無期懲役刑と終身刑の違い|仮釈放・出所はできるのか?
刑事犯罪を犯した場合、さまざまな刑罰を科される可能性があります。
中でも「無期懲役刑」は、死刑に次ぐ非常に重い刑罰とされています。
無期懲役刑は「終身刑」と呼ばれることもあり、実は、両者に違いはありません。
この記事では、無期懲役刑とは具体的にどのような刑罰で、どういった犯罪を起こした場合に科されるか?また、「仮釈放」という制度についても解説していきます。
1.無期懲役刑とは?
無期懲役刑とは、その名の通り「無期限の懲役刑」です。
(1) 「懲役刑」とは?
懲役刑は、受刑者の身体を刑務所などの施設に留置する刑罰です。
このような受刑者の身体の自由を奪う刑罰を「自由刑」と呼ばれます。自由刑には、懲役刑の他に「禁固刑」や「拘留刑」もあります。
懲役刑では、身柄拘束をされているときに労務作業をさせられます。たとえば、木工作業で物作りをしたり、炊事や洗濯をしたり、靴や衣類を作ったりします。
なお、受刑者たちには、1ヶ月あたり4,000円前後のお金が対価として支払われます(刑務作業の内容により上下します)。
禁固との違い
懲役刑と禁固刑との違いは、労務作業を課されるかどうかというところです。
禁固刑でも身体を刑務所内に留め置かれるのですが、作業をさせられることはありません。そこで、刑罰の内容としては、懲役刑より「軽い」ものとされています。
ただ、実際には、何もせずに刑務所内にいるだけである禁固刑の方が、懲役刑よりも辛く感じる受刑者が多いです。
そこで、多くの禁固刑の受刑者は、自ら願い出ることにより労務作業に従事しています。このような方法のことを「請願作業」と言います。
[参考記事]
禁固刑、懲役刑はどちらが重い?違いと刑務所での生活について解説
拘留との違い
拘留は、刑罰の中では非常に軽いものであり、懲役や禁固よりも軽いことは当然、罰金刑よりも軽い刑罰とされています。
懲役刑と拘留刑の違いは、作業の有無と期間の長さです。
拘留の場合、禁固と同様で作業を課されることがありません。また、拘留の期間は非常に短いです。
懲役・禁固の期間は、有期の場合、最低30日〜最大で20年となっています。加重すると30年にまで延ばすことができます。
これに対し、拘留の場合、1日以上30日未満となります。
なお、懲役刑には「執行猶予」がありますが、拘留刑には「執行猶予」がないため、必ず実刑となります。
執行猶予というのは、刑の執行を一定期間猶予してもらえることです。猶予期間中に犯罪を犯さない限り、実際に刑務所に行く必要がありません。
(2) 「無期」の意味
「無期」は「無期限」の意味です。無期懲役というと、期限なしにいつまででも懲役刑を科されるということになります。
つまり、無期懲役刑を科されると、たとえば「20年や30年が経過したら解放される」ということが期待できません。もちろん、死亡すると刑務所外に出ることになるので、無期というと「一生」「死ぬまで」懲役刑を受けることを意味します。
「無期」に対する言葉が「有期」です。「有期懲役」の場合には、懲役刑を科される期間が定められます。
日本の有期懲役の限度は原則として20年になっていますが、他の刑罰が併合されて加重されるケースなどでは最長30年となります。
有期懲役の場合には、いずれ刑務所を出られるという確証がありますが、無期懲役の場合にはそのようなことが期待できない点が根本的に異なります。
そこで、無期懲役刑は有期懲役刑よりも重い刑罰とされ、「死刑に次いで重い刑罰」に分類されます。
無期禁固刑との違い
無期懲役刑と無期禁固刑との違いについても、簡単に確認しましょう。
無期懲役刑は、上記の通り、無期限に刑務所で労務作業をさせられる刑罰です。
これに対し、無期禁固刑は、無期限に刑務所で「禁固刑」を受ける刑罰です。
禁固刑では労務作業なしに身体を拘束されますから、無期禁固刑になった場合、最長で一生、労務作業なしに刑務所内に留置されます。
ただし、一般の禁固刑と同様、請願によって作業をすることは可能です。
