刑事弁護 [公開日]2017年11月16日[更新日]2023年11月27日

警察による取り調べの対応策を弁護士がアドバイス

警察による「取り調べ」という言葉は、誰もが聞いたことがあると思います。
しかし、実際の刑事事件の取り調べは、刑事ドラマなどで得たイメージとは往々にして異なります。

今回は、刑事事件を犯してしまい警察から取り調べを受ける被疑者の方、またはその家族の方に向けて、警察の取り調べの実情について簡単に解説した後、取り調べを受ける立場になってしまった場合の対応についても解説していきます。

1.「取り調べ」とは?

(1) 取り調べの内容

取り調べとは、警察官または検察官等の捜査機関が、被疑者に対して出頭を求めた上、事件の内容について聴取することです。
取り調べの結果は供述調書に記載され、後に刑事裁判で使用されます。

取り調べは、基本的には取調室で行われ、事件について関与しているか、その時間何をしていたのか等を聞かれます。
なお、逮捕後であっても、取り調べ中手錠は外されます。

取り調べの時間は、事件の内容や被疑者の対応によっても異なります。ただ、単純な事件であり、被疑者が自白しているような場合でも、短時間で終わらないことが通常です。

取り調べとは、①取調官が質問し、被疑者が答える問答を繰り返し、②取調官がメモした内容を調書に文章として起こし、③他の証拠資料と付き合わせて内容を吟味し、捜査側からみて問題がないと判断したうえで、④被疑者に文章を読み聞かせ、⑤内容に間違いがないと確認させて署名・指印をさせることが通常の流れですから、1回あたり1〜2時間で済むことはまずありません。
丸1日、短くとも半日はつぶすことになることが普通です。

なお、逮捕・勾留され、その事件の担当警察署の留置場に拘束されているケースでは、取調室までの移動に時間も手間もかかりませんので、頻繁に取り調べの機会を設けることが可能なため、1回1~2時間で調書作成まで行わない取り調べを細切れに繰り返すこともあります。

しかし、在宅事件や事件の担当でない警察署の留置場に拘束されている場合は、細切れに取り調べをすることは無理なので、上のように1度の取り調べに時間をかけることが一般的というわけです。

ちなみに、日本では逮捕されている被疑者の取り調べに弁護人が同席することはできません

(2) 取り調べは拒否できるか

逮捕・勾留されていない限り、取り調べは強制力のない「任意捜査」ですので、拒否することができます。
「取り敢えず一度拒否してから、弁護士に相談した上で取り調べに応じる」ということも可能です。

また、警察や検察から出頭要請があり、事前に日時を調整してくれます。

ただし、取り調べにまったく応じないと、罪証隠滅のおそれや逃走のおそれがあると判断されてしまい、逮捕状を請求されるリスクも0ではありません。

一方、逮捕後では状況が一転します。実務上、逮捕後の被疑者は取り調べを拒否できない運用になっています(これを「取調受忍義務」と呼びます)。

そのため、勾留施設から取調室まで連れていかれること、取調室に留まって取り調べを受けることまでは受忍せざるを得ないのが現状です。もっとも、後述のとおり、

黙秘権がありますから、取り調べに対して供述する義務は全くありません。

2.問題のある取り調べの実情

「罪を認めないと激しく恫喝されるのではないか?」「自白をするまで取り調べが終わらないのではないか?」など、刑事ドラマにありがちなイメージから、取り調べについて恐怖感を抱いている方も多いでしょう。

警察の捜査方法などについて定めた「犯罪捜査規範」では、取り調べのあり方について、次のような規制が定められています。

犯罪捜査規範 第168条
第1項 取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。
第2項 取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
第3項 取調べは、やむを得ない理由がある場合のほか、深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。この場合において、午後10時から午前5時までの間に、又は1日につき8時間を超えて、被疑者の取調べを行うときは、警察本部長又は警察署長の承認を受けなければならない。

このように、強制・拷問・脅迫はもとより、供述の誘導、利益供与、長時間にわたるものや睡眠時間を顧慮しないなどの肉体的・精神的苦痛をあたえる取り調べは、すべて被疑者の人権を侵害するうえ、虚偽の供述による冤罪を誘発する危険性があり、許されません。

しかし、今現在でも、このような取り調べは行われており、捜査現場は、ルールを逸脱した取り調べも、犯人を自白させ、処罰するためには致し方ない必要悪だという認識を払拭できていません。

実際、国家公安員会の定める「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」では、各警察本部、各警察署におかれる「取り調べ監督官」が、取り調べの状況を確認し、次のイ~へにあたる行為(これを「監督対象行為」と呼びます)を発見したときは、速やかに取り調べの中止などの措置を講ずることとされています(同規則6条3項、4項、3条2項)。

イ やむを得ない場合を除き、身体に接触すること。
ロ 直接又は間接に有形力を行使すること。
ハ 殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること。
ニ 一定の姿勢又は動作をとるよう不当に要求すること。
ホ 便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること。
ヘ 人の尊厳を著しく害するような言動をすること。

これは、このようなルール違反が現実にいくらでも存在するからなのです。

過去にも、(ⅰ)被疑者の弁解に一切聞く耳を持たず、犯人と決めつける行為、(ⅱ)実際には共犯者とされる者も否認しているにもかかわらず、共犯者が自白したから、お前も認めろと迫る行為、(ⅲ)素直に認めれば、すぐに釈放し、罰金などの軽い処分で済ませるなどと利益誘導する行為、(ⅳ)机を叩く、耳元で怒鳴り続ける、壁を向いて長時間立たせる、顔面を踏みつけるなどの暴行など、このような数々の違法な取り調べが行われて来た事実があります。

