刑事弁護 [公開日]2018年5月28日[更新日]2021年2月26日

前科があると就職に影響するのか?

刑事事件を犯してしまい、起訴(罰金も含める)の処分を受けると「前科」がつきます。
「前科」という言葉は聞き慣れたものかと思いますが、これが今後の生活にどのような影響を与えるのかを具体的にご存知の方は少ないのではないでしょうか。

これから就職をする方や、転職が必要となりそうな方は「前科があることで就職できないのでは?」と不安に思うことでしょう。

ここでは、前科による影響について、特に就職・転職するに際してどのような影響があるのかを解説していきます。

1.前科持ちの場合の就職の問題

前科については、第三者が調べることはできません。

[参考記事]

前科や犯罪歴を自分で調べる方法は?家族・他人に知られたくない!

しかし、企業が採用の際に前科・前歴について質問する可能性はあります。

(1) 履歴書への記載

就職活動においては、ほとんどの場合で履歴書が必要となります。
では、前科がある場合、それを履歴書に記載する必要はあるのでしょうか。

履歴書には「賞罰」という欄が設けられていることがあります。この賞罰の「罰」とは、確定した有罪判決、すなわち前科のことを指します。(罰金でも前科です)

応募にあたって、企業側から特に賞罰欄を埋めておくことを要求された場合には、前科の有無について質問されたことと同じですから、信義則上、申告する義務が認められ、前科があるのに、「なし」と記載すれば、経歴詐称となります。

ただし、経歴詐称だからといって、常に解雇できるわけではありません。懲戒も、解雇も、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は権利の濫用として無効となるからです(労働契約法15条、16条)。

一般論として言えば、その前科の事実が申告されていれば、企業側が当該労働者を採用しなかったであろう重大な内容であることが必要であり、重大と言えるかどうかは、その労働者の具体的な職務内容との関係で判断されます(※東京地裁昭和54年3月8日判決(労働判例320号43頁))。

これに対し、企業から格別に賞罰欄の記載を求められたわけではない場合には、そもそも、問われていない前科について、労働者側が自ら申告する義務はなく、これを申告しなくとも懲戒処分の対象とはならないとする裁判例が多くあります。

  • 警備保障会社が、少年時代の非行歴を秘匿したガードマンに対してした懲戒解雇を無効とした裁判例(福岡地裁昭和49年8月15日判決・判例時報758号34頁 )
  • 強盗・窃盗・傷害・恐喝など前科5犯であることを秘匿したタクシー運転手に対する普通解雇を、これらの刑が、採用時点で既に、刑法の規定によって消滅していたもので、消滅した前科を告知しなかったことを理由とする解雇は、犯罪者の更生意欲を助けるための制度趣旨に照らして、無効とした裁判例(仙台地裁昭和60年9月19日判決・判例タイムズ569号51頁)

なお、刑法は、次の場合には刑の言い渡しは効力を失うと定めています(刑法34条の2)

  • 禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき
  • 罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで5年経過したとき
  • 刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで2年を経過したとき

この「刑の消滅制度」は、刑の言い渡しを受けた「法的効果」を将来に向かって消滅させるだけであり、刑の言い渡しを受けた「事実」までなかったことにするものではありません。経歴詐称で問題となるのは事実の有無ですから、刑の消滅制度とは本来は何の関係もないはずです。

しかし、この裁判例は、犯罪者の更生にとって職場の確保は重要であるのに、刑の消滅した前科を理由に採用を拒絶できるとすれば、更生を助ける制度目的に悖るから、刑の消滅した前科の存在が労働力評価に重大な影響を及ぼす特段の事情のない限りは、労働者には刑の消滅した前科を告げる義務はなく、企業はこれを理由に解雇できないと判断したものです。

(2) 採用の面接時に過去の犯罪歴を聞かれた場合

採用の面接時に過去の犯罪歴を聞かれた場合には、正直に申告する義務があります。

大学中退の学歴を高卒と偽り、公務執行妨害罪などで起訴されて公判中であることも秘匿して採用された工員を懲戒解雇した事例で、最高裁判所平成3年9月19日判決(労働判例615号16頁)は、使用者が、労働力評価に直接かかわる事項のみならず、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についての必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上真実を告知する義務を負うとしています。

しかし、面接時に特に犯罪歴の有無を聞かれない場合には、自ら進んで過去の犯罪歴を申告する義務はありません。

2.前科があるとなれない職業

一方、前科・前歴の存在がその職務に相応しくないとして、当該職種に就くことが制限される場合があります(前科が欠格事由となり、就職に影響します)。

まず、国家公務員、地方公務員、弁護士、司法書士、教員、警備員、自衛隊員、保育士などについては、禁固刑以上が欠格事由となっています。

例えば、教育職員免許法第5条1項3号においては、「禁錮以上の刑に処せられた者」には免許状を授与しないこととされています。
また、学校教育法第9条1項においては、「禁錮以上の刑に処せられた者」は校長又は教員となることができないと定められています。

なお、禁錮以上とは、具体的には、禁錮刑、懲役刑、死刑を指します(罰金、拘留、科料、没収は禁錮未満の刑罰です)(刑法10条、9条)。

一方で、気象予報士は「罰金以上の刑(禁錮刑、懲役刑、死刑、罰金刑)」が欠格事由となる他、貸金業者や税理士・建築士(一級、二級、木造建築士)は罪の内容によって「禁錮以上の刑」で欠格となる場合と「罰金以上の刑」で欠格となる場合に分かれます。

【裁量的な判断がされる職業もある】
例えば、地方卸売市場の卸売業者、大麻取扱者、貸金業者、気象予報士、国家公務員、地方公務員、弁護士や税理士、株式会社の取締役や学校法人の役員などは、「免許を与えない」などと規定され、前科により必要的に制限されます。
一方で、医師、調理師、看護師、栄養士、はり師などは、「免許を与えないことがある」などと規定され、裁量的に制限されるものとがあります。
裁量的に制限される資格については、制限を課すか否かを判断する主体は個別法に定められています。
例えば医師については、医師法により免許を付与しない処分又は取消しの処分をする主体は厚生労働大臣とされており、厚生労働大臣が免許の取消処分をするためには、日本医師会の長や学識経験者らの中から任命された者で構成される医道審議会の意見を聴くこととされています。

 

ちなみに、大麻取扱者、医師、一般貨物自動車運送事業者、貸金業者、国家公務員、地方公務員や弁護士などは、罪の種類に限定はありません
一方で、地方卸売市場の卸売業者(卸売市場法に規定)や気象予報士(気象業務法に規定)などのように、欠格事由が特定の罪に限定されているものもあります。

例えば、気象予報士は気象業務法に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者は登録できないとされています。

公務員が刑事事件を起こしてしまった場合の処分については、以下のコラムで詳しく解説しています。

[参考記事]

公務員が刑事事件を起こしたら懲戒処分?

3.前科を付けないためにはお早めに弁護士へ相談を

就職するに際しては、前科がないに越したことはありません

あなたやあなたの家族が刑事事件を起こして、逮捕されたり警察に呼び出されたりした場合でも、最終的に「不起訴」となれば前科は付きません。

一方、起訴されてしまうと、日本の有罪率は99.9%とも言われているように、ほぼ確実に前科が付いてしまいます。

不起訴を獲得して前科を付けないためにも、起訴前に弁護士に刑事弁護を依頼されることを強くおすすめします。

[参考記事]

刑事事件の起訴率・不起訴率|不起訴を目指すなら弁護士へ

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