用語解説 [公開日]2018年7月4日[更新日]2019年6月12日

刑事再審裁判の実例と再審制度の課題

刑事再審裁判の実例と再審制度の課題

再審とは、確定判決に事実認定の誤りがある場合に、これを是正するためにとられる非常救済手続のことです。

最近、東京高裁は、袴田事件の再審請求について、静岡地裁の再審開始決定を取り消し、再審開始を認めない決定をしました。

その一方で、平成20年代に入り、世間の注目を集めた足利事件、布川事件、東電OL殺人事件、東住吉事件について、相次いで、再審で無罪判決がなされ、いずれも確定しています。

では、日本における再審制度とは、どのようなものなのでしょうか。

欧米では、再審開始に対する検察官上訴を禁じる国も多いということですが、日本ではどうなっているのでしょうか。

また、再審制度については、法整備の必要性が叫ばれていますが、それはどのようなことなのでしょうか。

下記1.の「袴田事件の再審裁判の流れ」については、下記2.の「再審の手続」を参照していただければ、理解していただけるものと思います。

以下においては、袴田事件の確定判決裁判と再審裁判の流れ、再審の手続、再審無罪判決が示した確定判決の誤判原因の特徴、現行の再審制度の問題点、再審制度の法整備の必要性などに触れながら、再審制度について解説することとします。

なお、以下では、刑事訴訟法を「法」と略記します。

1.袴田事件の確定判決裁判と再審裁判の流れ

⑴ 確定判決裁判

昭和41年6月30日、静岡県清水市(当時)で味噌製造会社の専務宅が放火され、一家4人の他殺死体が発見されました。

同年8月18日、静岡県警は、同社の従業員であった元ボクサーの袴田巌さんを強盗殺人、放火、窃盗の容疑で逮捕しました。

袴田さんは、逮捕前から否認していました。しかし、取調室に便器を持ち込まれて捜査官の前で排便させられるなどし、1日平均12時間に及ぶ長時間の取調べの結果、9月6日に、自白調書を取られるに至りました。

同月9日、静岡地検が袴田さんを強盗殺人、放火で起訴しました。袴田さんは、公判では公訴事実を全面否認して、無罪を主張しました。

事件から1年2か月経った昭和42年8月31日、同社の味噌タンク内から「5点の衣類」が発見されました。昭和43年9月11日、静岡地裁は、「5点の衣類」を被告人の犯行時の着衣と認定するなどして、死刑判決を下しました。

昭和51年5月18日、東京高裁が控訴を棄却し、昭和55年11月19日、最高裁が上告を棄却しました。

⑵ 再審裁判の流れ

平成26年3月27日、第2次再審請求において、静岡地裁は、未開示の証拠を開示するように求めるとともに(その結果、血染めの衣類について鮮明な写真の存在が明らかになり、また、真犯人が履いたものだとされるズボンの「B」という表記が、死刑判決を下した裁判所が認定する“サイズ”ではなく、“布地の色”を示すもので、元々Y体〔細身用〕のズボンであることが判明しました)、確定判決で犯行時の着衣と認められた半袖シャツと袴田さんのDNA型が一致しないという、弁護側が提出した鑑定を「新証拠」として、「犯行時のものではない疑いがある」などと判断し、再審開始と、死刑及び拘置の執行停止を決定しました。袴田さんは、30歳で逮捕されてから約47年半ぶりに釈放されました。

これに対し検察官が、即時抗告し、東京高裁は、平成30年6月11日、新証拠とされた鑑定について、「確立した科学的手法とはいえず、鑑定の結論の信用性は乏しいといわざるを得ない。半袖シャツ付着血痕のDNA分析は不可能である」などとした上、弁護側が提出した新証拠には、「確定判決で認定された犯人性に合理的な疑いを生じさせるような証拠価値のあるものは存在しない」などと判断して、静岡地裁の決定を取り消し、再審開始を認めない決定をしました。

しかし、東京高裁は、「職権を発動して直ちに死刑と拘置の執行停止を取り消すことはしない」としました。弁護側は高裁決定を不服として、最高裁に特別抗告しました。

2.再審の手続

⑴ 再審の意義

再審とは、確定判決に事実認定の誤りがある場合に、これを是正するためにとられる非常救済手続のことです。

確定判決には既判力(確定力)が生じており、通常の手続では争うことができません。しかし、誤った裁判をそのままにしておくことは司法の正義に反します。

⑵ 再審事由

再審請求の対象となるのは、有罪の言渡しをした確定判決です(法435条。その他一定の場合に、控訴棄却・上告棄却の確定判決も対象になります〔法436条〕)。

再審請求をするためには、一定の再審事由が必要です(法435条各号)。これらのうち、1号から5号まで、及び7号の事由は、確定有罪判決の証拠が偽造・偽証によるものであったこと等が、別の確定判決により証明されたことを理由とするもので、その実例は余りありません。

