車で走行中、ゴミを避けるため車線変更したら人をはねた→不起訴

[事例 351] 交通事故 人身、死亡事故
性別 男性 相談に至った
経緯
・前科をつけたくない・不起訴にしてほしい
・示談したい
・執行猶予にしてほしい
・警察に呼ばれた・逮捕されそう
年齢 40代
職業 会社員
罪名 過失運転致傷
弁護活動の結果 不起訴

背景

Aさんは、片側2車線の街道を走行していました。運転していたのは自家用四輪車で、現場は交通量も少なくなく、比較的混雑していました。

Aさんは、法定速度で走行しており、それなりの注意を払いながら走行していました。しかし、突然前方右側よりゴミが飛んできて、自家用車で巻き込みそうになりました。

そこで、Aさんはとっさに減速し、左車線へと車線を変更しながら、そのごみを回避しようと試みました。すると、自家用車の左後方で、何かに当たったかのような音がしました。

Aさんは、その後も走行を続けていましたが、自家用車が誰かに接触してけがを負わせてしまったのではないかという不安に駆られ、現場に戻りました。そうしたところ、自転車に乗っていた男性が、四輪車に接触され転倒し、顔面を20針以上縫う大けがをした旨を知りました。

Aさんは、緊急手術が必要なほどの大けがを負わせてしまったうえ、救護や警察への連絡等もせずに現場から立ち去ったため、救護義務違反ともなりうる事案において、しかるべく処分が下りるだろうと捜査機関から通告されました。何とか刑を軽くしてほしいとのご希望があり、ご来所されました。

弁護士対応 - 被害者への示談交渉

Aさんは、事故の翌日に、速やかに当事務所にご相談にいらっしゃいました(後述しますが、本件が最良の結果を出せた理由はここにあります)。

過失運転傷害罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金です。Aさんは、前科前歴は無かったものの、自らがどのような刑罰に処せられるのか大きな不安を抱いていました。刑務所に入らずに今後も仕事を続けていきたい、不起訴であれば最高だが、せめて罰金刑にしてほしいとのご希望があったため、被害者に対して金員を払い、今回の一件についてお許しいただくことを目標にしました。

まず、被害者の方は、手術後の縫合・抜糸といった治療中であったため、治療の邪魔にならないようにタイミングを計りつつ、まずはお話だけでもさせてほしいと接触を図りました。そして、事故の翌月に入り、弁護士であれば接触しても良いとのお話をいただけたので、弁護士を通じて、謝罪と反省の態度を示すこととしました。

弁護士は、受任後ただちに捜査機関に対して、被害者の方の情報を問い合わせるなどしたうえで、ご依頼者様には、反省の気持ちが伝わるような書面の作成を依頼しました。

その後、反省文とともに示談書の案を被害者の方にお渡しし、後日検討をしていただきました。

弁護士が、電話によって何度も交渉を重ね、最終的には宥恕(=許すこと)文言入りの示談書を作成することが出来ました。

結果 - 不起訴処分に

宥恕文言入りの示談書は刑事手続きで極めて大きな意味を持ちます。結果、事故から1年近くの長丁場になったものの、Aさんは不起訴となりました。

また、道交法上の救護義務違反(ひき逃げ)にも問われており、こちらは、その認識が無かったというご依頼者様のお話に加え、弁護士が入手していた客観的な証拠からも、主観面・故意を捜査側が立証するのは困難だと考え、同罪については、否認を貫いていただきました。

依頼者様は、何度も警察及び検察に呼ばれたのですが、事前に弁護士と想定問答集を繰り返しこなしておいたことが功を奏し、同罪についても不起訴となりました。

弁護士からのコメント

本件は、自動車を運転中の過失による接触事故ですが、被害者の方が大けがを負ってしまい、被害者の方自身が大変辛い状況の下での交渉をしなくてはならなかったという点で、タフな案件でした。

たしかに、被疑者段階の刑事弁護は、最終処分の前までに成果を上げなくてはならず、迅速な対応が求められる領域です。しかし、被害者の方が重篤な状態であるのに、加害者側が一方的に示談を迫ることは得策とは言えません。特に、被害者の状況が深刻であればあるほど、より慎重な対応が求められます。

本件では、まずAさんがとるべき行動として、自らの行為を謝罪し、反省の態度を示しました。そして、いきなり示談を迫るのではなく、将来的にお許しいただけるようであれば、こうした書面を作成させていただきたいという形で、示談書面のサンプルをお渡ししました。

他方で、民事の賠償責任の方では、過失割合が問題となる事案でした。ですので、民事の分野で本格的な交渉が始まった後の段階では、被害者の方が感情を悪くし、刑事的側面の示談を渋られてしまう可能性も予想されました。

そこで、被害者の方を取り巻く諸事情を踏まえつつ、しっかりと段階を踏んで可及的に急ぐという方針をとりました。

担当した弁護士は、民事の交通事故の経験も豊富であったため、民事の手続きの流れも常に見据えつつ、様々なリスクに対処することが出来ました。結果としては、交通事故から2か月後に宥恕文言付での示談が成立しました。こちらが決定的に役に立ち、不起訴処分に持ち込むことが出来ました。

他方で、道交法上の救護義務違反については、一貫して否認するということで覚悟を決めていただき、複数回の度重なる呼び出しを受けても、その主観面を否認し続けていただきました。

捜査機関という権力に対して否認するということは、一般の方にとっては、大変なプレッシャーとなります。しかし、こちらも弁護士が励ましながら、特に呼び出し前夜に綿密な打ち合わせをしたことが功を奏し、不起訴となりました。