身近な法律の疑問 [公開日]2018年8月29日[更新日]2024年3月6日

信書開封罪とは?|家族(夫婦・親子)間や会社での扱いはどうなるか

家族など親しい間柄ほど、プライベートなメールや手紙を見られることが起こりえます。

そして、もし「信書」を正当な理由なく開封した場合、家族間であってもそれは犯罪になる可能性もあります。

ここでは刑法第133条に規定されている「信書開封罪」について解説します。

信書開封罪
第133条 正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

1.「信書」とは何か?

(1) 意思伝達文書に限定される

信書とは、「特定人から特定人に対して宛てた文書」のことです。

この文書は、「意思を伝達する文書」に限定し、「単なる事実を記載した文書」は含まれないという意見が支配的です。

ただ、単なる事実を記載した文章は含まれないと言っても、例えば「長女が運動会の徒競走で一等になりました」という事実を伝える手紙は保護に値せず、「長女は運動が得意なので、スポーツクラブに入れたいと思います」という意思を伝達する文書なら保護対象となるというのは、いかにもおかしな理屈と思われます。

個人の秘密を保護する趣旨からは、意思伝達文書に限る必要はないという意見に説得力があると言えましょう。

(2) メール便は信書か?

メール便(宅急便などによる書類送付)は当然に「信書」です。この点、メール便は「信書」を入れることができないから、「信書」ではないと誤解している方が多いようです。

たしかに、郵便法という法律で、日本郵便株式会社以外の者が「信書」の配達を業務とすることは禁止されているため、メール便で「信書」を配達することはできません(郵便法4条2項、3項)。

また配達が禁止される「信書」とは、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と定義されており(郵便法4条2項)、上述した信書開披罪の保護対象である「信書」を含むものとなっています。

しかし、現実にはメール便に手紙を入れて差し出してしまう例は少なくありません。

メール便の中に「信書」が入っていることを認識しながら開披する行為を処罰しない理由はありません。もちろん、メール便だから、中に「信書」は入っていないと考えて開披したところ、意外にも「信書」が入っていたという場合は、犯罪とはなりませんが、それはメール便が「信書」ではないからではなく、信書開披罪の故意を欠くからに他なりません。

(3) 電子メールは信書か?

電子メールは「信書」ではありません。信書開披罪は開封行為を処罰するので、当然に「信書」は物理的に封ができる有体物(通常は「紙」)に書かれたものを予定しているからです。

ただし、他人の電子メールを勝手に見る行為は、その態様によっては、不正アクセス禁止法違反に問われる可能性があります。

(4) 発信者・受信者は自然人に限るか?

「信書」は、発信者・受信者ともに自然人に限らず、法人その他の団体、さらには地方公共団体、国も含まれます。

発信者も受信者も共に、国や地方公共団体の場合は除外されるべきとする意見もありますが、国や地方公共団体でも、その秘密を守ることに利益を有している以上、除外するべきではないでしょう。

なお、信書開披罪は、被害者など告訴権者の告訴がなければ、公訴提起ができない親告罪です(刑法第135条)。これは本罪が比較的軽微な犯罪であり、被害者としては信書の存在自体を公にしたくない場合もあることに配慮しているからです。

問題は、信書開披罪の告訴権者である被害者(刑事訴訟法230条)は誰かという点ですが、判例は、発信者は常に告訴権者であり、信書を受け取った後は、受信者も告訴権者となるとしています(大審院昭和11年3月24日判決・刑集15巻307頁)。

【信書の内容それ自体が秘密であることを要するか?】
信書の内容が、特に秘密とされるべき内容を含んでいる必要はありません。開封して信書を読んだが、何も秘密は記載されていなかったという場合でも処罰されます。
開封という、秘密を侵害する危険のある行為それ自体が処罰対象であり、結果として秘密を知られなくとも犯罪は成立します。この意味で、本罪は結果発生を要しない抽象的危険犯と理解されています。

2.「封をしてある」信書を「開けた」とは?

信書には「封をしてある」必要があります。「封」の方法は、糊付け、蝋付け、ホッチキス、セロテープなど、およそ容易に信書の内容を見られないものであれば方法の如何を問いません。

ただし、封筒をクリップ止めしただけや、簡単にほどける紐で結んだだけでは「封」をしたとは言えません。

例えば、信書を机の引き出しに入れて、引き出しの鍵をかけた状態は、「封をしてある信書」という概念に含まれません。

また、処罰対象である「開け」る行為は、物理的に封を破って、信書を読める状態が作出されれば足り、実際に中身を読んだか否かは問いません。封を開ければ、それだけで直ちに既遂となります。

3.「正当な理由」とは?

「正当な理由」がある場合とは、開披する行為はしたが、その行為に違法性がないことを意味します。

信書開披罪において、その行為に違法性がないと言えるケースとは、①被害者の推定的承諾がある場合、②法令で許された正当行為である場合のどちらかです。

(1) 推定的承諾がある場合

推定的承諾がある場合とは、現実には被害者の同意を得ていないけれど、その状況下で被害者が事情を知れば同意したであろうと推定できる場合です。

例えば、ダイレクトメールは、宛名人以外の家族が開封しても構わないという推定的承諾があると言えます。

夫宛の請求書を妻が開封することも、通常は夫婦の生計は一体なので、推定的承諾があると言えるでしょう。

しかし、如何に夫婦であっても、例えば、妻の友人から妻に宛てた手紙を夫が開封することに、妻の推定的承諾があるとは言えないでしょう。

会社の業務に関連する取引先から届いた封書は、担当者の宛名となっていても、他の社員が開封することに推定的承諾があると言えるでしょう。

これに対し、会社に届いた封筒でも、たとえば差出人が個人名で取引先などからではないことがわかる封書であれば、宛名の本人以外が開封することに推定的承諾があるとは言えないでしょう。

ただ、信書開披罪は過失犯を処罰していませんから、同僚がうっかり業務関連の封書と思って開披してしまった場合は犯罪とはなりません。

(2) 法令による正当行為である場合

法令による正当行為である場合の典型例は、未成年の子ども宛の信書を親が開封する行為です。

親には親権者として、子どもを監護する権限があり(民法820条)、信書を開封して、内容をチェックすることも、監護権の行使として正当な行為と評価できるからです。

4.まとめ

信書開封罪は、どちらかというと軽微な部類に入る犯罪であると言えますが、事案によっては、告訴され被疑者になってしまう可能性もあります。

もし、刑事事件の被疑者になってしまったら、お早めに刑事事件に強い弁護士にご相談ください。

泉総合法律事務所は、初回相談無料の刑事事件分野に詳しい弁護士事務所です。
刑事事件に強い弁護士が在籍しておりますので、どうぞ安心してご相談ください。

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