再審請求の多くは、6号の事由、すなわち、有罪判決を受けた者に無罪等を言い渡し、あるいは原判決よりも軽い刑を認めるべき「明らかな証拠」(証拠の明白性)を「あらたに発見した」(証拠の新規性)ことを根拠とするものです。

かつての実務は、裁判の確定による法的安定性を重視し、6号事由における証拠の明白性・新規性を厳格に解釈してきました。

しかし、最高裁は、昭和50年、いわゆる白鳥事件決定で、

「法435条6号にいう『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」

と説示しました(最決昭50.5.20刑集29・5・177)。この判例は、明白性の要件解釈を緩和したものと一般に理解されています。

そして、最高裁は、「疑わしいときは被告人の利益に」という原則を具体的に適用するに当たっては、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし、かつ、これをもって足りるとしています(最決昭51.10.12刑集30・9・1673〔財田川事件決定〕)。

⑶ 再審の審理等

裁判所は、再審請求が不適法であると認めるときは、決定でこれを棄却し(法446条)、適法であっても理由がないのであれば、やはり決定でこれを棄却しなければなりません(法447条1項)。再審の請求が理由のあるときは、裁判所は再審開始決定をしなければなりません(法448条1項)。いずれの決定に対しても即時抗告ができます(法450条)。

再審開始の決定をしたときは、原確定判決による刑の執行を停止することができます(法448条2項)。

また、高裁による再審開始決定に対し異議の申立てができます(法428条2項)。

再審開始決定が確定しますと、再審で取り消してほしい最初の判決(原判決)をした裁判所が裁判のやり直しを行います(法451条1項)。再審裁判においては不利益変更禁止の原則が適用され、原判決より重い刑を言い渡すことはできません(法452条)。

⑷ 再審請求の実情

最近の実情では、平均すれば年間の再審請求件数は、200件強のようです。

それらのうち、再審開始決定があったのは数件程度で、そのほとんどが検察官請求によるものです。

事案としては、道路交通法違反の罪、過失運転致傷の罪が相当部分を占めていますが、それらの交通事犯に関する確定した略式命令につき、犯人の身代わり、保険金目当ての事故偽装、氏名冒用などが発覚した事例が多いとされています。

3.再審無罪判決が示した確定判決の誤判原因の特徴

再審無罪判決が示した確定判決の誤判原因の特徴

これまでの著名な再審無罪判決(確定)には、

  • 弘前大学教授夫人殺し事件(仙台高判昭52.2.15高刑集30・1・28、判時849・49)
  • 青森老女殺し事件(青森地判昭53.7.31判時905・15)
  • 免田事件(熊本地八代支判昭58.7.15判時1090・21)
  • 財田川事件(高松地判昭59.3.12判時1107・13)
  • 松山事件(仙台地判昭59.7.11判時1127・34)
  • 徳島ラジオ商殺し事件(徳島地判昭60.7.9判時1157・3)
  • 梅田事件(釧路地判昭61.8.27判時1212・3)
  • 島田事件(静岡地判平元.1.31判タ700・114)
  • 足利事件(宇都宮地判平22.3.26判時2084・157)
  • 布川事件(水戸地土浦支判平23.5.24)
  • 東電OL殺人事件(東京高判平24.11.7)
  • 東住吉事件(大阪地判平28.8.10)
  • アンドレイ事件(札幌地判平29.3.7)

