裁判員制度導入の目的は?裁判員の役割・今後の課題など徹底解説
裁判員制度とは、どういうもので、どういう目的で導入されたのでしょうか。
裁判員制度が導入されてから8年が経過しましたが、裁判員裁判が始まったことにより何かしらの変化は見られるのでしょうか。
以下においては、裁判員制度の意義・目的等、裁判員の権限等、裁判員裁判の流れ、裁判員制度の導入で変化したこと及び今後の裁判員制度の課題などに触れながら、裁判員制度(裁判員裁判)について詳しく解説します。
なお、以下では、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律は「裁判員法」、裁判員の参加する刑事裁判に関する規則は「裁判員規」と略記します。
1.裁判員制度の意義・目的等
(1) 裁判員制度の意義
裁判員制度の意義は、一般の国民が裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになることにあるとされています。
(2) 裁判員制度が導入された経緯
(1)の見地から、「刑事訴訟事件の一部を対象に、広く一般の国民が、裁判官と共に、責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度」として、裁判員制度の導入が決定されました。
そして、これを受けて平成16年5月21日に裁判員法が成立し、平成21年5月21日から裁判員制度が始まりました。
(3) 裁判員制度の目的等
裁判員制度は、国民の関心の高い重大事犯につき、裁判官3人と衆議院議員の選挙権を有する満20歳以上の者の中から選任される裁判員6人で構成される合議体によって裁判をする制度です。
裁判員制度は、広く国民が裁判の過程に参加することによって、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資すること」を目的としています(裁判員法1条)。
ところで、仕事や家庭を持つ一般の国民が裁判に参加しやすいようにするためには、裁判が計画的かつ迅速に行われなければなりません。
また、国民が実質的に裁判に参加したといえるためには、法律の専門家でない裁判員が、裁判の手続や判決の内容等を容易に理解でき、さらに、公判での証拠調べを通じて十分に心証を形成できるように、口頭主義、直接主義の実質化を図る必要もあります。
従前の刑事裁判実務(以下「従前の裁判」といいます。)においては、審理に長期間を要する事件もあり、また、審理・判決内容が難解で、書証に依存する傾向があるといった問題点が指摘されてきましたが、裁判員制度の導入によってこれら長年の懸案が解消され、国民にとって分かりやすい裁判が実現されることも期待されています。
(4) 諸外国の例
国民が裁判に参加する制度は、アメリカ(陪審制)、イギリス(陪審制)、ドイツ(参審制)、フランス(参審制)、イタリア(参審制)などでも行われています。
(5) 裁判員裁判の対象となる事件
裁判員裁判の対象となる事件(対象事件)は、①法定刑に死刑、無期懲役・禁錮を含む罪に係る事件と、②法定合議事件のうち故意の犯罪行為で被害者を死亡させた事件です(裁判員法2条1項)。
①の例としては、強盗殺人、強盗致死傷、強盗・強制性交等及び同致死、殺人、現住建造物等放火、強制わいせつ致死傷、強制性交等致死傷、身の代金目的誘拐、覚せい剤の営利目的密輸入などがあり、②の例としては、傷害致死、保護責任者遺棄致死、危険運転致死などがあります。
2.裁判員の権限等
(1) 裁判員の判断事項
裁判員裁判では、裁判の判断事項を裁判官と裁判員の合議によって決めますが、その判断事項は、有罪判決、無罪判決及び少年法55条による家庭裁判所移送の決定に係る事実認定、法令の適用及び刑の量定です(裁判員法6条1項)。
裁判員は、上記の判断に必要な事項について、裁判長に告げて、証人に尋問し、被告人に質問するなどの権限を有しています(裁判員法56条ないし59条)。
評議の際には、裁判員は、裁判官と同じ1票を持ちますが、自らの意見を述べなければなりません(裁判員法66条2項)。
(2) 裁判員が関与しない判断
以上に対し、法令の解釈に係る判断、訴訟手続に関する判断(少年法55条の決定を除きます。)、その他裁判員の関与する判断以外の判断については、構成裁判官だけの合議で判断されます(裁判員法6条2項)。
これらの判断は、いずれも専門性が高く、一般の国民の常識を反映させるべきものとはいえないからといわれています。
もっとも、これらの事項についても、構成裁判官は、その合議により、裁判員の傍聴を許し、意見を聴くことができます(裁判員法68条3項)。
(3) 裁判員のための分かりやすい審理
