用語解説 [公開日]2018年7月12日[更新日]2019年6月12日

受刑者の脱走は罪になる|逃走の罪について

受刑者の脱走は罪になる|逃走の罪について

最近、ある受刑者が塀のない刑務所を脱走したことが話題となりました。この受刑者は、愛媛県から広島県まで22日間にわたって逃走していたとのことです。

やはり、近隣の住民にとっては、受刑者が逃走した状態というのは、とても怖いものだったことでしょう。

逃走に関連する罪は、それほど頻繁に話題になるものではないのですが、今回は世間の関心も集まりました。

そこで、この記事では、逃走の罪とこれに関連する罪について解説します。

1.刑事手続の流れ

  • 犯罪の発生
  • 逮捕(72時間)
  • 勾留(原則10日最大20日)
  • 起訴
  • 起訴後勾留
    拘置所へ
    保釈申請が可能になる
  • 裁判
  • 判決の確定
  • 刑の執行
    刑務所や労役場へ

2.逃走した者に対する罪

単純逃走罪(刑法97条)

裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する

(1) 単純逃走罪が成立する人は?

この単純逃走罪の対象となるのは、「既決の者」と「未決の者」です。「既決の者」とは、判決が確定して刑の執行を受けている人です。

禁固刑、懲役刑、死刑などの判決を受けて、刑務所に拘禁されている人や、罰金や科料が払えなくて労役場に留置されている人のことです。

「未決の者」とは、勾留中の人のことです。起訴前勾留及び起訴後勾留の両方を含みます。

しかし、逮捕中の人は含まないとされています。

そこで、逮捕期間中に取り調べを受けていて、取調室から逃げても逃走罪は成立しませんが、勾留期間中に取り調べを受けていて、取調室から逃げると逃走罪が成立するということになります。

また、保釈中の人が逃げても逃走罪にはなりません。保釈中の人が逃走して裁判に出席しなかった場合は、保釈金の没収になります。

(2) 逃走罪の未遂と既遂

そもそも、「逃走」とは、拘禁から離脱することで、看守者の実力支配を脱すれば既遂になります。

監房(自分の部屋)から脱出した場合には、逃走罪に着手したことになりますが、刑務所内にいる限り、看守者の実力支配を脱していないので、刑務所の外壁を越えない限り、未遂罪にとどまります。

また、刑務所の外壁を越えても、追跡を受けている間は既遂にはならないとされています。刑務所の外壁を超えて、追跡者を振り切って初めて既遂になるということです。

なお、愛媛県の事件が起こったのは「塀のない刑務所」であり、さらに逃走の際に追跡されたわけでもないようですので、刑務所の敷地外に出たときに既遂になったと思われます。

(3) 単純逃走罪の刑罰は軽い?

刑罰が「1年以下の懲役」と軽いのは、拘禁されている人は、逃げられる状況があれば、逃げたいと考えることも人間の心理としてやむを得ない面があるから(期待可能性が低いから)です。

国家の拘禁作用を保護客体とする犯罪ですから、受刑者が逃走することによって、周辺の住民が怖い思いをするということまではあまり考慮されていないと言えます。

(4) 災害時の避難及び開放

刑事収容法83条

1 刑事施設の長は、地震、火災その他の災害に際し、刑事施設内において避難の方法がないときは、被収容者を適当な場所に護送しなければならない。
2 前項の場合において、被収容者を護送することができないときは、刑事施設の長は、その者を刑事施設から解放することができる。地震、火災その他の災害に際し、刑事施設の外にある被収容者を避難させるため適当な場所に護送することができない場合も、同様とする。
3 前項の規定により解放された者は、避難を必要とする状況がなくなった後速やかに、刑事施設又は刑事施設の長が指定した場所に出頭しなければならない。

最近は、地震や大雨など災害も多いですが、災害が起こって、刑務所や拘置所などの刑事施設から避難しなければならない場合で、拘禁されている人を護送できない場合には、その刑事施設の長の判断によって、一時的に拘禁されている人を解放できることになっています。

解放された人が避難を必要とする状況がなくなった後に出頭しなかった場合には、単純逃走罪が成立します。

(5) 加重逃走罪

加重逃走罪(刑法98条)

前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行もしくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

この犯罪は、前条の対象であった「既決の者」及び「未決の者」と勾引状で拘禁された人が対象です。

「勾引状」とは、被告人や証人などを裁判所等指定の場所に連れていく効力をもつものです。

この「勾引状で拘禁された人」に「逮捕状によって拘禁された人」も含むと解されていますので、逮捕期間中に逃走した人は単純逃走罪の対象ではありませんが、加重逃走罪の対象にはなっています。

