による被疑者や家族への重大な不利益などを中心として勾留の必要性がないことを主張して準抗告書を作成して提出します。この準抗告が認容されますと、裁判官の勾留決定が取り消されて、検察官の勾留請求は却下となり、被疑者は釈放されます。準抗告を提出しますと原則として当日判断されますが、翌日判断されることもあります。もっとも、重大事件や否認などの場合には準抗告は棄却されることになります。
泉総合法律事務所ではこれまでに、傷害事件における多くの勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、どうぞご安心ください。
◇“正当防衛だった”と主張したい場合
正当防衛とは、相手からの急迫不正の侵害に対して、自分または他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為であれば、罰しないとするものです。
したがって、「相手の方がナイフを切りつけてきたので、自分を守るために行った」という場には、正当防衛が成立すれば、不起訴や無罪になる可能性があります。
具体的には、正当防衛が成立するかどうかは、次の点がポイントになります。
◇侵害を予期していたか
◇積極的な加害意思があったか
したがって、“相手からの侵害を予期しておらず、相手の暴行に対して応戦するにしても積極的な加害意思を持たなかった“という場合に、正当防衛が成立すると言えます。こう言ってもどういう場合に正当防衛が成立するかは皆さんには判断できないと思いますので、刑事弁護経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
いずれにしても、泉総合法律事務所の弁護活動としては被疑者の方から事情を細かく聴取して、正当防衛を裏付ける事情があれば、捜査機関や裁判官に対して粘り強く主張していくことで、正当防衛を認めてもらい、不起訴処分や無罪を目指していきます。
もっとも、相手方から先に侵害行為を行ったので、反撃として傷害行為を行った場合において検察官や裁判所が簡単に正当防衛を認めることは通常ないとお考えください。このような場合には相手方が暴行(傷害)、こちらは傷害として立件されると思います。
このような場合に相手方が診断書をつけて被害届を出せば、当方は傷害の被疑者として警察に取り調べを受けます。それに対して相手方を暴行(傷害)として被害届をだすべきかどうかですが、被害届を出して受理されれば相手方は暴行(傷害)の被疑者となります。そうすることで相手方が罰金前科をつけたくないと考えれば、双方の間で示談を0円での示談ないし通常より低い示談金で成立させることができます。
もっとも相手方が被害届が出されたことに反発して、罰金前科がついても構わないと考える方もおりますので、弁護士と十分相談して方針を決める必要があります。
◇“酔っぱらっていたので記憶がない”と無罪を主張したい場合
傷害事件において、酔った勢いでケンカになり相手にケガを負わせてしまった、というのはよくあるケースです。確かに、アルコールを摂取したことで是非善悪の判断能力が低下することもありますが、そういった場合での判断能力低下を理由に無罪となったケースはほとんどないといっていいと思います。
酔ってけんかになって相手をケガさせて覚えていない場合でも、ケガをさせた行為をすることができたということは判断能力がなければできないことですので、覚えていないというのは行為の後に覚えていないという意味と警察や検察官、裁判所は理解します。
また、現場周辺の防犯カメラや、目撃者の供述などの客観的事実によって、酔ってはいたが判断能力がないような状況ではなく暴力を振るったとして傷害の被疑事実が固められます。むしろ被疑者本人の「酔っぱらっていたので覚えていない」という主張は、検察官や裁判官にしてみれば反省がないどころか、否認している、認めていないと受け取られ、通常ならば逮捕されない事案でも逮捕されることになります。
なお、酔っぱらって覚えていないとして逮捕されるケースで多いのは暴行、傷害よりも痴漢です。