なお、上記に関連して、法曹三者は、裁判員の負担を軽減するとともに、裁判員が事件の実体について十分理解し、適切な判断ができるようにするために、審理を迅速で分かりやすいものにしなければならないとされています(裁判員法51条)。
特に、「検察官及び弁護人は、裁判員が審理の内容を踏まえて自らの意見を形成できるよう、裁判員に分かりやすい立証及び弁論を行うように努めなければならない」のです(裁判員規42条)。
そして、裁判長は、裁判員がその職責を十分に果たせるように、裁判員に対して、必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに、評議を裁判員に分かりやすいものとなるように整理し、裁判員が発言する機会を十分に設けるなどの配慮をしなければなりません(裁判員法66条5項)。
(4) 刑の量定について
ここで、刑の量定の具体例を見てみましょう。
刑の量定について意見が分かれ、その説が各々、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見によるとされています(裁判員法67条2項)。
これはどういうことかと言いますと、例えば、量刑の意見について、裁判員6人のうち、懲役15年の者が1人、懲役14年の者が2人、懲役13年の者が1人、懲役12年の者が2人で、裁判官3人のうち、懲役13年の者が1人、懲役12年の者が2人であった場合、被告人に最も不利な意見である懲役15年の1人を懲役14年の員数に加えても過半数に達しないばかりか、構成裁判官の意見も含まれていませんので、懲役14年を言い渡すことはできません。
そこで、更にそれらを懲役13年の員数に加えると裁判員(4人)と構成裁判官(1人)を含めた員数が過半数となるので、刑としては懲役13年となります。
3.裁判員裁判の流れ
(1) 裁判員選任手続の流れ
①裁判員候補者名簿の作成
前年の秋ころ、地方裁判所ごとに、管内の市町村の選挙管理委員会がくじで選んで作成した名簿に基づき、翌年の裁判員候補者名簿が作成されます。
②名簿記載通知・調査票の送付
前年の11月ころ、裁判員候補者に裁判員候補者名簿に記載されたことが通知されます。
また、就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかを尋ねる調査票が送付されます。
③事件ごとに名簿の中からくじで選定
調査票により、裁判員になることができない人や1年を通じて辞退が認められる人は、裁判所に呼ばれません。
事件ごとに裁判員候補者名簿の中から、くじで裁判員候補者が選ばれます(選定)。
④呼出状・質問票の送付
原則、裁判の6週間前までに、くじで選ばれた裁判員候補者に質問票を同封した選任手続期日のお知らせ(呼出状)が送られます。質問票により、辞退が認められる人は呼出しが取り消されます。
⑤選任手続期日
裁判員候補者のうち、辞退を希望しなかったり、質問票の記載のみからでは辞退が認められなかったりした人は、選任手続期日の当日、裁判所へ行くことになります。
⑥選任手続
裁判長は、候補者に対し、不公平な裁判をするおそれの有無、辞退希望の有無・理由などについて質問をします。
候補者のプライバシーを保護するため、この手続は非公開となっています。
⑦裁判員・補充裁判員選任
最終的に事件ごとに裁判員6人が選ばれます(必要な場合は補充裁判員も選任されます。)。
(2) 公判手続の流れ
①対象事件
上記1の(5)のとおりです。
②合議体の構成
対象事件を取り扱う合議体の構成は、原則的には裁判官3人と裁判員6人です。
③公判前整理手続(必要的)
この手続では、主張の明示や証拠の開示等を通じ、争点及び証拠の整理を行うほか、明確な審理計画を立てます。
裁判所は、当事者との間で争点及び証拠の整理の結果を確認し、この手続を終了させます。
この時点では,裁判員は裁判に関与しません。
【参考】公判前整理手続きとは?対象事件・必要な事前準備を解説します
④公判審理
裁判員はこの時点から裁判に関与します。
公判手続は、原則として公開の法廷において開く公判期日において行います。公判期日の指定に当たっては、できる限り連日開廷し、継続して審理を行うようにします。
⑤冒頭手続
まず、人定質問や検察官の起訴状朗読、黙秘権等の権利告知、被告人及び弁護人の被告事件についての陳述が行われます。
⑥証拠調べ手続
㈠冒頭陳述
続いて、証拠調べ手続に入り、検察官や弁護人が証拠により証明しようとする事実を述べる冒頭陳述を行います。
㈡公判前整理手続の結果顕出
裁判所が公判前整理手続の結果を法廷に顕出し、公判前整理手続で行った争点と証拠整理の内容を明らかにします。
🉁証拠調べ
証拠物、証拠書類の取調べや証人尋問等が行われます。
また、被告人には黙秘権がありますが、被告人が自ら供述する場合は被告人質問も行われ、その結果も証拠となります。
