執行猶予とは?執行猶予付き判決後の生活と影響~前科、仕事、旅行
何らかの罪を犯してしまい、有罪判決が下された際、直ちに刑務所に入らなければならなくなる場合と、社会内での更生の機会が与えられ刑務所に入らないで済む場合があります。
直ちに刑務所に入らなければならない場合が実刑判決、社会内での更生の機会が与えられ刑務所に入らないで済む場合が執行猶予付きの判決と呼ばれます。
今回は、執行猶予付きの判決を言い渡された後の社会内での生活(前科はつくのか、職業に制限はあるのか、旅行はできるのかなど)について、弁護士が解説します。
1.執行猶予とは
まず、執行猶予について詳しく説明します。
執行猶予とは、冒頭で述べた通り、被告人に有罪判決が下された際、刑務所には入らず、社会内での更生の機会が与えられることです。
執行猶予付きの判決が言い渡された場合、その執行猶予期間を無事に経過すれば、その事件について刑務所に入ることはなくなります。
執行猶予が付されるのは、懲役ないし禁錮3年以内の刑罰の場合で、それ以上の長期刑は執行猶予がつきません。
また、執行猶予を受けられる被告人は、
- 初犯である
- (罰金)前科・前歴のみである
- 執行猶予付きの判決を受けたことがあっても、取消しがなく執行猶予期間が経過している
- 実刑判決を受けても、刑期の終了から5年が経過している
- 執行猶予期間でも、ある一定の条件を満たしている
のいずれかに該当する必要があります。
【参考】 禁錮・懲役・執行猶予とは?各判決の意味を解説します。
(1) 執行猶予は前科がつく
執行猶予の期間は3年〜5年が多いですが、その期間社会内で誠実に暮らしてもらうことをもって、刑務所に入ることに代える、ということになります。
(なお、執行猶予5年の場合は犯情がかなり悪質で、実刑判決になってもおかしくはないレベルと考えてください。)
執行猶予期間中に何らかの事件を起こして罰金刑となった、などの場合には、執行猶予が取消されて刑務所に収容されることもあります(執行猶予の取消し)。
つまり、もし執行猶予中に再び罪を犯した場合には、前回の執行猶予は取消しとなり、厳しい判断(多くの場合は実刑判決)がなされるということです。
また、執行猶予といっても、あくまで有罪判決ですので、当然前科はつきます。
【参考】前科の生活への影響とは~前科者の資格制限、仕事、履歴書、海外旅行
(2) 再度の執行猶予とは
刑法では「再度の執行猶予」といい、執行猶予中に罪を犯してしまった人を「情状に特に酌量すべきものがあるとき(刑法第25条2項)」、もう一度だけ執行猶予付き判決の言い渡しができる、と定められています。
再度の執行猶予判決の場合には、執行猶予は保護観察付きとなります(見出し4を参照)。
しかし、一度執行猶予としてやり直す機会を与えられたにも関わらず、再び罪を犯してしまった訳ですから、この規定によって再度の執行猶予付きの判決を受けることは容易ではありません。
また、再度の執行猶予の際には、言い渡される刑の期間が1年以下という定めもあります。
2.執行猶予中の生活
周囲に知られる?就職制限はある?パスポートやビザは発行できる?
次に、執行猶予中の生活について説明します。
(1)執行猶予付き判決が周囲にバレる可能性
まず、有罪の判決を受けたことが自動的に職場や住んでいるところの周辺に伝わることは、一部の例外を除きありません。
ですから、執行猶予付きとはいえ有罪判決を受けたこと(前科が付いていること)を周囲に知られることは基本的にはありません。
また、一般の会社には前科前歴を調べる手段はありませんので、その事件がきっかけで職を失い、執行猶予中に再就職の為の就職活動をする場合に、執行猶予中の身であることが知られてしまう、ということも考えにくいです。
①一部の例外
一部の例外とは、公務員の方の場合です。
この場合、捜査機関等から職場へと連絡がなされることが多いです。
②マスコミ報道の影響
報道をされてしまっている場合には要注意です。
公務員、教職員、大企業会社員、公益企業社員(私鉄、電力、ガス会社など)、医師、歯科医師、弁護士など公的資格者、重大事件などの場合には、テレビなどマスコミ報道されることが多くなります。
また、最近は、インターネット独自のニュース報道などで、従来ならば報道されなかったと思われる刑事事件も報道されるようになってきています。
(2)執行猶予中の職業制限・資格制限
執行猶予付き判決により、医師や弁護士、教員などの一部の資格が取消されたり、また、執行猶予中は一部の資格を取得することができなくなったりします(欠落事由)。
どの資格が取得できないか等は資格により異なりますので、当該試験の担当機関に問い合わせてみましょう。
(3) 執行猶予中に海外旅行・海外出張できる?
執行猶予中の生活について、たとえばどこかへ行ってはいけないとか、選挙権を失うとか、そのような制限はありません。
ただ、海外に出国する際に問題が起きる場合があり得ます。
ビザの取得の際などには、犯罪歴証明(最寄りの警察署で発行してもらいます)を提出する事があります。
先述の通り、執行猶予付きの判決でも「前科」ですから、犯罪歴証明にその旨が記載されています。よって、ビザの取得等に影響する可能性があるわけです。
・執行猶予とビザの取得
泉総合法律事務所の弁護士も、大使館に前科者のビザの取得について何度か確認したことがあるのですが、答えは決まって「ケースバイケースです」でした。
そのため、どういう罪が影響するかはなんとも言えません。今までの経験では、薬物の売人といった特殊なものでなければ、問題は生じない印象があります。
どちらにせよ、執行猶予中には海外出張が困難になりますので、そのような仕事の場合には影響があるかもしれません。
なお、ビザの申請は多くは会社で取り付けるかと思いますが、ビザの必要書類に犯罪歴証明があると、それを会社に提出してのビザ取得となりますので、過去の犯罪が会社に判明してしまうことがありえます。
4.保護観察付きの執行猶予について
最後に、保護観察付きの執行猶予について説明します。
執行猶予付きの判決では、保護観察といって、執行猶予中、保護観察官や保護司の方からの指導監督を受けることを義務づけられる場合があります。
これは、繰り返し罪を犯している人や、何らかの理由で家族等だけでの監督では社会内での更生が困難と判断された場合につけられます。
保護観察が付された場合には、定期的に保護観察官等との面接が実施されます。
また、覚せい剤の事件の場合には、再犯防止のための特別なプログラムの受講や、簡易薬物検出検査なども実施されます。
保護観察付きの執行猶予期間中に犯罪を犯して有罪判決を受けた場合には、単なる執行猶予判決と異なり、再度の執行猶予判決の制度はありません(必ず実刑判決になります)。
【参考】実刑判決と執行猶予付判決の違い
5.不起訴を目指すなら泉総合法律事務所へ
以上のように、執行猶予つきとはいえ、起訴されて有罪判決を受けると様々な制限が設けられてしまいます。
まずは不起訴となるためにも、万が一逮捕されてしまった場合には、刑事弁護の経験が豊富な泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。