刑事事件弁護 [公開日]

護身用スプレーを持っていて捕まった!所持する上での「正当な理由」

護身用スプレーを持っていて捕まった!所持する上での「正当な理由」

近年、どこで犯罪に巻き込まれるか分からず、男性も護身用の催涙スプレーを持ち歩いていることがあります。

警察の職務質問を受けたとき、護身用などで持っていた催涙スプレーが見つかって捕まるケースはあるのでしょうか。もし捕まってしまった場合、どのように対処すればいいのでしょうか。

以下においては、そもそも催涙スプレーの所持は違法ではないのか、催涙スプレーの携帯が違法とされる可能性、もし催涙スプレーの携帯で検挙された場合の対処などについて、解説することとします。

1.催涙スプレーについて

そもそも催涙スプレーの所持は違法ではない?

催涙スプレーは、護身用品として、製造販売されています。

催涙スプレーは、ネット通販などを利用して誰でも自由に購入することができ、その購入や屋内での所持を規制する法律はありません。

したがって、催涙スプレーを屋内で所持する限り、違法ではないことになります。

催涙スプレーは、暴漢、強盗、暴力や性犯罪などの被害から、自分や家族らの身を守る手段としても使われることがあります。

催涙スプレーは、相手の顔面を目がけて噴射するように使用しますので、失明や外傷の危険性が心配されます。しかし、人に対する護身用品としての催涙スプレーは、人にとっても、動物にとっても安全であることが実証されているようです。

ただし、クマ撃退用の催涙スプレーの中には、非常に濃い成分で作られているものがあり、失明や外傷の危険性があるとされています。

では、催涙スプレーを屋外で携帯した場合、違法となるのか否かについて、検討してみましょう。

ところで、携帯は、所持の一態様ですが、それよりも狭く、かつ、現実的な概念であり、日常生活を営む自宅ないし居宅以外の場所で、身に帯びるか、自己の身辺近くに置いて、事実上その支配下に置いていることをいうと解されていますから、以下の説明では、屋外における携帯を前提とすることとします。

2.催涙スプレーの携帯が違法とされる可能性

(1) 一般的説明

催涙スプレーが、暴漢等から襲われて身の危険が迫ったときなどに相手方に向けて噴射し、身を守るために使用されることを想定した器具であることを考慮してもなお、軽犯罪法1条2号にいう「人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」に該当することは明らかであると解されていますから(最判平21.3.26刑集63・3・265)、催涙スプレーの隠匿携帯した者は、「正当な理由」がなければ、同号の凶器携帯罪が成立し、拘留(1日以上30日未満の自由刑)又は科料(千円以上1万円未満の財産刑)に処せられることになります。

では、「正当な理由」があるというのは、どういうことをいうのでしょうか。

上記最判は、次のように判示しています。

「本号(注:軽犯罪法1条2号のこと)にいう『正当な理由』があるというのは、本号所定の器具を隠匿携帯することが、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合をいい、これに該当するか否かは、当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべきものと解される」

その上で、上記最判は、具体的事案につき、

「本件のように、職務上の必要から(注:会社の経理担当者で、有価証券や多額の現金をアタッシュケースに入れて、会社と銀行とを間を電車や徒歩で運ぶ場合があり、仕事中に暴漢等に襲われたときに自己の身体や有価証券等を守る必要を感じ)、専門メーカーによって護身用に製造された比較的小型の催涙スプレー1本を入手した被告人が、健康上の理由で行う深夜路上でのサイクリングに際し、専ら防御用としてズボンのポケット内に入れて隠匿携帯したなどの事実関係の下では、同隠匿携帯は、社会通念上、相当な行為であり、上記『正当な理由』によるものであったというべきであるから、本号の罪は成立しないと解するのが相当である。」

として、被告人を科料9000円に処した第1審判決及びこれを維持した原判決を破棄し、被告人に対し無罪を言い渡しました。

なお、上記最判の補足意見では、

「防犯用品として製造された催涙スプレーであっても、現に、そのようなスプレーを使用した犯罪等も決してまれではないことからすれば、本号により取り締まることの必要性、合理性は明らかであって、犯罪その他不法な行為をする目的で催涙スプレーを隠匿携帯することが、上記『正当な理由』の要件を満たさないことはもとより、これといった必要性もないのに、人の多数集まる場所などで催涙スプレーを隠匿携帯する行為は、一般的には『正当な理由』がないと判断されることが多いと考えられる。」

