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給料・賃金・残業代未払いで刑事告訴されそう!?

給料・賃金未払い、残業代未払いで刑事告訴されそう!?

給与(賃金)・あるいは残業代を未払いのままにしておくことは犯罪です。
使用者(経営者)の方がこれを放置しておくと、労働者によって、労働基準監督署に対して使用者の処罰を求める告訴状を提出されてしまう場合があります。

このような場合、使用者側はどのような対処をすれば良いのでしょうか。

今回は、給料未払いで告訴状を提出されてしまったり、実際に刑事告訴されてしまったりしてどうすれば良いか悩んでいる人向けに、その対応方法について説明します。

1.給与(賃金)未払いに対する刑事罰

給与(賃金)の未払いに対する罰則には、労働基準法(以下「労基法」といいます。)によるものと、最低賃金法(以下「最賃法」といいます。)によるものがあります。

(1) 労基法と最賃法の刑事罰

労働基準法第24条
賃金は①通貨で、②労働者に直接、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定期日を定めて支払うよう義務づけています(賃金の5原則)。
違反すると、30万円以下の罰金刑となります(労基法120条1号)。

労働基準法第37条
時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金(原則25%以上50%以下)の支払義務を定めています。
違反すると、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑となります(119条1号)。

最低賃金法4条
国が、地域及び業種について賃金の最低額を定めて、その支払いを使用者に義務づける(最賃法4条)ことで労働者を保護する法律です。

最低賃金には、次の2種類があります。

  • 地域的最低賃金……都道府県ごとの最低賃金(最賃法9条)
  • 特定最低賃金……特定の産業について特に設定される最低賃金(最賃法15条)

地域別最低賃金を支払わなかった場合には、50万円以下の罰金刑となります(最賃法40条)。
(※特定最低賃金の違反については、船員に適用される場合を除いては刑事罰がありません。)

(2) 労基法と最賃法のどちらが適用されるのか

賃金の未払いに対して、労基法と最賃法のどちらが適用されるかについては、次のとおりです。

①賃金の全額が未払いの場合
②賃金の一部が未払いで、支払済みの金額が最低賃金未満の場合
労基法24違反と最賃法4条違反が共に成立しますが、特別法である最賃法違反の罰則のみが優先して適用されます。

③賃金の一部が未払いで、支払い済みの金額が最低賃金以上の場合
最賃法違反はないので、労基法24条違反のみが成立します。

④割り増し賃金の未払いの場合
最低賃金法は割増賃金には適用がないので、労基法37条違反のみが成立します。

(3) 事業主も処罰される

例えば、個人経営主であるAが居酒屋の本店と支店の2件を経営し、支店については、Bを雇って店長とし、運営を任せていたとしましょう。

Bが支店のアルバイトに対し、賃金支払義務を怠れば、Bが違反行為を行った者として、労基法、最賃法の罰則の適用を受けます(労基法10条、最賃法2条2号)。
しかし、Bだけを処罰すると、事業主Aが名目上の店長を置くことで罪を免れる危険があるので、事業主Aにも罰金刑が科されます。事業主が法人(会社)の場合も同じです。

このように、違反行為者だけでなく、事業主も処罰する規定を両罰規定と呼び、労基法(121条1項)、最賃法(42条)に定められています。

さらに、事業主Aが、労基法違反の行為を知りながら、その是正に必要な措置を講じなかったり、違反行為を教唆した場合は、事業主Aも違反行為の行為者として処罰されます(労基法121条2項)。

この場合は、罰金刑だけにとどまりません。
例えば、割増賃金の未払いには、6か月以下の懲役刑もありますので、AがBの割増賃金未払いを放置したり、未払いをそそのかしたりしたときには、Aが懲役刑となる場合があります。

(4) 刑事罰以外の処遇

賃金未払いに対しては、刑罰だけでなく、次のとおりの不利益も課せられます。

違反企業として公表される

厚生労働省は、賃金未払いなどの違反の疑いで送検した事案を、ホームページで「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として公表しています(※)。

公表内容は次の例のとおりで、掲載期間は原則1年間です。

|企業名|所在地|公表日|違反法条|事案該当|参考事項|
|(株)○○社|○○県○○市○○区|H30.2.1|労働基準法第24条|労働者1名に、2か月分の定期賃金の一部約13万円を支払わなかったもの|H30.2.1送検|

※2017年11月1日から2018年10月31日迄の公表分は、次のページに掲載されています。
労働基準関係法令違反に係る公表事案

公表されると企業の信用を失墜し、取引関係に多大な影響を与えます。
また、ブラック企業として周知され、人手不足の今日、ますます労働力確保が難しくなり、企業の存続さえ危うくします。

