刑事弁護 [公開日]2017年9月29日[更新日]2021年2月1日

略式起訴・略式裁判で知っておくべきこと|不起訴との違い

刑事事件で検察官に起訴される場合に、「略式命令請求」という手続が行われる場合があります。

この「略式命令請求」を受けた裁判所は「略式手続」という書面による簡略化された裁判を行ったうえ、「略式命令」という罰金・科料の刑を下します。

これらは、どのような手続なのでしょうか?

1.そもそも起訴・不起訴とは?

(1) 起訴と不起訴

ある被疑事件について必要な捜査が終わると、検察官は、その事件について被疑者を起訴にするか不起訴にするかを判断しなければなりません。

起訴とは、検察官が裁判所に対して被疑者を裁判にかけて処罰してほしいと要求することです。

これに対して不起訴(不起訴処分)とは、その事件について起訴せず終結させると判断することです。

(2) 不起訴の理由

不起訴の理由には様々なものがあります。

例えば、公訴時効が完成していたり、親告罪の告訴が得られなかったりといった起訴の前提となる条件(訴訟条件)が欠ける場合は起訴できません。

検察庁では不起訴の理由を20種類に区分しています(事件処理区分といいます)。

その中でも中心をなすのが、次の3つです。

①嫌疑なし……人違いや犯罪の証拠が全くないことが判明した場合
②嫌疑不十分……証拠が不十分な場合
③起訴猶予……犯罪の嫌疑があり起訴すれば有罪が見込めるが、示談の成立等の諸事情を考慮して起訴を見送る場合(刑訴法248条)

不起訴処分となれば、裁判で有罪判決を受けませんので前科はつきません(もっとも、捜査対象となった事実は前歴として捜査機関の記録に残ります)。

(3) 起訴の種類

検察官が裁判所に対して求める刑事裁判には、①正式裁判、②略式手続、③即決裁判手続という3つの手続が用意されています。

これに対応して、検察官の起訴にも、①公判請求、②略式命令請求、③即決裁判請求という3種類があります。

正式裁判を求める公判請求

正式裁判とは、公開の法廷で厳格な手続に従った裁判が行われるものです。

テレビドラマや映画でおなじみの刑事裁判シーンを思い浮かべていただければ間違いありません。
検察官が被疑者を正式裁判にかけるよう裁判所に求めることを「公判請求」と呼びます。これが原則的な裁判の方式です。

一般的に単に「起訴」という場合は、公判請求のことを指しています。

略式手続を求める略式命令請求

略式手続とは、検察官の請求を受けた簡易裁判所が、公判を開かず、書面審理だけで「略式命令」と呼ばれる命令を発して100万円以下の罰金または科料の刑罰を被告人に課す裁判手続です。
検察官が簡易裁判所に対し、略式命令を求めることが「略式命令請求」です。

この「略式命令請求」は、検察官が被疑者を簡易裁判所に起訴すると同時に、略式命令にしてほしいと請求するもので、法律の概念上は起訴とは別の行為なのですが、俗称として、これを区別せずに「略式起訴」とも呼ばれています。

正式裁判は、被告人にとっては公開法廷に出廷する肉体的・精神的な負担が大きく、検察庁、裁判所にとっても、人的・物的・時間的に多大なコストがかかる手続です。

そこで、罰金または科料が相当な事案で、被告人自身が簡略な手続での裁判に異議がなければ、あえて公判を開くことなく事件を処理した方が望ましいと言え、略式手続は、このような実際上の要請に応じた制度です。

即決裁判手続を求める即決裁判請求

即決裁判手続とは、明白かつ軽微な事案について、被疑者の同意を条件として、早期に開廷される公判期日において、簡略・効率化した証拠調べ手続を行い、即日に、罰金刑または執行猶予付き自由刑(懲役刑・禁錮刑)を言い渡す裁判手続です(350条の16)。

この手続も、事件処理の効率化を図ることで、正式裁判の厳格な手続による被告人・検察庁・裁判所の負担を軽減するための制度です。

2.略式手続の流れ

では、ここからは略式命令について詳しく説明していきましょう。

略式手続とすることができるのは、次の3つの条件を満たす場合です。

①簡易裁判所の管轄に属する事件であること
②100万円以下の罰金または科料を科すことができる事件であること
③略式手続によることにつき、被疑者に異議がないこと

(1) 被疑者の同意

検察官が略式手続相当と判断したときは、略式命令請求をする前に、被疑者に対して、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、正式裁判を受けることもできると告げた上で、略式手続を受けることに異議がないかどうかを確認しなければなりません(刑訴法461条1項)。

略式手続に異議がない被疑者は、検察官から告知説明を受けたことを明らかにする「告知手続書」と異議はない旨を申し出る「申述書」が一体となった通称「略式請書」に署名・指印をします(刑訴法461条の2)。

(2) 起訴状の提出

検察官は、起訴状に「下記事件につき公訴を提起し、略式命令を請求する」との記載をしたうえで、簡易裁判所に起訴状、略式請書、その他証拠物などを提出することで、起訴と同時に略式命令請求を行います(462条)。
実務では、この場合の起訴状を「略式命令請求書」と読んでいます。

