用語解説 [公開日]2018年3月5日[更新日]2019年11月26日

刑事事件における没収とは何か

刑法上の刑罰として、罰金・死刑・懲役等以外に、「没収」というものがあります。

没収は、どのような刑罰で、どんな場合に課されるものなのでしょうか。
以下では、刑事罰の「没収」について詳しく解説していきます。

1.没収とは何か

(1) 没収とは

没収とは、物の所有権等を剥奪して国庫に帰属させる処分のことです。

刑罰の種類について定めた刑法9条は、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。」としており、没収を刑罰の一種としています。

「主刑」とは、独立に言い渡すことができる刑罰のことです。「付加刑」とは、主刑が言い渡された場合にそれに付加してのみ言い渡すことができる刑罰のことをいいます。

没収は、法的には刑罰の一種ですが、刑罰的側面だけでなく、対象物の社会的な危険性を除去し、犯人に犯罪による利得を保持させないという、保安処分的側面もあります。

没収の判決がなされると、没収対象物が国庫に帰属することになります。

【没収と押収の違い】
没収は刑罰のため、裁判官が判決の中で言い渡すことしかできず、警察官や検察官が没収をすることはできません。
一方、警察官が職務質問の際に危険物等を見つけてそれを提出させたり、警察官が家宅捜索を行って事件に関係する物を差し押さえたりすることがあります。これらは押収(占有を強制的に取得する処分)と呼ばれるもので、対象物を国庫に帰属させる没収とは全く別のものです。

(2) 任意的没収と必要的没収

原則として、没収は任意的(つまり、没収の対象に該当しても、裁判官の判断により、没収をすることもしないことも両方可能)です。

没収することができない場合に、追徴(没収の対象物が消費されるなどして没収できなくなった場合、対象物の客観的価値相当額の支払いを命じること)するかどうかも、原則として裁判官の裁量に委ねられています。

例外的に、必ず没収しなければならない場合があります。
例えば、賄賂罪に関する刑法197条の5は「犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。」と定めており、犯人等が受け取った賄賂は必ず没収され、没収できないときは必ず追徴されることになります。

2.没収の対象物

刑法19条1項は、以下の物を没収できるとしています。

  • 犯罪行為を組成した物
  • 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
  • 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
  • 前号に掲げる物の対価として得た物

(1)「物」の意義

刑法19条1項の「物」とは、有体物をいい、動産のみならず不動産も含まれますが、利益や債権は原則として含まれません。

その例外として、例えば、麻薬特例法と呼ばれる法律では、「薬物犯罪収益等」の没収の規定を定めています。
これにより、薬物犯罪による収益等に当たるものであれば、預金債権等の無体的財産も没収の対象となります。

(2) 「犯罪行為を組成した物」

その物の存在が犯罪行為の不可欠な要素となっている物をいい、講学上、「組成物件」と呼ばれています。

偽造文書行使罪における偽造文書(大判昭10.3.1)、賄賂罪における賄賂(最判昭24.12.6)、わいせつ物の頒布・陳列・有償頒布目的所持罪におけるわいせつ物等が該当します。

(3) 「犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物」

犯罪行為の不可欠の要素となっている物ではないが、犯罪行為のために使用され、又は使用する目的で用意したものの、実際には使用しなかった物をいい、講学上、「供用物件」と呼ばれています。

殺人行為に用いられた拳銃、文書偽造に用いられた偽造印(大判昭7.7.20)など、犯罪の実行行為に直接使用され、又は使用する目的で用意された物が該当します。

また、それらだけではなく、例えば、住居侵入窃盗事件において、住居に侵入するために使用された平角鉄棒も、窃盗の手段としてその用に供した物として没収することができます(最判昭25.9.14)。

(4)「犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物」

これらは、講学上、「産出物件」、「取得物件」、「報酬物件」と呼ばれています。

産出物件(犯罪行為によって生じた物)とは、犯罪行為によって存在するに至った物をいい、例えば、通貨偽造罪における偽造通貨(大判明42.4.19)、文書偽造罪における偽造文書(大判明42.6.11)などがこれに該当します。

取得物件(犯罪行為によって得た物)とは、犯罪行為によって犯人が取得した物をいい、例えば、恐喝によって得た契約書(大判昭5.4.28)、賄賂として貸付を受けた現金(最判昭33.2.27)などがあります。

報酬物件(犯罪行為の報酬として得た物)とは、犯罪行為をしたことの対価・報酬として得た物をいい、教唆(他人に犯罪を犯す意思を生じさせ、その人物がその犯罪を犯す)や幇助(犯罪を犯す人を物理的・心理的に援助する)の報酬として得た物を含みます。
例えば、売春業者に建物を提供した場合の家賃(最決昭40.5.20)などもこれに該当します。

(5) 前号に掲げる物の対価として得た物

刑法19条1項3号の産出物件、取得物件、報酬物件の対価として得た物のことをいい、例えば、盗品を処分してその対価として得た物(最判昭23.11.18)、窃盗犯人が盗んだ現金で買った物(仙台高判昭30.11.8)などがこれに該当します。

3. 例外的取扱い

以上の要件に該当すれば、原則として没収することが可能です。もっとも、以下のような例外があります。

(1) 他人所有物の没収

刑法19条2項は、「没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。」と定めています。

つまり、対象が他人のものである場合は原則として没収できませんが、所有者が19条各号に該当する事実を知って取得した場合は没収することが可能ということになります。

(2) 軽微事件の場合

刑法20条は、「拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第19条第1項第1号に掲げる物の没収については、この限りでない。」と定めています。

つまり、刑罰の内容に拘留又は科料しか定めていない軽微事件については、特別の規定がない限り、刑法19条1項1号の対象物(組成物件)以外の物件を没収できないとしています。

「拘留」とは、1日以上30日未満の短期の収容処分をいい(要するに禁錮刑の期間が短いもの)、「科料」とは、千円以上1万円未満の金額を国庫に納付させることをいいます(要するに罰金の金額が安いもの)。

例えば、浴場をひそかにのぞき見る行為は軽犯罪法違反となりますが、軽犯罪法違反には拘留と科料しか刑罰が定められていないため、のぞきをするときに使った双眼鏡(刑法19条1項2号の「供用物件」に該当します)は没収できないことになります。

4.まとめ

以上のとおり、没収の対象物には様々なものがあり、没収の要件や必ず没収されるかどうかも様々で、警察官に押収された物が必ず没収されてしまうわけではありません。

大事な物が警察官に押収されてしまい、それがなかなか返してもらえずに困っている。押収された物がそのまま没収されてしまうのではないかと心配になっている。
このような場合、お早目に泉総合法律事務所にご相談ください。刑事事件に習熟した弁護士が、不安解消のために今後のアドバイスをいたします。

刑事事件コラム一覧に戻る