刑事弁護 [公開日]2021年2月26日

刑事事件で逮捕されると国家資格を喪失・失職する?

刑事事件を起こしてしまった場合、ご自分の国家資格が失われてしまうのではないかと心配されることは当然です。

この記事では、刑事事件と国家資格の関係について説明していきます。

1.国家資格を失うケース

刑事事件を起こして国家資格を失うかどうかは、その国家資格によって扱いが異なります

どのような扱いとなるかは、その資格に関する法律に定められています。

例えば、学校の校長と教員については、学校教育法が次のとおり定めています。

学校教育法9条
次の各号のいずれかに該当する者は、校長又は教員となることができない。
1号 禁錮以上の刑に処せられた者(以下略)

「禁錮以上の刑」とは、懲役刑と禁錮刑のことです。

「刑に処せられた」とは、有罪判決を受けて、その判決が確定したことを意味します。執行猶予判決であっても、「処せられた」ことになります。

「なることができない」と定められている以上、これは欠格事由であって、条件に該当する場合は例外なく教員とはなれません。当然、退職を余儀なくされます。

また、教育職員免許法は、禁錮以上の刑に処せられた場合、教員免許も失効することを定めています(教育職員免許法 10条1項1号、5条1項3号)。

これに対し、例えば医師の場合、次のように定められています。

医師法第4条
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。(中略)
3号 罰金以上の刑に処せられた者

「与えないことがある」と定められているのは、厚生労働大臣の裁量によって、医師免許を与える場合もあれば、あたえない場合もあるということです。

そして、医師法では、罰金以上の刑に処せられた医師に対しては、厚生労働大臣が、免許の取消し「処分をすることができる」(医師法7条1項3号)と定められており、医師免許を取り消すか否かも裁量によることになります。

 

このように、同じく有罪判決を受けた場合でも、教員のように必ず失う資格もあれば、医師のように失うとは限らない資格もあるのです。

したがって、ご自分の資格が、どのような扱いになっているかは、法律を読んでみなければわかりません。

2.不起訴・罰金・執行猶予での国家資格の扱い

(1) 不起訴の場合

刑事事件で逮捕、勾留されたが、最終的に不起訴処分となった場合、資格に影響はないでしょうか?

前述のとおり、「刑に処せられた」とは有罪判決が確定したことを意味します。
不起訴処分は、検察官が被疑者を裁判にかけないと決めたことであって、裁判にかけられない以上、有罪判決はあり得ませんから、資格に影響はありません。

(2) 起訴されたが罰金刑で済んだ場合

資格の中には、罰金刑が確定した場合にも失ってしまうものがあります。

例えば、保育士は、何らかの犯罪で「禁錮以上」の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して2年を経過しない者は保育士となれず(児童福祉法18条の5第2号)、保育士登録も取り消されます(同法18条の19第1号)。

しかし、保育士が犯したのが、児童福祉法違反や政令で特に定められた法律違反の場合には、禁錮刑ではなく、「罰金の刑に処せられ」た場合にも、同様の扱いを受けると定められています(同法18条の5第3号)

政令で特に定められた法律としては、例えば、いわゆる「児童ポルノ禁止法」の児童買春罪(同法4条)や児童ポルノ所持罪(同法7条1項)などが挙げられています(児童福祉法施行令第4条)。

したがって、罰金で済んだからと言って、安心できるとは限りません。

(3) 有罪判決で執行猶予がついた場合

これも、その資格によって扱いが異なります。

前述のとおり、「○○の刑に処せられた」とは、執行猶予付き判決が確定した場合も含みます。

しかし、資格によっては執行猶予判決の場合を除いている場合があります。

例えば(国家資格ではありませんが)、会社の取締役は、会社法違反や金融商品取引法違反といった特定の犯罪で刑に処せられた場合は、執行猶予判決であっても、2年間は資格を失いますが(会社法333条1項3号)、それ以外の犯罪については、禁錮以上の刑に処せられても、執行猶予判決であった場合は資格を失いません(会社法333条1項4号)。

したがって、これもご自分の資格について定めた法律をよく読んで見てください。

3.刑事事件で資格を失っても復職できる?

有罪判決が確定して、資格を失い、失職した場合でも、その後、再度、資格を得て復職できないでしょうか?

これまで見てきたように、資格の喪失について定めた法律の中には、一定期間の欠格を定めているものが多くあります。

例えば、警備業者は、禁錮以上の刑に処せられ、又は警備業法の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して5年を経過しない者は警備業を営めないとされています(警備業法3条2号)。

「その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日」とは、罰金を納付した日、懲役刑・禁錮刑で満期出所した日や仮釈放された後に残余の刑期を経過した日、刑の時効が完成した日(刑法32条)、恩赦による刑の執行の免除を受けた日(恩赦法8条)です。

そこから起算して、5年を経過すれば、再び警備業を営む資格を得られることになります。

また、刑法には「刑の消滅」という制度があり、一定期間の経過で、有罪判決が確定したという法的な効果が将来に向かって消滅する扱いとなっています。

刑法第34条の2
第1項 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したときも、同様とする。

この場合は、資格との関係では、有罪判決が確定したという事実は消滅したものとして扱われますから、もはや欠格ではないということになります。

4.資格が心配な場合は弁護士に相談を!

刑事事件で資格を失わないために、もっとも重要なことは不起訴処分となることです。
起訴されなければ、資格に傷がつくことはありません。

泉総合法律事務所は、刑事事件の弁護に注力しており、多くの事件で不起訴処分を勝ちとっています。ご心配な方はいち早く当事務所の弁護士までご相談ください。

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