用語解説 [公開日]2018年7月4日[更新日]2024年6月10日

再審制度とは?刑事再審裁判の実例から解説

刑事再審裁判の実例と再審制度の課題

再審とは、確定判決に事実認定の誤りがある場合に、これを是正するためにとられる非常救済手続のことです。

最近では、58年前の袴田事件について2023年10月から計15回開催された再審公判が結審したことで話題になっています(判決は2024年9月に言い渡されます)。
過去に世間の注目を集めた足利事件、布川事件、東電OL殺人事件、東住吉事件なども、相次いで再審で無罪判決がなされ、いずれも確定しています。

この記事では、「再審」とは何なのか?再審制度について詳しく解説します。
なお、以下では、刑事訴訟法を「法」と略記します。

1.再審とはどのような手続き・制度なのか?

(1) 再審とは?

「再審」とは、確定判決に事実認定の誤りがある場合に、これを是正するためにとられる非常救済手続のことです。

確定判決には既判力(確定力)が生じており、通常の手続では争うことができません。しかし、誤った裁判をそのままにしておくことは司法の正義に反するため、このような手続が認められているのです。

(2) 再審公判をするための要件

再審請求の対象となるのは、有罪の言渡しをした確定判決です(法435条)。
その他一定の場合に、控訴棄却・上告棄却の確定判決も対象になります(法436条)。

再審請求をするためには、一定の再審事由が必要です。
これは刑事訴訟法435条各号に記載されていますが、こののうち1号から5号まで、及び7号の事由は、「確定有罪判決の証拠が偽造・偽証によるものであったこと等」が、別の確定判決により証明されたことを理由とするもので、その実例は余りありません。

再審請求の多くは、6号の事由です。すなわち、有罪判決を受けた者に無罪等を言い渡し、あるいは原判決よりも軽い刑を認めるべき「明らかな証拠」(証拠の明白性)を「あらたに発見した」(証拠の新規性)ことを根拠とするものです。

かつての実務は、裁判の確定による法的安定性を重視し、6号事由における証拠の明白性・新規性を厳格に解釈してきました。
しかし、最高裁は、昭和50年、いわゆる白鳥事件決定で、

「法435条6号にいう『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいうものと解すべきであるが、右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、果たしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判における鉄則が適用される」

と説示しました(最決昭50.5.20刑集29・5・177)。

そして、最高裁は、「疑わしいときは被告人の利益に」という原則を具体的に適用するに当たっては、確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく、確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし、かつ、これをもって足りるとしています(最決昭51.10,12刑集30・9・1673〔財田川事件決定〕)。

実例として再審が認められるものは、道路交通法違反、過失運転致死傷罪などの交通事故が相当部分を占めています。
それらの交通事犯については、犯人の身代わり、保険金目当ての事故偽装、氏名冒用などが発覚した事例が多いとされています。

(3) 再審の流れ

裁判所は、再審請求が不適法であると認めるときは、決定でこれを棄却し(法446条)、適法であっても理由がないのであれば、やはり決定でこれを棄却しなければなりません(法447条1項)。
一方、再審の請求が要件を満たしている時は、裁判所は再審開始決定をしなければなりません(法448条1項)。いずれの決定に対しても即時抗告ができます(法445条)。

最近の実情では、年間の再審請求件数は平均すれば200件強のようです。
それらのうち、再審開始決定があったのは数件程度で、そのほとんどが検察官請求によるものです。

再審開始の決定をしたときは、原確定判決による刑の執行を停止することができます(法448条2項)。
また、高裁による再審開始決定に対し異議の申立てができます(法428条2項)。