拘禁場の一部を逃走のために破壊しただけでも、加重逃走罪の未遂になります。例えば、天井の一部を損壊しただけでも、加重逃走罪として懲役5月に処された事例もあります。

拘禁されている人は、逃げられるならば逃げたいと考えるのもやむを得ないとはいえ、器具を破壊したり、看守に対して暴力や脅迫を用いて逃げようとしたりすることは、悪質ですので、単純逃走罪よりも刑が重くなっています。

また、拘禁されている人が、2人以上で通謀して逃げることは、追跡したり、逮捕したりすることを困難にさせることになりますので、刑が重くなります。

3.逃走させた者に対する罪

(1) 被拘禁者奪取罪(刑法99条)

被拘禁者奪取罪(刑法99条)

法令により拘禁された者を奪取した者は、3月以上5年以下の懲役に処する

拘禁されている人を看守者の実力支配下から、自分もしくは、第三者の実力支配下に移すことを「奪取」といいます。拘禁されている人を逃がして自由にすることではありません。

拘禁されている人が奪取されることに対して、同意しているかどうかに関係なく成立することになっています。

「法令により拘禁されている者」と広く規定されていますので、適法に拘禁されているすべての人を含むとされています。

もっとも、少年院・少年鑑別所にいる少年、入院措置により精神科病院にいる精神障害者、救護院にいる者が含まれるか否かについては争いがあります。

(2) 逃走援助罪

逃走援助罪(刑法100条)

1 法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、3年以下の懲役に処する
2 前項の目的で、暴行又は脅迫をした者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

拘禁されている人を逃がすために協力した人を罰する犯罪です。

「逃走を助けてほしい」と頼まれたかどうかは関係なく、逃走を援助するような行為をすれば犯罪が成立します。

逃走の意思がない人に対して、逃走を容易にするような行為をした場合でも犯罪が成立します。

看守等による逃走援助罪(刑法101条)

法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者を逃走させたときは、1年以上10年以下の懲役に処する

拘禁されている人を看守する人や護送する人であれば、簡単に拘禁されている人を逃走させることができてしまいます。そのため、そのような人が逃走を援助した場合には、1年以上10年以下の懲役という重い処罰が課せられます。

4.逃走のために重ねる犯罪

単純逃走の罪はそれほど重いものではありません。しかし、着の身着のままで逃走した人は、食料や衣類及びそれらを手に入れるためのお金、逃走用の乗り物(自転車や自動車)などを必要とするでしょう。

逃走した人は、それらを調達する行為によって、新たな罪を犯すことになってしまいます。

愛媛県の受刑者の例でいえば、お金や自動車に関する窃盗や空き家に潜伏していたことによる建造物侵入罪などが新たな犯罪になる可能性があります。

窃盗罪は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。建造物侵入は、「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」となります。

あと半年で仮出所する予定だったという今回の受刑者は、いくつもの新たな罪を犯してしまい、またかなりの長期間拘禁されることになりそうです。

5.逃走してきた人に手を貸したら

逃走に手を貸した人は、逃走援助罪に問われます。

逃走に関わらなくても、逃走してきた人に手を貸した場合には、犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が成立します。

「蔵匿」とは、かくまうことです。「隠避」とは、蔵匿以外で、逮捕・発見を妨げる一切の行為をすべて含みます。

犯人蔵匿罪・犯人隠避罪は「2年以下の懲役又は20万円以下の罰金」です。

逃走した人が、友人や知人を頼っていくと、その人まで犯罪に巻き込むことになってしまいます。

一方、親族が蔵匿や隠避をした場合には刑が免除されます。心情的に仕方がない面があるからです。

親族とは、民法上の親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)のことですが、外国人の場合には、その母国の民法の規定によります。

6.まとめ

塀のない刑務所は、受刑者の自立と円滑な社会復帰のために重要な役目を果たすと言われています。

「塀がない」ということは逃走を容易にする要因にはなりますが、逃走した容疑者は、逃走の理由が人間関係だったということですから、看守からや受刑者同士で嫌がらせ、イジメなどがなかったのかなど、逃走の動機についてきちんと調査し、必要であれば内部関係を改めることによって逃走を防ぐことが重要かもしれません。

また、現在、塀のない刑務所にいる受刑者の人たちには、なぜ、自分が塀のない刑務所に収容されたのか、その意義をきちんと理解し、罪を償って円滑に社会復帰してほしいと願うばかりです。

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