また、実務では罰金・科料の金額などについて検察官の意見を記載した「科刑意見書」も提出しています。正式裁判の「求刑」に相応するものです。

(3) 簡易裁判所の審理

略式命令請求を受けた裁判所は、検察官が提出した資料だけを調査、審理して略式命令を発します。

遅くとも検察官が略式命令請求をした日から14日以内に略式命令を発しなくてはなりません(刑事訴訟規則290条1項)。

3.略式命令ができないケース

ただし、次の場合には、裁判所は略式命令を出すことはできず、通常の規定にしたがった裁判手続を行わなくてはなりません(463条1項、2項)。

①略式命令の要件を満たさないとき
②略式命令の手続が規定に違反しているとき
③略式命令をすることが相当でないと思料するとき

この3つがどんな場合か説明しましょう。

(1) 略式命令の要件を満たさないとき

例としては、次のような場合です。

  • 罰金・科料の定めのない罪だったとき
  • 検察官の提出した証拠では不十分で無罪を言い渡すべきとき
  • 公訴時効が完成していて、免訴の判決を言い渡すべきとき

いずれも実務的には検察官のミスと言えましょう。

略式命令では、裁判所は100万円以下の罰金・科料以外の判決を出すことはできませんから、これと異なる有罪判決や無罪、免訴、公訴棄却などの判決が必要な場合は、正式裁判を行う他ないです。

(2) 略式命令の手続が規定に違反しているとき

例としては、次のような場合です。

  • 被疑者に対して、検察官からの略式手続に関する告知説明がなかったとき
  • 被告人の「略式請書」が提出されていないとき

これも実務的には明らかな検察官のミスです。

(3) 略式命令をすることが相当でないと思料するとき

例としては、次のような場合です。

  • 事案が極めて複雑な事件
  • 検察官の主張する犯罪事実の記載(「訴因」と言います)の変更や追加が必要と判断されるとき
  • 100万円以下の罰金・科料で処理するのは相当でないと判断されるとき
  • 検察官の科刑意見書の内容と著しく異なる量刑が相当と判断したとき

これらは①②のような検察官のミスではなく、事件に対する検察官と裁判官の意見が相違した場合と言えます。

記憶に新しいところでは、2017年7月、大手広告代理店の電通が社員に違法残業をさせていた労働基準法違反事件で、検察官からの略式命令請求を受けた東京簡易裁判所が、略式命令は不相当と判断して、正式裁判の開廷を決めたことが話題になりました(※)。

検察官は略式命令が相当と判断したのに対し、裁判所からは社員が過労で自殺するという結果の重大性や社会的な関心の高さから、略式命令にはふさわしくないと判断されたものと思われます。

※2017年7月12日産経ニュース「電通違法残業事件、正式裁判に 東京簡裁『略式不相当』

【被告人が否認しているときは、略式命令できるのか?】
被告人が略式手続には同意しているものの、犯罪事実自体は否認している場合には、「略式命令をすることが相当でない」場合にあたるか否か、法文上は被告人が犯罪事実を認めていることが略式命令の条件とはなっていないことから議論があります。
一方では、被告人が争う姿勢を示している以上は、公判廷で正式裁判を行うことが相当であるという主張があります(※1)。
他方では、否認のために事実認定が困難な事件については正式裁判を行うべきだが、否認といっても単に「酔っ払って覚えていない」というだけで、検察官の提出した資料から、明らかに犯罪事実が認められ、量刑判断も問題がない事案も多く、そのような場合にまで略式命令が相当でないとするべきではないという主張もあります(※2)。
どちらが正しいか、明記した規定はないので、実務では、被告人が否認していても、略式手続に異議がないなら、そのまま略式命令を発している例が多いとされています(※3)。
※1:田宮裕「刑事訴訟法(新版)」(有斐閣)413頁
※2:「新基本法コンメンタール刑事訴訟法(第3版)」(日本評論社)693頁
※3:「基本法コンメンタール刑事訴訟法(新版)」(日本評論社)380頁

4.略式命令に不服がある場合

被告人でも検察官でも、略式命令の内容に不服があるときは、その告知を受けた日(つまり略式命令謄本を受け取った日)から14日以内であれば、正式裁判を開くことを請求することができます(465条1項)。

刑訴法では初日をカウントしないので(55条1項)、告知の日の翌日を含めて14日以内です。

正式裁判の請求は、略式命令をした簡易裁判所に対して書面で請求する必要があります(465条2項)。

通常は、事実の認定、法律の適用、量刑などに不服がある場合が考えられますが、法的には、特に理由は求められていませんし、書面に記載する必要もありません。

正式裁判の請求がなされたときは、あらためて法廷での公判期日が指定され、通常の裁判が開始されることになります。

5.罰金・科料を払えなかったら

罰金・科料を払えないときは、刑事施設内の労役場で強制的に働かなくてはなりません。これを「労役場留置」と言います(刑法18条1項)。

裁判官が罰金・科料の刑を言い渡すときには、必ず支払えなかった場合の労役場留置の期間を定めて言い渡さなくてはなりません(刑法18条4項)。

その期間は、法定の範囲内(罰金は2年以下、科料は30日以下)で、裁判官の裁量で決められますが、実務では1日5000円で計算する例が多いとされています。

6.不起訴に向けて泉総合法律事務所にご相談を

略式命令は被告人にとっても出廷の負担がなく、早期に結論が出され、罰金・科料で済むことから、検察官から「略式命令で済ませる」と話を向けられると、ほとんどの被疑者はほっとするでしょう。

しかし、罰金も科料も刑罰であり、略式命令は有罪判決ですから、前科となることを忘れてはいけません。不起訴処分を勝ちとることを第1に目指すべきなのです。
そのためには弁護士の力が必要です。

泉総合法律事務所は、様々な刑事事件の弁護経験が豊富にあり、多くの案件で不起訴処分を獲得しています。まずは当事務所の無料相談をご利用ください。

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