身近な法律の疑問 [公開日]2021年6月24日

所持品検査は合法|違法となるケースはあるのか

道を歩いていたとき、警察官から声をかけられ「鞄の中を見せてもらってもいいですか?」と聞かれた経験がある方もいると思います。
このように、警察官が国民の所持している物を検査することを所持品検査といいます。

そもそも、このような所持品検査は許される行為なのでしょうか?

仮に、所持品検査に法的根拠があり、合法だとしても、違法となるケースはあるのでしょうか?

この記事では、所持品検査を受けた場合の対処法について説明します。

1.所持品検査は合法

およそ行政の活動には法律の根拠が必要です(これを「法律の留保の原則」と呼びます)。警察も行政のひとつですから、法律の根拠なくして所持品検査を行うことはできません。

では、そもそも、現行法上、所持品検査について定めた規定はあるのでしょうか?

(1) 所持品検査について定めた規定は存在しない

結論から言うと、所持品検査について定めた規定は存在しません。

そうすると、「所持品検査について明文で定めた規定は存在しないのだから、警察官には所持品検査を行う権限はないので、日頃行われている所持品検査は違法なのでは?」と疑問を抱く方もいるでしょう。
しかし、所持品検査は合法となる場合もあると考えられています。何故でしょうか?

(2) 所持品検査が合法な理由

最高裁によると、その根拠は、職務質問について定めた警察官職務執行法という法律にあると言います。条文を見てみましょう。

警察官職務執行法2条1項
「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」

条文からわかるように、この警察官職務執行法は職務質問については規定しているのですが、所持品検査については何ら規定していません。

[参考記事]

職務質問って拒否してもいいの?

ところが、最高裁判所は、昭和53年6月20日に出された判決で、以下のように述べています。

「警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。」

ただ、必要性・有効性があるからといって、法律の根拠が不要となるはずがありませんから、この最高裁の説明では、どうして「付随してこれを行うことができる場合がある」ことになるのか、その理由が不明です。論理的には破綻していますが、実際の必要性から認めざるを得なかったわけで、最高裁も苦しいところです。

2.所持品検査が違法となる場合

ただ、最高裁は「職務質問に附随してこれを行うことができる場合がある」という網をかぶせましたから、野放図な所持品検査を許したわけではありません。

まず、所持品検査は、任意捜査である職務質問に付随して許されるため、職務質問が許される要件を満たしていることが要求されます。

即ち、次の①~③の各要件です。

① 異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者
② 既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者
③ 上記①または②の者を停止させて質問する際であること

したがって、何ら犯罪の嫌疑などがない者に対する所持品検査は、それだけで違法です。

次に、適法な職務質問の要件を満たしている場合でも、所持品検査として、どのような行為まで許されるのかが問題となります。

まず、(ⅰ)所持品を外部から観察して、内容物について口頭で質問すること(ⅱ)内容物の開示を要求することは、当然に許されます。これらは職務質問そのものとも言えるからです。

次に、(ⅲ)例えば、バッグやポケットの外側から手で触れて内容物を確かめる行為(「フリスク」と呼ばれます)や、(ⅳ)バッグやポケットの中に手を入れて内容物を取り出す行為は、原則として、対象者の承諾がなければ許されないと考えられます。それは、任意捜査である職務質問に付随する行為と理解する以上、所持品検査も任意捜査にとどまるからです。

ただ、最高裁は前出の判例の中で、犯罪の予防鎮圧という、これも実際上の必要性から、対象者の承諾がなくとも許される例外を認めています。それは次の条件を満たす場合です。

① 所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度であること
② 憲法35条の禁止する「捜索」に至らない程度の行為であること
③ 強制にわたらないこと

この考え方からは、まず「捜索」に該当する行為は、承諾のない限り一切禁止です。

バッグやポケットの中に手を入れて内容物を取り出す行為は明らかに「捜索」ですから、対象者の承諾なくして許容されません。

それに対して、バッグやポケットの外側から手で触れて内容物を確かめる行為は「捜索」とまでは言えないので(もっとも、本当にそうかどうかは微妙なところですが)、たとえ承諾がなくとも、強制にわたらなければ、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許されることになります。

強制にわたらないことが要件ですので、対象者が明白に拒否していれば許されません。さらに、相当と認められる限度がありますから、不相当な長時間に及ぶ所持品検査は違法となります。

【所持品検査が違法とされた最近の事例】

・被告人が着衣の上からの身体検査は承諾したが、陰部付近を触られることまで承諾していたとは認められない場合に、警察官が服の上からとはいえ無断で陰部付近に触れた行為が実質的に無令状の「捜索」に等しいなどとして違法とされた事例(東京高判令和元年7月16日

・所持品検査の必要性も緊急性も高くなかった状況下で、便意が切迫しているためトイレに行かせてほしいという被告人に対して、トイレに行くことを阻止して、駐車場内やゲームセンター店内で排便することを余儀なくさせたうえ、所持品検査に応じないと、さらに公衆の面前で排便を続けなくてはならなくなると思わせて所持品検査に応じさせたことが、職務質問に付随した所持品検査の許容限度を大きく超える違法なものとされた事例(さいたま地判平成30年7月27日LEX/DB文献番号25561084)

・職務質問を受け移動を阻止されながらも所持品検査を拒否していた被告人が、電話で知人を呼び出し、所持するバッグを現れた知人に投げたため、4メートル先にバッグが落ちたところ、警察官が、知人の承諾を得て、そのバッグのファスナーを開けて覚せい剤を取り出した行為について、被告人の占有は未だ失われておらず、令状なしには許されない捜索であるなどとして違法とされた事例(東京高判平成30年3月2日・判例時報2393・2394合併号63頁)

3.所持品検査を受けた場合の対処法

(1) 穏当に対応し、絶対に警察官に対する有形力行使をしないこと

所持品検査は任意捜査であるため、国民は所持品検査を受けることを拒否することができます。しかし、所持品検査の申出を受けた場合にこれを拒否すると、かえって警察官に「何か良からぬことをしようと考えているのではないか?」と疑われてしまいます(職務質問だけではなく所持品検査まで行うという事は、そもそも何らかの疑いを持たれているのが通常ですので、疑いが高まります)。

そのため、もし所持品検査を受けた場合には、時間を無駄にしないという観点からは、素直にこれに応じるのが処世術として合理的でしょう。

もちろん「何もやましいことはないが、バッグの中を見られたくない」と考えるならば、これまでの判例理論からしても堂々と拒否して構いません。拒否に理由は不要です。

ただ、拒否は口頭で伝えるにとどめてください。拒否するために警察官に有形力行使(例えば警察官を押しのける・振りほどく等の行為)をしようと警察官の身体に少しでも触ってしまうと、高い確率で公務執行妨害罪を理由に現行犯逮捕されてしまうからです。

(2) 弁護士に連絡する

所持品検査に応じたにもかかわらず中々その場から解放してくれない、あるいは所持品検査に応じたくないと考える方がこれを拒否し、立往生することになってしまう場合があります。この場合、自分一人で対応するには限界があります。

そこで、このような場合すぐに弁護士に連絡するべきでしょう。職務質問中であっても、警察官は対象者が弁護士に連絡することを阻止することはできません。

弁護士を呼ぶのは被疑者の権利です。所持品検査を受けたことが発端となって事件として立件されたり、逮捕されたりした場合には、すぐに泉総合法律事務所にご相談ください。

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