身近な法律の疑問 [公開日]2017年12月7日[更新日]2019年6月12日

最高裁が令状なしのGPS捜査は違法と判決!今後の捜査はどうなるか

最高裁が令状なしのGPS捜査は違法と判決!今後の捜査はどうなるか

GPS(Global Positioning System)とは、複数の衛星からの電波を受信し、その時間差を計算することによって対象の位置を特定できる装置(全地球測位システム装置)です。

この特性を捜査に利用し、被告人らの車両にGPS端末を捜査員が取り付けた事案に関し、今年の3月15日に、最高裁大法廷は令状なしのGPS捜査が違法であるとの判決(以下「本判決」といいます)を出しました。

尾行や張り込みと同じくして行われていた警察の秘密裏なGPS捜査が公になりましたが、一体どのような点が違法と判断されたのでしょうか。

以下においては、GPS捜査とその捜査手法、GPS捜査に関する下級審判例、本判決の判断内容、GPS捜査と令状取得、海外でのGPS捜査の是非などについて、解説することとします。

1.GPS捜査とその捜査手法

(1) GPS捜査とは

GPS捜査とは、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する、刑事手続上の捜査のことをいいます。

では、本判決の判断が示されるまで、GPS捜査はどのように行われていたのでしょうか。

捜査側は、GPS端末を用いた捜査手法を任意捜査と捉え、必要性のある限り、特に令状を取得することなく用いることができるとしていました。

警察がその根拠としていたのが、2006年(平成18年)6月30日付け警察庁刑事局刑事企画課長名の「移動追跡装置運用要領」という通達でした。全国の警察では、この通達に基づき、GPS端末を用いた捜査を、秘かに実施していたというのです。

(2) GPS端末の使用要件

情報公開請求等の結果、開示された文書によりますと、GPS端末の使用要件として、

①一定の犯罪(7類型)の捜査を行うに当たり、犯罪の嫌疑、危険性の高さなどに鑑み、速やかに被疑者を検挙することが求められる場合であって、他の捜査によっては対象の追跡を行うことが困難であるなど捜査上特に必要があること

②犯罪を構成するような行為を伴うことなく、捜査の対象となる物(4類型)に取り付けること

の2点が挙げられていました。

そして、①の対象犯罪として、「ア略取誘拐」「イ逮捕監禁」「ウ恐喝」「エ連続発生の強盗・窃盗」「オ薬物・銃器犯罪」「カ暴力団関連犯罪」の6類型は具体的な犯罪が明示されていましたが、7類型目は「アからカまでに掲げるもののほか、犯行の手段、被害の程度等から判断して、速やかに被疑者を検挙することが特に必要と認められる犯罪」と対象があいまいとなっていました。

また、②に関し、どのような物に取り付けることができるのかについては、「ア被疑者の使用車両」のみが明らかにされ、開示された文書には黒塗りがされていたため、その他については明らかになっていません。

使用手続等としては、

①警察本部捜査主幹課長による事前承認
②運用状況の所属長や本部主幹課長への報告
③継続使用の必要性の検討

という項目が挙げられていました。

最後に、「保秘の徹底」として、「移動追跡装置を使用した捜査の具体的な実施状況等については、文書管理等を含め保秘を徹底するものとし、一定の事項(3類型)に特に留意する。」とされており、ア~ウの3項目が挙げられていましたが、これもすべて黒塗りが施されていて、具体的にどのようなことに留意しなければならないかについては、明らかになっていません。

本判決後、警察庁は、全国の警察に対して、「検証として行うものも含め、移動追跡装置を用いての車両の位置情報を取得する捜査を控えるよう指示した」との通達を出したことを明らかにしました。

2.GPS捜査に関する下級審判例

(1) 任意処分説

GPS捜査により得られた証拠の証拠能力を肯定

① 大阪地決平27.1.27判時2288号134頁(大阪地判平27.3.6公刊物未登載)⇒確定
② 広島地福山支判平28.2.16公刊物未登載
③ 広島高判平28.7.21LEX/DB25543571⇒②の控訴審・確定
④ 福井地判平28.12.6LEX/DB25544761⇒下記⑷の第1審

(2) 強制処分説(その1)

