身近な法律の疑問 [公開日]2021年2月1日

在留資格がある方の刑事事件について

日本での在留資格がある外国人の方が、日本で犯罪を犯してしまった場合、どのような刑事手続を受けることになるのか?本国に強制送還されてしまうのではないか?心配は尽きないでしょう。

この記事では、在留資格がある方に適用される法律、用意されている刑事裁判手続、そして強制送還の有無などについて解説します。

なお、通称「入管」、かつての「入国管理局」は2019年4月1日に名称を変更し、「出入国在留管理庁」となっていますが、この記事では、旧来どおり「入管」の通称を用います。
また、「出入国管理及び難民認定法」は、「入管法」の通称を用います。

1.外国人も日本の法律で裁かれる?

刑法第1条は「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」として、日本国籍の有無を問わず、国内で犯罪を犯した者に刑法を適用すると定めています。これを属地主義と呼びます。

さらに刑法は、この属地主義を「他の法令の罪についても、適用する」(第8条)と定め、刑法以外の法令で定められた犯罪も同じとしています。

したがって、外国人が日本国内で犯罪を犯せば、日本の法律で裁かれます。

2.通常の刑事事件と手続き上の違いはあるの?

刑事手続には、違いはありません。

憲法は31条以下で刑事手続について詳細な規定を置き、何人にも適正な刑事裁判を受ける権利を保障しています。

憲法の人権は、その性質が許す限り、外国人にも保障するのが最高裁判例です(※最高裁昭和53年10月4日判決)。

日本国籍のない外国人であるからといって、適正な裁判手続を経ずに刑罰を科して良いはずがありませんから、日本人と同じ刑事手続が適用されます。

もちろん通訳をつけ、留置場や拘置所での食事を特別なメニューにし、拝礼などの宗教活動を許すといった配慮はありますが、別個の刑事手続が用意されているわけではありません。

ただし、刑事手続とは別の問題として、外国人には「出入国管理及び難民認定法」が適用されるので、その限りで日本人とは異なることになります。

3.有罪判決が下された場合の強制退去

では、外国人が刑事裁判で有罪となった場合に、強制退去となってしまうのでしょうか?

強制退去となるか否かは、入管法の定める「退去強制事由」の有無によります。刑事裁判で有罪となっても、退去強制事由がなければ、強制退去となりません。

【そもそも在留資格がない場合】
不法入国、在留資格の取消、オーバーステイなどで、そもそも在留資格がない場合は、そのこと自体が退去強制事由に該当します(入管法24条1号ないし2号の4、同4号ロ)。したがって、執行猶予付き判決を得た場合でも、判決を受けた直後から入管による退去強制手続(入管法39条)が開始されます。
通常は、入管職員が判決期日に傍聴席で待機し、判決の宣告後、その場で直ちに被告人の身柄を引き取って入国管理センターなどの収容所に収容してしまいます。
実刑判決を受けた場合には、判決の確定後、刑務所に収容されて服役することになり、多くの場合、刑期を終えた時点で、直ちに入管に送られ、退去強制手続が開始されます。

(1) 強制退去となってしまうケース

在留資格がある場合でも、退去強制事由がある限り、在留資格がない場合と同じ扱いとなってしまいます。

在留資格があるときに、どのような場合が退去強制事由となるかは法定されており、以下に、その代表的なものを説明します。

それぞれの退去強制事由は、次の4つの観点から要件が決められています。ここを意識して以下の説明をお読みいただけると理解が容易です。

  1. どのような在留資格か
  2. どのような犯罪で有罪となったか
  3. 判決でどのような刑を下されたか
  4. 判決は宣告されただけか、それとも確定したか

(2) 退去強制事由

退去強制事由の主なものは次のとおりです。

①無期または1年を超える自由刑

無期または1年を超える懲役・禁錮の判決に処せられた者で、(ⅰ)刑の全部の執行猶予付き判決及び(ⅱ)刑の一部の執行猶予付き判決で猶予されなかった期間が1年以下のものを除きます(24条4号リ)

判決が確定した者を指します。刑務所に収容されて服役し、刑期を終えた時点で、直ちに入管に送られ、退去強制手続が開始されます。在留資格の種類は問いません。

②在留資格によっては無期又は1年を超えない自由刑も退去強制事由

入管法「別表第一」の在留資格で、一定の犯罪により、懲役または禁錮に処せられた者(法24条の4号の2)です。

執行猶予の有無を問いませんし、刑期の長さも問いませんが、在留資格と犯罪の種類は限定されています。

判決が確定することを要し、判決宣告時点は未確定なので、執行猶予付き判決の場合は、その場では釈放され帰宅できますが、判決が確定すれば入管に収容されます。

「別表第一」の在留資格は「活動類型資格」と言われ、具体的には、次の在留資格です。

外交、公用、教授、芸術、宗教、報道、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、技能実習、特定技能、技能実習、文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在、特定活動