付加金の支払命令

割増賃金、休業手当、年休手当等の未払いについては、労働者が、その支払いを訴訟で請求した場合、裁判官によって、未払い金額と同額の付加金の支払いを命じられて、2倍の支払いをしなくてはならない場合があります(労基法114条)。

2.給与(賃金)未払いに対する手続きの流れ

次に、賃金未払いが最終的に刑事事件となってしまう場合の流れについて説明します。

(1) 労働者が告訴状を労基署に持参し、使用者に連絡がいく

賃金未払いが発覚する契機には、色々なパターンがありますが、ここでは労働者が告訴状を労基署に持参して相談したケースを想定します。

まず、労働者がいきなり告訴状を労基署に持参しても、受理されることはありません。

通常は、事情を聴取した担当職員から、使用者に電話があり、未払いがあるなら、早期に支払うよう口頭で伝えられます。これは行政指導というよりも、当事者間の自主的な解決を促す事実上の連絡です。

(2) 労働基準監督官による行政指導

その後も問題が解決しない場合は、労働基準監督官が事業所に立ち入り(臨検)して、書類や帳簿などの調査や聞き取り調査を行い、事実が明確になれば、是正するよう正式な行政指導(事業場監督指導)が行われます。

例えば、厚生労働省は、2017年度では、割増賃金の未払い額100万円以上の企業に対して監督指導を行い、1870企業で是正されたと発表しています(※)。

※厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(2017年度)

(3) 悪質な場合、犯罪捜査が開始

行政指導にも従わない場合や、過去にも未払いを繰り返しているなど事案が悪質と認定される場合は、犯罪捜査が行われます。
この捜査の一環として、労働者からの告訴状を正式に受理することになります。

告訴については、次の記事をご覧ください。

[参考記事]

刑事告訴されると?逮捕、起訴されるのか、不起訴にはできるのか

(4) 証拠が集まれば、検察官に事件が送致

こうして証拠が集められると、労働基準監督官から検察官に事件が送致されます(書類送検)。

労働基準監督官は、賃金未払いの使用者を逮捕する権限もありますが、実際に逮捕されるケースはほとんどありません。
例外的に逮捕されるのは、再三の出頭要求に応じず、逃亡や証拠隠滅の恐れがあると判断される悪質な場合に限定されます。

このため、賃金未払いでは、検察官送致後、身柄拘束を受けないまま、検察からの出頭要求に応じて、検察庁に出頭し、検察官からの取り調べを受けます(在宅事件)。

(5) 起訴されて罰金の支払い義務が生じる

在宅事件の場合は、逮捕、勾留された場合のように、事件が処理されるまでの期間制限がないので、処分の結論が出るまで、数ヶ月から数年かかる場合もあります。
最終的に、検察官は刑事裁判にかける(起訴する)か否かを決めます。

事実に争いがなければ、多くの場合、簡易な手続きである略式起訴となり、裁判所に出頭することはなく、書類上の手続きだけで罰金を納めれば足りる略式命令で終了します。

略式起訴については、以下の記事をご覧ください。

[参考記事]

略式起訴・略式裁判(略式請求)と不起訴処分で必ず知っておくべきこと

3.給与(賃金)未払いで告訴状を提出された場合の対処方法

では、実際に給与(賃金)未払いを犯してしまっている使用者は、どのように対応するべきなのでしょうか。

常日頃、給与(賃金)をしっかりと支払わなければならないのは言うまでもありませんが、以下では、段階別に使用者がとるべき行動や注意点を解説していきます。

(1) 刑事告訴状の提出段階

前述のとおり、労働者から「労基署に告訴状を出した」と言われても、それだけで刑事処分に結びつくわけではありません。
告訴状を持参したからといって、すぐに労基署が受理するわけではないのです。

刑事告訴の告訴状を受理するのは、調査や捜査が進展し、刑事事件として摘発するに値し、証拠関係もほぼ間違いないと労基署が判断した段階です。

労働者が告訴状を提出した段階であれば、未払い賃金を支払うなどして問題を解決すれば、労基署が介入してくる可能性はありません。

(2) 労基署から連絡があった段階での対応

労働者が労基署に相談すると、通常は使用者に対して、「未払いが事実ならば早く支払ってください」という電話が入ります。
これは、当事者で解決すれば問題視しないというメッセージでもありますから、できる限りここで未払いを解消するべきです。

