私選弁護と国選弁護の違い
刑事事件の手続を進めるにあたって、被疑者・被告人の弁護活動を行う弁護士のことを“弁護人”と呼びます。
この弁護人には「私選弁護人」と「国選弁護人」という2種類があります。
私選弁護人とは
私選弁護人とは、一般的に被疑者・被告人本人やその家族が契約することで就く弁護士のことです。弁護士費用を支払ったうえで、弁護活動を依頼することができます。
“刑事事件の弁護活動を弁護士に頼んだ”という場合の一般的なイメージかと思います。
国選弁護人とは
国選弁護人とは、国(裁判所)が選任した弁護士のことです。被疑者・被告人本人やその家族が、どの弁護士に依頼するかを自由に選ぶことはできません。
国選弁護人は、あらかじめ名簿に登録された弁護士の中から選ばれるもので、原則として、選ばれたあとに変更することはできません。
メリット
国が弁護士費用を負担してくれるため、原則として費用が掛かりません。これが大きなメリットです。
国選弁護人を選べるケース
どんな方でも、国選弁護人を選任できる、というわけではありません。貧困など経済的な事情により、私選弁護人への依頼が困難である場合に、認められるものです。実際、国選弁護人の選任を請求するには、資力申告書を提出することが求められます。
請求が認められる資力基準として、“現金と預金を合わせて50万円に満たない”くらいの資力状況が必要とされます。
国選弁護人に依頼できるタイミング
以前は、起訴後のタイミングでないと国選弁護人が就くことはありませんでした。つまり、勾留されていても起訴されていない“被疑者段階”において、国選弁護人を選ぶことができなかったのです。
しかし、近年の法改正で、被疑者国選弁護人制度が導入され、その状況が一変しました。
平成21年5月から、「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件」に限って、被疑者段階であっても国選弁護人を就けられるようになったのです。
これによって、現在では、被疑者が望めば、勾留段階から国選弁護人が就くことも多くなりました。
ただ、注意点としては、対象とされる刑事事件が「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件」に限られているという点です。
殺人罪、詐欺罪、窃盗罪、傷害罪、覚せい剤取締法違反など、多くの刑事事件において、国選弁護人を就けることができますが、一方で、暴行罪、住居侵入罪など“長期が3年以下である刑事事件”では、国選弁護人を就けることができません。
この場合において、もし被疑者段階から弁護人を就けたいと希望するならば、私選弁護人を選任するしかありません。
私選弁護人と国選弁護人、どちらがよいのか?
国選弁護人の弁護活動は、私選弁護人と同じです。無料だからといって私選弁護人よりも弁護活動が制約されている、ということはありません。
ただ、国選弁護人の場合、
- 1 人生を左右する弁護活動であるにもかかわらず、選任する弁護人を選ぶことができない。
- 2 被疑者段階においては、「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件」に限られてしまう。
という不安要素があるのも事実です。
したがって、「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件」ではなく、かつ起訴前の早い段階で弁護活動を依頼したい場合は、私選弁護人を選任すべきです。
泉総合では、起訴される前の段階で、被害者との示談成立ができたからこそ、最終的に不起訴処分を獲得できた事例がたくさんあります。
それゆえに、刑事弁護活動において、起訴される前の段階、つまり被疑者段階において、いかに早く着手して十分な弁護活動が行えるかが、とても重要です。
もちろん、被疑者段階における「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役もしくは禁固に当たる事件」の場合においても、私選弁護人を選任すべきメリットは豊富にあります。
ですので、国選弁護人もしくは私選弁護人のどちらを選任すべきか、慎重に判断されることをおすすめします。
国選弁護人と私選弁護人の一覧表
弁護人 | 国選弁護人 | 私選弁護人 |
---|---|---|
選任者 | 裁判所(国) | 本人(被疑者・被告人)または、本人の配偶者・兄弟姉妹・直系親族、または保佐人 |
選任方法 | 国選弁護人登録している弁護士から選任される | 自由に選任可能 |
選任される時期 | 起訴後(原則) | 起訴前の捜査中より弁護可能 |
条件 | 財産(預金や現金)がなく(50万円未満)、自分で弁護人を選任できない場合 | 自由契約 |
権限 | 同じ権限をもつ |