再審開始決定が確定すると、再審で取り消してほしい最初の判決(原判決)をした裁判所が裁判のやり直しを行います(法451条1項)。

再審裁判においては不利益変更禁止の原則が適用され、原判決より重い刑を言い渡すことはできません(法452条)。

2.再審で無罪判決となった事件の一覧

これまでの著名な再審無罪判決(確定)には、

  • 弘前大学教授夫人殺し事件(仙台高判昭52.2.15高刑集30・1・28、判時849・49)
  • 青森老女殺し事件(青森地判昭53.7.31判時905・15)
  • 免田事件(熊本地八代支判昭58.7.15判時1090・21)
  • 財田川事件(高松地判昭59.3.12判時1107・13)
  • 松山事件(仙台地判昭59.7.11判時1127・34)
  • 徳島ラジオ商殺し事件(徳島地判昭60.7.9判時1157・3)
  • 梅田事件(釧路地判昭61.8.27判時1212・3)
  • 島田事件(静岡地判平元.1.31判タ700・114)
  • 足利事件(宇都宮地判平22.3.26判時2084・157)
  • 布川事件(水戸地土浦支判平23.5.24)
  • 東電OL殺人事件(東京高判平24.11.7)
  • 東住吉事件(大阪地判平28.8.10)
  • アンドレイ事件(札幌地判平29.3.7)

などがあります。

これらの再審無罪判決から見るに確定判決の誤判原因を探ると、次のような特徴を見出すことができます。

  • 自白や共同被告人の供述、目撃供述といった直接証拠に頼り、精査をしなかった
  • 権威ある鑑定というだけで、その鑑定結論を鵜呑みにした
  • 自白の任意性に疑いがあるのに、捜査官から違法な取調べや暴行を受けたとする被告人の訴えを排斥し、自白の任意性を肯定した
  • 自白の信用性に問題があり、補強証拠も十分とはいえないのに、証明力が低く欠陥又は不完全といえる証拠を安易に総合して誤った判断を招いた
  • 無実を訴えている被告人の供述に耳を貸さず、はなから信用できないとして、まともに取り上げようとしなかった
  • 証拠物、犯行現場の検証の結果、これらに関する鑑定の結果等(客観的証拠)の収集過程や現場の保存に疑惑があるのに、その解明を怠った
  • 鑑定資料の取扱いその他捜査の過程に疑問があるのに、捜査官側の主張に沿って結論を導いた
  • 血液又は精液の血液型やDNA型の鑑定の結果が有罪立証のほぼ唯一の証拠である場合に、その鑑定結果の誤謬に思い至らず、弁護側が提起した疑問を無視し鑑定結果に重きを置いた事実認定をした
  • 客観的証拠に関する鑑定において専門家の意見が真っ向から対立した際、捜査官側の専門家の意見のみに依拠した
  • 弁護人に必要かつ十分な立証の機会を与えなかった
  • 鑑定人に対する尋問に当たって、実際には準備不足から尋問が的外れに終わっていて、鑑定の信用性を判断するには不十分でありながら、鑑定が信用できるものとして結論を導いた
  • 捜査官による偽証、捜査官による証拠隠しと物的証拠に対する作為(棄滅・捏造)により、真実が隠された

3.袴田事件の再審裁判について

最近で再審裁判が話題となっているのは、58年前の袴田事件です。

昭和41年6月20日、静岡県清水市(当時)で味噌製造会社の専務宅が放火され、一家4人の他殺死体が発見されました。
同年8月18日、静岡県警は、同社の従業員であった元ボクサーの袴田巌さんを強盗殺人、放火、窃盗の容疑で逮捕しました。

袴田さんは、逮捕前から否認していました。しかし、取調室に便器を持ち込まれて捜査官の前で排便させられるなどし、1日平均12時間に及ぶ長時間の取調べの結果、9月6日に自白調書を取られるに至りました。

同月9日、静岡地検が袴田さんを強盗殺人、放火で起訴しました。
しかし、袴田さんは、公判では公訴事実を全面否認して、無罪を主張しました。

事件から1年2ヶ月経った昭和42年8月31日、同社の味噌タンク内から「5点の衣類」が発見されました。昭和43年9月11日、静岡地裁は、この5点の衣類を被告人の犯行時の着衣と認定するなどして、死刑判決を下しました。