と述べられています。

(2)「正当な理由」とは

軽犯罪法1条2号で処罰の対象になるのは、「正当な理由がなくて」同号所定の器具を隠匿携帯していた者です。

同号の具体的解釈に当たっては、銃刀法22条にいわゆる「業務その他正当な理由による場合を除いては」と同義に解されています。

すなわち、同法3条1項所定の銃砲刀剣類の所持禁止の除外事由に当たる場合、例えば、大工が建築現場に行くのにノミやカナヅチを道具箱に入れて運ぶなど、職務上又は業務上の必要のため携帯する場合はもとより、登山等のため、必要な登山ナイフを携帯する場合などは、正当な理由がある場合とされています。

また、鉛筆削りに使用するため、小型のナイフをかばんの中に入れて持ち歩くのも、同様に、正当な理由がある場合といえるのです。

これに対し、けんかの際の護身用としてこれらを携帯するような場合は、正当な理由があるとは思えませんし、場合によっては、積極的な加害意思があったものとして、正当防衛が否定されたり、過剰防衛(違法)とされると解されています。

(3) 具体的検討

上記最判の補足意見は、

「本判決は、飽くまで事案に即した判断を行ったものであり、催涙スプレーの隠匿携帯が一般的に本号(注:軽犯罪法1条2号のこと)の罪を構成しないと判断したものではない」とした上、被告人が、「約1年前に職務上の必要から催涙スプレー1本(以下「本件スプレー」という。)を入手し、必要に応じて携帯していたが、本件当夜(注:8月26日午前2時ころ)、健康上の理由から深夜のサイクリングに出掛けるに際して、暴漢等との遭遇が考えられないでもない場所を通ることから、万一の事態に備えて防御用として同スプレーを(注:ズボンの左前ポケット内に)隠匿携帯したものである。さらに、記録を調べても、被告人には、本件に至るまで前科・前歴がなく、犯罪とは無縁の生活を送ってきたと考えられるところ、本件スプレーの上記隠匿携帯につき、被告人が、暴漢等から襲われた際に身を守る以外に意図を有していたことをうかがわせる事情は見当たらない。当裁判所は、いわゆる体感治安の悪化が指摘されている社会状況等にもかんがみれば、前記のような事実関係の下における被告人の本件スプレーの隠匿携帯は、本号にいう『正当な理由』によるものであったと判断した。」

と述べています。

上記最判を前提としますと、女性が、夜道の歩行などの万一の事態に備え、バッグに催涙スプレーを忍ばせることは、「正当な理由」がある場合として、違法性は認められないでしょう。

しかし、男性が「ストーカー対策」のためと言って、催涙スプレーを隠匿携帯していても、上記最判にいう、職務上又は日常生活上の必要性があるとはいえませんので、職務質問を受けたような場合、警察官の納得は得られない場合が多いと思われます。

催涙スプレーを隠匿携帯する者に、前科がある場合には、「正当な理由」があると判断されることは難しいでしょう。

3.催涙スプレーの携帯で検挙された場合の対処

催涙スプレーの携帯容疑で、警察に同行を求められたり、あるいは、その場で逮捕されたりして、取調べを受け、供述調書を取られることになった場合、どうしたらいいのでしょうか。

上述したように、携帯スプレーの携帯につき、正当な理由がなければ、軽犯罪法1条2号に該当することになります。

しかし他方で、同法4条には、「この法律の適用にあたっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。」という注意規定があります。

その趣旨は、軽犯罪法に定める罪が、平素、多くの一般市民によっても、大した悪意なしに犯されやすい種類のものであることにかんがみ、取締当局及び裁判所に対して、特にその取締りが苛酷ないしは偏頗に陥ったり、処罰が実質的に苛酷にわたることがないよう留意すべきことを規定したものと解されています。

そうしますと、上記最判の補足意見にあるように、いわゆる体感治安の悪化が指摘されている社会状況等からみて、護身用として催涙スプレーを携帯することを、一般的に規制することには慎重でなければならないと思われます。

したがって、取調べの際の心構えとしては、次のようなことがいえるでしょう。

  • 犯罪目的ではないことをしっかり説明する必要があります。
  • もし、催涙スプレーを噴射していた場合は、それなりの理由があるわけですから、催涙スプレーを携帯していた理由とその正当性を主張すべきですし、また、人に対して噴射した場合には、噴射することがやむを得なかった理由を具体的に説明し、正当防衛である旨主張すべきです。
  • そして、何よりも、早期に弁護士に相談して、適切なアドバイスを受けるべきです。

4.まとめ

治安が悪い場所や夜道で、身の安全のために防犯グッズ、護身用として催涙スプレーを持ち歩くことがあるかもしれません。

しかし、職務質問を受けた際、男性の方は軽犯罪法違反として警察に捕まってしまう可能性もあります。

しっかりとした説明ができれば逮捕は免れますが、そうでない場合、不安な場合はすぐに弁護士にご相談ください。

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