作業を行う場合、無期禁固刑も無期懲役刑も、内容としては同じものになります。ただし、懲役刑の場合には労務作業を強制されますが、禁固刑の場合、やりたくないときにはやらなくて良い、という点が異なります。
なお、無期禁固刑が適用される犯罪は、内乱罪などの限定された犯罪ですので、戦後、実際に無期禁固刑が適用された例はありません。
2.終身刑との違い
「無期懲役刑」と「終身刑」は違うものと思っている方もいるようですが、実際には、この両者は同じものです。
日本に「終身刑」がないのは、「終身刑」という言い方はせず、「無期懲役刑」という呼び方をしているからです。
「無期懲役刑と終身刑が違う」と言われるのは、諸外国に「仮釈放の制度はなく一生刑務所に収監され続ける無期刑」と、「仮釈放により途中で出所できる可能性のある刑罰(=日本の無期懲役刑)」が存在するケースがあるからです。
しかし、日本では仮釈放のない無期刑は採用していません。
一般的に、「仮釈放がない制度が終身刑」「仮釈放がある制度が無期懲役刑」と考えられることがありますが、これはマスコミによる影響が大きいです。マスコミが「終身刑」として報道する場合「仮釈放がない終身刑」を指していることが多いので、終身刑と無期懲役刑が別のものだと理解されてしまうのです。
しかし、実際にはそういうものではなく、「終身刑と無期懲役刑は同じもの」ということを理解しておきましょう。
なお、日本の刑事制度における無期懲役刑には仮釈放がありますが、実際に無期懲役刑になった人で仮釈放で出てくる人は非常に少ないです。無期懲役刑を受けている人で、仮釈放される人は0.5%以下ですし、年間で1人ということもあります。(詳しくは後述)
そこで、「仮釈放のある無期懲役刑」であるとは言っても、実際の運用上は「仮釈放のない無期懲役刑」に近いものとなっています。
この意味においても、無期懲役刑と終身刑の違いを、さほど重視する必要はないと言えるでしょう。
3.無期懲役刑が科される犯罪
無期懲役刑が科される犯罪は非常に重いものばかりです。
どのようなものがあるのか、箇条書き一覧でご紹介します。
・外患援助罪(刑法82条)
外国が日本に武力攻撃を加えたときに、軍事的な援助をした場合
・現住建造物等放火(刑法108条)
現に人がいる建造物や列車、船や鉱坑などに火をつけて燃やした場合
・激発物破裂罪(刑法117条1項前段)
爆発物を爆発させることにより、建造物や列車、船や鉱坑などを壊した場合
・現住建造物等浸害(刑法119条)
現に人がいる建造物や列車、船や鉱坑などを水で損なった場合
・殺人罪(刑法199条)
殺意をもって、人を死亡させた場合
・強盗致死罪(刑法240条)
強盗をして、人を死亡させた場合
・強盗強姦致死(刑法241条後段)
強盗が強姦をして、人を死亡させた場合
・通貨偽造・変造・行使罪(刑法148条)
偽札を作ったり使ったりした場合
・爆発物使用罪(爆発物取締罰則1条)
治安を乱す目的や、人の身体や財産を損なう目的をもって爆発物を使った場合
・航空機強取等致死(航空機の強取等の処罰に関する法律2条)
飛行機を乗っ取って、結果的に人を死亡させた場合
・航空機墜落致死(航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律2条3項)
飛行機を墜落させて、結果的に人を死亡させた場合
・人質殺害罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律4条)
2人以上で、人を脅して捕らえ、または航空機の乗員や乗客を人質に取り、義務のないことをするよう要求し、人質を死亡させた場合
・組織的な殺人(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条7号)
団体で意思決定を行い、組織的に殺人行為を行った場合
4.仮釈放について(刑法第28条)
無期懲役刑となった場合、期限がありませんから、基本的には一生刑務所内に身柄を拘束されることになります。
ただ、日本の刑法には「仮釈放」という制度があります。
(1) 仮釈放とは?
