児童ポルノの単純所持とは|意図せずダウンロードしても逮捕される?
児童ポルノを取り締まる厳しい姿勢は、国際的な潮流です。日本でも平成26(2014)年の法改正によって、児童ポルノを持っているだけで処罰される「単純所持罪」が導入され、その検挙数も増えました。
そんな中、「うっかり子どものヌード画像をダウンロードしてしまった。すぐに削除したけれど、警察にバレたら逮捕されてしまうの?」「児童ポルノと知らずファイルを開いて閲覧してしまったが、警察にバレる可能性はあるの?」などと不安を覚える方は少なくありません。
この記事では、児童ポルノの単純所持罪について基本的な知識を説明した後、どのような場合が犯罪とされるのか、具体的なケースを解説します。
1.児童ポルノ法とは
(1) 児童ポルノ禁止法の目的
児童ポルノ禁止法は、児童が性的搾取・性的虐待の被害を受けることを防止し、児童の権利を保護するための法律です。
正式名称は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」です。
「児童」とは18歳未満の者を指し、性別は問いません(同法2条1項)。
(2) 児童ポルノとは
規制対象となる「児童ポルノ」とは、一定の「児童の姿態」の画像を視覚で認識できる方法で描写したものです(同法2条3項柱書)。
視覚で認識できる方法で描写したものですので、音声だけの録音や文字情報だけの小説などは除きます。
他方、目で見ることができれば、以下のように、あらゆるものが「児童ポルノ」として禁止対象となります。
- 画像が記録された銀塩写真・映画フィルム(ネガ・ポジを問わず)
- 画像をプリントした銀塩写真印画紙
- 画像をプリンターで印刷した印刷用紙
- 画像を掲載した書籍など(雑誌、写真集、単行本、ビラ、チラシなど形態を問わず)
- 画像データ、動画データを記録した記録媒体(ハードディスク、SSD、CD-R、DVD、USBメモリー、スマホのROMなど)
では、どのような児童の「姿態」が児童ポルノと判断されるのでしょう。
画像、動画の内容となる一定の児童の「姿態」は、次の3種類が定められています。
通称 | 内容 | 条文 |
---|---|---|
1号ポルノ | ・児童と性交や性交類似行為(肛門性交、口淫等)をする姿 ・児童同士が性交や性交類似行為をする姿 |
2条3項1号 |
2号ポルノ | ・他人が児童の性器、肛門、乳首を触る姿 ・児童が他人の性器、肛門、乳首を触る姿 ・但し、性欲を興奮させ又は刺激するもの |
2条3項2号 |
3号ポルノ | ・衣服の一部や全部を着ていない児童の姿で性器・肛門・乳首(またはこれら周辺部)、臀部、胸部が露出または強調された姿 ・但し、性欲を興奮させ又は刺激するもの |
2条3項3号 |
上のように、2号ポルノと3号ポルノについては、児童の姿が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と限定されています。
これは学術研究目的や芸術目的などの描写物を除外することを明確化する趣旨です。
例えば、医師が児童の性器を触診している姿の写真が医学書に掲載されても、2号ポルノには該当しません。
他方、1号ポルノは、児童が性行為等をする姿そのもので、児童の利益を害することが明らかですから、特にこのような限定を記載していません。
(3) 漫画、アニメ、イラスト等は児童ポルノに該当する?
