身近な法律の疑問 [公開日]2020年7月28日[更新日]2021年11月24日

余罪とは?警察の捜査内容や逮捕・起訴への影響

万引き、痴漢、盗撮等の犯罪で逮捕された被疑者の中には、犯罪以外にも余罪があるケースがあります。

余罪を考慮して被疑者に不利益な扱いをすることは、原則として許されません。しかし、場合によっては、余罪の存在が刑事手続きに影響を及ぼす場合があります。

被疑者としては、余罪がばれるかばれないか、余罪の存在がいかなる影響を及ぼすか気になることでしょう。

今回は「余罪」について、警察の捜査や余罪が及ぼす影響等について解説します。

1.余罪とは?

余罪とは、いまだ捜査の対象となっていない、又は起訴されていない犯罪事実を言います。

例えば、窃盗罪(刑法235条)の被疑事実で逮捕された者を取調べた結果、近所で発生していた別の窃盗事件の嫌疑が生じたとします。
この、新たに発覚した窃盗罪の被疑事実が余罪です。

【前科とは?】
余罪と聞くと、前科と何が違うの?と考える方がいると思います。前科とは、有罪判決を受けた経歴を言います。つまり、捜査対象となったり、起訴されたりしただけでは足りず、更に有罪判決を経て初めて前科となります。
他方、余罪は、いまだ捜査対象となっていない、又は起訴されていない犯罪事実です。そのため余罪は、後に前科となる可能性を秘めていますが、前科とは異なる概念なのです。
このように、前科と余罪は異なるのですが、刑事手続きにおいては、前科・余罪共に、これがあることで被疑者が不利益に取り扱われることがあります。

2.余罪が判明するケース

ある犯罪行為を行い逮捕された場合、その者に余罪があることが判明することがあります。それはどのようなケースなのでしょうか。

(1) 取調べに際する被疑者の自白

ある被疑事実で逮捕・勾留されている場合、警察官や検察官等の捜査機関から取調べを受けます。その際に、「他にも何か犯罪をしたのではないか」といった旨の質問・確認がされることがあります。

そこで被疑者が余罪について供述することで、新たな犯罪事実が発覚することがあります。

(2) 警察の捜査活動

犯行の目撃者が警察署に通報して、又は、被害者が被害届を出すことにより、近隣で事件が発生したことが明らかになった場合、警察の捜査活動が行われます。

例えば、同種の窃盗、放火事件が近隣で多数発生している場合、捜査機関は、犯人が同一人物なのではないかと推認して捜査活動をすることが通常なので、特に厳重に捜査します。そこで集めた証拠により、別件で捜査対象になっている者が犯人として浮かび上がってくる場合があります。

また、盗撮で逮捕された場合、被疑者の家宅を捜索したところスマホ等のデータに別の盗撮画像が入っていた(あるいはスマホやパソコンを押収され、証拠となるデータを復元した)、といったときには、余罪の盗撮事件についても追及されることになるでしょう。

3.余罪が及ぼす影響

余罪を考慮して被疑者を不利益に扱うことは、原則として許されませんが、場合によっては余罪が被疑者に何らかの影響を及ぼすことがあります。

(1) 勾留される可能性が高まる

逮捕とそれに続く勾留は、必ず行れるわけではありません。これらは、身体拘束された者の人権を侵害するので、逃亡の恐れや罪証隠滅の恐れがある等、必要がある場合に行われます。

他方、余罪があるからといった理由だけで被疑者を逮捕することはできません

もっとも、逮捕に続く勾留の判断に関しては、余罪が考慮されることがあります。なぜなら、起訴するか否かの判断に際して、余罪の有無は1つの重要な事項だからです。

したがって、余罪の存在が疑われる等の理由から勾留されたり勾留が延長されるといったことは、実際上あります。

しかし、この場合に考慮される犯罪も、逮捕されている犯罪事実に関連する同種犯罪に限られます。したがって、例えば窃盗罪で勾留請求されたのに、余罪の殺人罪を理由に勾留を認める事は出来ません。

(2) 起訴される可能性が高まる

起訴か不起訴かの判断は、検察官が決定します。

判断に際しては、犯罪の重大性、被害者の処罰感情、被疑者の反省や情状の有無、示談が成立しているか等の事情を考慮するのですが、余罪の存在が考慮される場合があります。

例えば窃盗罪で逮捕・勾留された被疑者を、余罪である別の窃盗罪を理由に起訴するのはあります。しかし、起訴に値しない窃盗罪を、余罪である強制わいせつ罪を理由に起訴するのは許されません。

(3) 重い刑罰が科される可能性がある

起訴されると、被疑者は被告人という名称に代わり、裁判となります。

日本の刑事司法では、有罪率が非常に高いので、起訴された場合のほとんどが有罪判決になります。
有罪判決が出されるという事は、被告人に刑罰が科されることを意味します。刑罰の重さは、法定の範囲内で裁判所が決めます。

裁判所は、被告人の量刑を決める審理に際して、被告人の余罪を考慮して、起訴された事件の量刑判断をすることができる場合があります。

しかし、これは被告人が争っていない同種犯罪に限られる例外的な措置です。したがって、窃盗罪で有罪となった被告人を、起訴されていない殺人罪や、容疑を否認している強制わいせつ罪の存在を理由に、重く処罰することは許されません。

(4) 余罪について逮捕・勾留・起訴される

逮捕・勾留は被疑事実毎に行われます(事件単位の原則)。そのため、窃盗罪の容疑で逮捕された後日に、余罪の窃盗罪で逮捕されることもあります。
これは、起訴においても同様です。

余罪についても起訴された場合、当初起訴された事実に加え、余罪についても裁判が行われます。

そうすると、裁判になる犯罪事実は2つあることになるので、被告人の負担も増し、また、二つの罪で起訴されているため、より重い刑罰に科される可能性があります。

4.余罪がある場合は特にお早めに弁護士に相談を

余罪がある場合、これが無い者に比べて身体拘束が行われる可能性が高まったり、裁判において重い刑罰が科されたりする可能性があります。また、場合によっては余罪が不当に考慮されることもあるかもしれません。
これを回避するためには、弁護士に依頼して緻密な弁護方針を練ることが重要です。

余罪が発覚している場合には、被疑事実についての被害者と示談するだけでなく、余罪の被害者と示談することも重要になってきます。

余罪が発覚していない場合には、犯行を捜査機関に申告した方が良いのか、それとも黙っていた方が良いのか、非常に大きな悩みとなります。これらの判断は、刑事事件に精通した弁護士に相談し、メリット・デメリットを把握してから対応するのが最も合理的です。

[参考記事]

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犯罪を犯した方、余罪がある方は、早急に弁護士にご相談ください。

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