検察審査会とは?簡単に・わかりやすく解説
検察審査会という制度をご存知でしょうか?
度々話題になるこの制度は、検察官の不起訴処分の妥当性について審査する、とても重要な制度です。
この記事では、検察審査会についてわかりやすく解説します。
1.検察審査会とは
(1) 刑事事件で不起訴になる理由
検察審査会は、不当な不起訴処分が行われないよう、適正な刑事手続きを実現するための制度です。
そこで、まずは不起訴処分について簡単に解説します。
不起訴処分とは、被疑者を起訴しないという検察官の処分です。
罪を犯したとされる者に刑罰を科すには裁判で有罪判決を下す必要があり、その裁判を始めるには、検察官が被疑者を起訴する必要があります。
起訴とは、検察官が裁判所に対し、裁判を行って被疑者を処罰するよう求める行為のことです。
もっとも検察官は、被疑者が犯罪を起こしたことを裁判で証明できる見込みがあっても、諸般の事情を考慮して被疑者を不起訴処分(起訴猶予処分)とすることができます。
国家刑罰権の行使は被告人に究極の不利益を科すものですから、謙抑的に行使されることが望ましく(刑法の謙抑主義)、また起訴処分をして被疑者を裁判にかけること自体が被疑者にとって大きな経済的、肉体的、精神的な負担を与えます。
そこで、軽微な事件、被害者が犯行を許している、被疑者が反省している、再犯の危険性がないなど、その他被疑者に酌むべき事情がある場合で、裁判で刑罰を科す必要がない場合には、検察官の裁量で、起訴を控えることができるという制度(起訴便宜主義)を採用しています。
なお、現行の刑事訴訟法は、起訴独占主義をとっています。この制度は、犯罪を犯したことが疑われる被疑者を起訴する権限を、検察官に独占させるという制度です。この制度により、犯罪を犯したことが疑われる者を一般人が起訴することはできません。
(2) 検察審査会とは?
先述のように、検察官は起訴権限を独占しており、起訴するか否かについても広範な裁量権を持っています。
一方、起訴処分がなされた場合にはその当否を裁判所がチェックできるものの、不起訴処分がなされた場合にはその当否をチェックすることができませんでした。また、検察官の処分には一般国民の意思を反映させることはできません。
このような理由から、検察官により不当な不起訴処分が行われる可能性は否定できません。
検察審査会は、この問題に対処し、適正な刑事手続きを実現するための制度です。
検察審査会とは、国民の中から選ばれた11人の者(検察審査員)が、検察官による不起訴処分の妥当性を審査する制度をいいます。検察審査会の任務と審査の手続き等については検察審査会法が定めています。
なお、検察審査会は全国に一つではなく、政令(※)で定められた地方裁判所及びその支部の所在地に置かれます(1条1項)
※「検察審査会の名称及び管轄区域等を定める政令」別表
検察審査会の扱う事項は、①検察官の不起訴処分の当否の審査、②検察事務の改善に関する建議又は勧告です(2条1項)。以下では①を念頭に置いて解説します。
(3) 検察審査員はどのように選ばれるのか
11人で構成される検察審査員は、検察審査会が置かれた管轄区域の衆議院議員選挙権を有する者の中からくじで選ばれます(4条)。
したがって、20歳以上で選挙権を有する者は、検察審査員になる可能性があります。検察審査員に選ばれた者には、検察審査会から手紙が届きます(12条の2第3項)。
もっとも、裁判官や検察官、弁護士などは検察審査員の職務につくことができませんので、候補者から外されます(6条)。また、検察審査員が当該事件の被疑者や被害者などである場合には、職務の執行から外されます(7条)。
加えて、70歳以上の者、学生、重い疾病や海外旅行中などやむを得ない事由があって職務を辞することの承認を受けた者は、検察審査員の職務を辞することができます(8条)。
検察審査員に選ばれた者がこれを無視し、正当な理由なく召集に応じない場合、10万円以下の過料が科されます(43条1項)。
