暴行
暴行とは
暴行とは簡単に言えば、暴力・乱暴のことです。ちなみに刑法において、暴力という言葉は「①最広義」「②広義」「③狭義」「④最狭義」という4つの意味に分類されます。
- ①最広義:もっとも広い意味での暴行で、暴力が行われる対象が“人・物、いずれであるか”を問いません。
- ②広義:基本的には“人”に対する有形力(暴力)の行使を指します。ただし、“物”に対する有形力(暴力)行使であっても、その行使によって物理的・心理的に“人”に対して間接的に影響を与えるような場合は、人に対して行われたとみなします。
- ③狭義:“人の身体”に対する有形力(暴力)の行使を指します。暴行罪での暴行は、この狭義の暴行を指します。
- ④最狭義:人の反抗を抑圧したり、ある行為を著しく困難にさせる程度の有形力(暴力)の行使を指します。
暴行罪における暴行とは、上記③の「狭義」をベースとして、「人の身体に対する不法な有形力(暴力)の行使」であると定義づけられています。典型的な例として、殴る、蹴るなどの行為がそれに該当します。
しかし、人の身体に直接触れていなくても、人の身体に向けられていれば、暴行に該当する可能性があります。たとえば、数歩手前を狙って石を投げつける行為などがそれに該当します。
もっとも、暴行を加えた結果、傷害結果が発生すればより重い傷害罪となります。
これらの行為が“暴行”にあたります
- ◇相手を殴ったり、蹴り飛ばしたりした
- ◇相手に水をかけたり、石を投げた
- ◇相手につばをかけた
- ◇相手の衣服をつかみ、引っ張った
- ◇拡声器を用いて、耳元で大声を発した など
暴行罪の刑罰
2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料(刑法208条)
一般的に、検察官、最終的には裁判所が暴行罪の量刑を決める場合、次の項目を基準として総合的に判断します。
- 示談の有無
- 示談金額
- 被害弁償の有無
- 被害弁償額
- 暴行行為の態様(悪質性、計画性、凶器使用の有無など)
- 暴行行為の動機
- 被害者側の事情(けんかなど、事件に至る経緯に被害者にも責任があるか)
暴行罪に関する量刑相場について、これまでの泉総合法律事務所での刑事弁護実績を踏まえてご説明します。
まずは弁護士を依頼しなかった場合についてですが、上の事情を考慮し軽微な事件と判断されたものについては、初犯であれば、検察官は不起訴処分とすることが多いでしょう。あくまでその可能性が高いというだけですので、確実に不起訴処分を取ろうとしたい場合には刑事弁護経験豊富な弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士は被害者と示談交渉し、示談が成立すれば不起訴処分になります。仮に示談が成立しなかった場合でも被害弁償を行うことで不起訴処分になる可能性が高まります。たとえ検察官に起訴されたとしても、略式手続による罰金で済むことがほとんどですが、罰金刑も前科であり、後に何等かの時に前科が発覚したり刑事事件を起こすと重大事態にならないとも限りませんから、罰金刑をあまく見ないことをお勧めします。
暴行や傷害など同種の前科がある場合には、検察官は公判請求して刑事裁判になることもありますが、公判請求されるのが初めてであれば、執行猶予付き判決が下される可能性が高いといえますが、あくまで可能性であって実刑判決がないとは言えませんので、この場合も刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼することを強くお勧めします。
なお、暴行事件当時にたとえば前科の懲役刑の執行猶予中だった場合には、起訴されれば特別な事情がないのが通常でしょうから、実刑判決となり、前刑の執行猶予は取り消されてダブルで服役することになります。執行猶予判決を前刑で受けた方はこのことを十分知っているのが通常ですが、時間の経過に連れて忘れてしまっている方もおります。そのことも考えると逮捕や警察に検挙された方で前科がある方は必ず刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護を依頼すべきだと思います。起訴前に示談が成立できれば不起訴となり、ダブルでの服役はなくなります。
さて、弁護士を依頼した場合の弁護活動として重要なのは示談交渉です。示談が成立していれば、通常、不起訴となるでしょう。これは仮に同種の前科があってもです。前科があるからとあきらめずに弁護士に刑事弁護を依頼して、示談交渉を始めることが重要です。
また、前科や、暴行に及んだ経緯(けんかか酔っていたかなど)や、凶器を使ったかどうかなど、検察官は様々な点を考慮して処分を決めますので、単なる暴行でケガをしていないからと言って不起訴になるだろうとご自身で安易に判断するのは危険です。刑事事件になったら刑事弁護経験豊富な弁護士に刑事弁護をかならずご相談、ご依頼してください。
暴行罪と傷害罪、その2つの違いはどこか?