などがあります。

これらの再審無罪判決が示した確定判決の誤判原因を探ってみますと、おおむね、次のような特徴を見いだすことができると思われます。

  • 自白や共同被告人の供述、目撃供述といった直接証拠に頼る余り、それぞれの証拠の持つ危険性を見逃したからです。
  • 権威ある鑑定というだけで、無批判的に鑑定の結論を鵜呑みにしたからです。
  • 公訴事実の否定につながる証拠があり、その証拠の示す疑問を解消すべきであるのに、審理を十分尽くさなかったからです。
  • 自白の任意性に疑いがあるのに、任意性を肯定する捜査官の言い分のみを信用して、捜査官から違法な取調べや暴行を受けたとする被告人の訴えを排斥し、自白の任意性を肯定したからです。
  • 自白の信用性に問題があり、他方補強証拠も十分とはいえないのに、証明力が低く、欠陥又は不完全といえる証拠を総合して、それらの証拠の間隙を補完できると安易に考え、誤った判断を招いたからです。
  • 無実を訴えている被告人の供述に耳を貸さず、はなから信用できないとして、まともに取り上げようとしなかったからです。
  • 証拠物、犯行現場の検証の結果、これらに関する鑑定の結果等は、本来、客観的証拠として高い証拠価値が認められるべきですが、その証拠の収集過程や現場の保存に疑惑があるのに、その解明を怠り、問題のある証拠を前提とした検証や鑑定の結果を前提とした事実認定をしたからです。
  • 自白を支え、補強するとみられた客観的な情況証拠が、警察における鑑定資料の取扱いに疑惑があり、本来であれば、信頼性に欠けている証拠であるのに、その点の吟味を怠り、自白を補強する証拠として採用し、事実認定の用に供したからです。
  • 鑑定資料の取扱いその他捜査の過程に疑問があるのに、当該捜査過程の疑問を解消するための方策を何らとらず、その証拠調べの方法についても検討しないまま、捜査官側の主張に沿って、結論を導いたからです。
  • 血液又は精液の血液型やDNA型の鑑定の結果が、有罪立証のほぼ唯一の証拠である場合に、その鑑定結果の誤謬に思い至らず、弁護側が提起した疑問を無視し、その鑑定結果に重きを置いた事実認定をしたからです。
  • 客観的証拠に関する鑑定において、専門家の意見が真っ向から対立し、そのいずれを採るかによって、正反対の事実認定が考えられる場合に、捜査官側の専門家の意見のみに依拠したからです。
  • 鑑定及びその評価が、事実認定上、決定的に重要な役割を果たすこともあるため、鑑定が結論を左右する事件については、裁判所の訴訟指揮、特に弁護人の立証活動に対する後見的配慮のもとに、十分な証拠調べを行う必要がありながら、弁護人に必要かつ十分な立証の機会を与えなかったからです。
  • 鑑定人に対する尋問に当たっては、専門的な事項に関する研究その他十分な準備をする必要があるのに、実際には準備不足から尋問が的外れに終わっていて、鑑定の信用性を判断するには不十分でありながら、鑑定が信用できるものとして結論を導いたからです。
  • 捜査官による偽証、捜査官による証拠隠しと物的証拠に対する作為(棄滅・捏造)により、真実が隠されたからです。

4.現行の再審制度の問題点

⑴ 元裁判官の認識と意見

  • 裁判所は、かつて、確定判決が揺らぐ可能性があると判明した場合に、検察官に証拠開示を促すというように、かなり限定的な運用をしていましたが、公判前整理手続施行後は、証拠開示につき積極的な姿勢を見せる裁判所が増えてきました。
  • 弁護側が開示を求めた証拠につき、検察官が「不見当」とか「不存在」の意見を述べた場合には、裁判所が、検察官に対し、その理由を書面で説明するように求め、理由を説明しない限り、開示の勧告なり、命令する訴訟指揮をするのがよいと思います。
  • DNA鑑定の精度が高くなり、有罪・無罪の決定的な証拠になる可能性がある事件では、裁判所も、請求人側の申立てがなくても、遅滞なく「生体証拠」の保全措置を講ずる必要があると思います。
  • 裁判所が確定判決に疑いが生ずるという蓋然性があると思った場合には、請求人の主張に従って、証拠開示を進めていくということにすれば、大分変わってくると思います。
  • 証拠開示の問題は、検察庁が自ら改革しないと思いますので、裁判所が本気にならないと駄目だと思います。
  • 再審請求審の審理の進め方に関する手続規定は、刑訴法にはないに等しいです。そのため、再審請求に対する各裁判体の取組みには大きな違いを生じています。
  • 再審開始決定に対する検察官の即時抗告(異議申立てを含みます)を受けた抗告審は、あくまでも事後審に徹し、原決定の記述に「論理則・経験則等に照らし不合理」と認められる事由があるかどうかを審査する(さらにいえば、そのような事由があると指摘する抗告理由の有無を審査する)ことに徹するべきです。そして、そのような記述が認められない場合は、速やかに即時抗告を棄却すべきです。