昭和51年5月18日、東京高裁が控訴を棄却し、昭和55年11月19日、最高裁が上告を棄却しました。

しかし、袴田巌さんは冤罪の可能性が高いと思われています。

平成26年3月27日になり、第2次再審請求において、静岡地裁は、未開示の証拠を開示するように求めるとともに、確定判決で犯行時の着衣と認められた半袖シャツと袴田さんのDNA型が一致しないという、弁護側が提出した鑑定を「新証拠」として、「犯行時のものではない疑いがある」などと判断し、再審開始と死刑及び拘置の執行停止を決定しました。袴田さんは、逮捕されてから約47年半ぶりに釈放されました。

これに対し検察官は即時抗告し、東京高裁は新証拠とされた鑑定について「確立した科学的手法とはいえず、鑑定の結論の信用性は乏しいといわざるを得ない。半袖シャツ付着血痕のDNA分析は不可能である」などとした上、弁護側が提出した新証拠には「確定判決で認定された犯人性に合理的な疑いを生じさせるような証拠価値のあるものは存在しない」などと判断して、静岡地裁の決定を取り消し再審開始を認めない決定をしました。

弁護側は高裁決定を不服として、最高裁に特別抗告しました。
最高裁は高裁決定を取り消しました。

そして、2023年3月になり、東京高裁は過去の静岡地裁の再審決定開始を支持し、検察官の即時抗告を棄却しました。
検察官も特別抗告をしなかったため、再審開始決定が確定しました。

4.まとめ|現在の再審制度の問題点と改善点

刑事裁判での日本の有罪率は、99.9%と言われています。
しかし、その有罪とされた判決の中には、後日に再審裁判で無罪となることもあるのです。

現状、再審請求審での証拠開示が特に大きな課題となっていますが、第一として再審に関する法制度が整っていません。現行法では再審に関する条文が少なく、再審の審理の進め方や裁判官の権限などあいまいな点が多いため再審を目指す側の障壁になっています。
特に、検察官に証拠開示を認める明文の規定がないため、検察官は「開示を認めるべき根拠がない」として、一切の開示を拒否する傾向が強いです。

そこで、これらを改善するために、裁判所や検察官・弁護士は具体的には以下のような改善を目指し尽力する必要があるでしょう。

  • 再審開始決定に対する検察官の即時抗告(異議申立てを含む)を受けた抗告審は、あくまでも事後審に徹し、原決定の記述に「論理則・経験則等に照らし不合理」と認められる事由があるかどうかを審査することに徹するべき(そのような記述が認められない場合は、速やかに即時抗告を棄却すべき)
  • 弁護側が開示を求めた証拠につき、検察官が「不見当」「不存在」の意見を述べた場合には、裁判所が検察官に対しその理由を書面で説明するように求めるど、証拠の開示については裁判所が強い訴訟指揮をする
  • DNA鑑定が有罪・無罪の決定的な証拠になる可能性がある事件では、裁判所は(請求人側の申立てがなくても)遅滞なく「生体証拠」の保全措置を講ずる
  • 検察官も、弁護側と一緒になって「真実を解明していく」という姿勢を意識する
  • 弁護士の立場は現時点でも不十分であるため、そのことを多くの弁護士が自覚する
  • 「疑わしきは被告人の利益に」という原則適用を明文化すべき
  • 裁判所が積極的に訴訟指揮をし、検察側が手元で隠しているすべての証拠の開示を義務づける
  • 公正な証拠開示が不可欠であるため、検察官に証拠開示を認め、証拠はすべて開示するのを原則とする(証拠開示を制度化
  • 現行の公判前整理手続のような証拠開示請求制度を再審の手続に規定すべき
  • 再審開始決定に対して検察官の即時抗告(異議申立て、特別抗告)を認めない制度とすべき
  • 再審無罪確定後の第三者による検証機関を設置すべき

裁判所は、かつては「確定判決が揺らぐ可能性があると判明した場合に、検察官に証拠開示を促す」というように、かなり限定的な運用をしていました。しかし、公判前整理手続施行後は、証拠開示につき積極的な姿勢を見せる裁判所が増えてきました。
現行の再審制度のもとでも、裁判所の証拠開示に関する積極的な姿勢が冤罪を防止していると思われます。

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