身近な法律の疑問 [公開日]2021年4月15日

違法収集証拠について|争われた判例は?

当然ですが、捜査機関は、犯罪の捜査を行う際、法令を遵守しなければなりません。
ところが、違法捜査は度々起こるのが実情です。

それでは、法令を遵守しない捜査手続で獲得した証拠は、そのまま裁判で証拠として使用できるのでしょうか?

このことについて、刑事訴訟法や憲法には、はっきりとした明文の規定はありません。しかし、最高裁は、違法な捜査により収集した証拠は、一定の要件に該当する場合には、裁判の証拠とすることはできないとしています。

これを講学上「違法収集証拠排除法則」と呼びます。
以下では、この違法収集証拠排除法則について解説します。

1.違法収集証拠排除法則とは?

例えば、極端な例ですが、警察官が令状なしに被疑者の家に立ち入り、捜索をし、発見した物を押収した場合、当該行為は憲法・刑事訴訟法が定めた手続に違反した違法な捜査となります。

それだけでなく、その警察官の行為は、住居侵入罪や窃盗罪という犯罪として警察官自身が起訴されたり、免職など懲戒処分の対象となったり、所属する自治体が国家賠償請求を受ける可能性もあります。

他方、その警察官や自治体の責任とは別に、その押収された物を「刑事裁判において、当該被疑者の有罪を立証する証拠とすることができるか」という問題があり、最高裁の判例も、学説も、証拠とすることができない場合があることを認める点では一致しています。

ある証拠を刑事裁判の証拠として公判廷で取り調べることが許される場合、その証拠には「証拠能力がある」と表現します。
「違法収集証拠排除法則」とは、違法な捜査手続で集められた証拠の「証拠能力」を否定する法理論なのです。これを「証拠禁止」と呼ぶこともあります。

違法な捜査手続で収集した証拠の証拠能力を否定しなくてはならない理由としては、大きく分けて2つあります。

  • 司法の廉潔性を保持するため:違法収集証拠の証拠能力を認めることは、公正な審判者であるべき裁判所が違法捜査に手を貸すことになり、司法に対する国民の信頼を掘り崩してしまいます。
  • 将来の違法捜査の抑制のため:証拠の証拠能力を否定は、将来の違法捜査を防止するためにもっとも有効な対策です。

ただ、捜査の違法・適法は、証拠物自体の内容・性質・形状に差異を生ぜしめるものではありませんし、全ての手続違反について証拠能力を否定してしまうと、刑事訴訟の目的のひとつである真実の発見をあまりにも困難にしてしまいます。

したがって、どの程度の違反があれば排除するべきなのか、バランスが問われることになります。

そこで最高裁は、以下の場合には、違法に収集した証拠の証拠能力が欠けるとしています。

「憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。」(※最判昭和53年9月7日最高裁判所刑事判例集32巻6号1672頁

この法則が適用された場合には、当該証拠は裁判で使用することはできません。したがって、検察官は当該証拠以外の証拠で被告人が犯罪を犯したことを立証しなければなりません。

【令状主義とは?】
現行犯の場合を除いては、令状によらなければ、逮捕・捜索・押収をすることは許されないという憲法上の大原則が「令状主義」です(憲法第33条・第35条)。
捜査機関が、犯罪の嫌疑や捜査の必要性もないのに、国民の身体を拘束したり、「何か犯罪を疑わせる証拠はないか?」と国民の住居に立ち入って家捜しをしたり、物品を押収したりすることが許されるとするなら、到底、国民の身体の自由、住居の平穏、財産権、プライバシー権といった人権・法的利益を守ることはできません。また、このような捜査が可能となると、冤罪の温床となってしまいます。
そこで、これらの捜査を行うためには、犯罪の嫌疑と捜査の必要性を中立公正な裁判所が事前に審査したうえで発布する令状を必要とすることで、捜査機関による人権侵害を防止しようとしているのです。

2.証拠排除されるか争われたケース

前記のとおり、最高裁は、①令状主義の精神を没却する重大な違法があること、②将来違法捜査抑制の見地から証拠利用が相当でないこと、という2つの要件を挙げています。

しかし、この2つの要件は著しく曖昧で、どのような場合に、①②を満たすことになるのか判然としません。

そこで以下では、実際の裁判例をいくつか御紹介します。

被告人の承諾なしにポケットから証拠物を取り出したケース

(上掲、最判昭和53年9月7日)

先ほど引用したこの判例は、それまで違法収集証拠排除法則に否定的であった最高裁が、はじめて違法収集証拠排除法則が適用される場合があることを認め、その要件に言及したものです。

このケースでは、警察官が、覚せい剤所持等が疑われる被疑者の内ポケットを、被告人の承諾なしに捜索して証拠物を押収しました。この手続きは裁判所により違法なものと認定されました。加えて被告人は、当該証拠物の証拠能力を否定するべきだと主張しました。

しかし最高裁は、先ほど述べた基準を持ち出し、①職務質問の要件が存在したこと②所持品検査の必要性と緊急性が認められたこと③所持品検査として許容される限度をわずかに超えるに過ぎないこと④捜査官に令状主義に関する規定を潜脱する意図が認められないことなどを指摘して、本件では、証拠能力が否定されないとしました。

捜索差押えの際に被告人に暴行を加えたケース

最判平成8年10月29日最高裁判所刑事判例集50巻9号683頁

この事件は、覚せい剤所持を疑われた被告人の自宅を対象とした捜索差押えにおいて、証拠物が発見された際に被告人が「そんなあほな」と発言したことを機に、警察官が被告人の身体に暴行を加えたものです。