児童ポルノ禁止法は、「児童」の定義として「この法律において『児童』とは、18歳に満たない者をいう」(2条1項)と定めており、実際に存在している人間を予定し、創作、架空の人間を想定していません。
最高裁も、児童ポルノ製造罪が問われた事案において、児童ポルノとは、「実在する児童」の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、「実在しない児童」の姿態を描写したものは含まないと述べています(※最高裁令和2年1月27日判決)。
したがって、実在しない児童の姿を漫画にした画像は、児童ポルノではなく、単純所持罪の対象ともなりません。漫画だけでなく、アニメ、絵画、イラスト、CGでもみな同じです。
他方、実在する児童の姿を描写したものである限り、漫画・アニメ・絵画・イラスト・CGなど、すべて児童ポルノに該当する可能性があります。つまり、実在のモデルがいればNGと考えておくべきでしょう。
実際、上の最高裁の事案では、実在する者が18歳未満だった当時の写真をもとに創作したCGは児童ポルノであると判断され、児童ポルノ製造罪により有罪が確定しています。
2.児童ポルノの単純所持罪
(1) 児童ポルノ単純所持罪の行為内容、法定刑、時効
児童ポルノ法は、児童ポルノに関わる多くの行為を処罰対象としています。製造、販売、提供、所持、保管、運搬、輸入、輸出、公然陳列といった様々な行為です。
なかでも、多くの皆さんにとって、気になるのが「単純所持罪」でしょう。
まず、児童ポルノの単純所持罪となる行為を整理してみましょう。次のとおりです。
- 児童ポルノを所持する行為(7条1項前段)・児童ポルノの対象となる姿態の情報を記録した電磁的記録を保管する行為(7条1項後段)
- 自己の性的好奇心を満たす目的があること
- 自己の意思に基づいて所持・保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る
児童ポルノ単純所持罪の法定刑は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」であり、公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
(2) 「所持」「保管」とは?
「所持」とは、児童ポルノに該当する写真の印画紙や印刷物、書籍などの有体物を物理的に事実上占有し支配していることを指します。
これに対し、電磁的記録の「保管」とは、児童ポルノの対象となる姿態の画像・動画データをハードディスクやSSD、スマホのROMなどの記録媒体に保存することを指します。
データを保存したハードディスクなどの記録媒体は、それ自体が有体物としての児童ポルノですから、自分がその記録媒体を物理的に事実上占有し支配しているなら「保存」であると同時に「所持」にも該当します。
他方、自分が占有支配していない記録媒体の場合は、そこにデータを保存すれば、「所持」には該当しませんが、「保管」行為として処罰対象となってしまうわけです。
(3) 「自己の性的好奇心を満たす目的」とは?
所持行為、保管行為は、「自己の性的好奇心を満たす目的」で行われた場合であって、はじめて犯罪となります。
例えば、我が子と一緒にお風呂に入っている写真を所持していたり、その画像データを保管したりしていた場合は、通常「性欲を興奮させ又は刺激するもの」とは言えないので、そもそも児童ポルノではありません。
万一、「性欲を興奮させ又は刺激する」可能性がある画像であっても、自己の性的好奇心を満たす目的がないので、やはり犯罪とはなりません。
条文上、「自己の意思に基づいて所持・保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る」との限定がありますが、これは法的には無意味です。
自己の意思で所持・保管したのでなければ、犯罪事実の認識、すなわち「故意」がないため犯罪が成立しないことは当たり前です(過失による児童ポルノ単純所持は犯罪ではありません)。また、自己の意思による所持・保管が「明らかに認められる者」でないのなら、犯罪事実が立証されていませんから、有罪とすることができないのも当然です。
したがって、この部分は、単に単純所持罪の適用に慎重を期すように促す趣旨の記載に過ぎないとみるべきでしょう。
3.児童ポルノ単純所持罪の具体例
では、ここまでの説明を前提として、児童ポルノ単純所持罪の適用が問題となる具体例について解説していきましょう。
(1) ダウンロードは犯罪となる
まず、ネット上の児童ポルノ画像・動画をダウンロードして、ハードディスク、SSD、DVD、USBメモリー、スマホのROMなどの記録媒体に保存すれば、それは「保管」として犯罪となります。
自分が占有支配している記録媒体であれば、同時に「所持」にも該当します。
もっとも2罪となるわけではありません。犯罪行為はひとつですから、一個の単純所持罪となるだけです。
(2) ストリーミング再生は犯罪とならない
他方、ネット上の児童ポルノ画像を閲覧することや、児童ポルノ動画をストリーミング再生して鑑賞することは、電磁的記録の「保管」には該当しないので、犯罪ではありません。
(3) キャッシュデータも犯罪となる?
ブラウザに「キャッシュ」データとして児童ポルノ画像のデータが残っている場合はどうでしょうか?
