裁判で嘘をついたらどうなる?偽証罪の成立要件を解説
裁判に証人として呼ばれた場合、ご自身の記憶に従って誠実・正直に証言をしなければなりません。
もし証言の際に嘘をついてしまうと、「偽証罪」に問われてしまうおそれがあるので注意が必要です。
今回は、偽証罪の概要・成立要件や、偽証罪に問われないために証人が注意すべきことなどを解説します。
なお、刑事裁判の証人として呼ばれたらどうするべきか?は以下のコラムをご覧ください。
[参考記事]
刑事裁判の証人として呼ばれたらどうする?
1.「偽証罪」とは?
偽証罪とは、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をした場合に成立する犯罪です(刑法169条)。
(1) 偽証罪の成立要件
偽証罪の成立要件は、以下のとおり整理されます。
①「証人」であること
民事裁判や刑事裁判では、事実認定や量刑判断を正確に行うために「証人尋問」が行われる場合があります。
偽証罪は、証人尋問において見聞きした情報や知っている情報を証言する「証人」について成立する犯罪です。
②証人が法律により「宣誓」をしたこと
証人について偽証罪が成立するには、民事訴訟法・刑事訴訟法に基づく「宣誓」が要件とされています(民事訴訟法201条1項、刑事訴訟法154条)。
宣誓には以下の定型文があり、証人は証言に先立って、宣誓文を朗読することが求められます。
「良心に従って、真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。」
③証人が「虚偽の陳述」をしたこと
「虚偽の陳述」とは、証人の記憶に反した陳述であると解するのが判例・通説です(大審院大正3年4月29日判決)。
つまり証人には、客観的事実がどうであるかにかかわらず、自らの記憶に従って証言をする義務があり、その義務に違反した場合に偽証罪に問われることになります。
④証言が虚偽であることにつき、証人の「故意」が認められること
犯罪の一般的な成立要件として、犯罪の「故意」が必要とされています。
偽証罪の場合、「記憶に反した証言を意図的に行ったこと」が故意の内容となります。
(2) 民事裁判・刑事裁判のいずれも偽証罪が問題になり得る
偽証罪は、民事裁判・刑事裁判のいずれであっても、法廷で行われた証言が虚偽であれば成立する可能性があります。
偽証罪自体は刑事裁判を通じて追及されるべき犯罪ですが、問題となる証言行為については、民事裁判での証言・刑事裁判での証言のいずれもあり得ると理解しておきましょう。
(3) 偽証罪の法定刑
偽証罪の法定刑は、「3月以上10年以下の懲役」です(刑法169条)。
窃盗・詐欺などの財産犯に比肩する重い法定刑が設定されていますので、裁判に証人として参加する際には、偽証罪に問われるような言動は厳に慎んでください。
2.偽証罪に関するよくある誤解
偽証罪は、成立要件などについて勘違いされている部分が多い犯罪です。
以下では、偽証罪に関してよくある誤解につき、正しい法律上の整理を解説します。
(1) 裁判の当事者にも偽証罪が成立する?
民事裁判の原告・被告、刑事裁判の被告人には、偽証罪が成立することはありません。
偽証罪の成立主体はあくまでも「証人」であるところ、裁判の当事者は「証人」ではないためです。
ただし、民事裁判の当事者に限り、宣誓をしたうえで虚偽の陳述をした場合には「10万円以下の過料」に処される場合があります(民事訴訟法209条1項)。
(2) 陳述書に嘘を書いた場合
偽証罪が成立するのは、裁判所の法廷において、宣誓をしたうえで行われた虚偽の陳述に限られます。
したがって、虚偽の内容を記載した陳述書を裁判所に提出したとしても、偽証罪が成立することはありません。
ただし刑事裁判の場合、真犯人をかばう目的で虚偽の陳述書を提出した場合には「犯人蔵匿罪」(刑法103条)や「証拠隠滅罪」(刑法104条)が成立するおそれがあるので注意しましょう。
(3) 勘違いによって嘘の証言をしてしまった場合
偽証罪は、「証人の記憶とは異なる証言を意図的に行った場合」にのみ成立します。
したがって、もし証人が勘違いをしていて、客観的事実とは異なる記憶に基づいて誤った証言を行ったとしても、それは「虚偽の陳述」には当たらず、偽証罪は成立しません。
この点を考慮すると、証人は客観的事実を推測しながら証言をするのではなく、あくまでも自らの記憶に忠実な証言をすべきということになります。
(4) 証人は宣誓を拒否してもよい?
