身近な法律の疑問 [公開日]2018年6月21日[更新日]2024年7月17日

催涙スプレーの所持・持ち歩きは違法?

近年、どこで犯罪に巻き込まれるか分からないため、男性・女性問わず、護身用の催涙スプレー(防犯スプレー)を持ち歩いていることがあります。

では、警察の職務質問を受けたとき、護身用などで持っていた催涙スプレーが見つかって逮捕されるケースはあるのでしょうか。もし捕まってしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

以下においては、そもそも催涙スプレーの所持は違法ではないのか、催涙スプレーの携帯が違法とされる可能性、催涙スプレーの携帯で検挙されてしまった場合の対処法などについて解説します。

1.催涙スプレーとは?

催涙スプレーは、唐辛子やカプサイシンを用いた催涙ガスが主な成分です。護身用の製品として製造販売されており、ネット通販などを利用して誰でも自由に購入することができます。また、その購入や屋内での所持を規制する法律はありません。
したがって、催涙スプレーを屋内で所持する限り、違法ではないことになります。

他方で、性犯罪(痴漢)や暴行の犯人を撃退するため、自分や家族らの身を守るために催涙スプレー(防犯スプレー)を屋外に携帯する場合もあります。むしろ、そのために催涙スプレーを購入する方が大多数でしょう。

それでは、催涙スプレーを屋外で携帯した場合、違法となるのでしょうか。

2.催涙スプレーは凶器隠匿携帯罪となるか

軽犯罪法には、通称「凶器隠匿携帯罪」が定められています。

軽犯罪法1条柱書「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。」
2号「正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」

ここにいう「携帯」は、日常用語としては「持ち歩く」と理解すれば良いでしょう。したがって、家に保管しているだけの物は「携帯」に該当しません。
また、「隠匿」携帯ですから、ポケットやカバンの中に「隠して」「持ち歩く」ことが対象です。堂々と手にもって歩いている場合は、これに該当しません。

催涙スプレーは、護身用であっても、軽犯罪法1条2号にいう「人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に該当するとした判例があります(最判平21.3.26刑集63・3・265)。

この裁判例では、規制対象と判断した理由を次のとおり説明しています。

①本件スプレーの噴射液はCNガス(クロロアセトフェノン)を含有し、屋外でも風に影響されにくく、水鉄砲のように目的物に向かって噴射することが可能であること
②CNガスは、催涙性が極めて強く、人間の場合には0.3ppmで眼を刺激し、皮膚の軟弱部位が発赤し、高濃度になると結膜炎により失明することがあること

上記①②の点からは、護身用が想定された商品であることを考慮しても、「人の身体に重大な害を加える」器具であることは明らかとしました。ポイントは、スプレーの噴射性能とガスの攻撃力の高さにあると言えます。

したがって、同程度の性能が認められる催涙スプレーを隠匿携帯した者は、「正当な理由」がなければ、凶器隠匿携帯罪が成立し、拘留(1日以上30日未満の自由刑)又は科料(千円以上1万円未満の財産刑)に処せられることになります。

3.催涙スプレーの携帯が凶器隠匿携帯罪になるケース

(1) 社会通念上相当か否かで「正当な理由」が判断される

「正当な理由」とは、規制対象の器具を隠匿携帯することが、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合であるとします。
社会通念上相当か否かは、次の各諸事情から総合判断するとしています。

■客観的要素として
・器具の用途や形状・性能
・職業や日常生活との関係
・隠匿携帯の「日時・場所」「態様」「周囲の状況」等

■主観的要素として
・隠匿携帯の動機、目的、認識

その上で、当該事件の被告人については、次のとおり判断しています。

①経理マンとして多額の現金などをカバンにいれて運搬する職務についていたこと
②仕事中の暴漢対策として本件スプレーを購入して、普段は仕事中に携帯し、退勤後の自宅ではカバンに入れたままにしていたこと
③健康上の理由から医師に勧められ、日常的にサイクリングなどを欠かさなかったところ、当日は夜まで寝てしまったため、深夜2時にサイクリングに出かけるにあたり、万一の護身用に本件スプレーをズボンのポケットに入れて出かけたこと

以上の事実関係のもとでは、本件の護身用催涙スプレーの隠匿携帯は、社会的に相当と判断できるとし、一審と二審の科料9000円の有罪判決を破棄して、無罪としました。

(2) 過去の判例の意見

上記の判例には、裁判長の補足意見が付されています。補足意見の内容は次のとおりです。

  • 本件スプレーの携帯行為に「正当な理由」があるとしたのは、あくまでも、本件の事実関係のもとにおける判断に過ぎない
  • およそ護身用であれば、催涙スプレーの携帯が一般的に「正当な理由」を充たすと判断するものではない
  • 防犯催涙スプレーを使った犯罪等もまれではなく、取締りの必要性・合理性は明らだから、犯罪など不法な目的で催涙スプレーを隠匿携帯することが「正当な理由」の要件を満たさないことはもちろんである
  • また、これといった必要性もないのに、人の多数集まる場所などで催涙スプレーを隠匿携帯する行為は、一般的には「正当な理由」がないと判断されることが多いと考える

この補足意見に従うときは、例えば、護身用と称して常にカバン内に催涙スプレーを入れて持ち歩く行為、コンサート会場・映画館・劇場・美術館など多数人が参集する場所で催涙スプレーを隠匿携帯する行為などは、「正当な理由」が認められない可能性が高いでしょう。

単に「護身用です」と言い訳するだけでは、多くの場合で通用しないということです。

4.催涙スプレーの携帯で検挙された場合の対処

催涙スプレーの隠匿携帯容疑で警察に同行を求められたり、あるいはその場で逮捕されたりして、取調べを受け供述調書を取られることになった場合、どうしたらいいのでしょうか。

上述したように、携帯スプレーの携帯につき、正当な理由がなければ、軽犯罪法1条2号に該当することになります。

まずは取り調べの際に、犯罪目的ではないことをしっかり説明する必要があるのは当然です。

ただし、気をつける必要があるのは、取調官は必ずと言っていいほど「護身用か?」と問いかけてくるであろうということです。
「護身目的で持っていました」という供述調書をとられてしまうと、軽犯罪法違反となります。取調官は、あたかも「護身目的なら違法でない」と誤解させるような言い回しで、供述を誘導するのです。

しかし、この記事で説明したとおり、護身目的なら大丈夫ということはありません。うっかり誘導にのると不利になってしまいますから、注意してください。

それなりの理由があるのに取調官が納得してくれない場合や、逮捕されてしまった場合は、早急に弁護士を依頼しましょう。

5.まとめ

治安が悪い場所や夜道を歩く際、痴漢撃退用などで、身の安全のために防犯グッズ、護身用の催涙スプレーを持ち歩くことがあるかもしれません。

しかし、警察官から職務質問を受けた際、これらの物を携帯していた場合、軽犯罪法違反として警察に捕まってしまう可能性もあります。

軽犯罪法違反で逮捕されてしまった場合は、すぐに刑事に強い泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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