「キャッシュ」は、閲覧したサイトのデータを一時的に保存しておいて、そのサイトを再度訪問した際の表示速度をあげる仕組みです。
キャッシュとして一時的であっても児童ポルノ画像のデータがPC内のハードディスクなど記録媒体に残る以上、それは「保管」に該当し、犯罪とされる可能性があります。
ただ、例えば、ネットサーフィンをしていたところ、たまたま児童ポルノ画像のあるサイトを開いてしまったために、自動的に児童ポルノ画像がキャッシュデータとして保管されてしまったという場合は、たとえキャッシュの仕組みを認識していたとしても、「自己の性的好奇心を満たす目的」がないので犯罪とはなりません。
また、キャッシュという仕組みを知らず、児童ポルノ画像のデータがPC内に残るとは認識していなかったという場合は、犯罪事実の認識、すなわち犯罪の「故意」がないので、やはり犯罪は成立しません。
(4) 遠隔操作・ウィルスなどで送りつけられた場合
パソコンが遠隔操作されてしまったり、ウィルスに感染したりして、知らないうちに児童ポルノのデータがダウンロードされてしまった場合は、「自己の性的好奇心を満たす目的」及び故意がないので犯罪ではありません。
勝手にメールで送りつけられた場合も同様です。
ただし、例えば、勝手にメールで送りつけられた場合であっても、ファイルを開いて、それが児童ポルノであると認識し、性的な好奇心を覚えて、そのまま保存しておいたというケースでは、その時点で目的も故意もあることになりますから、以後は単純所持罪が成立する可能性があります。
ひとつの例として、送りつけられた児童ポルノ画像の添付ファイルを受信フォルダに入れたままにしておいたが、その添付ファイルを繰り返し開いて閲覧していた場合は自己の利用に向けた積極的な行為があったものとして、自己の性的好奇心を満たす目的でのデータ保管行為を開始したものと考えられるとされています(※第186回国会・衆議院法務委員会・平成26年6月4日議事)。
(5) ダウンロードし保存したが後に削除済みの場合
性的な好奇心から児童ポルノをダウンロードして保存したけれど、怖くなって、後から破棄した場合はどうでしょうか?
ダウンロードした時点で保管行為による単純所持罪が成立していますから、後に削除したからといって、すでに犯した犯罪がなくなるわけではありません。
したがって、法律の理屈から言えば、処罰される可能性があります。
なお、データをPCのゴミ箱にいれたうえ、ゴミ箱をカラにして削除しても、捜査機関はデータを復元することがほぼ可能ですから、削除済みならば証拠が残らないと勘違いしてはいけません。
4.児童ポルノ単純所持はなぜバレる?
最後に、児童ポルノ単純所持が捜査機関に発覚する(バレる)のは、どのような場合でしょうか?
(1) 他の犯罪捜査による発覚
例えば、(ⅰ)盗撮で逮捕されれば、他に盗撮した写真を持っていないか否かを確認するため、(ⅱ)児童買春で逮捕されれば、被害者児童とやりとりしたメールの内容を確認するため、どちらもスマホや家宅捜査でパソコンを押収されて履歴やデータを調べられます。
このように他の犯罪の捜査を受ける過程で、児童ポルノのデータを保存していることが発覚することは珍しくありません。
(2) サイバーパトロールによる発覚
インターネット上にはさまざまな違法・有害サイトが氾濫しています。これを取り締まるため、警察は常にサイバーパトロールを実施し、さらに民間のサイバーパトロールモニターを募集するなどして監視を徹底しています。
例えば、2020年3月にも、大阪府警のサイバーパトロールによって児童ポルノを集めた闇サイトが特定され、児童ポルノを投稿した公務員の男性が児童ポルノ公然陳列罪容疑で逮捕されたと報道されました(※朝日新聞デジタル2020年3月16日報道記事より)。
児童ポルノを掲示するサイトや、児童ポルノの販売をするサイトが摘発されることによって、そこからデータをダウンロードした個人が特定される可能性は否定できません。
5.まとめ|児童ポルノに関する違法行為も弁護士へ
児童ポルノ単純所持罪は、「持っているだけで犯罪となる」法律というのが原則です。
ただ、法改正によって処罰対象は広がる一方、その画像が性欲を刺激興奮させる児童ポルノに該当するのかどうか、性的好奇心からの所持と言えるかどうかなど、微妙な判断が犯罪の成否を左右する場面が多く存在し、適用範囲の明確さという点では非常に問題のある法律です。
ご自分の行為が犯罪なのかどうか、法律の専門家でなければ正確な判断が困難な場合もあります。
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