身近な法律の疑問 [公開日]2020年5月18日

女子トイレに入って逮捕されることってある?

「女子トイレに侵入して逮捕」という報道を目にした事はありませんか?

実は、正当な理由なく女子トイレに侵入すると逮捕されることがあります。

ここでは、女子トイレに侵入した場合に成立する犯罪(適用される法律)と、これが正当化される場合について説明します。

1.女子トイレに入った場合に成立しうる犯罪

女子トイレに入った場合に成立しうる犯罪は以下のものです。

(1) 建造物侵入罪

建造物侵入罪は、刑法130条に規定されています。

刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

建造物侵入罪は、管理権者の意思に反する立ち入りを処罰する犯罪です。

女子トイレの管理者は、男性が女子トイレに立ち入ることを許可しないことが通常ですから、男性が女子トイレに入ることは、建造物侵入罪が成立するのです。

管理者は建造物の一部分を立入禁止とすることも可能ですから、たとえ自分が勤務する会社の女子トイレであっても、男性の立ち入りは建造物侵入罪に問われる可能性があります。

もっとも、建造物侵入罪は、わざと入った場合(故意がある場合)に成立しますから、男性が、男子トイレと間違えて、うっかり女子トイレに入ってしまった場合には、建造物侵入罪は成立しません。

なお、女性であっても女子トイレに立ち入る目的によっては、建造物侵入罪に問われる可能性があります。例えば、盗撮目的です。

次に説明するとおり、トイレ内で他人の身体などを盗撮する行為は、たとえ同性同士であっても条例によって禁止されており、女性であっても、盗撮目的で女子トイレに立ち入ることは管理者の意思に反すると考えられるからです。

(2) 迷惑防止条例違反

女子トイレに侵入し、盗撮行為をおこなったときは、迷惑防止条例違反に問われます。

迷惑防止条例とは、各都道府県が定める、盗撮や痴漢等の公衆に迷惑をかける行為を規制する条例です。

例えば、東京都迷惑防止条例では、トイレ内において、①他人の下着や身体を撮影する行為、②カメラなど撮影機器を差し向ける行為、③撮影機器を設置する行為を禁止しています(同条例5条1項2号イ)。

撮影した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条2項1号)、常習犯は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(8条7項)。

撮影機器を差し向ける行為、設置する行為は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金刑(8条1項2号)、常習犯は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(8条8項)。

なお、男性による盗撮行為だけでなく、女性による盗撮行為も禁止されています。また、盗撮対象は女性だけでなく、男性に対する盗撮も処罰対象です。

したがって、女性が男子トイレで盗撮すること、男性が男子トイレで盗撮すること、女性が女子トイレで盗撮することも処罰されます。

(3) 強制わいせつ罪

女子トイレ内で「わいせつな行為」をした場合は、強制わいせつ罪が成立します。

強制わいせつ罪(刑法176条)とは、13歳以上の者に対し暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合、又は、13歳未満の者に対しわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。

強制わいせつ罪を犯した者は、6月以上10年以下の懲役に処されます。

わいせつな行為とは、人の性的な羞恥心を害する行為です。

たとえ男性が女子トイレに侵入しても、侵入行為自体が「わいせつな行為」に該当するわけではありませんから、建造物侵入罪に問われるにとどまります。

なお、盗撮行為と同様に、強制わいせつ罪では、加害者も被害者も男女を問いません。したがって、女性が強制わいせつ行為をする目的で女子トイレに立ち入ることは、管理者の意思に反するものとして建造物侵入罪に問われる可能性があります。

(4) 軽犯罪法違反

軽犯罪法は、正当な理由なく、他人のトイレを「密かに覗き見る行為」を禁止し、違反に対しては拘留又は科料に処すると定めています(軽犯罪法1条23号)。

これも男女を問いませんから、女性が覗き見目的で女子トイレに立ち入ることは、管理権者の意思に反し、軽犯罪法違反となる可能性があるわけです。

2.女子トイレに入って逮捕される?

女子トイレに侵入して1で説明した犯罪が成立する場合、逮捕されることもあります。

例えば、女子トイレに侵入するところを見られその場で取り押さえられ、通報で駆けつけた警察官により現行犯逮捕されることがあります。

もっとも、逮捕は犯罪を犯した場合に必ず行われるというものではありません。言い換えると、逮捕には必要性が求められます。

必要性とは、身柄を拘束しないと、証拠を隠滅したり、逃亡したりする危険があることを指します。不合理な弁解で犯行を否定したり、住所不定であったりする場合は、このような危険性があると判断され易くなります。

3.男性が女子トイレに入ることが正当化される場合

場合によっては、男性が女子トイレに入ることが正当化される場合があります。

先に説明した建造物侵入罪の条文には、「正当な理由がないのに」と規定されています。正当な理由があることを、法的には、「違法性がない」と表現します。

では、どのような場合に、男性の女子トイレへの侵入に「違法性がない」とされるのでしょう?

まず、男性が暴漢や野犬に襲われて、逃れるためにやむなく女子トイレに逃げ込んだ場合には、緊急避難(刑法37条)として違法性がないとされる余地があるでしょう。

次に、男性が男子トイレに入ろうとしたら空いていなかったり、壊れていて使用できなかったりした場合に、排泄を我慢することができず、やむを得ず女子トイレを使用した場合はどうでしょうか?

この場合、どのような理屈で緊急避難を認めるかは議論の余地があります。

第1に、便意を我慢できないことが「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難」(37条1項)に該当するか問題です。

無理に我慢すると健康を害するので自己の身体に対する現在の危難と言えるかも知れません。漏らしてしまうと衣服を汚してしまうので、自己の財産に対する現在の危難と言えるかも知れません。

第2に、緊急避難では、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」(37条1項)であることが要求されますから、建造物侵入で害された管理権者の利益と、侵入した者の健康又は衣服という財産を比較することになります。守られた利益が健康なのか、衣服なのか、どちらと考えるかで結論が変わりそうです。

第3に、「やむを得ずにした行為」(37条1項)といえるかも問題です。近所にトイレを利用できるコンビニエンスストアはなかったかどうか、もう少し待てば男子トイレが空いたのではないかなどが問われるでしょう。

ただこれは、「仮に法律論として厳密に考えれば、どうなるのだろうか?」というレベルの話に過ぎず、現実に、このような議論がなされているわけではありません。

実際には、このような事例の場合は、通報されたとしても、事情が判明すれば、立件されません。これは法律論以前の常識の問題です。

ただ、真実、便意からやむを得ずに使用した場合でも、通報で駆けつけた警官は、盗撮や覗きなどの何らかの犯罪目的での侵入を疑うでしょう。

理由があっても疑われるのは当然なのですから、丁寧かつ真摯に理由を説明する必要はあります。盗撮を疑われたら、スマホを提示して、おかしな画像が保存されていないことを積極的に明らかにするべきでしょう。

4.まとめ

男性が女子トイレに入ることは、それだけで建造物侵入罪という犯罪となることが原則です。

便意を我慢できず、仕方なく女子トイレを利用したケースでも、警察がその言い分を信用してくれるとは限りません。安易な利用は慎むべきです。

もしも、女子トイレの使用で、犯罪の嫌疑をかけられたときは、ただちに弁護士に相談されることをお勧めします。

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