職務質問って拒否してもいいの?
「職質(職務質問)って拒否や無視してもいいの?」…これは、法律に関する疑問の中でも、とても身近なものだと思います。
中には、実際に職務質問を受け「これって拒否できるのかな」又は「拒否しているのにしつこい」と感じた経験がある方もいらっしゃるでしょう。
この疑問を解消するために、ここでは、職務質問は拒否できるか、また、実際に職務質問されたらどうすればいいのかを解説します。
1.職務質問とは?
そもそも、職務質問とは何を意味するのでしょうか?
職務質問とは、警察官が、犯罪を犯した者・犯そうとしている者・犯罪について何か知っていると思われる者に対して停止を求め、質問をすることです。
職務質問には「警察官職務執行法」という法律の根拠があります。
警職法2条1項「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。」
2項「その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。」
警察官は、疑いがある者に停止を求め、質問することができます。例えば、今何をしていたのか、これから何をしようとしているのかなどです。
場合によっては、しつこい質問が続けられる場合もあります。それだけにとどまらず、強制にわたらない限り、警察署に同行を求めたり(上記の警職法2条2項を参照)、緊急性・必要性が高い限定的な場面では承諾のないまま所持品を検査したりすることも可能とするのが判例です(※最高裁昭和53年6月20日判決)
上の警職法2条1項に明らかなとおり、職務質問は、異常な挙動をするなどの「不審事由」があり、警察官が怪しいと考える者に対して行われます。薬物中毒が疑われるような挙動不審の動きをしている者や、深夜に大勢でたむろしている場合には職務質問が行われる可能性があります。
他方、普通に背広を着て会社に出勤している途中や、日中に散歩しているだけで職務質問が行われることはありません。警職法の要求する不審事由がないからです。
もっとも、最近その地域で犯罪が多発しているといった事情がある場合には、少しの不審でも見逃さないよう職務質問が頻繁に行われる可能性があります。
2.職務質問を拒否できる?
職務質問に応じるか否かはあくまでも任意です。その者を捕まえて強制的に取り調べを受けさせるためには、原則として、裁判官にあらかじめ令状(逮捕状)を発付してもらい、その令状に基づいて逮捕する必要があります。これは次の条文に明記されています。
警職法2条3項
前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
そのため、職務質問に応じたくないと考える者は、これを拒否したり、無視したりできます。また、職務質問に応じないだけで、報復として逮捕されるなどと言うことはありません。
しかし、実際に職務質問された場合に、これを拒否や無視するのは困難な場合もあります。
(1) 職務質問を拒否した場合の警察官の対応
職務質問を拒否することによって、警察官の疑いを更に深めてしまいます。要するに、「職務質問を拒否するという事は、何かやましいことがあるに違いない」と疑われてしまうのです。
そもそも、職務質問をするという事は、不審事由があると判断され、何らかの疑いを持たれているわけですから、職務質問を拒否すると警察官は中々引き下がってくれません。
また、警察官には、「停止させて質問することができる」(前記警職法2条1項)権限があるので、拒否して立ち去ろうとする者に対して、一定の引き止め行為が認められる場合があります。
その者に職務質問を受けるよう説得するのはもちろん、その場から立ち去ろうとする者の肩を掴んだり、その者が車や自転車に乗っていた場合はカギを抜くことも許される場合があります。そうなった場合、職務質問を拒否してその場を立ち去るのは非常に困難です。
(2) 上記行為が認められる理由
職務質問を受けるか否かは、当事者の任意なのに、なぜこのような行為が認められる可能性があるのでしょうか。
それは、警察官は犯罪の予防等をすることもその職務とするためです。
職務質問の根拠である警職法は、「個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的」(同法1条1項)とする法律です。
このような犯罪の予防・鎮圧などを目的とする警察の活動を「行政警察作用」と呼び、犯罪の捜査を目的とする警察の活動である「司法警察作用」とは区別されます。
