公判前整理手続きとは?対象事件・必要な事前準備を解説します
刑事事件の中でも、重大事件では「公判前整理手続き」が行われます。
公判前整理手続きは、どのような場合に利用されて、どのような流れで進んで行くのでしょうか?裁判員裁判との関係や、被告人が出頭しないといけないのかなども押さえておきましょう。
今回は、刑事事件の「公判前整理手続き」について、刑事手続に詳しい弁護士が解説します。
1.公判前整理手続きとは
(1) 公判前整理手続きとなるケース
公判前整理手続きとは、第1回期日前に、刑事事件の争点や証拠を整理するための準備手続きです。刑事裁判の迅速かつ適正な進行を目的にしています。
公判前整理手続きが導入されたのは、平成17年11月における刑事訴訟法改正後のことですから、まだ、導入後12年程度しか経っていない、比較的新しい制度です。
公判前整理手続きが行われるのは、以下のようなケースです。
- すべての裁判員裁判事件
- 否認事件など、争点が多岐にわたるため事前の争点整理や証拠の整理が望ましいケース
裁判員裁判の場合には、必ず公判前整理手続きが実施されますし、裁判員裁判以外の場合では、裁判官が、検察官や弁護人の意見を聞いた上で判断し、必要があるとされた場合には公判前整理手続きを実施します。
(2) 裁判員裁判になるケース
必ず公判前整理手続きが実施される「裁判員裁判」とは、国民から選ばれた裁判員が、裁判官と共に審理を進める刑事裁判です。平成21年5月21日から始まっています。
裁判員裁判となるのは、以下のような重大な刑事事件のケースです。
- 死刑または無期懲役、禁錮に該当する事件
- 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であり、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪
具体的には、以下のような犯罪が問題になっている場合に裁判員裁判となります。
・殺人罪
・強盗致死傷罪
・傷害致死罪
・現住建造物等放火罪
・身代金目的誘拐罪
・強盗強姦(致死傷)罪
・強制わいせつ致死傷
など
そこで、上記のような犯罪の被告人となったときには、必然的に公判前整理手続きが採用されることになります。
(3) 公判前整理手続きが導入された背景
公判前整理手続きは、裁判員裁判制度の導入をにらんで作られた制度です。
それまでの刑事裁判は、特に重大な事件や争いがある事件の場合、非常に長い時間がかかっていました。一審だけでも5年、10年かかることが普通にあり、世間から理解を得られずに批判を浴びていました。
審理の進み方も、検察側と弁護側から五月雨的に証拠が提出されたり証人申請があったりするもので、端から見ているとわかりにくいものでした。
裁判官はプロですから、このような進行方法でも適切に対応し、膨大な証拠を精査して判決を下すこともできますが、裁判員裁判で関与する裁判員は素人ですからそういうわけにもいきません。
これまでの進め方では、何を審理しているのかわからず、適切な判断ができない可能性が高くなりました。
そこで、実際の「公判」を始める前にきちんと争点を整理しておいて、裁判員が関与する「公判」ではわかりやすく争点と証拠が整理された状態を用意して、スムーズに審理を進めるために、公判前整理手続きが導入されたのです。
また、このように、スムーズに裁判を進めるという目的は、裁判員裁判以外でも有用ですから、否認事件などの複雑な案件では、裁判所の決定によって公判前整理手続きを利用することができることとされました。
(4) 公判前整理手続きの効果
公判前整理手続きにより、公判が始まった後に提出される証拠は、これまでより厳選されるようになりました。
また、事前に争点と証拠が整理されるので、裁判所は、公判のスケジュールを立てられるようになります。たとえば、証拠調べにどのくらい時間をかけるのか、証人として誰を呼びどのような尋問をいつ行うのかなど、事前にわかるので、判決までの予定を立てやすくなります。
また、主張や証拠が厳選されているので、公判を短期間に集中して実施することができますし、書面による主張整理が事前に済んでいるので、公判では供述中心に進めることができます。一般の人は書面審理に慣れていないため、供述中心の審理の方がわかりやすいです。
公判前整理手続きが導入されるケースでは、弁護側(被告人側)にとっては、供述も駆使ながら、公判開始後に、いかに効果的に裁判員に働きかけるかが重要となってきます。