⑦弁論手続
㈠検察官の論告・求刑
証拠調べが終わった後、検察官は、事件に対する事実面、法律面の意見を述べます。これを論告といい、刑の重さに関する意見は特に「求刑」と呼ばれます。
㈡弁護人の弁論
弁護人は、被告人の立場から見た事件に対する事実面、法律面の意見を述べます。これを弁論といいます。
🉁被告人の最終陳述
最後に、被告人が事件についての意見を述べます。
⑧評議
公判審理が終結すると、裁判官と裁判員は、証拠調べの結果や当事者の主張を踏まえ、事件の内容について議論をして、被告人が有罪かどうか、有罪の場合はどのような刑にするのかを話し合います(評議)。
⑨評決
裁判員の意見は裁判官の意見と同じ重みを持ちます。評決は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によります。
⑩判決
最終評議において有罪・無罪、有罪の場合には量刑につき結論が決まりますと、判決が宣告され、第1審における事件は終局します。
(3) 参考
裁判員・補充裁判員には日当が支払われ、裁判終了後に、感謝状及びバッジが贈られます。
4.裁判員制度の導入後
(1) 裁判員制度の導入で変化したこと
①効率の良い審理の実現
従前の裁判においては、立証責任を負う検察官がその必要性を主張する限り、捜査段階で作成された証拠書類(書証)がそのままの形で大量に公判廷に持ち込まれ、詳細な証拠調べがなされていました。
しかし、裁判員裁判においては、裁判員が「目で見て耳で聞いて分かる」審理を実践するため、公判前整理手続において、争点や証拠を整理し、証拠調べの方法やその順序、審理日程が決められ、それを受けて公判審理では、効率的で工夫された証拠調べがなされているといえます。
②証拠調べの改善
従前の裁判の書証の取調べは、要旨を告げる方法で行われることがほとんどでしたが、このような方法は後に書証の内容を精査することを前提にしたものですから、裁判員が公判廷において証拠の内容を十分に把握して心証を形成することは極めて困難です。
そのため、裁判員裁判における書証の取調べは、原則どおり、朗読によるべきとされています。
さらに、証拠調べは、裁判員が法廷で心証が取れるように、厳選された証拠によって行われ、争いのない事実については、その事実や証拠の内容・性質に応じた適切な証拠調べがなされるようになっています。
③取調べの可視化など
その他、裁判員裁判が始まってから、㈠捜査の段階で、取調べの可視化、すなわち、取調べの録音・録画がかなり導入されるようになったこと、㈡公判が始まる前の手続の段階で、公判前整理手続に付されれば当然として、また、それに付されなくても、任意の証拠開示がかなり広がっていること、🉁公判において、いわゆる人証中心の裁判になり、とりわけ被告人質問を先行して乙号証を使わない裁判が広がりつつあることが、特徴として挙げられています。
(2) 今後の裁判員制度の課題
①公判の分かりやすさ
裁判員に対するアンケート結果では、裁判員裁判の実施当初から、公判での弁護活動が分かりにくいという指摘が続いているようですので、弁護士会においては、その結果を踏まえた研修等を行う必要があると考えられます。
②対象事件の再検討
性犯罪の事件は、被害者の心情を考慮すると、裁判員裁判の対象事件から除外すべきではないかという意見もあり、今後の検討課題と思われます。
また、覚せい剤取締法違反の事件は、一般市民の社会常識を反映させるという側面が低いという指摘もあり、対象事件として残すかどうかは今後の検討課題といえます。
③辞退率の上昇、出席率の低下など
その他、裁判員選任手続における辞退率の上昇、出席率の低下、証拠開示をめぐる当事者間の争いとそれに起因する手続の遅れ、難解な法律概念をいかに裁判員に説明するか、悲惨な証拠内容が含まれ、裁判員の心の負担が懸念される場合に、その証拠調べはどうあるべきか、また、証拠調べの結果、裁判員が精神的に強い衝撃を受けた場合、いかにしてその心のケアをするか、公判審理に長期間を要する事件の審理の分かりやすさをいかに継続・維持するか、死刑求刑事件の裁判員の負担をいかに軽減するか、守秘義務の範囲をより分かりやすくするためにはどうしたらよいかなどについては、今後の課題として、必要に応じた対策を講じていく必要があるものと考えられます。
5.まとめ
いかがでしょうか。裁判員裁判について深く理解することができたと思います。
自分が裁判員に選ばれることもあれば、もしかしたら裁判員裁判の対象となる事件の被疑者(被告人)になることもあるかもしれません。
刑事事件で逮捕され、起訴されそうだという方は、お早めに刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士に相談してください。