社会経験が乏しく誘導に乗りやすい未成年者や判断力が不足している障害者に対する取り調べにおける違法行為が問題となった事例も記憶に新しいところです。

このような取り調べによって、いったん虚偽の自白をさせられ、供述調書が作成されてしまえば、後の裁判で、その内容を覆すことは著しく困難となり、無実なのに有罪判決を受けて処罰されてしまいます。

3.違法な取り調べへの対策(自白強要など)

違法な取り調べも現存している中、刑事事件の被疑者になってしまった場合、取り調べにはどのように対応するべきなのでしょうか。

(1) 黙秘権の行使が可能

まずは、取り調べにおける被疑者の権利を理解しておくべきです。

被疑者には、憲法上、黙秘権が保障されています。よって、刑事手続きがいかなる段階にあろうと、質問に答えるか否かは自由です(黙秘権については、逮捕時に告知されます)。

虚偽の自白は後に自己の首を絞めることになるので、絶対にしてはいけません。

なお、調書を作成する際に、自分の言っていないこと、ニュアンスとして間違っていることがあれば訂正してもらえます。
また、調書を作成する際に署名指印を求められますが、調書を確認し間違いがあると思えば、これを断って構いません。

もっとも、実際には、黙秘権を行使するといっても、「ああそうですか」で済むはずがありません。取り調べ受忍義務がある限り、黙秘しても、取調室から退出することは許されませんし、捜査官は被疑者が犯罪を犯したことを前提としていますから、黙秘権を行使された程度ではあきらめず、何度も同じことを聞いてくる可能性があります。

当然、対応も苛烈になるため、これに耐えて黙秘を続けることはかなり強靱な精神力が必要です。

また、黙秘権を行使しなくとも、調書作成時に、こちらに有利な事情は無視して記載してくれないことなど当たり前ですし、訂正の要求にまともに取り合ってくれないこともあります。そのような場合は、絶対に署名指印に応じてはいけません

刑事事件弁護に強い弁護士を弁護人とすれば、事案に応じて黙秘権を行使するべきかどうか、行使した場合のメリット・デメリット、否認を続けた場合、自白した場合、それぞれの処分の見通しなどについて、専門的なアドバイスを受けることが可能です。

違法な取り調べに対しては、弁護人から警察署長、警察署員に対して抗議することができ、苦情の内容は速やかに取り調べ監督官に通知されます(被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則7条)。また、都道府県公安員会に対して苦情を申し出ることもできます(警察法79条1項)。

(2) 違法な取り調べの証拠の保全が有効

万が一問題があると思われる取り調べを受けた場合については、その証拠を保全することが必要です。

逮捕・勾留後に、弁護士が被疑者ノート(※)を差し入れ、被疑者本人に取り調べ状況を明確に記録してもらいます。そして、必要であれば公証役場にて確定日付をとり、証拠を保全します。

※被疑者ノート 日弁連が作成、配布しているもので、身柄を拘束された被疑者が、その日の取り調べ状況などを日々、記録しておくための専用の日記です。もちろん、このような記録は一般の市販ノートでも構いませんが、記録のし忘れを防止し、誰でも重要な事項を漏れなく記載できるよう詳細な記入欄が設けられている他、被疑者の権利や刑事手続について知っておくべき知識、アドバイスなどが記載されていますのでお勧めです。最初から被疑者ノートを差し入れてくれる弁護士もいますが、そうでない場合でも希望すれば差し入れしてくれます。

また、仮に暴行があったようなケースでは、暴行によりついたあざ等を写真撮影することもあります。

このようにして違法な取り調べの証拠を残しておくことで、後の裁判で、違法な取り調べに基づく供述調書であることを理由に、これを証拠とすることや、その内容の真実性を争うことが可能となります。

また、こういった証拠の保全活動それ自体が違法な取り調べに対する牽制にもなります。

4.取り調べへの対処法は弁護士に相談を

まだ逮捕前で、任意出頭しての取り調べが予想または予定されているのであれば、事前に弁護士と相談すれば、取り調べに対処する方法、注意点を知ることができ、心の準備をすることができます。

また、逮捕されてしまった場合でも、当番弁護士への連絡を要求するなどして必ず弁護士のサポートを受けるべきです。

任意の取り調べを受けた後に弁護士事務所に相談に来られた方の中には、取り調べで話した内容の今後への影響に不安を募らせる方や、咄嗟に不合理な言い訳をして否認をしてしまったことで後の処分が重くなったり、今更、事実を認めて被害者と示談交渉をすることは無理ではないかなどと心配している方もいます。

このような事態に陥らないためにも、事前に弁護士に相談することがお勧めです。

特に逮捕・勾留後は、社会と切り離された密室で過ごすことになるので、精神的な負荷は非常に大きく、虚偽の事実を認める自白をしてしまうケースは多く報告されています。弁護士の適切な弁護活動により、望まぬ供述をすることを避けることがとても重要です。

取り調べに臨まれる前に、できる限り早く刑事弁護の経験が豊富な泉総合法律事務所にご相談ください。

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