令状のないGPS捜査に重大な違法があり、GPS捜査により得られた証拠の証拠能力を否定

① 大阪地決平27.6.5判時2288号138頁(大阪地判平27.7.10判時2288号144頁)⇒その余の証拠により有罪(本判決の第1審)
② 水戸地決平28.1.22公刊物未登載(水戸地判平28.3.25公刊物未登載)⇒その余の証拠により有罪(確定)
③ 東京地判平29.5.30公刊物未登載(GPS捜査により得られた証拠を排除し、覚せい剤取締法違反[所持・使用]の罪と一部の窃盗罪は無罪)⇒なお、防犯カメラの映像などの証拠により、他の窃盗等の罪は有罪(確定)
④ 奈良地葛城支判平29.6.19公刊物未登載⇒その余の証拠により有罪
⑤ 東京地立川支判平29.7.19公刊物未登載⇒その余の証拠により有罪(下記⑶の③と同一事件)

(3) 強制処分説(その2)

令状のないGPS捜査は違法だが、GPS捜査により得られた証拠の証拠能力を肯定

① 名古屋地判平27.12.24判時2307号136頁
② 名古屋高判平28.6.29判時2307号129頁(本判決と同日付けの上告棄却決定〔職権判示なし〕により確定)⇒①の控訴審
③ 東京地立川支決平28.12.22LEX/DB25544851⇒上記⑵の⑤と同一事件

(4) 強制処分説(その3)

令状のないGPS捜査は違法だが、第1審が採用した証拠はGPS捜査がなくても得られたとして証拠の証拠能力を肯定

○ 名古屋高金沢支判平29.9.26公刊物未登載⇒上記⑴の④の控訴審

(5) 任意処分説か強制処分説か明らかでないもの

令状のないGPS捜査に重大な違法がなく、第1審判決が証拠能力を否定しなかったその余の証拠の証拠能力を肯定

○ 大阪高判平28.3.2判タ1429号149頁⇒本判決の控訴審

3.本判決の判断内容

(1) 事案の概要

被告人は、複数の共犯者と共に自動車で移動することにより広域にわたる窃盗事件を繰り返していると疑われていました。

その窃盗事件に関し、組織性の有無、程度や組織内における被告人の役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として、平成25年5月23日ころから同年12月4日ころまでの約6か月半の間、被告人、共犯者のほか、被告人の知人女性も使用する蓋然性があった自動車等合計19台に、同人らの承諾なく、かつ、令状を取得することなく、GPS端末を取り付けた上で、その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査が実施されました(以下、この捜査を「本件GPS捜査」といいます。)。

一連の捜査の結果、被告人は、本件GPS捜査により犯行が現認されるに至った窃盗事件を含む10件の窃盗等の罪で起訴されました。

(2) 訴訟の経過

第1審大阪地裁は、本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項ただし書)に当たり、検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある旨の判断を示した上、本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定しましたが、その余の証拠に基づき被告人を有罪と認定しました。

被告人が控訴し、これを受けた大阪高裁は、本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示して、控訴を棄却しました。被告人は、憲法35条違反などを主張して上告しました。

最高裁大法廷は、下記(3)の①のとおり、控訴審判決を排斥したものの、第1審判決を維持したその結論に誤りはないなどと述べて、上告を棄却しました(刑集71巻3号13頁、判時2333号4頁)。

本件の論点は、①GPS捜査の強制処分性及び令状主義(憲法35条)との関係、②強制処分性が肯定される場合、現行刑訴法上の各種強制処分との関係(GPS捜査が「現行刑訴法上の」強制処分といえるかという問題)の2点でした。

(3) 本判決の判断

① 強制処分性

本判決は、GPS捜査を強制処分に当たるとしました。強制処分とした第1審の立場に立ち、強制処分法定主義に反するほどの重大な違法がないとしたその控訴審の判断を排斥しました。

本判決が、強制処分に当たるという理由として指摘するのは、以下の点です。

「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。」

強制処分法定主義に反するほどの重大な違法はないという点に対しては、以下のように指摘しています。

「憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(略記・最決昭51.3.16参照)とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」

なお、論点①についての裁判要旨は、

「車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査であるGPS捜査は、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制の処分である。」

というものです。

② 検証にも当たらない新たな強制処分

第1審の決定は、GPS捜査を令状なしでは行えない強制処分とした上で、「検証」令状で対応可能という立場を示しました。

この点に関し、本判決は、以下のように指摘しています。

まず、「GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検察を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。」としました。