任意であるから質問を発すること以外には何もできないとするならば、警察に期待されている行政警察作用の職責を果たすことはできません。そこで、具体的な状況に応じては、一定の引き止め行為などを許容するのが判例なのです(※)。
※例えば、職務質問対象者の車のエンジンキーを取り上げた行為を適法とした最高裁平成6年9月16日決定
もっとも、その場合でも、無理矢理パトカーに乗せて警察署に連行するといったことは当然出来ません(上記の警職法2条3項を参照)。職務質問の際に対象者に暴行をふるったりすることも、当然違法です。
3.職務質問を受けた場合の対処法
先述のように、警察官はしつこく職務質問を続けることがあります。たとえ急いでいるときであってもこれを拒否したり、断ったりすると、かえって自分にとって不利益な事態となってしまいます。
職務質問に対する有効な断り方はありませんが、的確に対応することはできます。ここでは、職務質問を受けた場合の対処法について説明します。
(1) 職務質問に対してしっかり答える
職務質問に答える義務は一切ありませんが、まったく応じなければ、警察官は疑念を深めてしまい、なかなか開放してもらえなくなります。
貴重な時間を無駄にしたくないのであれば、むしろ質問に答え、疑念を晴らす方が得策です。所持品検査を求められた場合も同様です。
これは、法的義務の有無の問題ではなく、「ただの処世術」と考えるべきです。
質問に答えてやり、バッグの中身なども見せてやったのに、しつこく絡んでくる場合には、「質問には答えましたので、もう失礼します。」とそれ以上のかかわりをキッパリと断ることが正しい対応です。
なお、警察官が引き留めようと肩に手をかけたり、腕を掴んだりした場合でも、自分から警察官の手をふり払おうとしたり、逆に警察官の腕を掴んだりしてはいけません。
このような有形力を行使することは、公務執行妨害罪の現行犯で逮捕する口実を与えることになり、高い確率で逮捕されてしまいますので、絶対にお勧めできません。
(2) 職務質問を終始録音しておく
職務質問の際に、警察官が違法な行為をしていないかを後にチェックするため、スマホで録音を行うのも良いでしょう。
誤解されがちですが、職務質問の内容を録音することは犯罪ではありません。また、そこから得た録音データは後に職務質問の適法性が争点となる裁判になった場合には、証拠として利用できます。
後で、違法な行為があったか否かの水掛け論になることを防ぐために、録音をしておくことは有効な防衛手段と言えるでしょう。
(3) 弁護士を呼ぶ
職務質問を拒否した、あるいは質問に応じたのに開放してくれないという場合、ただちに弁護士に電話をするべきです。
たとえ職務質問の最中であっても、弁護士と電話で話をすることは自由ですから、警察官がこれを制止することはありません。
弁護士に、その場の状況を説明して、アドバイスを受けることがお勧めです。
また、弁護士と電話がつながっているだけで、警察官側も慎重になるので、強引な行為を控えさせる効果があります。
つながっている電話を警察官に渡して、直接に弁護士とやりとりをしてもらった結果、職務質問から開放されるケースもあります。警察官が弁護士との会話に応じる法的義務があるわけではありませんが、通常は応じるはずですから、試してみる価値はおおいにあります。
時間と距離が許せば、現場に駆けつけてもらえる可能性もありますし、現場に間に合わなくとも、その後に、任意同行や逮捕が行われた場合、現場の段階で連絡をしておけば、弁護士の初動が早くなります。
もちろん、任意でも警察署に同行した場合や、その場で逮捕されそうな場合などは、迷わずに弁護士を呼ぶべきでしょう。
また、もし逮捕された場合には、すぐに弁護士を呼ぶべきです。その逮捕が違法な場合もありますし、後に受ける取り調べの対応で困らないようにするためです。
弁護士を呼ぶのは、被疑者の権利であり、これを捜査機関は拒否できません。自らの権利を守るために、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。
4.まとめ
職務質問を受けたら、やましいことがないのなら、誠実に応じることが処世術です。
ただし、応じたからと言って、すぐに開放されるとは限りません。なかなか開放してもらえない場合や、警察署や交番への任意同行を求められた場合には、その場で弁護士に連絡をとることがベストです。