裁量保釈とは?裁判官の裁量により保釈を許される可能性
刑事事件で逮捕・勾留された場合、身柄拘束されたまま起訴される事件もあります。
身柄拘束のまま起訴された場合、被告人を解放する手続として「保釈」制度があります。保釈には、権利保釈、裁量保釈、義務的保釈(勾留が不当に長くなった場合)があります。
裁判所は、保釈請求があった場合、まず権利保釈に当たるかどうかを判断し、当たらないと認められる場合には、進んで裁量により保釈を許すことができるかどうか、その当否についても判断するというのが実務上の取扱いとなっています。
そこで、以下においては、裁量保釈の趣旨、裁量保釈の必要性があることを主張する方法、裁量保釈の要件の具体的検討、最高裁の事例などに触れながら、裁量保釈について解説することとします。
なお、以下では、刑事訴訟法は「法」と略記します。
1.権利保釈と裁量保釈の関係
保釈の請求があった場合には、罪証隠滅の恐れ、被害者に対する畏怖・暴行の恐れ、住所不定などの事情がない限り、保釈を許さなければなりません(法89条、権利保釈)。
逆に、のが原則です。
89条 | 要件 |
---|---|
1号 | 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 |
2号 | 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。 |
3号 | 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 |
4号 | 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 |
5号 | 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。 |
6号 | 被告人の氏名又は住居が分からないとき。 |
しかし、上記各号に該当する場合であっても、保釈が許される場合があります。それがです。
法90条は、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」と規定し、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情を明記しています。
したがって、裁判所は、保釈の請求があった場合において、法89条1号から6号までのいずれかの事由に該当して権利保釈が認められないときでも、「適当と認めるとき」には法90条によって裁量で保釈を許可することができます。
そして、法90条は、裁判所が裁量保釈を許可し得る場合について、上記のように、「適当認めるとき」の考慮事情を具体的に明示して、保釈の許否の判断の具体的指標を示しているのです。
2.裁量保釈の具体的要件・検討
(1) 逃亡のおそれ
「逃亡するおそれの程度」については、所在不明となる具体的・現実的な可能性があるのかという観点から検討されることになります。
(2) 罪証隠滅のおそれ
「罪証隠滅のおそれ」も具体的・現実的に認められる必要があり、単なる抽象的可能性では足りないと解されています。また、罪証隠滅の対象は犯罪事実(凶器など)だけでなく、量刑上重要な事実(情状事実など)も含まれます。
「おそれ」が具体的にあるかは、主観的可能性(意図)・客観可能性(余地)を踏まえ判断します。つまり、否認又は黙秘の態度から直ちに罪証隠滅のおそれを肯定することにはなりません。
(3) 身体の拘束の継続により被告人が受ける不利益
様々な事情が想定できますが、以下のようなものが、に当たると思われます。
- 疾病に罹患しており、身体拘束の継続によりそれが重篤化するおそれがある
- 自営業者で事業の資金繰りが極めて悪化しており、経営破綻を回避するため、被告人自らが関係先との交渉等に従事することが不可欠である場合
- 複雑困難な裁判員裁判の事件において、被告人本人が弁護人との打合せを十分な時間をかけて綿密かつ機動的に行わなければ、連日開廷の審理に備えることができない
(4) その他の事情
例えば、以下のようなものが考慮される事情に当たると思われます。
- 被告人が、被害者等の事件関係者を逆恨みするような事情もなく、したがってお礼参りに及ぶおそれがあるとは考えられない
- 被告人に介護又は養育すべき親族がおり、被告人自身がこれを行わなければ、その親族が生活できなくなるような影響が生じる
もとより、上記の事情があるからといって、直ちに裁量保釈が認められるわけではないとされています。
「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」のほか、上記のような不利益の程度等を考慮勘案して、裁量保釈を認めるのが適当であるか判断されることになります。
3.裁量保釈の必要性があることを主張する方法
(1) 面談の申出
まず、保釈の許否を決する前に、裁判官(第1回公判期日後は「裁判所」となります)に面談を求めることが考えられます。
弁護士は、裁判官との面接を求め、その面接を通じて、保証金額の希望を伝えたり、望ましい制限住居、適切な身柄引受人の存在などを訴えたり、また、裁判官からの事情聴取に応じるなどして、裁量保釈の必要性に関する判断材料を提供します。
(2) 準抗告等の申立て
裁判官による保釈の許否が判断された後は、その判断に対し、準抗告(法429条1項2号)又は抗告(法419条、420条2項)ができます。
準抗告・抗告については、以下のコラムをご覧ください。
[参考記事]
保釈請求を却下された!準抗告・抗告で不服申し立て
4.最高裁において裁量保釈が認められると判断した事例
最後に、実際に裁量保釈が認められた事例をいくつか紹介します。
- 被害者に暴行・脅迫を加え、現金5,000円等を喝取した事案につき、被告人に前科前歴がない、被害者との示談が成立した等の事情を考慮し、保釈を認める(最決平14.8.19裁判集刑事282・1)
- 大麻所持の事案につき、犯行の概略を認めていること、前科前歴のないこと、大学受験目前である等の事情を考慮し、保釈の請求を却下した原々審の裁判とこれを是認した準抗告審の原決定を取り消した(最決平17.3.9裁判集刑事287・203)
- 12歳の女児に対する強制わいせつの事案につき、89条3号及び4号に該当する事由があるにもかかわらず、被告人が捜査段階から公訴事実を認めていること、先行して起こした5件の同種の事案での取り調べが終了していること、両親らが被告人の身元の引き受けと公判への出頭確保、日常生活の監視を制約していること、被告人が臨床心理士のカウンセリングを今後も受け続ける意向を示していることなどを考慮し、保釈を許可した原々審の裁判を取り消し保釈請求を却下した準抗告審の原決定を取り消した(最決平24.10.26裁判集刑事308・481)
5.保釈請求などの刑事弁護は泉総合法律事務所へ
逮捕後、勾留のまま起訴された場合、身柄拘束の状態が続きます。起訴されてしまった場合、保釈許可、あるいは、保釈請求却下の裁判がなされてもその取消しを求めるには、法律のプロである弁護士に依頼するべきです。
また、それより早く、逮捕された直後に弁護士へ刑事弁護を依頼すれば、不起訴を獲得できる可能性があります。
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