「宣誓をするかどうかは証人の自由ではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、法律上、証人には原則として宣誓の義務があります。
ただし、例外的に以下の場合には、証人は宣誓を拒むことができます。
<宣誓を拒否できる場合>
民事裁判
・証人が16歳未満の場合(民事訴訟法201条2項)
・証人が宣誓の趣旨を理解することができない場合(同)
・証人が、自己・配偶者・四親等内の血族・三親等内の姻族・自己の後見人または被後見人と著しい利害関係のある事項について尋問を受ける場合(同条3項)刑事裁判
・証人が宣誓の趣旨を理解することができない場合(刑事訴訟法155条1項)
なお、証人として宣誓をした場合でも、質問の内容によっては、個別に証言を拒否できる場合があります。
<証言を拒否できる場合>
民事裁判
・証言が、証人・配偶者・四親等内の血族・三親等内の姻族・自己の後見人または被後見人が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれがある事項に関する場合(民事訴訟法196条1項)
・公務員または公務員であった者が、職務上の秘密について尋問を受ける場合(同法197条1項1号)
・医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者またはこれらの職にあった者が、職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合(同項2号)
・技術または職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合(同項3号)刑事裁判
・証言によって、証人自身が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれがある場合(刑事訴訟法146条)
・証言によって、証人の配偶者・三親等内の血族・二親等内の姻族(過去に証人とこれらの親族関係にあった者を含む)、証人の後見人・後見監督人・保佐人、証人を後見人・後見監督人・保佐人とする者が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれがある場合(同法147条)
・医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職にある者またはこれらの職にあった者が、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについて尋問を受ける場合(同法149条)
3.偽証罪に問われないように証人が注意すべきこと
証人が偽証罪に問われないようにするためには、証言に臨む前の準備と心構えが大切です。
具体的には、以下の点に留意して証言に臨んでください。
(1) 主尋問の練習をする
証人は、民事裁判であれば原告または被告、刑事裁判であれば検察官または被告人のいずれかの申請によって、法廷に呼ばれることになります。
実際の証人尋問では、まず証人申請をした側が「主尋問」を行います。
主尋問の内容については、通常、当事者の代理人弁護士と打ち合わせることができますので、事前に質問に対する回答を考え、法廷の場で緊張せずに話せるように練習しておくとよいでしょう。
(2) 自分の知っている範囲でのみ証言する
主尋問の後には、相手方から「反対尋問」が行われます。
反対尋問の内容は当日その場で知ることになりますので、事前に準備することはできません。
そのため、緊張のあまりその場で作り話をしてしまったり、思ってもいなかったことを口走ってしまったりするケースがあります。
反対尋問へ臨む際には、尋問者の質問を落ち着いて咀嚼し、あくまでも自分の知っている範囲でのみ証言をするという姿勢が大切です。
尋問者の誘導に乗ることなく、知らないことは「知らない」、記憶にないことは「記憶にない」と正直に伝えましょう。
4.まとめ
証人として裁判で嘘をつき、偽証罪に問われると、最悪の場合逮捕・起訴に繋がってしまうおそれがあります。
証人として証人尋問に臨む際には、偽証罪の成立要件を踏まえたうえで、ご自身の記憶に従った証言ができるように心構えを整えましょう。