身近な法律の疑問 [公開日]2021年4月19日

警察の組織、階級、部署

万引き、傷害、痴漢・盗撮などの刑事事件が発生すると、被疑者は警察に逮捕される可能性があります。

では、警察官であれば誰でも逮捕権限があるのでしょうか?また、警察に有罪(罰金か懲役か)・無罪を判断して、犯人を処罰する権限はあるのでしょうか?

今回は、刑事事件に関わる際に避けて通れない「警察」についてご説明します。

1.「警察」について

警察とは、個人の生命、身体、財産の保護、犯罪の予防、鎮圧、捜査、被疑者の逮捕、交通の取締り、その他公共の安全と秩序の維持にあたる機関を指します(警察法2条1項)。

(1) 警察の階級

警察官の階級としては、警察庁長官を除くと、上から警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査の9種類の階級があります(警察法62条)。

いわゆるテレビや映画に登場する「刑事」は、一般に、制服を着用せずに捜査活動などを行う警察官を指す言葉として理解されていますが、たんなる俗称に過ぎず、彼らのほとんどは階級上は巡査部長か巡査です。

なお、巡査の中で、勤務成績が優良で、実務経験が豊富な者には、「巡査長」という名称が与えられ、他の巡査に対する指導などの職務が与えられますが、これは警察法上の階級ではなく、政令に基づくものです(※警察法施行令13条、「巡査長に関する規則」(昭和42年国家公安委員会規則第3号)

(2) 逮捕権限

現行犯を除けば、捜査機関が「逮捕状」を裁判所に請求し、その発布を受けない限り、被疑者を逮捕することはできません(憲法35条)。
逮捕は身体の自由を一時的に制限する人権侵害であるため、警察の濫用を防止するべく、司法判断が先に必要となるのです。

この逮捕状を裁判官に請求できるのは警部以上の階級のみであり、巡査には、令状を請求する資格はありません(刑事訴訟法199条2項、刑事訴訟規則141条の2)。ただし、緊急逮捕の令状は巡査でも請求する資格があります(刑事訴訟法210条)。

警部は警察官全体の5~6%ほどしかなく、実際に現場に臨むよりも、捜査活動を指揮を統括する立場です。

実際に被疑者を令状によって逮捕する権限があるのは、検察官、検察事務官、司法警察職員と定められていますから、巡査でも逮捕は可能です(刑事訴訟法199条1項)。

「司法警察職員」とは、平たく言えば、刑事訴訟法によって、一定の捜査権限を認められた者であり、警察官の一部に過ぎません。

さらに、この司法警察職員は、「司法警察員(巡査部長以上の警察官)(※)」「司法巡査(巡査)」に分かれます。

※司法警察員と司法巡査の区別は、公安委員会が定めます。その例として、昭和29年国家公安委員会規則第5号「刑事訴訟法第189条第1項及び第199条第2項の規定に基づく司法警察員等の指定に関する規則」があります。

司法巡査は、司法警察員を補助して、個々の現実の捜査活動を行う存在です。刑事訴訟法上は、司法巡査には許されない手続が数多くあります。例えば、捜索差押令状などの請求権限、告訴告発などの受理権限、事件を送致する権限、逮捕した被疑者を送致したり、釈放したりする権限などは司法巡査には許されません。

なお、通常逮捕の令状請求は、司法警察員であっても警部補、巡査部長には許されないことは前述しました。

「司法警察職員」には、警察官以外にも、特別司法警察員と呼ばれる麻薬取締官、労働基準監督官、海上保安官、自衛隊の警務官などがあり、その職務の範囲内で捜査権限を有し、令状の請求権や令状に基づき逮捕する権限も有しています。

ちなみに、現行犯逮捕(犯罪と犯人を現認して逮捕する場合)には、一般人でも逮捕が可能です(刑事訴訟法213条)。

(3) 警察は処罰の判断を下せない

刑事手続においては、警察は捜査機関に過ぎず、一定の例外を除き、刑事事件はすべて検察官に送致しなくてはなりません(刑事訴訟法246条)。被疑者を起訴して裁判にかけるか否かを決めるのは検察官であり、裁判で有罪無罪を決めるのは裁判所です。
したがって、警察には犯罪者に処罰を下す権限はありません

※ただし、検察官送致をする際に処分に関する警察の総括的な参考意見が付されます(犯罪捜査規範195条)。

[参考記事]

「厳重処分(処分意見)を付けて書類送検」とは?

もっとも、予め検察官が指定した軽微な事件などでは、検察への身柄や事件の送致を行わずに事件を終了させることも可能です。これを「微罪処分」と呼びます(犯罪捜査規範196条)。

微罪処分の条件は検察官から指定されていますが、その条件を満たすか否かの判断は警察官が行いますから、その限りで、警察も刑事手続上の判断権を与えられていると位置づけることもできるでしょう。

[参考記事]

微罪処分になる要件とは?呼び出しはあるのか、前歴はつくか

2.警察の組織と部署

警察の組織は、国家機関と地方機関に分かれます。

国家機関は、内閣総理大臣の下に国家公安員会が置かれ、その下に警察庁が置かれています。警察庁は警察庁長官を長として、その所管事項に関して日本全国の地方警察機関を統括します。

警察庁の組織は、①長官官房、②生活安全局、③刑事局(その下に組織犯罪対策部)、④交通局、⑤警備局(その下に外事情報部・警備運用部)、⑥情報通信局に分かれます。

各部署の担当内容は、警察法21条以下に列挙されています。例えば、代表的な刑事局では「1、刑事警察に関すること。2、犯罪鑑識に関すること。3、犯罪統計に関すること。4、暴力団対策に関すること。5、薬物及び銃器に関する犯罪の取締りに関すること。」などが挙げられています。