これら2つの違いは、暴行した相手の“ケガの有無”です。
まず暴行罪とは、暴行したものの、相手をケガさせるに至らなかった場合に成立します。
一方、傷害罪とは、暴行したかどうかは問わず、とにかく相手にケガを負わせた場合に成立します。
したがって、暴行を加えた結果、相手がケガを負わなかった場合には暴行罪にとどまり、ケガを負ってしまった場合には、暴行罪に止まらず傷害罪になる、とご理解いただくと良いでしょう。
ちなみに2つの刑罰の内容ですが、暴行罪は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する」と定められているのに対し、傷害罪は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と暴行罪よりも重く定められているため、どちらの罪で処罰されるかはとても大きな意味を持ちます。
執行猶予は懲役3年以下の場合につきますので、暴行罪は最長でも2年ですので執行猶予はつきます。しかし、傷害は長期15年以下の懲役ですので、執行猶予がつくとは限りません。この差はとても大きなものがあります。
暴行罪の時効
犯罪行為が終わった時点から数えて、3年経過すると公訴時効が成立します。公訴時効とは時効期間が経過すると起訴できないことを意味しますから警察も捜査できないという意味を持ちます。
ただし、起算点、つまりどの時点から時効が進行するのかという点は、色々と複雑なケースもあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
暴行罪の弁護方針
◇罪を認めている場合
(1)示談成立を目指す
暴行罪は、被害者からの告訴がなくても検察官起訴することができる非親告罪であるため、示談を成立させて告訴を取り消してもらえたとしても、制度上、親告罪のように絶対に不起訴になるというわけではありません。前科が複数あったり、犯行態様が悪質であったりすれば、略式罰金刑、正式起訴もあり得ます。
しかし、示談成立となれば、検察官や裁判官への心証が良くなり、前科や犯行態様にもよりますが、初犯であれば、起訴前であれば不起訴処分、起訴後正式裁判になれば執行猶予付き判決を下してもらえる可能性が高まります。
したがって、泉総合法律事務所の弁護活動では、まずは示談経験豊富な所属弁護士が被害者と示談交渉を行い、とにかく早期の示談成立を目指して全力を注ぎます。
ただ、被害者は被疑者(加害者)に対して、警戒心や憎悪感を抱いていることが多く、被害者が被疑者(加害者)に連絡先を教えてくれることはきわめて稀で、通常は、弁護士から担当検察官に被害者の連絡先を教えてもらうようお願いし、検察官が被害者に弁護士限りで連絡先を教えていいかどうか打診して被害者の連絡先を検察官経由で教えてくれるのが通常です。
在宅の場合には検察庁に送検されるまでは警察官に被害者の連絡先を教えてもらうようお願いすることになります。稀に被疑者自身が被害者に会って謝罪と被害弁償をしたいとお考えの方がおりますが、ほとんど被害者は加害者に会うことを拒否しますので、あくまで弁護士を通して示談を行う必要があります。弁護士が代理人となって示談交渉するのであれば、「直接、加害者と会わないで済むし、応じても良い」といった具合に、被害者が示談交渉に応じてくれるのが通常です。
また、もし被害者が会ってくれるとしても、当事者同士ではお互いに冷静な話し合いが行えず、さらなるトラブルが起きてしまう可能性が高いとお考えください。
(2)反省文・謝罪文を書く
暴行に及んでしまったという事の重大さを被疑者の方に理解してもらい、深く反省してもらいます。それから、被害者に対して十分に謝罪します。被害者が許してくれるかどうか、という点はとても重要ですので、謝罪と合わせて治療費や慰謝料など、十分な被害弁償も合わせて行います。
また、被疑者の方に謝罪文や反省文を作成してもらい、被害者、そして検察官や裁判官にその書面を提出することで、猛省している姿勢を理解していただきます。
(3)早期釈放を目指します
逮捕されない在宅事件ではなく、被疑者が身柄を拘束されている場合には、早期の身柄解放を目指して、以下の弁護活動を全力で行います。
・裁判官に対して勾留請求しないよう、家族の身元引受書、上申書、弁護士意見書など、勾留の必要性がないことを主張する書類を検察官に提出して交渉する。その結果、検察官が裁判官に勾留請求しないことも結構あります。先日も児童買春の刑事事件で検察官に勾留請求をしないよう働きかけたところ、勾留請求せず釈放されました。
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(それでも検察官が裁判官に勾留請求してしまった場合には)
・裁判官が勾留決定しないよう、家族の身元引受書や上申書、弁護士意見書などを裁判官に提出して勾留決定しないように働きかけます。裁判官は検察官の場合よりも勾留決定をせず釈放することが多いように感じています。
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(それでも勾留決定が下されてしまった場合には)
・勾留決定を取り消してもらうよう、裁判官に対して要求する。いわゆる、“準抗告”を行う。準抗告とは、3名の裁判官からなる裁判所に別の裁判官がすでに下した勾留決定を取消してもらう裁判をいいます。一般論では準抗告で勾留決定取消しとなる可能性は低いのですが、当所では4週間連続して4件準抗告を認容してもらい釈放を勝ち取っております。
泉総合法律事務所ではこれまでに、暴行事件における多くの勾留阻止、身柄解放の実績がありますので、どうぞご安心ください。
◇“正当防衛だった”と主張したい場合
正当防衛とは、相手からの急迫不正の侵害に対して、自分または他人の権利を防衛するためにやむを得ずにした行為であれば、罰しないとするものです。
したがって、「相手の方が先に殴りかかってきたので、自分を守るために行った」という場合には、不起訴や無罪になる可能性があります。
具体的には、正当防衛が成立するかどうかは、次の点がポイントになります。
◇侵害を予期していたか
◇積極的な加害意思があったか
したがって、“相手からの侵害を予期しておらず、相手の暴行に対して応戦するにしても積極的な加害意思を持たなかった“という場合に、正当防衛が成立すると言えます。
いずれにしても、泉総合法律事務所の弁護活動としては被疑者の方から事情を細かく聴取して、正当防衛を裏付ける事情があれば、捜査機関や裁判官に対して粘り強く主張していくことで、正当防衛を認めてもらい、不起訴処分や無罪を目指していきます。
もっとも、正当防衛が問題となるケースはあまりないと言っていいかと思います。相手が殴ってきたので、殴り返した場合ですが、このような場合には多くは正当防衛ではなく、双方暴行(傷害)として取り扱われると思います。その場合に、相手方が被害届を警察に提出して暴行の被疑者となった場合には、相手方に対して被害届を出して対抗することも考えの一つですが、その点は刑事弁護経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。