用語解説 [公開日]2018年1月29日[更新日]2024年6月24日

弁解録取書と身上経歴供述調書について

弁解録取書と身上経歴供述調書について

警察官や検察官が被疑者を逮捕すると、「弁解録取書」と「身上経歴に関する供述調書(身上調書・身上経歴調書)」を作成します。
それぞれどのような内容で、作成に当たり被疑者はどのように答えれば良いのでしょうか。

逮捕後の刑事手続で被疑者が不利にならないよう、本記事では弁解録取書・身上経歴供述調書の概要や、被疑者が取り調べを受ける際の留意点などについて解説します。(※本文中の「法」は刑事訴訟法を指しています。)

なお、以下では通常逮捕を前提としていますが、被疑者を現行犯逮捕あるいは緊急逮捕した場合の手続についても、通常逮捕の場合の規定が準用されます(法216条、211条)。

1.弁解録取書とは?

(1) 弁解録取書はいつ作成されるのか

司法警察員や検察官が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、(犯罪事実の要旨、弁護人を選任することができる旨を告げた上で)弁解の機会を与えなければなりません(法203条1項2項、204条1項5項)。
実務上、この手続を「弁解録取」と呼んでおり、弁解録取の手続きにおける被疑者の弁解内容等が「弁解録取書」という書面に記載されます。

逮捕したのが司法巡査又は検察事務官であるときは、直ちに、それぞれ司法警察員又は検察官に引致した上で、同様の手続がとられます(法202条)。

また、司法警察員から身柄送致された被疑者を受け取った検察官は、この時も弁解の機会を与えなければなりません(法205条1項)。
検察官が弁解録取の手続で作成する弁解録取書には、「供述調書」という表題が付されているものが少なくないようです。

弁解の聴取やそれと並行して行われる捜査の結果、留置(身柄拘束の継続)の必要がないと判断するときは、直ちに被疑者を釈放しなければなりません。

(2) 弁解録取書の内容

犯罪捜査規範130条1項は、司法警察員の処置として、「弁解の機会を与え、その結果を弁解録取書に記載すること」(同項3号)と規定しています。

そして、同規範134条は、弁解録取上の注意として、「被疑者の弁解を録取するに当って、その供述が犯罪事実の核心に触れる等弁解の範囲外にわたると認められるときは、弁解録取書に記載することなく、被疑者供述調書を作成しなければならない。」と規定しています。
(この趣旨は、検察官作成の弁解録取書でも同様と解されています。)

つまり弁解録取手続は、被疑者から被疑事実についての弁解を聴くだけですから、弁解録取書の内容は「被疑事実についての被疑者の意見、弁解」ということになります。

【弁解録取で黙秘権は使えるのか?】
弁解録取の手続は、「取り調べ」とは異なりますので、条文上、黙秘権の告知は必要とされていません。しかし実務上は、被疑者の権利保障の観点から黙秘権を告知する運用がなされています。
司法警察員の作成する弁解録取書では、黙秘権の告知がなされていても、書面上はその告知がなされた旨の記載がなく、単に「弁解の機会を与えたところ、任意次のとおり供述した。」と記載されることが多いです。他方、検察官作成の弁解録取書(表題は「供述調書」)では、冒頭に「あらかじめ被疑者に対し自己の意思に反して供述を必要がない旨を告げ」と記載され、さらに、「弁解の機会を与えて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。」旨記載されることが多いようです。
【参考】黙秘権とは?黙秘権を行使するメリット・デメリット

2.身上調書とは?

(1) 身上調書はいつ作成されるのか

逮捕した被疑者を引き続き留置する必要があると判断される時、司法警察員は、被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に、書類及び証拠物とともに被疑者を検察官に送致する手続をしなければなりません。
検察官の場合は、同じく48時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求するか、公訴の提起をしなければなりません。

検察官が司法警察員から被疑者を受け取った場合の制限時間は24時間ですが、この時間制限には、被疑者が身体を拘束された時から合計して72時間を超えることはできないとの制限が付されています。

司法警察職員は、被疑者を検察官に送致するまでに被疑者の取り調べを行い、身上調書を作成します。
この調書は、身上調査書あるいは身上経歴調書などとも呼ばれたりしますが、被疑者の「供述」を録取した書面に当たりますので、「供述調書」という表題が付されます(身上経歴に関する供述調書を「身上経歴供述調書」といいます)。

また、検察官が逮捕したような事件では、検察官が身上経歴供述調書を作成することになります。

(2) 身上調書の内容

犯罪捜査規範178条1項には、「被疑者供述調書には、おおむね次の事項を明らかにしておかなければならない。」と規定されています(被疑者が法人等の場合を除外)。

①本籍、住居、職業、氏名、生年月日、年齢及び出生地
②旧氏名、変名、偽名、通称及びあだ名
③位記、勲章、褒賞、記章、恩給及び年金の有無
④前科の有無
⑤刑の執行停止、仮出獄、仮出所、恩赦による刑の減免又は刑の消滅の有無
⑥起訴猶予又は微罪処分の有無
⑦保護処分を受けたことの有無
⑧現に他の警察署その他の捜査機関において捜査中の事件の有無
⑨現に裁判所に係属中の事件の有無
⑩学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係
⑪被害者との親族又は同居関係の有無
⑫犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯行後の行動
⑬盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無
⑭犯行後、国外にいた場合には、その始期及び終期
⑮未成年者、成年被後見人又は被保佐人であるときは、その法定代理人又は保佐人の有無

上記のうち、①⑩⑭⑮が身上経歴に関する事項に当たりますので、司法警察職員作成の「身上調書」には、おおむね上記の①⑩⑭⑮の内容が聴取の上で記載されることになります。
また、検察官作成の「身上調書」も、おおむね同様の内容の記載がなされているようです。