その上で、検証許可状と併せて捜索許可状の発付を受けて行うべきであるという見解に対しても、

「GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。さらに、GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。」

としました。

③ 新たな法律の必要性

GPS捜査は、検証などの既存の強制処分では対応できない、新たな強制処分であるというのが、本判決のこの捜査方法の法的性格についての見解です。

このような新たな強制処分に対して、どのように対応すべきでしょうか。

本判決は、法解釈によってGPS捜査を適法とすることは困難であるとしながら、「GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の『この法律に特別の定のある場合』に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。」としました。

4.GPS捜査と令状取得

GPS捜査と令状取得

本判決は、令状を取得することなく行われたGPS捜査は違法と判断したわけですが、さらに加えて、GPS捜査について令状を取得して実施することについても疑義があるとしました。

この点に関し、本判決担当調査官は、

「本件は令状が発付された事案ではないことから、判例の直接的な射程という意味からすると、今後、現行法の下での令状請求があった場合に、これを発付するかどうかは、現実に令状請求を受けた裁判官が改めて判断すべき問題として残されているといえる。本判決が、特別の条件を付した検証許可状により実施することについて、『疑義』を指摘するとの表現にとどめているのは、こうした点を考慮したためと思われる。しかし、本判決は、令状請求を受けた裁判官がGPS捜査を可能とするために刑訴法上の令状を発付することは基本的に想定していないように思われる。本判決に付された共同補足意見が述べるように『刑訴法1条の精神を踏まえたすぐれて高度の司法判断として是認できるような場合』、すなわち『ごく限られた極めて重大な犯罪』について、行動の継続的、網羅的な把握が不可欠であるとの意味で『高度の必要性』が認められる場合に、令状が発付される余地があるとしても、その余地は極めて限定的なものというべきであって、そのような場合に当たるかどうかについては、『特別の事情の下での極めて慎重な判断』が求められることになろう。なお、本判決前に検証許可状を取得して行われたGPS捜査の有効性及びその結果得られた証拠の証拠能力については、それが問題となった裁判において判断されるべき事柄であるが、本判決が出る前の段階で、裁判官の令状を取得して実施されていることからすれば、『令状主義の精神を没却するような重大な違法』はないと解する余地も残されているのではなかろうか。」

と述べています(ジュリスト1507号114頁~115頁)。

5.海外でのGPS捜査の是非

(1) アメリカ

連邦最高裁は、2012年(平成24年)1月23日、連邦捜査局(FBI)などが麻薬取引の捜査で、令状で許可された期間が過ぎてから、対象者の車にGPS端末を取り付け、その後28日間にわたり公道上の移動を監視した事案に関し、上記車両へのGPS装置の装着及びその車両の移動を監視するための同装置の使用は、連邦憲法修正4条が禁止する不合理な捜索に該当し違憲であると判断しました。

判決の中で、一部の判事は補足意見でプライバシー侵害についても問題にしました。この判断で、各州の法整備が進み、令状取得を義務付け、捜査の実施後に相手に告知することを義務付けるなどの規定を設けた州もあるとされています。

(2) ドイツ

テロ集団による爆破事件のGPS捜査をめぐり裁判で合憲性が争われ、連邦憲法裁判所は、2005年(平成17年)、GPS捜査を合憲と判断しました。

GPSのような手段で監視する捜査は法で規制されており、現在は24時間以上継続する場合などには裁判官の命令が必要としています。

(3) フランス

GPS追跡装置を被疑者の車等に設置する捜査手法は問題とされていました。しかし、判例が一定の条件の下でこれを認めてきたところ、欧州人権裁判所の判例でも認められ、2002年(平成14年)の法律で明示されるに至りました。

その後、2014年(平成26年)にはフランス刑事訴訟法が改正され、位置情報装置の使用を規定する法整備がされました。これにより、予審又は捜査において必要があるときは、フランス領土内における人又は所有者若しくは占有者の同意なく車両その他の物にGPSを使うことができるようになりました。

6.まとめ

刑事事件を犯した人が被害者に謝罪したり、罰金を支払ったり、刑罰を受けるのは当然でしょうが、捜査の過程で行き過ぎがあっていいわけではありません。今回はそれがはっきりとした判決になったでしょう。

刑事事件の弁護経験が豊富な弁護士でしたら、警察の取調べに関するアドバイスも的確に行うことができます。刑事事件で逮捕されたら、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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