仮釈放とは、一定期間が経過したら、行政庁の判断により仮に受刑者を釈放することができるという制度です。
具体的には、受刑開始後10年が経過すると、仮釈放が可能であるとされています(刑法28条)。
そこで、法制度的には、無期懲役刑となっても10年が経過したら仮釈放を受けて身柄を解放される可能性があることになります。
【25年が経過したら仮釈放される、というのは誤り】
一般に「無期懲役になっても、25年が経過したら釈放される」と言われているのを聞いたことがある方もいるでしょう。
しかし、そういったことはありません。このことは、法務省が「刑の執行を開始してから30年を経過したときから、仮釈放を審理する」と発表していることからも明らかです。30年というのは、有期懲役(刑期は最長で30年)との比較から出てきている数字です。このように、有期懲役でも30年までは刑罰を受ける可能性があるわけですから、それより重い無期懲役刑で30年未満で出てくるのは不合理です。
そこで、法律上は「10年」とされていても、実際に仮釈放が検討されるのは、最低でも受刑開始後30年が経過してからとされているのです。
(2) 仮釈放が行われる割合
それでは、実際にどのくらいの人が仮釈放となっているのでしょうか?
法務省の「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について(令和4年11月更新)【PDF】」によると、無期刑の仮釈放者数は以下のとおりです。
- 平成29年:11人
- 平成30年:10人
- 令和元年:17人
- 令和2年:14人
- 令和3年:9人
そして、無期刑の受刑者数は、令和3年の時点で1,725人います。これに対して仮釈放の決定を得ているのは9人ですから、仮釈放されるのは0.5%程度と言えます。
また、在所30年以内で釈放された人はいません。令和3年の無期刑新仮釈放者の、仮釈放時点までにおける平均在所期間は「32年10月」となっています。
つまり、刑法上では「10年が経過したら仮釈放の可能性がある」と書かれていますが、実際には、最低でも30年が経過しないと仮釈放は認められませんし、それも全員に認められるわけではなく、0.5%程度の少ない人数しか仮釈放されないということです。
(3) 仮釈放の許可基準
刑法28条には、仮釈放の許可基準を定めていますが、そこには「改悛の状」と書かれているだけです。実際には、「仮釈放、仮出場及び仮退院並びに保護観察等に関する規則」により、細かい定めがあります。
そこでは、以下のような「客観的な事情」と「主観的な事情」を総合的に考慮して、仮釈放を許可すべきかどうか判断することとされています。
客観的な基準について考慮される事情
- 本人の資質
- これまでの生活歴
- 施設内での生活状況
- 出所後の生活計画
- 出所後の環境
本人の主観について考慮される事情
- 悔悟の情
- 更生の意欲
- 再犯のおそれがない
- 社会の感情として、仮釈放が認められること
(4) 仮釈放が許可されるまでの手続きの流れ
仮釈放は、「刑務所長」が申請することにより審理が始まります。受刑者本人が仮釈放を申し立てることはできません(ただ、受刑者が刑務所長に対し、仮釈放の申請を出すように要望書を提出することはできます)。
刑務所長は、6か月に1回以上、定期的に仮釈放の申立をするかどうかを審査することになっています。
刑務所長から仮釈放の申立を受けると、地方更生保護委員会が、仮釈放を認めるかどうかの審理を行います(更生保護法16条)。審査により仮釈放が相当ということになれば受刑者に仮釈放が認められますし、不相当ということになったら仮釈放は認められません。
仮釈放の審査が行われるのは、個人に対し10年に1回で、かつ基本的に3回までです。
1度目の仮釈放申請で仮釈放が認められなかった場合には、10年後に再度仮釈放の審査が行われます。2度目も認められなかった場合、さらに10年後に再度仮釈放の審査が行われます。
1回目の仮釈放審査が行われるのは受刑開始後30年以上が経過したときですから、3回目の仮釈放審査が行われるのは受刑開始後50年が経過したときです。すると、3回目の仮釈放審査を終えるときには高齢となっているのが通常で、仮釈放となっても社会復帰が難しくなります。
そこで、仮釈放の審査は3回までとされているのです。
5.刑事事件の被疑者・被告人になったら弁護士へ相談を
日本では、無期刑になったとしても、更生の機会があると判断されれば仮釈放が認められる可能性があります。
ただ、実際に仮釈放されるまでには最低でも30年の受刑期間が必要ですし、そもそも仮釈放が認められるケース自体が少ないのが現状です。
懲役刑という大きな不利益を受けないためには、刑事裁判で適切な防御を行い、重すぎる刑罰を受けないことが大切です。
刑事事件の被疑者・被告人になってしまった場合には、お早めに泉総合法律事務所の刑事事件に強い弁護士にご相談ください。