2.公判前整理手続きの特徴
公判前整理手続には、以下のような特徴があります。
(1) 検察側が、あらかじめ裁判所と弁護側、主張や立証方針を開示する
まず、検察側は弁護側や裁判所に対し、公判で予定している主張内容や提出しようとしている証拠を明らかにしなければなりません。弁護側は、明らかになった証拠をもとに、弁護方針を検討することができます。
(2) 弁護側は、検察側に対し、証拠開示を請求できる
弁護側は、検察側に対し、一定の類型の証拠をまとめて開示請求することができます。
このことを、類型証拠開示請求と言います。
類型証拠開示請求で開示される証拠は、例えば以下のものです。
・証拠物
・実況見分調書
・鑑定書などの鑑定関連証拠
・供述調書類や録音録画
(3) 弁護側は、検察官に対し、弁護側の主張に関連する証拠開示請求ができる
弁護側が弁護方針を立てると、弁護側の主張に関連する証拠でまだ開示されていないものを、検察官側に開示請求することができます。このことを、主張関連証拠開示と言います。
この場合、上記の類型に該当しないものでも請求することが可能です。
(4) 弁護側は、裁判所と検察側に対し、主張や立証方針を明かす
公判前整理手続きでは、弁護側の方も、検察官側と裁判所に対して弁護側の主張方針や立証方法を明らかにしなければなりません。
(5) 公判前整理手続きで請求しなかった証拠は、後日になって証拠請求することができない
公判前整理手続きを利用すると、弁護側は検察官側にいろいろな証拠の開示を請求できるので、通常の手続きより有利になります。通常の刑事裁判では、捜査側に証拠が偏在するので、弁護側が不利になってしまうことが多いからです。
ただし、一方で、公判前整理手続きで請求しなかった証拠については、原則的に、後日になって証拠請求することができないという制限がつきます。
そこで、公判前整理手続きをするときには、検察官側や弁護側の主張や証拠をしっかり検討して、開示請求漏れがないように十分注意する必要があります。
(6) 公判が始まったとき、弁護側も冒頭陳述をする
刑事裁判には「冒頭陳述」があります。冒頭陳述とは、その事件をわかりやすくまとめたストーリー(概要)を読み上げることです。
刑事裁判が始まった当初に行うもので、一般の刑事事件の場合、検察官は必ず行います。弁護側も冒頭陳述をしても良いのですが、しないことの方が多いです。
これに対し、公判前整理手続きをした場合には、弁護側も冒頭陳述を行います。冒頭陳述は、裁判員に与えるインパクトも強いので、内容や方法に十分注意が必要ですし、工夫も要求されます。弁護士の腕が試されるところの1つと言えるでしょう。
(7) 公判は連日開廷
公判前整理手続きが行われた場合には、事前にきっちり争点と証拠が整理されているはずですから、期日間の日にちをあけて、互いが用意をすることなどはないはずです。また、スピーディに審理を進める必要性も高いです。
そこで、公判前整理手続きを行った事案で2日以上の審理が必要なケースでは、公判は連日開廷となることが多いです。
3.公判前整理手続きの流れ
公判前整理手続きの簡単な流れを紹介しておきます。
① 裁判所が、公判前整理手続に付する決定をする
② 検察官が証明予定事実を記載した書面を送付する
③ 請求証拠の開示(閲覧・謄写)
④ 弁護側が証拠の開示請求をする
⑤ 弁護側が、検察官請求証拠に対して意見を述べる
⑥ 弁護側の主張の明示と証拠請求
⑦ 請求された証拠の開示(閲覧・謄写)
⑧ 弁護側請求証拠に対し、検察官が意見を述べる
⑨ 検察官が、主張関連証拠を開示する
⑩ 証明予定事実や主張の追加と変更
⑪ 争点と証拠の整理結果の確認
⑫ 証拠開示方法等の決定と開示命令の請求
⑬ 証拠の標目の一覧表の提示命令
⑭ 証拠開示命令または棄却(棄却された場合には、即時抗告が可能)
⑮ 争点及び証拠の整理結果の確認
⑯ 審理予定の策定(公判期日の決定と、その日にどのくらいの時間がかかるかを決定します)
公判前整理手続きは、だいたい1ヶ月に1回くらい開かれ、標準的には3回程度で終わることが多いです。
公判前整理手続きで整理された主張と証拠については、公判が始まった後、冒頭陳述後に裁判所に検出されて、裁判員にも共有されることになります。
また、公判前整理手続きは、書面のやり取りによって行う場合と、実際に検察官と弁護側が出頭することによって行う場合があります。出頭を要する場合には、裁判所が期日を定めて検察官及び弁護人に通知します。