検察審査員の任期は6か月で(14条)、3か月ごとに半数が入れ替わります(13条1項)。また、検察審査員が欠けた時のために、補充員も選ばれます(13条1項)。なお、検察審査員には出頭に応じて日当が出ます(29条)。
2.検察審査会による審査の流れ
検察による不起訴処分の当否に関する審査は、①告訴・告発などをした者や、犯罪の被害者などから申立てがあった場合(2条2項)及び、②検察審査会の過半数による議決があった場合(2条3項)に開始されます。後者は、例えば不起訴処分を伝える報道などに基づき、検察審査会が職権で審査を開始するケースです。
対象事件について限定は無いので、殺人・強盗事件等の重大事件だけでなく、窃盗、名誉毀損、器物損壊等罪のような比較的法益侵害が軽微な事件についても審査を申し立てることができます。
審査申し立ては書面で行い、かつ理由を明らかにして行わなければなりません(31条)。審査の申し立てには費用はかかりません。また、申立ての期限はありませんが、公訴時効が完成するまでに起訴する必要がありますから、これを考慮して申し立てを行わなければなりません。
審査請求を受けた検察審査会は、検察官による不起訴処分が妥当であったか否かについて審査します。そして、以下の処分をします(39条の5第1項)。
①起訴を相当と認めるとき・・・起訴を相当とする議決(起訴相当)
②不起訴処分を不当と認めるとき・・・不起訴処分を不当とする議決(不起訴不当)
③不起訴処分を妥当と認めるとき・・・不起訴処分を相当とする議決(不起訴相当)
議決は過半数が原則ですが(27条)、①については8人以上の多数によらなければなりません(39条の5第2項)。
①②の議決がされた場合、検察官は被疑者を起訴処分とするか不起訴処分とするかを再度判断しなければなりません(41条1項、2項)。そして、再度起訴処分にするか不起訴処分にするかを決定し、その旨を検察審査会に通知しなければなりません(41条3項)。
①の議決が出されたにもかかわらず再度不起訴処分がされた場合、検察審査会は再審査を行います(41条の2第1項)。その結果、起訴相当と認めるときには起訴議決を行います(41条の6第1項)。
起訴議決がされた場合、検察審査会は起訴議決書を作成し、これを裁判所に送ります(41条の7第3項)。そして裁判所は、起訴議決された事件について検察官の職務を行う弁護士を指定します(41条の9第1項)。この指定を受けた弁護士は、検察官の代わりに公訴を提起し(41条の10)、裁判で被告人の罪責を追及していきます(41条の9第3項)。
令和元年において、検察審査会は2068件の事件を処理しています。そのうち、起訴相当とされたのが9件、不起訴不当とされたのが134件なので、審査された事件のうち約7%の事件が不当な不起訴と判断されています。これを、検察審査会に付された事件であっても、検察官の処分は大方妥当と判断されていると見るか、検察による100%の公訴権独占体制の中で7%もの不当な判断があると見るか、評価は分かれるところでしょう。
また、起訴相当、不起訴不当とされた事件で令和元年に処理されたもの(110件)のうち、検察官が再度の判断において起訴処分としたのは21件(19.1%)となっています。
検察審査会により起訴相当の議決がされた後,検察官が再度不起訴処分とし、検察審査会が再審査した事件は、27件あります(平成21年から令和元年の期間のものに限る)。そのうち、起訴議決に至ったものは14件あります。
参考:令和2年版犯罪白書
3.まとめ
このように、検察官により不起訴処分をとなった場合でも、事件が検察審査会に付された場合には起訴処分とされる場合があります。もっとも、検察審査会に付され、その後起訴処分となる可能性は低いです。したがって、不起訴処分とされた後に再起訴などを心配する必要は基本的にないでしょう。
ただ、それ以前に、不起訴処分を得るためには弁護士のサポートが必要です。逮捕・勾留されない、前科をつけないためにも、刑事事件を犯してしまった方はすぐに泉総合法律事務所にご相談ください。