なお、上記のうち⑪ないし⑬は、犯罪構成要件及び情状に関する事項になります。基本的には身上経歴供述調書の範囲外となりますが、実務上、被疑事実を概括的に認める内容が記載されていることもあります。

⑪「被害者との親族又は同居関係の有無」及び⑬「盗品等に関する罪の被疑者については、本犯と親族又は同居の関係の有無」については、犯罪の成否、親族相盗例の適用、情状等に関係しますので、被疑者としても慎重に供述しなければなりません。
さらに⑫の「犯罪の年月日時、場所、方法、動機又は原因並びに犯行の状況、被害の状況及び犯行後の行動」については、犯罪構成要件に該当する事実及び情状に関する事実ですので、捜査機関が追求したい内容になります。

したがって、これら⑪ないし⑬については、捜査機関の取り調べに際し、被疑者があらかじめ弁護士の助言を得て臨むことが望ましいです。これは自己の権利利益を擁護する上で必要不可欠でしょう。

3.弁解録取手続における注意点

弁解録取手続が行われるのは、原則として逮捕直後になります。このため、被疑者は気持ちの整理がついていないことが多いと考えられますので、不用意な発言には気をつけなければなりません。

被疑者が自信をもって意見や弁解を述べられる場合はともかく、これに躊躇を覚える場合には「弁護士と相談してから述べます。」ということでも許される対応になります。
また、万が一弁解録取書が作成された後でも、その内容が意に沿わなければ、署名押印を拒絶することも権利として認められていますので、慎重に対応すべきです。

ここで、判例を確認しておきましょう。
最判昭27.3.27(刑集6巻3号520頁)は、

「法203条に基づく司法警察員の被疑者に対する弁解録取書、又は法204条若しくは法205条に基づく検察官の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であって、法198条所定の被疑者の取調調書ではないから、訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であって、法198条所定のように被疑者に対し、あらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていない。したがって、所論弁解録取書に検察官が被疑者に対してあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げた旨の記載が存しなくとも訴訟法違反があるともいえない。そして、弁解録取書であっても、被告人の供述を録取した書面と認められかつ法322条の要件を具備するか又は法326条の同意がありさえすれば証拠とすることができること論を俟たない」

と判示しています。
要するに、弁解録取書は、有罪認定の証拠となり得るのです。

4.身上経歴供述調書作成における注意点

身上調書を作成では、捜査官は一般的に本籍地の市区町村長に対して身上照会をして、被疑者の氏名、年齢、本籍等を確認します。また、前科・前歴関係についても、前科調書及び指紋照会回答書などにより必ず確認します。
さらに、出国や帰国についても、有効な旅券に基づく限り、入国審査官から出国や帰国の確認を受けたことが裏付けられます。

このような調査により、被疑者の身分関係、前科・前歴関係については、被疑者として争う余地はないといえます。

しかし、その余の事項(上記の⑩⑬)については、被疑者に不利益が生ずる可能性があるため、事案ごとに検討されなければなりません。

まず、⑩「学歴、経歴、資産、家族、生活状態及び交友関係」については、被疑者の性行にも関連しますので、被疑者が秘匿したい事項が含まれていることも考えられます。
したがって、弁解録取書と同じく、「弁護士と相談してから述べます。」と濁したり、黙秘権を行使したり、署名押印を拒絶したりすることが有効となるケースがあります。

また、被疑者の身上経歴供述調書は、公判段階では被告人の供述を録取した書面として扱われますので、(法322条の要件を具備するか又は法326条の同意があれば)証拠となります。

ただ、実務上、被告人の身上経歴供述調書の立証趣旨が「身上経歴等」とある場合は留意しなければなりません。
その記載内容の中に身上経歴だけでなく犯行状況が含まれていれば、「等」とある以上、犯行状況の証拠としても用いることができるわけです。

検察官が明示した立証趣旨が犯罪事実を含むと考えられるときは、弁護人としても、求釈明によって検察官の立証の真意を確認するのが望ましいと考えられています。

5.被疑者が取り調べを受ける際の留意点

弁護士の援助を受ける権利は、身体を拘束された被疑者の基本権です(憲法34条)。
捜査機関から追及を受け調書が作成される段階において、弁護士の援助を受ける機会が法的にも整備されているのです。

身体を拘束された被疑者は、弁護士と接見し、基本的な権利について法的な助言を得ることができます(法39条)。
また、弁護士は、被疑者から話を聴き、有利な事情を汲んで被疑者に代わり捜査段階から様々な活動をすることができます(例えば、被害者との示談交渉、勾留要件存否の点検、事件処理を行う検察官に対し被疑者に有利な証拠・情状の伝達等)。

被疑者は、取り調べにおいて、どのように供述すべきか、何を話し、何を話さないか、また、黙秘権を行使すべきか、虚偽供述をすればどうなるのかなど、弁護士の助言なしには解決し難い内容が含まれます。
被疑者は、取り調べを含む全ての面において弁護士を頼るべきなのです。弁護士の援助が得られてはじめて、捜査機関と対等な立場に立てます。

このように、弁護士が捜査の初期段階から事件に関与することは、被疑者が真犯人であれ無実であれ、被疑者の基本的人権を擁護し、被疑者の早期釈放や犯罪の量刑に関し、適正な結論を導くために必要不可欠です。

6.まとめ

逮捕され、一人で捜査機関と向き合って取り調べを受けるリスクは大きいです。しっかりと否定すべきところや真実と異なるところもあやふやになってしまうことがあるかもしれません。
そのようなときは、弁護士の力を借りることが最善です。弁護士に依頼すれば、捜査機関の取り調べに関するアドバイスもしてもらえます。

刑事事件で逮捕されてしまった際には、お早めに刑事弁護の実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご依頼ください。

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