捜索差押えの際に限らず、およそ捜査機関が被告人に暴行を加えることは許されません。本件で行われた上記警察官らの行為は明らかに違法なものです。しかし裁判所は、①暴行は証拠を発見した後で行われたものであること、②被告人の発言に触発されて行われた暴行であり、証拠の発見を目的として行われていないことから、本件証拠物の証拠能力は否定されないとしました。

逮捕に際して逮捕状を呈示せず、また、内容虚偽の報告書を作成したり、裁判において虚偽の供述をするなどしたケース

最判平成15年2月14日最高裁判所刑事判例集57巻2号121頁

これは、初めて違法収集証拠排除法則により実際に証拠を排除した最高裁判例です。

かねてから被告人に窃盗の事実で逮捕状が発付されていましたが、警察官は逮捕状を携帯せずに被告人宅に行き、逮捕状を呈示せずに逮捕しました。同日、覚せい剤の使用が疑われる被告人に対して尿検査が実施され、被告人の尿から覚せい剤成分が検出され、その結果を記載した鑑定書が作成されました。

その5日後、この鑑定書を覚せい剤取締法違反事実の疎明資料とし、捜索差押令状が発布され、被疑者宅の捜索によって、薬物が発見・押収され、鑑定の結果、覚せい剤であることが判明し、その鑑定書が作成されました。

裁判で被告人は、令状を呈示していない逮捕手続は違法なので、違法な逮捕後に行われた尿検査と関連する証拠は排除されるべきだと主張しました。

このケースでは、警察官らは被告人に令状を呈示しなかっただけでなく、①被告人に逮捕状を呈示したという虚偽の事実を当該逮捕状に記載したうえ、同内容の虚偽の捜査報告書を作成し、②裁判において、逮捕状を被告人に呈示したと虚偽の証言をするなどしました。

地裁と高裁は、(ⅰ)尿の鑑定書だけでなく、これを資料として発布された捜索差押許可状に基づいた捜索で収集された(ⅱ)覚せい剤、(ⅲ)覚せい剤の鑑定書について、すべて証拠能力を否定し、覚せい剤の「自己使用」と「所持」の両方について無罪としました。

最高裁判所は、一連の警察官の行為には、令状主義の精神を没却する重大な違法があり、証拠能力を認めることは将来の違法捜査抑止の見地から相当でないとして、尿の鑑定書を排除し、覚せい剤の自己使用を無罪とした地裁・高裁の判断は支持しました。

他方、覚せい剤とその鑑定書については、尿の鑑定書を疎明とした捜索差押許可状による捜索で収集されたとはいえ、(ア)捜索差押許可状それ自体は司法審査を経ていること、(イ)もともと発布されていた窃盗被疑事実に関する捜索差押許可状の執行も併せて実施されていたことなどから、覚せい剤及びその鑑定書の入手手続に重大な違法があるとまでは言えないとしました。

このため、地裁・高裁の各判決のうち、覚せい剤とその鑑定書の証拠能力を否定して覚せい剤所持を無罪とした部分を破棄し、審理を地裁に差し戻しました。

3.まとめ

このように、①令状主義の精神を没却する重大な違法、②将来の違法捜査抑止の観点といっても、それだけでは排除の可否を決めようがなく、最高裁も事案の詳細を考慮して判断しています。

結局は、ケースバイケースなのですが、どのような要素を考慮するべきなのかについて、次の意見(※)が参考になります。

  • 手続違反の程度(逸脱の程度、害される利益の重要性、損害の程度など)
  • 手続違反がなされた状況(緊急状況下で法の遵守が極めて困難であったか)
  • 手続違反の有意性(計画性や違法性の認識の有無)
  • 手続違反の頻発性(性質から繰り返し行われる恐れがあるか)
  • 手続違反と当該証拠獲得との因果関係の程度(合法的な手続利用が可能で、その合法的手続による当該証拠の獲得が可能であったか)
  • 証拠の重要性(当該事件の証明にどの程度重要性があるか)
  • 事件の重大性(基本的には法定刑の程度や罪質が基準となるも、事件の特性や社会的関心の強弱も含む)

※安富潔「刑事訴訟法講義(第4版)」慶應義塾大学出版309頁より引用

4.刑事事件の弁護は弁護士へお任せください

このように、違法な捜査により獲得した証拠は裁判で使用できないと判断される場合があります。
そうすると、被告人としては、捜査手続きに違法なものがあると考える場合、収集した証拠は、違法収集証拠として排除されるべきだと主張しようとするでしょう。

しかし、捜査が違法かどうかの判断は法律のプロである弁護士でなければ困難です。
また、違法収集証拠排除の「主張」だけをしていても被告人にとって有利な判決を得ることができません。

検察側は公判廷において捜査手続の適法性を立証するため、当該捜査を担当した警察官を証人として出廷させ、捜査手続に問題がなかった旨を証言させますから、この証言を弁護人が反対尋問で切り崩せるか否かが重大なポイントになります。ここで弁護人の、刑事弁護における豊富な経験と実力がモノを言います。

被告人の重要な権利利益を守るためには、弁護士による適切な弁護活動が必要です。犯罪を犯したとして捜査機関に逮捕・勾留・起訴された方はすぐに弁護士にご相談ください。

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