そして、この段階で支払いすることが困難な事情がある場合でも、誠実な対応をとることが必要です。

例えば、賃金額や未払い額について当事者の主張に相違があるときは、弁護士に依頼をして代理人として協議を開始してもらう、調停、労働審判、訴訟(賃金支払義務不存在確認訴訟)を提起してもらうなど、真摯に対応している姿勢を示すべきです。

ちなみに、この段階で依頼を受けた弁護士が労基署に赴き、「自分が適正に解決するので、労基署には当面静観してほしい」と申し入れをすれば、労基署が拒否することは、まずありません。

また、資金がない場合でも、支払義務を認めて、分割払いを誓約する念書を労働者に差し入れるなどが最低限必要です。

(3) 労働組合からの団体交渉申し入れを拒否しない

労働者が労働組合に加入しているときは、賃金未払いについて団体交渉の申し入れを受ける場合がありますが、これを拒否してはいけません。

使用者は団体交渉に応じる義務があり、拒否すれば、不当労働行為として労働委員会から交渉に応じるよう命令されたり、損害賠償請求の対象とされたりする危険があります(労働組合法6条、7条)。

また、そのような場合、労基署からも悪質な使用者と認識されてしまう危険もあるからです。

ただし、団体交渉は、あくまでも交渉を拒否できないだけで、労働者側の要求をのむ義務はありません。
したがって、賃金未払いについて意見に相違があるときには、団体交渉には応じつつ、実際の解決は弁護士に依頼し、調停や訴訟に委ねることも可能です。

もちろん、弁護士が同席した上での団体交渉で解決することもひとつの方法です。

(4) 行政指導には直ちに応じる

労基署が職場に立ち入り調査を開始した場合は、早急に対応することが必要です。

未払いを解消することは重要ですが、行政指導の主目的は是正だけでなく再発防止も含みますから、未払いとなった経緯、原因を把握し、今後の防止策を講じる対応を示すべきです。

きちんと対応しなければ、悪質な事案として、労基署も刑事処分を検討せざるを得なくなります。

4.給与(賃金)未払いで送検された事例

2018年1月、振り袖の販売、レンタル企業でありながら、成人の日に突然に業務を停止し、多くの成人が晴れ着を着ることができない被害を与えた企業がありました。

経営者は、虚偽の決算書を銀行に提出して融資を受けたという詐欺罪に問われています。

それにとどまらず、同社と経営者は従業員への賃金を支払わず、労基署から行政指導を受けたのに従わなかったとして、最低賃金違反により書類送検されたと報道されています(2018年9月12日産経新聞ニュース)

このように、賃金未払いを含む労働基準関係法令違反が刑事事件とされるケースは少なくありません。

労基法違反等で労働基準監督官が検察庁に送検した件数(労働基準監督年報より)

年度件数
2016年890件
2015年966件

5.刑事手続きとなってしまったら弁護士に依頼

刑事事件として立件される可能性が出てきた場合や、すでに送検された場合は、もはや暴行・窃盗など同じ犯罪事件です。
しかし、送検されてしまった場合でも、検察官が諸事情を総合考慮して、不起訴(起訴猶予)としてくれる可能性があります。

そのためには、未払いを解消することはもちろん、被害者である労働者との示談をまとめて示談書を作成したり、再発防止の具体的施策(店長など管理職に対する法令遵守教育の実施計画など)を明確にしたりするなどして、使用者側に有利な事実と証拠を積み重ねて検察官に提出する必要があります。

仮に起訴されてしまったとしても、これらの有利な事情は、有罪判決の内容(罰金額や懲役刑の刑期)にも影響します。

このような刑事事件としての弁護活動をできるのは弁護士だけです。

6.まとめ

賃金未払いで労基署が介入しそうになったら、とにかく早い段階で対処することが必要です。

中小企業で、日々の業務を優先してしまい、賃金未払いへの対応が後手後手に回ってしまうケースが多く見られます。業務をこなして収益をあげなくては立ちゆかないという経営者の気持ちは無理もありません。

しかし、賃金未払いへの対応を後回しにしてはいけないのです。万一、送検されて公表され、さらに刑罰も受ければ、企業の信用はがた落ちです。人材も集まらなくなり、その先にあるのは倒産の憂き目です。

最悪の事態を回避するには、業務で収益をあげながら、同時に労基署への対応も的確に行う必要があるのです。
弁護士に事件をまかせることによって、経営者は本来の事業に精力を注ぐことが可能となります。

現在では、賃金未払いを含む労働関係法令の違反に対する処分も厳しくなってきており、摘発されることは、無視できない経営上のリスクです。是非、お早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

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