盗撮 [公開日]2017年7月18日[更新日]2024年8月6日

盗撮が発覚・逮捕されたら余罪を話すべき?刑事事件弁護士が解説

盗撮事案の多くは、電車内、駅のエスカレーターや階段等の公共の場所で、女性のスカート内などをスマホやデジカメで隠し撮りするものです。
近年では、誰でも容易に撮影できる携帯電話(スマートフォン)・小型カメラ等のデジタル機器で、盗撮行為を常習的に行っているケースが激増しています。

泉総合法律事務所の経験でも、盗撮で逮捕された被疑者は、逮捕の原因となった行為以外にも、同じような盗撮行為を繰り返している事例が多く存在しています。

逮捕・勾留の理由となった被疑事実以外の犯罪事実を「余罪」と言います。

被疑者として身柄を拘束されて取調べ(事情聴取)を受けた場合「余罪について話すべきか、話したら余罪も立件されてしまうのでは」と考える方も多いでしょう。

そこで今回は、電車内の盗撮事件で逮捕されて、警察官や検察官から取調べを受ける際、余罪である過去の盗撮行為についても話すべきかどうかについて解説したいと思います。

1.余罪の意味

余罪とは、捜査段階においては逮捕・勾留の基礎となった被疑事実以外の犯罪事実をいい、起訴後の公判段階においては起訴された事実以外の犯罪事実を言います。

盗撮で現行犯逮捕後に取調べをした結果、他の機会に盗撮をしていた事情が明らかになった場合、この明るみに出た犯罪は「余罪」となります。

余罪が明らかになるきっかけとして、「警察の捜査(自宅の捜索等)の結果、スマホに保存していた別の盗撮画像・盗撮動画等が見つかった」「被疑者が自ら別の犯罪について自白した」場合が挙げられます。
(仮に過去のデータを削除しても、警察などが解析すればデータは復旧できるケースがほとんどです。)

[参考記事]

余罪とは?警察の捜査内容や逮捕・起訴への影響

【前科・前歴とは】
前科とは、有罪判決を受けた経歴を言います。つまり前科は過去の裁判所の判断です。これに対し、余罪は、身柄拘束または起訴の対象となっていない犯罪事実のことですから、捜査機関の取扱いによる区別であり、裁判所の判断とは無関係です。
また、前歴とは捜査機関により捜査の対象となったが有罪判決を受けていない犯罪事実を指します。
余罪には、身柄拘束の基礎となったが、起訴されていない犯罪も含むので、前歴と余罪は重なる部分があります。

2.盗撮の余罪について話すべき?

犯罪行為の疑いをかけられている被疑者は、「黙秘権」といって、捜査機関や裁判所の質問に対し、供述を拒否する権利を有しています。
したがって、被疑者は捜査機関等から余罪について質問されても、否認・自白せず、一切の供述を拒否することができます。

しかし、黙秘権を行使することが、被疑者にとって必ずしも有利な結果になるとはいえないケースもあります。

黙秘権は憲法で保障された重要な人権ですから、黙秘権を行使したことで不利益に扱うことは許されないはずですが、法律の理屈と現実の実務は必ずしも同じではありません。

そこで、現実を考えると、余罪について黙秘権を行使することによって生じうるメリット、デメリットを確認した上で、慎重に検討する必要があると思われます。

(1) 黙秘権を行使するメリット

真実は余罪を犯していた場合に黙秘権を行使することのメリットは、余罪について刑事責任を免れる可能性があることです。

捜査機関に余罪の存在を知られなければ、余罪について処罰されることはありません。
また、余罪の存在を知られていても、黙秘することによって、起訴するに足りる証拠の収集を阻止できれば、やはり刑事責任を免れることができます。

(2) 黙秘権を行使するデメリット

身柄拘束期間が長くなるリスク

「他にも盗撮をしたことがあるだろう?」と追及されたときに、黙秘権を行使すると、警察・検察は「反省していない」「余罪を隠している」と判断し、取り調べが苛烈になったり、勾留請求・勾留延長請求されて身柄拘束期間が長くなったりする可能性があります。

また、余罪を理由に再逮捕・再勾留されて身柄拘束期間が長くなる危険もあります。

本罪について起訴される可能性が高まる

また、自白がなくとも余罪の嫌疑が明らかなケースでは、捜査対象となっている本罪についての起訴・不起訴の判断において不利な材料として斟酌され、起訴される可能性が高まります。
起訴されてしまえば、例え罰金刑でも前科がつきます。

