身近な法律の疑問 [公開日]2020年6月1日

タバコの不始末・ポイ捨ての火事で逮捕される?|放火罪・失火罪

タバコの不始末やポイ捨ては火事の発生原因となります。
不注意によるものであれ、火事が発生すると、財産だけでなく他人の命までも奪う危険があります。

ここでは、タバコの不始末・ポイ捨てについて成立する犯罪について説明します。

1.タバコの不始末・ポイ捨ての火事で成立する犯罪

タバコの不始末等による火事で成立する犯罪は以下のものです。

(1) 失火罪

タバコの不始末等による火事が発生した場合に、成立する可能性が最も高い罪は失火罪です。

116条1項 失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
同条2項 失火により、第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。

失火とは、過失により火事を発生させてしまうことを言います。例えば、タバコの不始末やポイ捨てをし、その残り火が原因で火事になってしまった場合です。

108条に規定する物とは、犯人以外の人が住んでいる住居や建造物と、現時点で犯人以外の人が中にいる住居や建造物です(現住建造物等)。

他人の所有に係る109条に規定する物とは、犯人以外の人が住んでおらず、かつ、現時点で犯人以外の人が中にいない住居や建造物で、かつ、犯人以外の者が所有する物です(非現住建造物等)。

このように、犯人だけが住居としていたり、犯人だけが現時点で中にいたりする場合は、109条の対象となりますから、自分が一人で暮らしている家が失火により燃えた場合でも、失火罪が成立します(他人所有であれば116条1項、自己所有であれば116条2項が成立します)。

もっとも、一人暮らしでも、失火時友人が家にいた、又は、家族共に暮らしているといった事情がある場合には、他人が現にいる、他人が現に住んでいる場合に該当しますから、現住建造物等として、116条1項の失火罪が成立します。

また、失火が重過失による場合、重過失失火罪が成立します。

重過失とは、火事が起きることを容易に予見できたのに危険な行為をしてしまったというように注意義務違反の程度が著しい場合を指します。例えば、ガソリン等の燃えやすいものの傍で喫煙し、タバコをポイ捨てした結果火事になってしまった場合には重過失失火罪が成立します。

例えばボイラーマンのように火気を取り扱うことが業務である場合は、業務上失火罪となります。

117条の2 第116条又は前条第1項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金に処する。

(2) 過失致死傷罪

210条 過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

失火により、燃えた家の住人や周囲の人に怪我を負わせてしまったたり、死に至らしめてしまった場合には、過失致死傷罪が成立します。

また、それが重大な過失による場合や業務による場合は、重過失致死傷罪や業務上過失致死傷罪が成立します。

(3) 放火罪

失火罪は、火事になることについて故意がない場合に成立します。故意があれば放火罪として重く処罰される可能性があります。

ただし、故意とは積極的に結果の発生を意図する場合に限らず、「結果が発生してもかまわない」という場合にも認められます(未必の故意)。

そこで、火事を起こすつもりではなくとも、タバコの不始末・ポイ捨て時に「周りにある物に引火して火事になるかも。それでもいいや。」との認識があった場合には、放火罪が成立する可能性があります。

108条の現住建造物等放火罪は現に犯人以外の人がいる、犯人以外の人が住んでいる住居等に火をつけた場合に成立します。それ以外の住居等で他人所有のものを燃やしてしまった場合には、109条の非現住建造物等放火罪が成立します。

108条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
109条1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
2項 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

【ポイ捨てで罰則が科される?】
刑法上、物を道路に捨てる行為を処罰する規定はありません。そのため、ポイ捨て行為は、それにより他人に火傷させるなどの害を与えない限り、罰則が科されることはありません。
もっとも、都道府県や市区町村の条例で、タバコのポイ捨てや歩きたばこに罰則を科している場合があります。例えば、東京都大田区の「大田区屋外における喫煙マナー等に関する条例」では、「公共の場所に吸い殻等を投棄すること」を禁止し、違反者に対する区の指導に従わなかった者は1万円以下の過料に処するとしています(同条例5条、11条、13条)。
その地域でポイ捨てをした場合には、たとえ失火等具体的な害を与えなくとも、処罰されることがあるので注意しましょう。

2.火事の発覚と逮捕されるまで

火事は目立つものなので、発生したらすぐに消防車・救急車が駆け付けます。

火事が鎮火した後、発生原因が調査されることになります。これがタバコの不始末等によるものの場合、タバコの残骸や周囲の防犯カメラの映像から、犯人が割り出されます。

そして、後に被疑者と思われる方のところへ警察が来て事情聴取、場合によっては逮捕されることになります。

逮捕は必ずされるといった訳ではなく、証拠隠滅の可能性があるか、逃亡の恐れがあるかなどを踏まえ、逮捕の必要性がある場合になされます。

逮捕されると、2~3日身体拘束され、更に勾留(逮捕に続く身体拘束)されると、10日以上外に出られなくなります。

3.タバコの不始末等による火事で科される罰則

放火罪であれ失火罪であれ、検察官が起訴判断をした場合には裁判になります。そこで有罪判決が出されると、1で述べた罰則が科されます。

懲役~年、罰金~円というのは刑事上の責任です。
他方で、他人の家を燃やしてしまった場合には、民事上の責任を負い、損害賠償を支払わなければなりません。

もっとも、失火による不法行為責任には失火責任法という特別法があり、責任を問われるのは重過失による失火の場合に限られます。

もし、失火や放火により逮捕された・起訴されそうだという方は、刑事事件に詳しい弁護士へ弁護活動を依頼し、釈放や不起訴・執行猶予付き判決を目指すことをお勧めします。

4.まとめ

放火罪・失火罪は、他人に多大な損害を与えうる犯罪です。タバコを吸う際には、不始末等に気を付けましょう。

もし、過失とはいえ火事を起こしてしまい逮捕されたら、お早めに泉総合法律事務所の弁護士へ相談することをお勧めします。

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