⑵ 弁護士の認識と意見

  • 検察官に証拠開示を認める明文の規定がないため、検察官は「開示を認めるべき根拠がない」として、一切の開示を拒否する傾向が強いです。
  • 検察官は、弁護側が求める証拠の開示について、よく「不見当」とか「不存在」という意見を言うことがありますが、袴田事件では、地裁で再審開始決定が出た後、なかったはずの証拠を、検察に有利な証拠として、即時抗告審に出してきました。証拠開示の制度的な保障が必要です。
  • ある再審事件で、弁護側が開示を求めた証拠につき、検察官が口頭で「ない」と述べましたので、裁判所が「不存在の合理的な理由を書面で報告せよ」という訴訟指揮をしたところ、検察官が、全部の証拠を出してきました。証拠の開示については、裁判所の強い訴訟指揮が必要だと思います。
  • 現行の再審制度のもとでも、裁判所の証拠開示に関する積極的な姿勢が冤罪を防止していると思います。
  • 現行の公判前整理手続及び期日間整理手続における証拠開示の制度が、再審の手続に準用されるかについては、裁判所は一般的傾向として否定的です。

⑶ 元検察官の認識と意見

  • 検察官は、裁判所が具体的に開示を求めてくれば、基本的に、検察官自身に開示を請求する規定がないため、裁判所の判断に委ねるというスタンスです。
  • 検察官の再審に対する姿勢は、証拠開示に限らず、非常に頑なです。それは、検察が組織的意思決定を経て起訴し確定有罪判決を得ているのに、再審となれば、「刑事司法の正義」の根幹を揺るがしかねないからです。しかし、「新証拠」が出てくれば、新証拠は検察の組織的意思決定の枠外ですから、裁判所が証拠開示が必要だという訴訟指揮をすれば、その範囲で従うにすぎません。
  • 検察官も、弁護側と一緒になって、真実を解明していくという姿勢に変わっていかなくてはなりませんから、公判段階での全面開示が不可欠だとすることによって、自ずと再審における証拠開示も変わってくると思います。

⑷ 法曹関係者以外の者の認識と意見

  • 証拠開示に関しては、弁護士の立場が今まで弱すぎたし、現時点でも、まだまだ不十分ですから、そのことを多くの弁護士に自覚してもらい、状況を少しでも改善できるように頑張っていただきたいと思います。
  • 現行法では、再審の審理の進め方や裁判官の権限などあいまいな点が多く、結果として再審を目指す側の障壁になっています。
  • 平成23年から26年にかけて、法制審議会の特別部会は、再審請求審での証拠開示を「今後の課題」に挙げましたが、その後、議論は進んでいません。
  • 再審に関する法制度が整っていません。

5.再審制度の法整備の必要性

⑴ 元裁判官の提言

  • 三者協議を制度化・義務化・公開化し、この段階における請求人の出頭権も確保します。
  • 証拠開示を制度化します。全面的証拠開示が望ましいのですが、最低限度、公判前整理手続の規定により開示を求め得る証拠の開示を義務化し、検察官手持ち全証拠のリスト開示を明定することが必要です。
  • 再審開始決定に対する検察官の上訴規定を削除する必要があります。

⑵ 弁護士の提言

  • 再審に関する条文が少なく、裁判所の裁量が大きいため、審理が不透明で、長期化する傾向にありますので、法整備によって是正する必要があります。
  • 「疑わしきは被告人の利益に」という原則適用を明文化すべきです。
  • 検察官に証拠開示を認める、あるいは、証拠の全面開示のルールを法に明記すべきです。
  • 現行の公判前整理手続のような証拠開示請求制度を再審の手続に規定すべきです。
  • 再審開始決定後の検察官の不服申立てを禁止すべきです。
  • 再審無罪確定後の第三者による検証機関を設置すべきです。

⑶ 元検察官の提言

  • 裁判所が積極的に訴訟指揮をし、検察側が手元で隠しているすべての証拠の開示を義務づけるべきです。
  • 再審開始決定に対して検察官の即時抗告(異議申立て、特別抗告)を認めない制度とすべきです。
  • 証拠はすべて開示するのを原則とし、もし何か支障がある場合には、検察官が理由を示して拒めるというように、「原則と例外」を逆にすべきと思います。

⑷ 法曹関係者以外の者の提言

  • 公正な証拠開示が不可欠です。
  • 被告側に有利な証拠を検察が恣意的に出さないことを防ぐ証拠開示の制度やルールが必要です。

6.まとめ

刑事裁判での日本の有罪率は、99.9%と言われています。しかし、その有罪とされた判決の中には、後日、再審裁判で無罪となることもあるのです。

刑事事件で逮捕され、起訴されそう・起訴されてしまったという方は、お早めに刑事事件に強い泉総合法律事務所の弁護士に相談してください。

刑事事件コラム一覧に戻る