検事とは?
テレビや映画では、犯罪の捜査をして、裁判で弁護士と争う検事の姿がおなじみです。
ここでは、検事の全般について説明いたします。
1.検事とは
まず「検事」とは、どのような職業なのかご存じでしょうか?
「検事」とは、正式には、国家公務員である「検察官」の階級上の名称(官名)です。
検察庁法
第4条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
第6条1項 検察官は、いかなる犯罪についても捜査をすることができる。
このように、犯罪の捜査を行い、公訴を提起し、さらに裁判の結果である有罪判決の刑を執行することが、検察官のメインの仕事です。
「公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務」とは、例えば相続人が不明な遺産が残された場合に、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求する権限(民法952条1項)のように、公的な立場から法的手続を行うことが期待されている事項です。
そして、このような「検察官」には、「検事総長」、「次長検事」、「検事長」、「検事」、「副検事」という階級があり(同法3条)、またこれとは別に「検事正」、「上席検察官」という職名があります(同法9条1項、10条1項)。
さて検事は、刑事事件について捜査・公訴・判決の執行を行うことがメインですが、実際はそれにとどまるものではありません。
例えば、法務省内で行政官として執務する、次のような例があります。
- 刑事局(刑事法制管理官室)で、刑法や刑事訴訟法などの法律を立案する業務
- 刑事局(総務課)で、検察の組織運営を担う業務
- 訟務局で、国を当事者とする民事・行政訴訟における国の代理人となる「訟務検事」・法務省外局である出入国在留管理庁で、出入国管理の業務
また法務省内にとどまらず、外部の国家機関にも出向する例もあります。
検事の活躍するフィールドは、刑事事件の捜査と裁判という一般の方が抱くイメージを超えた多彩なものであり、むしろ、「国家公務員の中の法律のプロ」という方が適確な表現と言えます。
検事(副検事を除く)は、次の者の中から採用されます(検察庁法18条)。
①司法試験に合格し、最高裁司法研修所での研修を終えた者
②裁判官の職にあった者
③大学の法律学の教授または准教授の職に3年以上あった者
④副検事のうち内部考試に合格するなど一定の要件を満たした者
実際には、①のコースで任官する検事がほとんどです。司法修習生は1年間の修習期間中に、裁判官、検察官、弁護士のうち、どの職種を希望するかを選択します。
2.検事の職務
では、検事という職業について一般的な知識を持っていただいたうえで、メインの仕事である刑事事件における検事の役割について概要を説明します。
なお、刑事事件の捜査と裁判を規律する刑事訴訟法上では、各権限を与えられているのは、あくまでも「検察官」ですが、ここでは便宜「検事」と表現させていただきます。
(1) 捜査
犯罪捜査の第1次的な役割を担うのは警察ですが、冒頭にあげた検察庁法第6条にも規定されていたように、検事はいかなる犯罪でも捜査することが可能であり、必要があれば警察任せにせず、自ら捜査に乗り出すことができます(刑事訴訟法191条1項)。
実際、警察が取り調べた被疑者や参考人でも、あらためて検事による取り調べが実施されます。
殊に、被疑者を逮捕した身柄事件では、逮捕から48時間以内に身柄と関係書類が検事のもとに送致されるので、検事が取り調べを行い、必要と判断すれば裁判所へ勾留請求を行います(刑訴法203条1項、205条1項)。裁判所は検事の勾留請求を受けて勾留の可否を決定します。
また、勾留期限(勾留請求した日から10日間)のうちに、捜査が終了せず、勾留を延長するやむを得ない理由があるときは、検事が裁判官に勾留延長請求を行います(208条2項)。
勾留中、被疑者が弁護人以外の者と面会や物品・書類の授受をすると証拠隠滅などの危険があると検事が判断すれば、裁判官に面会等の禁止を請求することもできます(刑訴法81条、207条)。
勾留請求や勾留延長請求が却下されれば、これを不服として準抗告を申し立てて争うのも検事の役割です(刑訴法429条1項2号)。
警察から送られてくる証拠書類、証拠物などを吟味し、足りない証拠があれば、補充の捜査を依頼し、検事自らも、さらに被疑者や参考人の取り調べを行い供述調書を作成します。
(2) 公訴
こうして、身柄事件の場合は、逮捕から最大23日間の勾留満期までに、被疑者を起訴して裁判にかけるか、それとも不起訴とするかを検事が決めることになります(刑訴法208条1項)。
検事には、起訴・不起訴について広汎な裁量権が認められており、起訴すれば有罪判決が見込める場合でも、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としない」(刑訴法248条)と判断すれば、不起訴(起訴猶予)とすることができます。
これを起訴便宜主義と呼び、検事が有するもっとも大きな権限ということができます。
(3) 公判立ち会い
事件が正式起訴となった場合、訴追側として公判に出廷するのも検事です。刑事裁判では被告人は無罪と推定されるため、被告人が有罪であることの証拠をもって、裁判官が合理的な疑いを容れない確信に達するまで立証する責任を負っています(憲法31条、刑訴法366条)。
裁判所に審判してほしい犯罪事実(公訴事実)を読み上げ(起訴状朗読:刑訴法291条1項)、証拠をもって証明しようとする事実を詳細に説明し(冒頭陳述:296条1項)、捜査段階で収集した証拠を取捨選択して裁判所に提出し(298条1項)、証人や被告人を尋問します(304条2項、3項)。
そして結審前には、事実面・法律面から被告人が有罪である旨の検察側の最終的な意見をまとめて主張し、あわせて弁護人の主張に反論します(論告:293条1項)。
論告の最後には、検察側として求める具体的な刑の内容を告げます。これが「求刑」です。
「求刑」は一方当事者である検事の意見に過ぎませんが、実務上は、「求刑の7掛け」すなわち、求刑の7割から8割の刑期を言い渡すことが多く、裁判官の最終的な判断に大きく影響していることが実情です。「求刑」は、裁判(公判)を担当する検事ではなく、起訴・不起訴を決定する捜査を、担当する検事が決定するのが通常です。
したがって、検事の判断は、裁判にかけるか否かを左右するだけでなく、裁判で科される刑の内容をも左右しているのです。
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