「別表第二」の在留資格である「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」は日本社会との関わりの深い「身分類型資格」なので、できるだけ国内での更生のチャンスを与えるべきですが、「別表第一」の「活動類型資格」には、そのような事情がないので、退去強制事由となる範囲が広いのです。

対象となる一定の犯罪とは、代表的なものを言うと、住居を犯す罪・通貨偽造の罪・殺人の罪・傷害の罪・窃盗及び強盗の罪・詐欺及び恐喝の罪・危険運転致死傷罪などです(この他にも多数存在します)。

③出入国関連の法律違反

旅券法違反(入管法24条4号ニ)、入管法違反(24条4号ホ、ヘ)で刑に処せられた者です。執行猶予の有無は問いません。

④薬物事犯

麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、あへん法、覚醒剤取締法などの薬物事犯で有罪の判決を受けたものです(24条4号チ)。

執行猶予の有無は問いません。判決が確定した者を指しますので、執行猶予付き判決の場合、判決宣告の場では釈放され帰宅できますが、判決が確定すれば入管に収容されます。

⑤売春行為関連は特別

売春、売春の周旋・勧誘・場所の提供、その他売春に直接に関係がある業務に従事する者です(法24条4号ヌ)。人身取引等により他人の支配下に置かれている者、つまり売春を強制されている者等を除きます。

売春行為関連は特別な扱いで、このような者にあたるか否かは、裁判と関係なく、入管が独自に事実を認定することができます。

入管が売春などを認定すれば、直ちに退去強制手続が開始され、検察官による起訴の有無、裁判所の判決の有無、判決確定の有無にかかわりません。

4.有罪判決で在留資格の取消しになる?

退去強制事由にあたらない限り、有罪判決を受けても、現在の在留資格には影響せず、取消されません(入管法第21条3項)。

しかし、次回の更新は困難となる場合があります。

在留期間の更新は、法務大臣が「在留期間の更新を適当と認める相当な理由があるときに限り、これを許可することができる。」(入管法21条3項)とされています。

その判断にあたって考慮要素として、入管のガイドラインには次のとおり定められています。

「4 素行が不良でないこと……素行については、善良であることが前提となり、良好でない場合には消極的な要素として評価され、具体的には、退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為、不法就労をあっせんするなど出入国在留管理行政上看過することのできない行為を行った場合は、素行が不良であると判断されることとなります。」
※出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」(令和2年2月改正)

したがって、有罪判決が退去強制事由に該当しなくても、退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為として、素行不良と判断され、更新が困難となる危険性が高いのです。

【他の在留資格に変更したい場合】
在留資格を有する方が、他の在留資格に変更を希望する場合も、法務大臣の許可が必要です。在留期間の更新と同様に、法務大臣が「在留資格の変更を適当と認める相当な理由があるときに限り、これを許可することができる。」(入管法20条3項本文)とされ、その考慮要素として「素行が不良でないこと」が挙げられています。
例えば、「留学」の在留資格を有する方が、窃盗罪で罰金刑を受けた場合、それは懲役・禁錮で処せられたわけではないので、退去強制事由には該当しません。しかし、「退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為」として、在留資格の変更を拒否されてしまう可能性はあります。

5.日本で前科を受けた者は本国に帰国できる?

その本国の国籍がある限り、帰国できると考えられます。一般的に、国家は自国民を保護する責務があり、国際慣習上も自国民の送還者を受け入れる義務があると理解されているからです。

ただし、現実には、強制送還された自国民を受け入れない国も複数存在していると報道されています。
※日本経済新聞2018年10月10日報道「送還を拒否する国を除外 新在留資格で法相

また、ある国における出入国の管理は、その国の主権にかかわる事項であって、その国の政府の方針にしたがって対応が行われ、他国が軽々に干渉できるものではありません。

したがって、一般的には帰国が可能ですが、絶対の保障はありません。

【帰国できたとしてもう一度日本に戻ってくることはできる?】
これは、再入国が認められるかどうかの問題です。再入国の場合でも、上陸時に入国審査官によって上陸許可要件を満たしているかどうか審査を受けなくてはならず、法定の上陸拒否事由が存在すれば、上陸は許されません(入管法7条1項)。一定期間だけ拒否されるものと、無期限に拒否されるものがあります。

6.在留資格がある人の刑事事件も弁護士にご依頼を

以上のように、刑事事件で起訴され、懲役刑や禁錮刑を受ければ退去強制事由として、強制送還されてしまい、再入国が困難となる危険があります。

罰金刑など、それ自体は退去強制事由に該当しない場合でも、在留資格の更新や変更が許可されなくなる危険があります。

これらのリスクを防止するには、何よりも刑事事件で起訴されることを回避し、不起訴処分を勝ちとることが重要です。

例えば、窃盗罪や暴行罪でも、弁護士が被害者との示談交渉を進め、早期に示談を成立させて、被害届や告訴状を取り下げてもらえれば、起訴猶予処分で不起訴となる可能性が高くなります。

在留資格をお持ちの外国人の方が刑事事件を起こしてしまったときは、一刻も早く刑事弁護経験豊富な泉総合法律事務所に相談されることをお勧めします。

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