地方機関は、各自治体に置かれる都道府県警察です。都道府県知事の下に置かれた都道府県公安委員会が、各都道府県警察を管理します(警察法38条)。

各都道府県警察には、本部が設置されます。道府県警察の場合は、○○県警察本部、○○府警察本部、北海道警察本部です。東京都だけは警視庁がこれに該当します(警察法47条)。各本部の長は、道府県警察の場合は、例えば「○○県警察本部長」ですが、東京都だけは「警視総監」です(警察法48条)。

いわゆる「○○警察署」というのは、各都道府県の各区域を管轄する組織単位で、長は「署長」です(警察法53条)。

各都道府県警察の内部組織は、自治体によって違いますが、通常、各本部の下に、警務部・生活安全部・刑事部・交通部・警備部・警察学校・各区域の警察署などがおかれます。地域によっては、特に暴力団対策部を独立しておいたり(例:福岡県)、公安部や組織犯罪対策部を独立して置いたり(例:警視庁)して、地域の規模や特性に対応しています。

参考サイト:警察庁「警察の仕組み

各部署の主な業務例は次のとおりです。

部署 内容
警務部 総務・会計・広報・人事・給与・福利厚生など
生活安全部 地域の防犯・風俗・少年・悪質商法・環境犯罪・DV・ストーカーなど
交通部 交通違反・交通事故・交通規制・運転免許など
警備部 災害や事故の救助・要人警護・テロ対策・サイバー犯罪対策など
刑事部 犯罪捜査・鑑識・科学捜査・薬物銃器対策など
公安部 国際テロ・過激派・右翼対策・拉致被害など

3.警察に逮捕されたら弁護士に依頼すべき理由

上記のように、警察には処分の判断を下す権限はないので、逮捕されたからといってすぐさま有罪とされるわけではありません。

しかし、ご家族が警察に逮捕されたら、すぐにでも弁護士に依頼して弁護活動を開始してもらうべきです。
その理由は以下の通りです。

(1) 取調べのアドバイスを受けられる

逮捕されたら、検察官送致されるまでの23日間はご家族が面会することはできません。この間に本人と話せるのは弁護士だけです。

取り調べでは、警察が犯罪事実の内容を事細かに質問しますので、曖昧なことや誘導に乗った回答をしてしまうと後に不利に働いてしまうことも考えられます。

弁護士は、警察での取り調べに関して「何を話して何を黙秘するべきか」「取り調べにどのように向き合えば良いのか」などをアドバイスできます。

(2) 勾留阻止のための活動ができる

送検後に検察が裁判所に対して「勾留請求」をして勾留決定になると、逮捕から最大23日もの間家に帰れない可能性があります。会社や学校に事情を説明する必要が出てきて、社会生活に大きな影響が出るでしょう。

このような事態を避けるために、勾留阻止のための弁護活動が必要です。

弁護士は、被疑者に証拠隠滅や逃亡の恐れがないこと、定住所があり家族が監督をできること等、勾留の必要性がないことを検察や裁判官に主張します。

仮に勾留されてしまった場合でも、諦めず勾留決定に対して準抗告を申し立て争うこともできます。

弁護士に依頼すれば、勾留阻止のための弁護活動を積極的に行えるだけでなく、勾留が決まった場合にも争うことができるのです。

[参考記事]

逮捕後の勾留の要件とは?勾留の必要性を否定して釈放を目指す

(3) 示談交渉、不起訴への弁護活動ができる

痴漢・盗撮や窃盗など、被害者がいる事件の場合には、「示談」をまとめることが不起訴判断の重要なポイントとなります。

しかし、被害者との示談交渉を本人やご家族が進めようとしても、被害者が取り合ってくれないことがほとんどです。仮に話し合いの場を設けられても、法外に高額な示談金を提示されてしまう可能性があります。

よって、刑事事件の被害者とは、弁護士が間に入り示談を進めていくことが適切です。

示談の際に、被害者が「刑事処罰を望まない」ことを示してくれた場合には、不起訴の可能性が高くなります。不起訴になれば前科が残ることはありません。

このように、弁護士に早期に依頼すれば、将来への影響を少しでも少なくするための弁護活動が可能です。

【逮捕されたら前科は残る? 】
逮捕されたら、それだけで「前科がつくのでは?」と心配になる方も多いでしょう。実際のところ、逮捕されただけでは前科はつきません。前科がつくのは裁判で有罪判決が下され、確定した場合のみです。
もっとも、なんの履歴も残らないというわけではなく、逮捕されると「前歴」がつきます。前歴とは、警察の捜査の対象となった事実がデータとして残ることを指します(微罪処分でも残ります)。
これらの情報は警察や検察が閲覧することはできますが、一般の人は閲覧できません。犯罪を再び犯した場合には、前歴が不利に働くことはありますが、逮捕の事実を知られない限り、日常的な不利益が問題となることはないでしょう。

4.警察に逮捕されたら弁護士に相談を

警察から「ご家族を逮捕しました」という一報を聞いて動揺するのは当然です。
ですが、将来への影響をできる限り少なくするためには、すぐに早期釈放・不起訴のための弁護活動を始める必要があります。

ご家族が警察で逮捕された場合には、すぐにでも弁護士へご相談ください。

泉総合法律事務所は、数々の刑事事件で早期釈放、不起訴を勝ち取っていますので、どうぞ安心してお任せいただければと思います。

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