4.被告人・裁判員への影響
次に、公判前整理手続きが採用されると、被告人や裁判員にはどのような影響が及ぶのか、説明をします。
(1) 被告人について
まず、公判前整理手続きが書面のやり取りによって行われる場合には、弁護士が代理ですべての手続を進めるので、被告人には直接の影響がありません。この場合、どのように争点整理をするかについて、弁護士から状況を聞いて、被告人が弁護士に意見を伝えることなどは可能です。
また、実際に弁護側が出頭するときにも、被告人自身が出頭する必要はありません。被告人には、刑事裁判への在廷義務がありますが、公判前整理手続きは、公判が開始する前に行われるもので、公判そのものではありませんし、主に法律的な主張や証拠の整理手続きだからです。
被告人が希望する場合には、出頭することも可能ですが、出頭しても特に発言の機会がないことが多いです。また、不用意に発言をすることにより、かえって不利益な心証を取られる可能性もあるので、出頭するかどうかや、どのような発言をするか(あるいはしないのか)について、弁護人とよく相談してから臨むべきです。
(2) 裁判員について
裁判員は、一定の重大な裁判に関与して、裁判官と一緒に判決を決める人ですが、裁判員の仕事は、「公判」に立ち会うことです。
公判前整理手続きは、「公判」の前に行われるものですから、裁判員が関与することはありません。そもそも、公判前整理手続きの段階では、まだ裁判員は選任されていないので、希望しても、公判前整理手続きに参加することはできません。
「それでは、裁判員は一体何をするのか?」と疑問に思われるかもしれないので、簡単に説明をします。
裁判員は、「公判」に参加します。公判は、公判前整理手続きが終わった後に開かれる刑事裁判のことです。裁判員は、公判で裁判官と一緒に、検察官や弁護人の主張を聞いたり提出する証拠を見たりして、判決まで関与します。
公判では、裁判員も証拠書類を見て調べることとなりますし、裁判員自ら証人や被告人に対して質問をしたりすることもできます
判決を出すときには、裁判員も裁判官と一緒に「評議」に参加し、評議の結果によって被告人への判決内容を決定します。
5.公判前整理手続きに出頭する際の注意点
最後に、被告人が公判前整理手続きに参加するときの注意点をご紹介しておきます。
公判前整理手続きでは、担当裁判官と直接顔を合わせることになります。そこで、印象を悪く持たれないことが大切です。裁判官も人間なので、予断や偏見を持つべきではないと思っていても、どうしてもいろいろな印象を抱いてしまうからです。
たとえば、検察官の主張内容や態度に腹が立ったとしても、暴言を吐いたり失礼な態度をとったりすると、裁判官からは「やはり粗暴な人間ではないか」と思われるかもしれません。
裁判所から弁護側の意見を聞かれたときに、弁護士の発言を待たずに勝手に自己判断で発言すると、そのことが予想外の方向に解釈されて、不利になってしまうこともあります。
被告人は素人ですから、法的な判断や争点を理解できていないことも多いです。発言をするなら、弁護士と事前に相談しておいたことだけにしておいた方が安心です。
また、当日どうしても発言したいときには、弁護士だけに「このことを言っても良いですか?」と小声で尋ねたりメモを渡したりして、許可を取ってからにした方が良いです。
さらに、基本的なことですが、身だしなみやマナーにも注意が必要です。刑事施設に収容されているときには服装は限定されますが、挨拶や言葉遣いなどは丁寧にしましょう。気に入らないことがあっても、声を荒げることなどがあると、印象が悪くなるおそれがあるので、注意しましょう。
6.まとめ
犯罪を犯したとき、重大事案や否認事件の場合には公判前整理手続きに付されることがあります。その場合、基本的に弁護士任せになるので、弁護士の腕が問われるところです。
刑事事件に強い弁護士に依頼しないと、適切に証拠開示請求をすることなどができず、不利益を受けるおそれがあります。
また、公判になったあとも、裁判員裁判に慣れている弁護士に依頼していると安心です。裁判員裁判では、一般人である「裁判員」へのアピールが必要になるので、通常一般の裁判とは異なるノウハウが必要になるためです。
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