例えば、逮捕時に押収されたスマホや家宅捜索で押収されたパソコンから盗撮とみられる画像や動画が発見されれば、自白しなくとも余罪の嫌疑は明白ですから、黙秘すれば「反省していない」と判断されてしまいます。

【被害者不明でも起訴されることはある?】
都道府県が定める迷惑防止条例違反は、被害者不明(告訴や被害届がない場合)でも、法律の理屈のうえでは起訴することは可能です。
ただ、実際に被害者不明のままで起訴するかどうかは別問題です。
仮に被疑者のスマホなどにスカートの中の下着の画像が残っているだけでは「被害者の同意を得ていない事実」を被害者不明のままで立証することは通常は不可能です。
ただし、①スカート内の画像が、その時その現場で撮影されたものと証明できる「画像内データという証拠」があり、加えて、②それが盗撮行為によって撮影されたと裏付ける「目撃者の証言という証拠」があり、たとえ被害者が不明であっても同意を得ていない撮影だったことを立証できれば、被害者不明のまま起訴することは現実的に可能でしょう。
なお、例えば東京都などのように、浴室や更衣室などにカメラなど撮影装置を設置する行為も禁止している場合は、機材を設置しただけで犯罪ですから、撮影された被害者がいなくとも、起訴され処罰されることは当然です。

刑期が長くなる危険性がある

余罪を進んで自白すれば、本罪の捜査と並行して余罪の捜査もある程度進み、早めに余罪も起訴されて、本罪の裁判と余罪の裁判を同時に審理される可能性があります。

そうなると、別々に裁判を受けるよりも、通常は量刑が軽くなります(これを同時審判の利益と呼びます)。

3.余罪の自白は弁護士のアドバイスを受けて判断

以上から、警察の調べにより余罪が明らかな証拠があるならば、黙秘権を行使するデメリットが大きいかもしれません。
とはいえ、余罪を自白することのメリットとデメリットを天秤にかけてどちらを選択するべきかは、正直に言えば「賭け」になります。

ひとりの人間として言えば、他にも盗撮行為をした事実が本当であるならば、これを機会にすべて正直に話したうえで、二度としないことを誓約するべきでしょう。
しかし、被疑者には黙秘権があり、弁護士は被疑者の利益を守ることが最大の義務ですから、余罪を認めるよう強制することはできません。

余罪について話すべきか否かを決めるのはあくまでも被疑者本人ですが、弁護士は、認めなかった場合・認めた場合のそれぞれの見通しを判断材料として提供し、アドバイスをすることができます。

4.余罪の被害者との示談交渉方法

盗撮で逮捕されてしまった場合、被害者と示談をすることが重要です。謝罪を受け入れてもらい示談が成立することで、長期の身体拘束を回避できたり、不起訴処分を獲得できたりする可能性が高まります。
特に、盗撮の初犯は被害者との示談が成立していればほとんどの確率で不起訴となるでしょう。

これは余罪の被害者についても同じです。余罪について正直に自白するなら、余罪の被害者が特定できる限り、早急に示談交渉を行い、示談を成立させるべきです。

しかし、示談交渉は被害者の心情に配慮して慎重に進める必要があります。被害者は、盗撮の加害者とは会いたくないと考えるのが通常なので、当事者同士で示談交渉を行うことが困難な場合が多いです。

そのため、盗撮で逮捕された被疑者やその家族の方は、即座に弁護士に示談交渉を依頼するのが得策です。

[参考記事]

弁護士に盗撮の示談交渉を依頼するメリットとは?逮捕後の流れ

なお、被害者が特定できず示談ができない場合には、贖罪寄付(一定の金銭を弁護士会や慈善団体に納める)を行うことも考えられます。

[参考記事]

迷惑防止条例違反の盗撮事件における示談方法と示談金の相場

5.盗撮で逮捕されたら弁護士へ相談を

盗撮事件で捕まると、余罪を供述するかどうかについては、メリット・デメリットを慎重に考慮する必要があります。

盗撮事件で余罪を供述するかどうか自分自身だけでは判断ができない場合には、盗撮事件の弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼して、弁護士に相談しながら対応することをお勧めします。

弁護士に相談することで、今後の不安を解消出来たり、刑事手続きの流れを理解できたりして、今後の対策を立てることも可能になります。

泉総合法律事務所は、盗撮事件の刑事弁護に多数取り組んでおり、様々な盗撮事案に精通しております。
盗撮被害者との示談成立の実績も多くありますので、万が一盗撮等の刑事事件で逮捕ないし検挙された場合には、お早めに相談予約・ご依頼ください。

[解決事例]

駅のホームでスマホを使って盗撮、余罪あり→示談成立、被害者に許してもらい不起訴処分

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